出たとこロマンサー



第十三章



 お客さんの相手をする芙美子や紗絵子さんの後ろで、ひたすらコピー誌を綴じているうちに、即売会が終わった。
 そして、やれやれと息をつく暇も無く片付けをし、荷物をまとめ、あとは帰るだけかと思ったところで、半ば強引に打ち上げに参加させられた。
 まあ、芙美子もいることだし、途中まで付き合うかと考えているうちに、いつの間にか、騙し討ちのように酒を飲まされてしまった。
 芙美子や紗絵子さんの、ネットや同人活動で知り合った人達というのが、みなとびきり明るくていい人だったこともあり、つい勧められるままに飲んでしまった正体不明の甘ったるい液体の中に、アルコールが混入していたのである。
 実は、俺の家系はアルコールには滅法強く、俺もその遺伝子を受け継いでいたため、酔い潰れるようなことはなかったのだが、いろいろな意味で汗を流した後の一杯ということで、いささか頭が朦朧としてしまったことは事実だった。
 そのせいで――と、自分以外の何かに責任を転嫁してしまうのは卑怯だと思うんだが――俺は、今、けっこうな窮地に立たされていた。
 その窮地にバカのように突っ立ってる俺の目の前のベッドには、顔を赤くした芙美子が、すぴー、すぴー、と平和な寝息を立てて横たわっている。
 そして――これが一番の問題なのだが――ここは、都内のいわゆるラブホテルの一室なのであった。
「何てこった……」
 事が明らかになったら、停学か、それとも退学なのか――
 何しろ、深夜、未成年である俺が、酒に酔って前後不覚になった同級生を介抱すると称して――誓って言うが本当に介抱するつもりだった――ラブホテルに連れ込んでしまったのだ。しかも、その同級生は普段めったに着ないようなよそ行きの服を着込んでいるせいか妙に寝顔が可愛く見えるし、しかも目を見張らんばかりの巨乳で――いやいやいや、これは問題の本質には関係なかったな。
「…………」
 本当に、無関係か?
 これまでのオーバーワークがたたったのか、芙美子は、完全に寝入ってしまっている。
 その見慣れているはずの顔に浮かぶ表情は、普段の仏頂面からは考えられないほど無防備で、それゆえに、あどけない。
 規則正しく上下する胸は、仰向けになっていてもその形を崩しておらず、しかも、いくつかボタンの外されたブラウスの胸元からは、魅惑的な胸の谷間が覗いている。
 って、俺は、どこを見ているんだ。
 自省とともに貼り付いてしまった視線をはがしたものの、それに要した努力と時間は、いつものおよそ3倍といった体たらくである。
 ふと、脳裏に、即売会で、芙美子がお客さんに見せていた笑顔が、浮かんだ。
 奇妙な焦りが、俺の胸の内側を、ジリジリと炙っている。
 俺は――やっぱり芙美子のことが――
「ふにゅ……」
「っ!」
 芙美子の声に、思わずビクリと体が震えてしまった。
「ん……んん……」
 どうやら、そろそろ芙美子が目を覚ましそうだ。
 もとより疚しいことは何もないはずなのに、頭の中で、芙美子に対する言い訳を考えてしまう。
「とーる……」
「え?」
 思わず、返事をしてしまった。
 寝言に返事をしちゃいけないって、誰かが言ってたような気がするが、見ると、芙美子は、うっすらと瞼を開いている。
「芙美子……あ、えと、あのな……」
「んにゃ……ここ……どこ……?」
 ゆっくりと上体を起こしながら、いささか寝ぼけた口調で、芙美子が訊いてくる。
「その……ホテル、なんだけどさ……つまり、えっと……」
「……ほてる?」
 小首を傾げてから、芙美子が、モニョモニョと聞き取れないような小声で、何か呟いた。
「え、な、何だって?」
 俺は、思わず、を寄せて聞き返す。
「……なにか、しないの?」
「――――」
 何か?
 何かってナンデスカ?
