Master-Slave

dreaming



 雪が、降っている。
 白い結晶の集積が、この街を覆っていく。豪雪地帯ではないが、それでも日本海側だ。この時期、必ずと言っていいほど、街は雪の洗礼を受ける。
 次第に視界にあるもの全てを無垢な純白に染めて行く雪を、結城小夜歌は、ぼんやりと眺めていた。
 マンションの、小夜歌の部屋の窓の外。見なれた景色が、その様相を変えていく。
 そして小夜歌は、一年前の出来事を思い出していた。



「留守?」
 ベッドの中で、コードレスの受話器に向かって、結城円は言った。
「お姉ちゃん、留守なの?」
「ああ」
 電話の向こうの声はぶっきらぼうだ。
「だってお姉ちゃん、昨日、こっちから家に帰ったんだよ」
 円が、少し心配そうな声で言った。
 円が寝ているのは、彼の担当医である村藤霧子の医院の一室である。簡素なベッドに純白のシーツ。橙色の毛布が、はっきりと膨らんだその胸元まで隠している。相変わらず、その外見は少女のようにしか見えない。
 今、円は、彼の父が施した施術の後遺症が出て、霧子の家に厄介になっている。年に一、二度、こういう状態になるのだ。成長期の肉体をむりやりに少女のそれに変えてしまうという行為は、円の躯に間違いなくひずみを残していたのである。
 しかし、円自身は、そんな自らの運命に、何の悲壮感も抱いていない。――それこそが、最も大きなひずみなのかもしれないが。
「てっきりお兄ちゃんのところ行ってると思ったのに」
「……」
 円の言葉に、電話口の向こうの兄――結城遼は、沈黙で答えた。
「仲直りしたんじゃないの? お姉ちゃんとさ」
「別に、ケンカしてたつもりはない」
「よく言うよォ。ボクらのこと、すっかり忘れてたくせに」
 円が言う通り、三ヶ月ほど前まで、遼は記憶を失っていた。そして、そのことに、小夜歌が、言わば拗ねていたことも事実である。
「心当たりはないのか?」
「――ウン。お姉ちゃん、友達少ないタイプだからねえ。合唱部の人で、誰かいたかもしれないけど……こういう日に一緒にいるかどうかは、よくわかんないよ」
「そうか。……じゃあ、体、大事にな」
「ボクなら大丈夫だよお。それより、お姉ちゃん、探してあげてね」
「分かった」
 遼は、珍しくちょっと困ったような声でそう言った。

 遼は、小夜歌と円が住んでいるマンションから外に出た。
 赤と緑に装飾された街に、雪がはらはらと舞い降りている。もうクリスマスだ。
「さて、どこを探したものかな」
 鉛色の雲の底を見上げながら、遼が呟く。記憶を取り戻してはいるが、小夜歌の生活については、何も知らない。そのことに、遼は自嘲じみた笑みを浮かべた。
「兄妹だってのにな……」
 そんな小さな声が、冬の空気が染み込んでいった。



「ちょっと失敗だったかなあ……」
 森の中にある丘に立つ少女が、白い息を吐きながら、ぽつん、と呟く。
 艶やかな黒髪に、大きな切れ長の目。漆黒の瞳と白い肌が、まるである種の人形のように整ったその顔によく似合っている。
 雪の降りが、意外と激しい。じっとしてると肩の上にまでしんしんと積もっていく。
 もう、停留所に戻っても、バスは運休しているかもしれない。かと言って、この雪の中、スクーターで来るわけにもいかなかった。
「ま、いっか……」
 その綺麗な顔に寂しげな笑みを浮かべながら、小夜歌は丘の下を見る。
 遼と、そしてその奴隷である槙本由奈の住む舘が、ここからだと一望できるのだ。
 思えば、子どものころから、よくここに来て、あの舘を見つめていたものだ.
