3−3
暗闇の中で、小夜歌は目を覚ました。
汗で不快にまとわりつく衣服に、石灰の匂い――
目を開いてるはずなのに、何も見えない。何かの布で目隠しをされているのだ。
体は、硬く砂っぽい場所に横たえられている。どうやら、体育倉庫か何かの中らしい。
両手は頭の上に持ち上げられ、手首のところが、縄跳びの縄のようなもので戒められている。
「目が覚めたか……」
国村の声が、近くから聞こえる。
「――放しなさいよ」
小夜歌は、静かな口調で言った。うろたえたりわめいたりするのは、彼女の矜持が許さない。
「可愛くねえ女だなあ、お前」
憎々しげに、国村が言う。
いきなり、ぎゅっ、と服の上から、乱暴に乳房を掴まれ、小夜歌は危うく悲鳴を飲み込んだ。
「まずは泣かして、そのあとで、よがり狂わせてやるからな」
「く……」
胸を無遠慮にまさぐられ、小夜歌は唇を噛んだ。
視覚を封じられ、相手の動きが分からないという不安感が、かえって小夜歌の神経を過敏にさせる。
「馬鹿な真似はやめなさいよ……あたしは、泣き寝入りなんかしないわよ」
「それはどうかな」
国村は、勝気な態度の小夜歌を嘲笑した。
「コトが終わったときには、自分から腰を振って俺を誘うようになるさ」
「あなた、自信過剰じゃない?」
小夜歌は、ぱあン、といきなり頬をはたかれた。
「そういう薬があンだよ!」
国村の声が、すぐ近くから聞こえる。その生温かい息が、首筋に感じられるほどだ。小夜歌は、おぞましさに体を震わせた。
「けど、最初は薬ヌキだ。血が出るくらいにヤってやるぜ」
興奮に声を上ずらせながら、国村が言う。
そして、国村は小夜歌のスカートに手をかけた。
もし、スタンガンの後遺症がなかったら、闇雲にでも蹴り飛ばしているところだったが、それすらもできない。脚が、鉛のように重く感じられる。
「……?」
スカートをめくり上げ、国村は少し驚いた様子だった。
(お兄ちゃん……っ!)
小夜歌は、心の中で悲痛な声をあげながら、目隠しの中で屈辱に涙をにじませた。
「お前、こいつは……」
と、その時、ごッ、という鈍い音が、下卑た笑みを含んだ国村の声を中断させた。
「……〜ッッッ!」
声にならない声が、よどんだ空気を震わせる。
がッ! がッ! というぞっとするような音が、それに続いた。
ぴしゃしゃっ、と熱く粘ついた液が、小夜歌の顔にかかる。それは、ひどく生臭かった。
(……血?)
そう小夜歌が思ったとき、彼女のすぐ傍らで、人が倒れた気配がした。
目隠しに、誰かの指がかかる。
その指は、ひどく丁寧に、小夜歌の視界を覆っていた布を外した。
「あ……」
にじんでいた像に、次第に焦点が合っていく。
大きなレンズのメガネをかけた、華奢な、少女じみた顔。その顔は真っ青で、点々と返り血がついている。
「大丈夫? 結城さん」
そう、震える声で呼びかけてきたのは、健だった。
小夜歌が肯くと、健は、手首を縛っている縄を解き始める。
小夜歌の傍らでは、国村が、うつ伏せに倒れていた。暗くてよく分からないが、その後頭部が奇妙な感じで濡れ、コンクリートの床には、じわじわと黒っぽい染みが広がっている。すぐ近くには、やはり黒っぽく先端が濡れた重そうな鉄パイプが転がっていた。
「立てる?」
そう言いながら、健は小夜歌に手を貸した。
「あ、ありがと……」
ちょっとよろけながらも、小夜歌はどうにか自分の足で立ちあがった。
「……七瀬が、やったの?」
健のことを名字で呼んで、小夜歌が訊く。
「うん」
「思い切ったことするわね」
小夜歌が、意外そうな顔で、健のまだ強張ったままの顔を見つめた。
健は、倒れたままの国村に、まるで汚物を見るような視線を向けている。かすかに背中が上下しているところを見ると、国村は気絶しているだけらしい
「……行こう、か」
国村から視線を外し、健が小夜歌に言った。
「そうね……」
「――おいおい、指紋くらいは拭いてくれよ」
と、その時、体育倉庫の入口辺りで、声がした。
強烈な太陽の光が逆光になっているため、その顔はよく分からなかったが、小夜歌には聞き覚えのある声だ。
「乾さん……でしたっけ?」
「ああ。どうやら間に合ったようだな。何よりだ」
倉庫の中の暗がりでもサングラスを外さずに、乾は言う。
その視線の先で、健がしゃがみこんで、丁寧に鉄パイプの指紋をぬぐった。錆と血で、ハンカチが赤茶色に汚れていく。
「……いつの間に、知り合いになったんです?」