 頭に熱い血が昇り、幾つかの回線が灼き切れ、思考がカタカナとなってしまう。
 芙美子は、相変わらずぽやーんとした顔のまま、じっと俺の顔を見ている。
「芙美子……」
 俺は――つい、深い考えも無しに、芙美子の隣に腰掛けてしまった。
 芙美子が、俺の顔を、視線で追いかける。
 ああ、もう、なんで俺は芙美子の座るベッドに腰掛けたりしたんだ!
 だって――だって、この位置に来たら、次に起こす行動はもう決まっているも同然じゃないか――!
 夢の中で、あの魅惑的なお姫様たちにした行為が、頭の中に甦る。
 まるでそれをなぞるように、俺は、自分の左側に座る芙美子の肩を、左手で抱き寄せた。
「んぁ……」
 芙美子が、どうぞ、と言わんばかりに目を閉じ――心持ち、唇を尖らせるような顔になる。
 俺は、無意識のうちに鼻から荒い息を漏らしながら、芙美子の顔に顔を近付けた。
「ん……え……えと……ほあ?」
 芙美子が、不意に、俺の腕の中で妙な声を上げる。
「ちょっ! や、やだ、やああああああっ!」
 唇を触れ合わせる寸前まで来ていた俺の顔が、ぐいー、と芙美子の両手に押しのけられる。
「くのおっ!」
 ばちーん! という音ともに、目の前に火花が散る。
 平手打ちされた――と言うより、鼻の頭に、真正面から張り手をかまされた。
「だ、誰、誰よあんた! って、何!? 透じゃない!!」
 全くもって普段どおりの表情と口調で、芙美子が喚いている。
 つまり、こいつは、ついさっきまで、完全に寝ぼけてたってことか?
「な、ななな、何しようとしてたのよ! この変態ッ!!」
「いや、その、俺は――」
 言いかけて、弁解の余地が無いことに、気付く。
 何しろ芙美子はちょうど今目が覚めたも同然なわけだし、たとえそうでなかったとしても、俺が、本人の意思を確認せずにキスに及ぼうとしていたことは事実だし――
 それに、俺は、果たしてキスだけで終わらせるつもりだったかどうか――
 だいたい、俺は、いちばん重要なことすら、こいつに伝えていないのだ。
 今を逃すと、もう機会は無い。いや、すでに機会を失ってしまっているのかもしれないが、ここで言わないと、たぶん、明日から俺は口をきいてもらえない。
 もちろん、これを言ったとしても、絶交される可能性は充分にあるわけだが、しかし――
「最低! 最低っ! 最っ低っ! あんた、いったいどういうつもりで――」
「俺は!」
 とにかく、喚き続ける芙美子よりさらにでかい声を出して、どうにか間を作る。
「俺は、お前のことが好きなんだよ!」
「だから何よっ――って、ほああああ?」
 芙美子が驚愕に目を見開く。
「あ、あんた、今、何て――」
「だから、好きなんだよ。いや、たぶん、ずっと前から好きだったんだ。俺、ようやく気付いたんだよ」
「ま、待って……待ちなさいよ……その……そんな、突然……」
 芙美子の顔が赤いのは、アルコールが残ってるためか、怒りの余韻のせいか、それとも、別の理由によるものか。
「だから、俺、さっきは、つい、暴走しちまって……もともと、そういうつもりじゃなくて、ただ酔っ払ったおまえを介抱するつもりでここに来たはずなんだけど……けど、何だか、お前がもう、俺の気持ちに気付いてるんじゃないかって……いや、たぶん錯覚だったんだろうけど……でも……やっぱり、お前のこと、好きだから……」
「――困る」
 本当に困惑しきった顔で、芙美子が言った。
「困る。困るわよ。いきなりそんなこと言われたって」
「……悪い」
「謝られても困るってば」
「…………」
 俺は、沈黙する。
 もはや、言うべきことは言った。それに、このあと何を言っても、今は、芙美子を困らせるだけのようだ。
 気まずい静寂が、延々と続く。
「その、最初はヘンなことするつもりじゃなかったってこと?」
 ようやく、芙美子が口を開く。
「ああ」
「本当に?」
「そうだよ」
「…………」
 芙美子が、再び口をつぐんだ。
 その視線は、さっきから、俺の方を向いていない。
 そして――
「――帰る」
 ぽつん、と、芙美子が言った。
「あ、えっと……」
「送らなくていいわ。って言うか、送らないで。ちょっと一人で考えたいの」