 弟である円との背徳の関係に悩んだとき。
 母である美由紀の妖しい二面性にうちのめされたとき。
 兄である遼が家族を捨て、行方をくらませたとき。
 父である秋水が、母の代わりとして、自分ではなく円を選んだとき。
 そして……
 思えば、自分の家族は、そういう忌まわしい関係でしか、絆を結べなかったのかもしれない。
 今は、遼が自分を犯したのも、なぜだか分かるような気がした。
 罪悪感を感じるには、自分の心と体の歯車は狂いきっている。ただ、昏い、けだるさに似た何かが、少しずつ胸を蝕んでいるような感覚が、間違いなくあった。
 絶望にまで凝縮する以前の、憂鬱な沈殿物……。
 そのうちの半分以上を、あの、幼げな顔の少女に対する嫉妬が占めていたことも事実だ。
 だが、妬ましいという気持ちは、今はない。その気持ちは蒸留され、純粋な羨望が、胸のうちで渦巻いている。
 自分も遼の妹ではなく……奴隷に、なりたかった。
「小夜歌さん!」
 そう呼ばれて、はっと小夜歌は振り返った。肩や髪に積もっていた雪が、ぱっと周囲に散る。
「やっぱり、ここだったんですね。ご主人様、心配してましたよ」
 声の主は、由奈だった。小夜歌より二つ年上というのが信じられないような、幼い顔にあどけない表情。頭の左右で結んだ髪に、プラスチックの飾りをつけている。服は、前世紀のメイドが着るようなエプロンドレスだ.
「どうしてここが分かったの?」
 小夜歌が、意外そうな声で言う。
「えっと、ご主人様から電話があったんです。街にはいないみたいだけど、こっちに来てないかって。で、ここのこと思い出して……」
「思い出す?」
「ええ。ここから、お屋敷、よく見えるんですよね」
 そう言って、由奈は舘の方に視線を向けた。屋根に雪をかぶった西洋風の洋館が、広い庭の中に佇んでいる。
「あたしも、ここ見つけた時は、ちょっとびっくりして……で、けっこうお散歩するようになったんです。悩んだりした時とか、けっこう来たりして」
「悩むって、お兄ちゃんとのこと?」
 そう言われて、由奈の柔らかそうな頬が、ぽっ、と染まる。その分かりやすい反応に、小夜歌は思わず苦笑いした。
「――由奈さん、お兄ちゃんとの結婚は、考えてないの?」
 そして、思いもしなかった言葉が、するりと滑り出る。
「ええっ?」
 由奈は、頓狂な声をあげたあと、さらに顔を赤くした。
「そ、そんな、お嫁さんだなんて……あたし、奴隷だし……そんなコト……」
 もじもじとそう言いながら、由奈は耳まで赤くしながらうつむいてしまう。
「そ、そんなことより、早く家に入らないと、冷えちゃいますよ! 夕食の材料、三人分買ってあるんですから!」
 ごまかしにもならないようなことことさら大きな声で言って、由奈が顔を上げる。
「そうね。ありがと」
 自分でも驚くほど素直な声でそう返事をして、小夜歌は、由奈と並んで歩き出した。
 見ると由奈は、どこか夢見るような顔でかすかに微笑んでいる。もしかすると、自分のウェディング・ドレス姿を想像しているのかもしれない。
(お兄ちゃんに必要なのは、こういうコなのかもね……)
 小夜歌はそう思いながら、舘の門をくぐった。



 食事が終わり、三人はお茶を飲んでいる。
 遼と小夜歌はブラックコーヒー、由奈はミルクティーである。
 遼は、自分が小夜歌を探していたことは話題にしない。まるで帰ったらたまたま妹がいた、といった態度でい続けている。
 そんな兄の様子がちょっと可笑しくて、小夜歌は思わず微笑んでしまう。
「なににやにやしてるんだ? 二人とも」
「二人とも?」「二人、ですかあ?」
 小夜歌と由奈は、思わず同時に声をあげていた。
「にやけてる。二人とも、な。――クリスマスだから浮かれてるのか?」
 小夜歌には分からなかったが、由奈は、またもやあの想像に浸っていたらしい。
「ま、そんなもんよ」