「あ、ああ……」
「じゃあね」
 芙美子が、ベッドから立ち上がり、自らの荷物を持って、部屋を出て行く。
 俺は、まるで石になったように動かず、ただ、ベッドに腰掛け続けていた。



「あ、ミスラ」
 妙に蒸し暑いある日の昼下がり、俺は、王宮の廊下で、ミスラと鉢合わせた。
「何だそれ? 調味料か何かか?」
 ミスラの持つバスケットの中に幾つものガラス瓶が並んでるのを指差し、尋ねてみる。
「ん、まあ、そんなところ」
 そう言いながら、ミスラは、ガラス瓶の上に布を被せて、俺の視線から隠した。
「今度はいったい何を作るんだ?」
「別に――君に食べさせるようなものじゃないよ」
 ミスラの物言いは、相変わらずそっけない。
「じゃあ、僕、忙しいから」
 そう言って、ミスラは、自らの研究室のある塔の方向へと歩いていった。
 やれやれ……もう他人じゃないのに、あんまりな態度だよな。ゼルナさんやイレーヌさんは、あんなに情熱的なのに――
 そんなことを思ってから、深く反省する。全く、最近の俺はおかしい。おかしすぎる。
「お兄〜ちゃん♪」
 と、背後から、スウに声をかけられた。
「ミスラお姉ちゃんと、ケンカ?」
「別に、ケンカする理由なんてないさ」
 そんなふうに言ってしまってから、さらに反省する。
 と、スウは、その顔に小悪魔っぽい笑みを浮かべて、俺の顔を見つめた。
「――お兄ちゃん、イライラしてる?」
「ん、いや――どうだろうな」
 我ながら煮え切らない返事だ。
 ミスラとの今の一件を別にしても、確かに俺は、とても落ち着いた精神状態とは言えないようだ。
 現在、アイアケス王国側は、国境沿いの3つの街を包囲されているものの、包囲陣そのものはお粗末なものだ。しかも、包囲している熾皇帝側の軍勢は、王都から遠征した騎士団によって、徐々に勢力を削られているという状態である。
 3つの街の解放は時間の問題であり、そのため、ニケ直属の精鋭部隊や――自分で言うのも何だが――魔剣の使い手である俺なんかは、切り札として温存されている。逆に、ニケや俺が不用意に動いて、また王都を直接狙われてはたまらない。
 そういうわけで、国境近くでは多少の進展があるものの、俺に関して言えば、事態は膠着していると言えた。
 待つ、ということには、忍耐が要る。しかも、そのことに、多くの人の命運がかかっているとなればなおさらだ。
 そのことで、俺は、もしかすると、多少の苛つきを感じているのかもしれない。
「ねえ、お兄ちゃん……スウのお部屋で、お茶でもどうかな?」
「ああ……そうだな」
 午後、時間があれば、メレルと剣の鍛練でもと考えていたのだが、今はむしろ、気持ちを落ち着ける方が優先だ。
「じゃあ、ご馳走になるよ」
「うん、じゃあ、こっち来て」
 俺は、にっこりと笑みを浮かべて歩きだすスウの後ろを着いていく。
 スウが、自室の扉を開けると、部屋の中央のテーブルに、すでにティーセットが一式そろっているのが見て取れた。
「へえ、俺が来るって分かってたみたいだな。やっぱ、予言か?」
「半分はね。でも、もう半分は、予言じゃなくて期待、かな」
 見かけの年よりもやや大人びた口調で言いながら、スウが、お茶の準備をする。
 その手つきは、ミスラのものほど滑らかではなかったものの、だいぶ慣れたものだった。
「――はい」
「ああ、サンキュ」
 華奢なティーカップに入った、紅茶に似ているが微妙に香りの違う飲み物を、一口啜る。
 そして、俺は、視線を周囲に巡らせた。思えば、スウの部屋の中をまじまじと見るのは初めてだ。
 高級そうだがどこか小ぢんまりとした造りの家具に、淡く明るい色のカーテンなんかがいかにもお姫様の部屋っぽい。続きの部屋の奥にある天蓋付きのベッドは、やや過剰なほどにフリルとレースで飾られ、どこかデコレーションケーキを思わせる。
 スウは、物心ついたころから、ずっとこんなとこで住んでたわけか……。確かに、メレルとは世界が違うって感じだな。
 とはいえ、スウも、メレルも、アイアケス王国の住人である以上、同じ脅威に晒されていることには違いない。
「ああ、ところでさ」