 赤くなってうつむいたまま何も答えられない由奈に対し、小夜歌は軽くそう言う。
「そう言えば、プレゼントまだもらってないよ。お兄ちゃん」
「そんなもん用意してない。クリスチャンじゃあるまいし」
「ええー? ――あ、すいません」
 今まで黙っていた由奈が、子供のような声をあげたあと、申し訳なさそうにあやまる。
「ほら、由奈さんも不満そうじゃない」
「知るか、そんなこと」
 思わぬ共同戦線に、遼は苦笑いしながら言う。
「そもそも、クリスマスってったって、もともとは冬至のお祭りでしょ。北半球の人間なら、平等にお祝いしていいと思うけど」
「ヘンな理屈だな」
「だからさ、お兄ちゃん……あたしと由奈さんが仲直りするのに、協力してくれない?」
「は?」「え?」
 今度は、遼と由奈が同時に声をあげる。
「別に難しいことじゃないから、ね♪」
 小夜歌は、いつになくはしゃいだ声をあげていた。



「ちょうどいいの、見つけたわ」
 そう言いながら小夜歌は、細身の鎖と首輪を二つ、クローゼットから取り出した。
 場所は、遼が奴隷を調教するための、例の地下室だ。寒々としたコンクリート剥き出しの外観に反して、充分過ぎるほどに暖房が効いてる。
 小夜歌が見つけた首輪は、二つとも黒い革製で、同じデザインである。留め金を南京錠でロックするタイプの、シンプルなものだ。
「由奈さん……」
 小夜歌は、少し震えているような声で言った。
「はい」
 素直にそう返事をして、由奈が小夜歌に近付く。
 頭半分は背の低い由奈の首に、小夜歌は、革製の首輪を巻きつけた。
「うン……」
 硬い革の感触が、その白い首を緩やかに拘束するだけで、由奈は、どこか甘い息遣いを漏らしてしまう。
 小夜歌は、我知らず、その紅い唇をちろりと舐めて、由奈にはめた首輪の留め金をかけた。
 そして、留め金のリング部分と、細身の鎖の環とを、南京錠で結ぶ。
 さらに小夜歌は、自らの首にも首輪をかけ、由奈の首輪に繋がった鎖と、南京錠で接続させた。
 二人の首輪が、長さ五十センチほどの鎖で繋がった形になる。
 身長差があるため、由奈の小さな体と、小夜歌のしなやかな体は、より密着する格好だ。エプロンドレスに包まれた由奈の大きな胸が、小夜歌の体に触れそうになっている。
「お兄ちゃん、準備できたよ……」
 そう言って、小夜歌は遼にその切れ長の目を向けた。
「あたしと、由奈さんを、一緒に抱いて……」
 妹が兄に何かをねだるにしては、あまりにも淫らな口調で、そんなことを小夜歌が言う。
 自らの髪をくすぐるそんな小夜歌の言葉に、由奈はかすかに頬を染めた。
「……じゃあ、服を脱がせてやれよ」
 遼が、口元に淡い笑みを浮かべながら、続ける。
「お互いにな」
「……」
 由奈と小夜歌が、遼の言葉に肯いた。
 そして、互いの服に、手を伸ばす。
 小夜歌が由奈のタイをほどき、由奈が小夜歌の黒いニットのカーディガンのボタンを外していく。
「ン……」
 人に服を脱がされる、どこかくすぐったい感触に、二人は、少し声を漏らした。
 それでも、二人の少女は、互いに互いの肌を露わにしていく。
 由奈と小夜歌の足元に、さっきまで二人の体を包んでいた衣服が重なった。
「きれい……」
 淡いブルーの下着姿になった小夜歌の体を見て、由奈は思わずそう言っていた。
 均整のとれた小夜歌の体を、由奈は、ついいじっと見つめてしまう。
「胸のこと、気にしてるの?」
 小夜歌は、笑みを含んだ声でそう言って、まだ白いブラに包まれたままの由奈の豊かな胸に触れた。
「あッ……」
 快感よりも羞恥に顔を染め、由奈はうつむいてしまう。
「ふふ、由奈さんのおっぱい、柔らかい……」
「あン……」
 小夜歌は、由奈の胸を愛撫するようにしながら、ブラのフロントホックを外した。
 ふるん、と解放された由奈の巨乳が揺れる。
「ずるいです。あたしだけなんて……」