 俺は、スウに視線を戻して、訊いた。
「熾皇帝ロギの四天王の残り2人って、どんな奴なんだ?」
「残り2人? それって、闇司祭ランズマールや、黒騎士リルベリヒ以外の、ってこと?」
「ああ」
「……妖術師レレムと、死巨人ルル・ガルドね」
 スウの言葉に、俺は、肯きを返す。
 レレムとルル・ガルドという名前と、そしてそれぞれの御大層な二つ名については、すでに俺は他の人々に聞いていた。どうやら、アイアケス王国の住人にとって、その名前は常識の範囲内のものらしい。
 だが、その2人が、はたしてどんな連中なのかということについては、正確に答えてくれる人はいなかった。何でも、これまで、その2人はアイアケス王国とは反対側の国々を滅ぼし、塩の荒れ地に変えていたらしい。
 そういうわけで、もし出会ったら出たとこ勝負で対決しようと考えていたのだが――スウに尋ねるのを忘れていた。
 スウは、予言者であり、不思議な知覚の持ち主だ。もしかすると、これまで得られなかった詳細な情報が聞けるかもしれない。
「で、どうなんだ? 知ってるのか?」
「そう聞かれると、よく知らない、っていうふうにしか答えられないよお」
 スウが、困ったような声を上げる。
「そっか。スウならば、と思ったんだけどな……」
「う……ゴメンね」
「あ、いや、スウが謝ることじゃないって。ちょっとスウの力を便利に考え過ぎてたかも――」
 俺は、そこまで言って、ちょっと考え込んだ。
「どうしたの?」
「いや……今、スウの知識の中に無いとしても、あるいは……」
 取り留めの無い思考を言葉にして、どうにか整理しようとする。
「えっとだな、スウは、俺のこと、ぜんぜん予言できないってわけじゃないんだよな?」
「う、うん……半分、くらい?」
 何がどう“半分”なのかはよく分からないが、それは今こだわるべきポイントではない。
「俺は、レレムやルル・ガルドと戦うことになるのか?」
「う……うん……えっと、えっと……そうだね……たぶん、そうなる……」
 スウが、その青い瞳を俺の頭上辺りの空間にさまよわせながら、自信無げに答える。
「じゃあ、その時のことをイメージしてくれ。……何が、見える?」
「ちがうー! 見えるんじゃないってば! 忘れたの?」
「あ、すまん。その、えーと、とにかく、どんな感じだ?」
「む〜」
 スウが、まるで地底人に空の概念を説明するかのような、難しい顔をする。
「えっとね……えっとねえ……レレムはね、お兄ちゃんと戦う時、風を使うよ……」
「風……?」
「うん。自分の周りにある風を使う。それが、レレムの妖術なの」
「俺は……勝てるのか?」
「それは……お兄ちゃんの、センタクシ次第」
「…………」
 一瞬、失望しかけて、思い止まる。
 何を弱気になってるんだ。充分すぎる答えじゃないか。少なくとも、確実に死亡なんて言われるよりよっぽどいい。
「お兄ちゃんは……うん、お兄ちゃんはね、土を使う」
「土? 火じゃなくてか?」
「うん。火はもう使えなくなってるの。だから、土。たぶん、それがサイリョウカイだよ」
 土が、えーと、最良解――か? うーん、訳が分からん。
「それとねえ……ルル・ガルドなんだけど……そいつ、剣が通らないよ」
「剣が……サタナエルの剣が、通じないのか?」
「うん。避けるわけでも、弾くわけでもないんだけど……タテやヨロイがすごいわけじゃないんだけど……でもね、お兄ちゃんの剣がきかないの」
「で……俺は、どうする?」
 俺の問いに、スウは、沈痛な表情で、ふるふると首を横に振った。
 分からない、ということなのか、勝てない、ということなのか――それとも、もっと深刻な事態なのか。
 しかし……まいったな。今も背中に背負ってるこのサタナエルの剣は、対レレム戦では使えなくて、対ルル・ガルド戦じゃ役立たず、とのご託宣だ。
 まあ、もちろん、今の予言だけじゃ何か判断できるわけじゃないんだが――
「ゴメンね」
 スウが、その顔に、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
 って、俺、スウにこんな顔させるくらい、不景気な面してたってことか?
「いや、参考になったよ。すごく助かった」
「ホント?」
「ああ」
 少なくとも、残り2人の四天王と戦うという覚悟を決めるきっかけにはなった。
「ありがとな、スウ」
「……お兄ちゃん、優しいね」
 ニッコリとスウが微笑み、そして、椅子から立って、俺の傍らに歩み寄る。
「ん?」
「あのね……もし、スウがお兄ちゃんの役に立ったなら……」
「ん、ああ、役に立ってるよ」
「だったらね……その、ご褒美、欲しいな」
 スウが、頬を赤く染めながら、恥ずかしそうにそっぽを向く。
 そうしてから、スウは――その神秘的なブルーの瞳を流し目にして、俺に、視線を向けた。
 ドキリと――
 胸郭の中で、心臓が跳ねる。
 その幼い顔からは予想もつかなかった妖しい色気。
 少女趣味な服の内側から自己主張する、華奢な体に不釣り合いな胸の膨らみが、俺の心を惑わす。
「ご褒美って……何だよ」
「ん、もうっ……分かってるでしょ?」
 わざとらしくむくれて見せてから、スウが、俺の顔に顔を近付ける。
 椅子に座った俺の頭と、ほぼ同じ高さにある、スウの顔。
 その柔らかそうな頬をほんのり赤く染めながら、スウは、瞳を閉じた。
 んく、とこっそり生唾を飲み込んでから、スウの口元に、唇を寄せる。
 ああ、いったい俺は、こんな子供相手に何をやってるんだ――
 そんなふうに考えた時には、俺は、スウの唇に唇を触れさせていた。
「んっ……ん、んん……」
 重なった唇の隙間から、スウの小さな声が漏れている。
 そして――柔らかくぬるりとしたものが、俺の唇を割った。
 舌を、入れられちまった。
 その生々しい感触が、このキスが単なる挨拶や子供のお遊びでないことを、告げる。
 そう、これは――ある行為に向けてのとっかかりであり――要するに、一番最初の前戯だ。
「ん……ちゅ、ちゅむ……んふ……ちゅ……んんんっ……ちゅぷ……んふぅ……」
 甘く鼻を鳴らすスウの舌に、舌を絡める。
 唾液に濡れた互いの舌が奏でるピチャピチャという音に、脳がじわーんと痺れた。
 おかしい……俺は……こんな……こんなこと……どうして……
 漠然とした、何に対するものとも判然としない違和感が、次第に、淡い快感の前にとろけていく。
「んふ……ん……ちゅぱっ……はぁ、はぁ、はぁ……」
 ようやく唇を離し、俺とスウは、息をつきながら互いに見つめ合った。
 スウの円らな青い瞳が、そのあどけない顔に似つかわしくない情欲に、濡れている。
 俺は、椅子から立ち上がり、スウの小さな体を、いわゆるお姫様抱っこで抱え上げた。
「あん♪」
 驚きよりも嬉しさを声に滲ませながら、スウが、俺の首に両手を回す。
 俺は、拍子抜けするくらいに軽いスウの体をベッドに運び、シーツの上に横たえた。
「はぁ……ん」
 スウが、どこか期待するような顔で、俺を見上げている。
 俺は、背負っていたサタナエルの剣を床に置いてから、スウの体に覆いかぶさった。
「お兄ちゃん……」
「いいのか? スウ……」
 ここまで来て、俺は、そんなことを訊いてしまう。
「うん……今は、本当はその時じゃないと思うんだけど……でも、もう、ガマンできないし……」
「俺もだよ……」
 例えば、スウがもう少し成長してから、という気持ちには、どうしてもなれない。
 だから、俺は、スウの頬を撫でてから、その額や瞼、唇、首筋にと、口付けする。
「あっ、ううん、んふ……はぁ……お、お兄ちゃんっ……」