 そう言いながら、由奈は、小夜歌の体を抱き締めるようにした。小夜歌のブラのホックは、背中にあるのだ。
 二人の白い裸体が、ますます密着する。
 そして由奈は、小夜歌のブラを外した。
「由奈さん……」
 呼ばれて、由奈は思わず視線を上げる。小夜歌の綺麗な顔が、すぐ目の前にあった。
 小夜歌の黒い瞳に見つめられていると、それだけでおかしな気分になりそうだ。
「一緒に、お兄ちゃんのこと、気持ちよくしちゃお」
「は、はい……」
 由奈が、小夜歌の雰囲気に飲みこまれたような感じで、肯いた。
 小夜歌と由奈は、鎖で繋がった首輪で互いを引っ張らないよう、注意しながら、じっと二人を見つめて立っている遼に近付いた。
 そして、ゆっくりとその足元に並んで膝をつく。遼から見て、右が由奈、左が小夜歌である。
「お兄ちゃん……」「御主人様……」
 期せずして、ほぼ同時に遼に呼びかけながら、二人は、その手を遼のスラックスに伸ばした。
 四本の手が、スラックスとトランクスをずり下ろすと、遼のそれは、すでに力を漲らせていた。
 逞しく反りかえった兄の器官に引き寄せられるように、小夜歌は、遼の股間に顔を近付けていく。
「ほらぁ、由奈さんも、もっと顔寄せて……」
 小夜歌が、そんなことを言って、由奈に流し目をよこした。
 小夜歌の熱っぽい息が、遼の屹立したものをくすぐる。
「で、でも……」
「せっかく、仲直りの機会なんだから♪ それとも、二人で一緒におしゃぶりしたことって、ないの?」
「え、えっと……一度だけ」
 由奈が言う“一度”とは、以前、結花里に導かれて行った口唇奉仕のことである。
「んふふっ、お兄ちゃんてば、やっぱ、やることやらしてんのね。じゃ、始めよっか」
 小夜歌の言葉に、由奈は小さく肯く。
 そして、ちらっと遼の顔の方を向いた後、その股間に顔をうずめた。
 わずかに遅れて、由奈が遼のシャフトに口付けした。
「く……」
 敏感になったペニスに二人の唇を感じ、遼は思わず小さくうめいてしまった。
 由奈と小夜歌が、その頬を寄せて、自らの怒張に唇を押しつけ、舌を伸ばしている。
 もどかしいような快感が、遼のその部分を、じんわりと熱くさせた。
 赤黒い亀頭や、静脈を浮かせた竿の部分が、次第に二人の唾液に濡れていく。
 別々に動く二枚の舌がシャフトに絡みつく感触に、腰が砕けそうだ。
「う……うん……ンむ……んちゅっ……」
「んふ……ん……んンン……ふぅン……」
 小夜歌と由奈は、遼の形のいい脚に手を添えながら、フェラチオを続けた。
 時に、亀頭部分を吸引し、ハーモニカでも吹くようにシャフトの部分に唇を滑らせながら、舌で唾液を塗り付けるようにする。
 由奈の可愛らしい顔が小夜歌の唾液で汚れ、小夜歌の美麗な顔が由奈の唾液で汚れた。
 そして、二人の顔を、ペニスの先端から溢れる先走りの汁が汚していく。
 興奮に頬を上気させながらも、小夜歌の顔はあくまで美しく、羞恥に頬を染めながらも、由奈の顔はあくまで可憐だった。
 小夜歌が、快感を与えることを楽しむように、遼のペニスを舌と唇で追い詰めていく。
 そして由奈は、淫らな奉仕を捧げる喜びに陶然となりながら、遼のペニスをぴちゃぴちゃと舐めしゃぶった。
 時折、二人の少女は、ちらちらと互いの顔を盗み見る。そして目が合うと、由奈は恥ずかしげに目を伏せ、小夜歌は妖艶に微笑むのだ。
 遼のペニスは、まるで湯に浸かっているような感じで、熱い快美感にじんわりと包まれている。
「ごめんね、由奈さん」
 そう言って、小夜歌は、その小さな口を開いて、遼のペニスを口内に収めた。
「うッ」
 生温かい妹の口腔粘膜の感触に、遼が小さなうめき声をあげる。
「あ、ずるぅい……」
 じゅぷじゅぷと淫らな音を立てながら、シャフトに沿って唇を前後させる小夜歌に、由奈は子どものような声をあげてしまう。
 仕方なく、ちゅっ、ちゅっ、と遼の脚や陰嚢に口付けながらも、由奈はどこか物足りなさそうな顔だ。
「あ、あの、御主人様ぁ……」
 由奈は、上目遣いで遼の顔を見ながら言った。
「ん?」
「あの……このクサリ、またいでみてくれませんか?」
「……」
 由奈の意図を察したのか、遼は、ディープスロートを続ける小夜歌の頭を、両手で持ってちょっと休止させ、ひょい、と鎖をまたいだ。
 遼の前に小夜歌が、後に由奈がひざまずく格好になる。
「由奈、こちらにご奉仕します……」
 そう言って、由奈は、遼のアヌスにその桜色の唇でキスをした。
 さらに、思いきり舌を伸ばし、セピア色の肉の門の周辺をぺろぺろと舐めしゃぶる。
 くすぐったいような快感に、遼の体にぴくりと震えが走った。
「さすがお兄ちゃん、教育が行き届いてるわね」
 その大きな黒い瞳に濡れたような光を宿らせながら、小夜歌が言った。
 そして、遼の返事を待たずに、フェラチオを再開する。
「くっ……!」
 前と後を同時に責められ、遼は不覚にも声を漏らしてしまう。
 このまま膝をつき、へたり込んでしまいそうな快感だ。
 無論、そんなことになったら、鎖に引かれて由奈と小夜歌も倒れてしまう。遼は、何か非常な苦痛に耐えるようにきつく歯を噛み合わせた。
 ペニスを口腔で柔らかく摩擦され、肛門を舌でこじ開けられるように愛撫される。
 二つの異なる感覚が共鳴し、さらに強い快楽が育っていくようだ。
 小夜歌と由奈は、目を閉じて、一心に口唇愛撫を続けている。
 全くタイプの異なる二人であるが、その表情には、どこか通じるものがあった。
 遼の下半身で、快感が熱いマグマのように渦巻き、出口を求めて暴れている。
 遼は、両の拳を白くなるほどに握り締めた。
 由奈の舌が、きゅっ、とすぼまる括約筋に押し戻される。
 由奈は、ねっとりと舌を使いながら、ますます遼の肛門に顔を押しつけるようにした。
 小夜歌の口の中で、由奈の愛撫に合わせるかのように、ペニスがぴくぴくと小さく律動する。
 小夜歌は、休みなく舌を使いながらも、ペニスを大胆に吸引した。
 限界が、来る。
「……ンっ!」
 遼は、危うく高い声をあげそうになるのを噛み殺し、そして、小夜歌の口内に大量の精を放っていた。
「んんんんンっ!」
 びゅるっ! びゅるっ! という音が聞こえそうなほどの激しい射精に喉奥を突かれ、小夜歌はさすがにくぐもった声をあげる。
 しかし、けなげにもペニスを口内に収めたままで、こくん、こくん、と兄のスペルマを嚥下していく。
 小夜歌と由奈は、ほぼ同時に顔を離した。
 二人とも、はぁはぁと小さく息をついている。
 遼は、のろのろと鎖をまたいでいた脚をもとにもどし、そして傍らのベッドに、すとん、と座りこんでしまった。

 さっきまで遼が座っていたベッドに、今は、由奈と小夜歌が体を重ねていた。
 小夜歌が上、由奈が下である。
 小夜歌は、妖しい瞳で由奈を見下ろしながら、ゆるゆるとその白い体を動かした。
 桜色の乳首同士が、くりくりと触れ合っている。
「あっ……ン……うん……はぁン……」
 本格的な快感に至る前の、もどかしいような感覚に、由奈は小さな声をあげている。
 ちゃら、ちゃら、と軽い音を立てながら、二人の首輪を繋ぐ細身の鎖が揺れた。
 二人の少女の乳首が、硬く尖っていく。
「由奈さん、気持ちいい?」
 いつになく優しい口調で、小夜歌が訊く。
「はい……きもちいい、です……」
 由奈が、どこか夢見るような顔でそう言う。ひどく素直な声だ。
 そんな子どものような素直ささえ、小夜歌にはどこか羨ましく感じられる。
 しかし、そんな羨望の念も、今は嫉妬には変わらず、愛しさのような気持ちに還元されてしまうのだ。
(不思議な人……)
 まるで中学生のような幼い顔を、ゆるやかに高まっていく快感に桜色に染めている由奈を、小夜歌はじっと見つめる。