 スウが、俺の体にしがみついてくる。
 俺とスウは、ベッドの上で抱き合いながら、互いにキスを繰り返した。
「スウ……」
 服の上からでもはっきりと分かる胸の膨らみに、手の平を重ねる。
 そのまま、ゆっくりとまさぐると、スウは、クネクネと体を動かした。
「あっ、あううっ、んふ……や、やんっ……あふ……ああぁん……」
 甘い声を漏らしながら、スウが、頬を上気させる。
 俺は、胸への愛撫と平行して、スウの服を脱がしていった。
 スウも、自ら手足を動かして、俺に協力する。
 ほどなくして、スウは、俺の目の前に生まれたままの姿を晒した。
「綺麗だ……スウ……」
 思わず、溜息混じりに呟いてしまう。
 どこか妖精を思わせる、成長途上の白い体――その中で、乳房だけが、自らが女性であることを主張している。
 乳房の頂点にある乳首は淡いピンク色。そして、その股間は無毛で、幼い割れ目がくっきりと見て取れた。
「恥ずかしい……」
 そう言って視線を逸らしながら、スウが、両手で胸と股間を隠そうとする。
 俺は、そんなスウの両手を、左右の手で押さえ、なおも凝視を続けた。
「あ、あぁん……見てる……お、お兄ちゃんが、スウの体、見てるぅ……はぁ、はぁ、はぁ……」
 チラチラとこっちに視線を向けながら、スウが、息を弾ませる。
 俺は、スウの手を離し、目の前の胸の膨らみに、今度は直に触れた。
「あんっ……!」
 ひくん、とスウの体が震える。
 俺は、ゴム毬のような感触を手の平に感じながら、スウの乳房をできるだけ優しく揉んだ。
「あふっ……ひ、ひゃんっ! ん、んはン、んあ、あんっ、あふ……うく、ひゃうんっ……」
 スウが、体をすくめるような姿勢で、声を上げる。
「くすぐったいか?」
「んっ……な、何だか、ヘンな感じ……あんっ……え、えと……もっと、強くしてもいいよ……」
 俺は、スウに言われるままに、乳房を愛撫する指先に力を込めた。
 桜色をした左右の乳首が、次第に堅くなっていく。
 俺は、スウの乳首を、それぞれ指先で摘まんだ。
「きゃんっ!」
 スウの可愛らしい悲鳴を聞きながら、勃起した乳首を転がすように刺激する。
「んあっ、あ、あん! ダメ、ダメぇ……あああ、さ、先っぽ……あんっ、イタズラしちゃダメだよぉ……ああぁん!」
「どうしてだよ?」
「だ、だって、んっ、んっ、んく……感じ、ちゃうからぁ……あぁ〜ん、バカバカ、お兄ちゃんのバカぁ……あっ、あぁん、あふぅン」
 拒むようなことを言いながらも、スウは、本気で抵抗するような素振りを見せない。
「ん、もうっ!」
 スウが、反撃とばかりに、下から俺の股間に手を伸ばしてくる。
「きゃっ! す、すごい……」
 布越しに俺の強ばりに触れたスウの方が、声を上げる。
「こんなに堅くなるなんて……ん、んく……これ……スウのハダカ、見たからだよね?」
「あ、ああ……」
「はふ……もう、お兄ちゃんたら……はぁはぁ……」
 スウが、息を速くしながら、まるで堅さを確かめるように、俺のズボンの膨らみをぎこちない手つきで撫でさする。
「あ、ああ……どんどん堅くなってるみたい……何だか恐いよぉ……」
「別に、恐くなんかないって」
「ん……だったら……見ていい?」
 俺は、スウに頷いて、着ている物を全て脱ぎ捨てた。
「ひゃあ……」
 スウが、青い瞳を真ん丸にして、俺の股間でそそり立つペニスを見つめる。
「あう……や、やっぱり、恐いかもぉ……」
「そ、そっか?」