 その視線が恥ずかしいのか、由奈は、つい、と顔をそらした。
 小夜歌は、くすりと微笑み、そして、熱く濡れる由奈のクレヴァスに、自らのそれを重ねた。
 小夜歌のその部分も、由奈に負けず劣らず、淫らな蜜をにじませている。
「ンあん……」
 粘膜と粘膜が吸いつくようにぴったりとくっつく感触に、由奈は、思わず声をあげていた。
 顔を背けたまま、不安と期待に満ちた視線を、ちら、と小夜歌の方に向ける。
(あ……)
 その由奈の表情に、ぞくぞくぞくっ、と小夜歌の背中が震えた。
(ホントに、この人って可愛い……ムチャクチャにしたいくらい……)
 小夜歌の胸のうちにある残酷さが、蛇のように鎌首をもたげる。
 小夜歌は、由奈の脚を、ぐっ、と押し上げた。
「きゃん!」
 由奈が悲鳴をあげるのにも構わず、膝を折り曲げ、畳んだ脚を抱えるようにして、ぐいぐいと腰を押しつける。
 互いにMの字になった脚の根元をこすりつけるような形だ。
 ぬちゃっ、ぬちゃっ、と柔らかな靡肉が摩擦し合い、とろとろと愛液を溢れさせる。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あうう……っ」
 今まで感じたことのないような種類の快感に、由奈が形のいい眉をたわめながら喘ぐ。
「どう? 由奈さん……」
 まるで、少女を犯す少年のように腰を使いながら、小夜歌は急なピッチで由奈を追い詰めていく。
「あうン……スゴい……スゴいです……」
「ほら、お兄ちゃんが見てるわよ」
「あああああああッ」
 小夜歌の言葉通り、遼は、その伸ばした前髪に隠れた目で、じっと二人の交わりを見つめている。由奈は、恥ずかしげに両手で顔を覆った。
「今さら、何恥ずかしがってるの? 由奈さんのココ、すっごく濡れて、ぐちゃぐちゃよ……」
「やあン、やあぁン……」
「ふふ……熱くて、柔らかくて、とろけちゃいそう……♪」
 そう言って、小夜歌はますます激しく腰を動かす。
「あッ! ンあああッ! そんな、そんなにされたら……ッ!」
 ぶるるるるっ、と由奈の小さな体が、絶頂の予感に震える。
 と、小夜歌は、その口元に残酷な笑みを浮かべながら、すっと腰を引いた。
「ふあああア〜ん」
 イキそこねた由奈は、どこか気の抜けた声をあげながら、もじもじと腰をゆすってしまう。
「どうしたの? ふふっ、可愛い顔♪」
 そう言いながら、小夜歌は、由奈の豊かな双乳をゆるゆると揉みしだき、イキそうでイけないところで快楽をアイドリング状態に保つ。
「ンあ、あう、あうぅ〜ん」
 どうやら、由奈はきちんと意味のある言葉を喋れない様子だ。
「イキたいの?」
「あうぅ……」
 由奈は、ちらちらと遼の方を盗み見る。遼は、腕を組んだまま、何も言わない。
「お兄ちゃんのおちんちんでイキたいんだ?」
「……」
 こくん、と由奈は小夜歌の体の下で肯いた。
「出番よ、お兄ちゃん」
 小夜歌は、由奈の体を押さえこんだ姿勢のまま。遼に視線を寄越した。
 シャツの上だけをまとった遼が、苦笑に似た表情を浮かべ、ベッドに上がる。
 その股間のものは、すでに力を取り戻し、急な角度で上を向いていた。
「早く、由奈さんのことを……ンあああッ!」
 小夜歌の声が、自らの悲鳴によって遮られた。
 遼が、小夜歌の小ぶりなヒップを抱え、そのクレヴァスにペニスを挿入したのである。
「ンああっ、あっ、あっ、あっ、あうっ」
 完全に不意を打たれた小夜歌は、遼の抽送に合わせて、あっけなく声を漏らしてしまう。
 ただ、いきなりとはいえ、小夜歌のその部分は彼女と由奈の愛液にしとどに濡れていたため、遼が繰り出すペニスの動きはスムーズだ。
 むしろ、準備できていなかったのは、小夜歌の心の方である。
「そ、そんな……どう、してェ……ンあうッ!」
 鋭い快感に、両手で体重を支えきれなくなり、由奈に体重を預けるようになりながら、小夜歌が言う。
「お前の言うとおりにするのも癪だからな」
 ぐいぐいと容赦なく妹の膣肉をペニスでえぐりながら、遼が言う。
「それに、すごく物欲しげな顔だったぜ。小夜歌」
「あうううううッ!」
 感じるポイントを心得た遼の動きに、小夜歌は声をあげ、思わず由奈の体にしがみついてしまう。
 由奈は、どこかぼんやりとした顔で、眉を八の字にたわめながら切なげに喘いでいる小夜歌の顔を見つめていた。
 が、すぐににっこりと笑って、小夜歌の背中をその両手で撫で上げ、ちゅっ、ちゅっ、とうなじにキスをする。
「あうう〜ン」
 遼の激しい抽送と、由奈の優しい愛撫に、小夜歌はとろけるような声をあげた。
 小夜歌のしなやかな体が、ぴくぴくと小さく痙攣する。
 と、遼は、小夜歌のそこからペニスを引きぬいた。
「ひあああああッ!」
 絶頂直前の寸止めに、今度は小夜歌が悲鳴をあげた。
 構わず、遼は、すぐ下の由奈の幼げな膣口にその怒張を挿入する。
「ンああああーっ!」
 待ち望んでいた遼のペニスの感触に、由奈が悦びの声をあげ、その体をうねらせた。
 じゅっぷ、じゅっぷ、じゅっぷ、じゅっぷ、という淫猥に湿った音が、地下室に響く。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……んちゅっ」
 小夜歌は、由奈の快感を分けてもらおうとするかのように、その体をこすり付けながら、情熱的に口付けをする。
「んんんんン〜ン♪」
 唾液ごと舌を吸われながら、由奈は、くぐもった声をあげた。
 そして、ぴちゃぴちゃと音をたてながら口腔をまさぐる小夜歌の舌に舌をからめて応える。
 まるで、全身を淫らな生き物に呑み込まれ、口内で嬲られているような錯覚……。
 その間も、遼のペニスは、由奈のその部分をを蹂躙した。めくれあがったサーモンピンクの靡肉が陰茎にからまり、小さく泡立ちながら溢れる粘液がシーツを汚す。
「ぷはっ……由奈さん、すっごくかわいい……」
 普段の彼女からは考えられないような上ずった声でそう言い、小夜歌は、由奈の顔をぺろぺろと舐めまわす。
「ひゃううっ! ンあ、あう、んく、んくうううううッ!」
 遼のペニスを柔らかく締めつける由奈の膣肉が、きゅんきゅんと蠢動し、さらに奥まで引き込もうとする。
 それに逆らうように、遼は、由奈の体内からペニスを抜き、ほとんど間を置かずに小夜歌を貫いた。
「いやあア〜ん!」
「ンあああアッ!」
 由奈の恨むような声と、小夜歌の歓喜の声が、重なる。
 弓なりに体を反らせる小夜歌の体を、由奈は、もどかしさに身悶えしながら抱き締めた。
 そして、小夜歌の白く形のいい乳房に顔を埋めるようにしながら、勃起した右の乳首を吸い上げる。
「きゃううううううううッ!」
 鋭い性感に貫かれ、小夜歌が悲鳴のような声をあげた。
 その小夜歌を逃すまいとするかのように、由奈の脚が、細い腰にからみつく。
「あんんんンンン……っ! お、おねがい、おにいちゃん、そのまま、そのままァ……ッ!」
 どうにか絶頂にたどり着こうと、遼のペニスをきつく締めつけながら、小夜歌が訴えた。
 が、遼は、口元に笑みをためたまま、ペニスを抜いてしまう。
「ひ、ひどいよォ……」
 小夜歌が本気で泣きそうな声をあげるのにもかかわらず、再び由奈を貫く。
「ンわああああああッ!」
 遼のペニスに押し出されるように、由奈の膣口から、ごぷっ、と大量の蜜が溢れ出た。
 まるで幼女のそれのようなあどけない外見ながら、由奈のそこはしっかりと遼の剛直に馴染んでいる。
 蕩けるような快感をペニス全体で感じながら、遼は激しく腰を繰り出した。
 そして、目の前にある小夜歌の白い背中に繊細な指を這わせ、ぴくン、ぴくンと痙攣させて愉しむ。
「あうッ……ごしゅじんさま、ゆうな、もう……」