「えっとね……お兄ちゃん、横になって」
 俺は、言われた通りに、スウのベッドの上に横になった。
 と、スウが、俺の腹の上に後ろ向きに跨がる。
「ゴメンネ、お兄ちゃん……でも、この格好なら、恐くないから……」
 そんなことを言いながら、スウが、そっと俺の肉竿に指を絡める。
「はう……や、やっぱり、カチカチ……何だか、別の物が入ってるみたい……」
 スウの小さな手が俺の肉棒を微妙に刺激する。
 俺は、自分に跨がるスウの体に手を伸ばし、その脇腹を指先で撫でた。
「ひゃっ! あ、ああぁん……」
 くすぐったさと、それ以外の感覚に、スウが身をよじる。
 俺は、スウの体を引き寄せるようにしてから、その年に似合わぬ巨乳を下からすくい上げるように左右の手の平の中に収めた。
 そして、二つの胸の膨らみを、グニグニと捏ね回す。
「あん、あぁん、あふ……あっ、あっ、お兄ちゃん、ダメぇ……んく、あふぅ……あぁン!」
 くい、くい、と乳首を引っ張ると、そのたびに、俺のペニスを握ったスウの手に、力が込められる。
 が、それは、快感にまでは至らない、淡くもどかしい刺激だった。
「スウ、その……それ、扱いてくれないか?」
「んっ……それって、お兄ちゃんの……そのう……オチンチンさんのこと?」
「あ、うん……」
 スウの妙な言い方に、俺は頷く。
「うん、分かった……シコシコしてあげるね……んふぅ……」
 スウが、その小さな手で、俺の肉棒をぎこちなく扱き始める。
「ふぅ、ふぅ、これでいいんだよね……んっ、んく……シコシコ、シコシコって……」
「ん、そうだ……もっと、強く……」
「えっ? だ、だいじょうぶなの?」
 そう言いながらも、スウが、さらに強くシャフトを握り、手の上下運動の速度を上げる。
 俺は、幼い少女に肉棒を弄くらせる背徳的な快感に喘ぎながら、スウへの愛撫を続けた。
「あ、あんっ、んふぅ……お兄ちゃんの触り方……す、すごくやらしいよぉ……あん、あは、んうぅン……」
「じゃあ、やめようか?」
「そ、そんなぁ……イジワル……んっ、んんんっ、お兄ちゃんのイジワルぅ……はぁはぁ……」
 スウが、反撃とばかりに、両手を駆使して俺の肉棒を撫で回す。
「ハァ、ハァ……ねえ、お兄ちゃん……んく……い、いっぱい、シコシコしてあげるから……はっ、はふ、スウのカラダ、いっぱい触ってぇ……んううン……」
 すっかり俺の愛撫がもたらす快感の虜といった感じで、スウが甘い声を上げる。
 俺は、小生意気に勃起したスウの乳首を摘まみ、扱くように刺激してやった。
「ひっ! ひうっ! うく! あン! ふああぁン! は、はっ、そんな、あんっ、ダメぇ〜!」
 ひくっ、ひくっ、とスウの未成熟な体がおののく。
「あっ! あくう! うく、うっ、うううんっ……ンあああああ! ダメ、ダメ、ダメぇ! ああん、あひぃ〜ん!」
 本格的な喘ぎ声を上げながら、スウが、俺の体の上に突っ伏す。
「はっ、はふ、はふ、はふぅ……はぁ、はぁ、はぁ……ああぁ、あぁ、あん……」
 俺の胴の上で、白く小さな肢体が、ヒクヒクと震えている。
 俺は、スウの細い腰に手をかけ、丸いヒップを引き寄せた。
「きゃあん!」
 悲鳴を上げるスウの太腿の内側に、キスをする。
 そして、俺は、透明な蜜を溢れさせているスリットに、口を近付けた。
「ああ、そんなぁ……はぁはぁ、キスしちゃうの? スウのそこに、キ、キスしちゃうの?」
「そうだよ」
 俺は、そう答えて、まだ縦筋一本の秘部に、口付けした。
 そのまま、幼いクレヴァスに、舌を差し込む。
「ふああぁん!」
 スウが、ギュッ、と俺の腹辺りに抱き着く。
 構わず、俺は、スウのそこにクンニを続けた。
 愛液に濡れた粘膜の味を感じながら、ネロネロと舌を動かす。
「ひっ、ひうん、んは、ああぁん! あっ、そんな、そんなトコぉ! やん、やん、やは、やぁ〜ん!」
 可愛らしく喘ぐスウの秘裂から、新たな愛液が溢れ出る。
 俺は、左右の親指を使ってスウのそこを割り開き、露わになった小さな膣口に舌をねじ込んだ。
「ひゃぁあああああン! あっ、ああっ、ダメ、ダメ! あん、あは、はっ、はひ、ひぃいいいいいぃ〜ン!」
 跳ねそうになるスウのヒップをしっかりと押さえ、汚れを知らないスウの秘密の場所を、舌で犯す。
「あん、あぁん、あふ……んううっ、ズルイ、ズルイぃ……はぁはぁ、お、お兄ちゃんばっかり……んあうっ!」
 そう言いながら、スウが、俺のペニスをギュッと掴む。
「ハァ、ハァ……あぁ〜、あぁ、ダメぇ……ベロ、届かないぃ……んはぁン!」
 どうやら、スウは、舌を伸ばして俺にフェラチオをすることで、反撃に転じようとしたらしい。
 それが叶わないと分かった今、スウは、先程以上の熱意を込めて、俺の肉幹を扱き始めた。
「はぁ、はぁ……シコシコ、シコシコしちゃうんだからぁ……あ、あん、オチンチンさん、すっごく元気……んふ、はふぅ、んあぁ〜」
 時折、口を大きく開け、精一杯に舌を伸ばして、俺のペニスを舐めようとする。
 その様子は、普通にフェラをされるのとは違った、倒錯的な興奮を俺にもたらした。
「ふは、はっ、あふ、あふぅん……はああぁ、シコシコ、シコシコぉ……あん、シコシコ、シコシコ、シコシコ……はっ、あはっ、はっ、はふ……んあああっ、シコシコ、シコシコぉ……ふぅふぅふぅ……」
 口元から俺の腹に涎を垂らしながら、スウが、手淫を続ける。
 俺は、すっかり充血したスウのクリトリスに、唇で吸い付いた。
「ひきいいいっ!」
 刺激が強すぎたのか、スウが、鋭い声を上げる。
 俺は、まだ包皮を被ったままのクリトリスを、舌で優しく舐め転がしてやった。
「ひああああ、あ、あ、あああ! あっそこ! そこっ! ん、んああああ! スゴイ、スゴイよぉ! あン! あン! あ、ああああああン!」
 俺の上で腹這いになったスウの体が、悶える。
 それでも、スウは、意地になったように、両手での手コキを続けていた。
「んっ……イクのか? スウ」
「ううんっ、わ、わかんないけろぉ……ハッ、ハッ、お、おかひくなっひゃいそう……んはあああン!」
 呂律の怪しくなったスウの陰核に唇を押し付け、チューッと吸い上げる。
「ひ、ひいいいいいいいいいいいン!」
 ビクビクビクッ! とスウの体が痙攣する。
 これまでの快感の蓄積と、そして、絶頂に達したスウの可愛らしさに、俺は、そのまま射精してしまった。
「ひあっ! うぷ! あぷうっ! やっ! 何? 何ぃ? ああん、熱い! 熱いのかかってるぅ! んうっ! ひああああああああああああああああああ!」
 俺のザーメンを顔に浴びながら、スウが、さらなる絶頂を極める。
 とぷとぷと愛液を溢れさせながら、ヒクン、ヒクン、とおののく靡粘膜を、俺は、なおも舌で刺激し続けた。

 



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