 すでに何度かイキかけて敏感になってる由奈の体は、あっけなく絶頂へと追い込まれてしまう。
 しかし遼は、またしてもペニスを抜いてしまった。
 そして今度は、恨み言を言わせるひまも与えず、ぴったりと重なった二人の秘所の間にペニスを差し込む。
「ンあううううウッ!」「ひあああああああッ!」
 すでに痛いほどに勃起し、包皮から顔を出しているクリトリスを熱いシャフトでこすられ、二人は目の前で火花が散るような快感に貫かれる。
 そして、小夜歌と由奈は、より遼のペニスを感じるために、互いの腰をいっそう強く押しつけあった。
 愛液にまみれた二人の少女の淫靡な粘膜が、遼のペニスを圧迫し、絡みつく。
 遼は、鉄製のベッドがぎしぎしときしむほどに、激しく腰を前後させた。
「あン! あン! あン! あン! あン! あン! あン!」
「んくッ! ン! んん! ンあ! あぐ! ンああああッ!」
 由奈と小夜歌は、高い声をあげながら、互いに互いの体を抱き締めた。
 そして、耐えきれなくなったようにキスをし、互いに唾液を交換し合う。
 唇で唇を塞がれている間、ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ、という激しい呼吸音が、濡れた粘膜同士がこすれ合う湿った音に重なった。
 まるで、三人の粘膜が融けてくっついてしまったように感じられる。
「……くうッ!」
 遼が、奥歯を噛み締めながら、最後のスパートをかけた。
「きゃああン!」「ひゃぐうッ!」
 たまらず口を離し、小夜歌と由奈が動じに叫ぶ。
 重なり合った二人の少女の躯の間で、大量の熱い精液が弾け飛んだ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 もはや、どちらのものとも分からない、絶頂を告げる叫び。
 どびゅっ! どびゅううっ! どびゅうううっ! という音すら聞こえそうな激しい射精が、何度も繰り返される。
 そのたびに律動する遼のペニスの感触が、由奈と小夜歌を、次々とより高い絶頂へと舞い上げていく。
 鎖で繋がれた二人の少女の体が、一つの生き物のように痙攣した。
 そして、ほとんど同時に、ぐったりと弛緩する。

 確かにこの時、小夜歌と由奈は、同じ想いと感覚を共有していた。

(あたし、いま、ゆうなさんとおんなじ……おにいちゃんの……どれいなんだ……)

 小夜歌の夢は、その時、叶えられたのである。



「結城さん?」
 後から声をかけられ、小夜歌ははっと振りかえった。
 シャワーを浴び終わったあとの、濡れた髪の七瀬健が、そこに立っている。
 眼鏡を外したその顔は、少女のように優しげだ。
 夢は、いつかは覚める。
 叶ってしまえば、夢は現実でしかないのだ。そして現実は、時の流れの前に、不変ではいられない。
 その現実の中で、今、目の前に、健が立っている。
「どうかしたの? 結城さん」
「え、何が?」
「いや、何だか……どっか行っちゃいそうな感じで、外を見てたから」
 健が、かすかに不安そうな顔で言う。
 小夜歌は、しばし無言で、健の顔を見つめた。
 互いに互いを犯し、陵辱することでしか、関係を結べない二人。
 それでも、その関係は、今の小夜歌にとっては大事な現実だ。
「どこも行かないよ、健クン」
 小夜歌は、健がはっとするほど優しい笑みを浮かべながら、言った。
 そして、優美な足取りで、健の目の前まで歩いていく。
「あたしは、ずっとここにいるよ……」
 小夜歌の言葉に、健は、声もなくただ肯いた。
 そして、互いの体に、腕を回す。
 静かに雪の降る夜、小夜歌は、遠い夢を吹っ切るように、健の華奢な体をしっかりと抱き締めるのだった。



あとがき

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