「ついさっきさ。お前さんを探してるようなんで、一緒になって探してやっただけだよ。倉庫の鍵も開けてやったがな」
「で、一番危なくて汚い仕事は、七瀬にやらせたわけですか」
小夜歌は、その切れ長の目をうろんげに細める。しかし、乾は平気な顔だ。
「ナイト役を取っちまうのは可哀想だろ」
「……」
眉をひそめて沈黙する小夜歌に、作業を終えた健が再び並んだ。
それを待っていたかのように、小夜歌が、乾の横をすりぬける。健は、その後を追いながら、乾にぺこりと頭を下げた。
そして、ちょっと小走りになって、校門近くで小夜歌に追いつく。
まだスタンガンの影響が残っているのか、小夜歌の歩みはどこか頼りなかった。
「……何か訊きたそうね。七瀬」
健に視線だけよこして、小夜歌が言った。
「うん……。あの人、どういう人?」
ちら、と後ろを振り向きながら、健が訊く。
「お兄ちゃんの仕事仲間……。だから、ロクな人じゃないわよ」
自分を救ったはずの人間に対する痛烈な一言に、健は、その目をちょっと見開いた。
健は、まだ少し辛そうな小夜歌を、彼女のマンションにまで送っていった。
小夜歌の額はじっとりと汗に濡れ、頬は熱でもあるような感じで赤い。
そんな小夜歌をかばうようにしながら、鍵を借りて部屋のドアを開ける。
小夜歌が玄関口で留守番電話をチェックすると、少年とも少女ともつかない声が、今日は帰らない旨を伝えていた。
「村藤先生のトコか……円ってば、ここんとこ毎日ね」
「誰?」
「弟のこと。……あたし、シャワー浴びる」
「うん。それじゃあ……」
「帰らないで!」
そう言われて、健はきょとんとした表情で立ち止まった。
「えっと……お茶でも淹れるから……待っててよ……」
自分自身の言葉に驚いたような表情で、小夜歌がそう言う。
「うん」
素直に肯いて、健は丁寧に靴を脱いだ。
案内された小夜歌の部屋のクッションに座っていると、遠くから、かすかにシャワーの音が聞こえた。
どきどきと心臓が高鳴るのを感じながら、健は思わずうつむいてしまう。
「……」
手に、まだあの感触が残っている。
鉄パイプで人の頭を叩いた、意外なほど硬い感触だ。
後悔はない。そして、自分自身で呆れるほど、冷静だった。
どのような結果が生じようと、それを受け止める。そんな覚悟が、健の胸にあった。
「健クン」
ドアの開く気配と同時に名前で呼ばれて、健ははっと顔を上げた。
そして、慌てて顔を伏せる。小夜歌は、まだしっとりと濡れた素肌に、バスタオルを巻いただけの姿だったのだ。
「立って……こっち見て、健クン」
小夜歌に命令されるのは慣れている。が、健は何か違和感のようなものを感じていた。
小夜歌の、いつも凛と澄んだ声が、まるで不安におののく子供のそれのように、震えている。
立ちあがった健が顔を上げたとき、その胸に、ほとんど半裸の小夜歌がしがみついた。
「ちょ……」
「抱いて、健クン……」
小夜歌が、ひどく切迫した声で言う。
「結城さん……?」
「お願い……小夜歌を犯して……めちゃめちゃにして……」
健の白いワイシャツに顔を擦り付けるようにしながら、小夜歌が言う。
そして小夜歌は、体を健に押しつけたまま、その左手を右手で自分の股間に導いた。
「あ……」
小夜歌のそこは、驚くほどに熱く潤んでいた。
これまで感じたことのない、柔らかく淫靡な感触に、かあっ、と健の頭に血が昇る。
「あたしね……初めての人が、お兄ちゃんで……レイプだったの……」
頭をくらくらさせている健に追い討ちをかけるように、小夜歌はひどく頼りない声でそう告白した。
健は、小夜歌の言葉の内容を、整理しきれない様子である。しかし、小夜歌は構わず続けた。
「それ以来……ダメなの……無理やりされそうになると……あたし……」
小夜歌が、顔を上げる。そうすると、あまり身長差が無いために、二人の顔はすぐ近くにあった。
健が今までに見たことのある小夜歌と、全く印象の異なる少女が、そこにいた。
その切れ長の目は涙を溜め、半開きになった唇は、かすかに震えているようだ。
身の内に湧き起こる欲情のためか、目元がぽおっと染まっている。
「僕は……」
頭を混乱させながら、健は、ようやく言った。
「僕は、そのお兄さんの、代わりなの?」
小夜歌は、答えない。ただ、すがるような目で、健の顔を見つめるだけだ。
その沈黙が、何よりも雄弁に、真実を告げている。
健は、これまで感じたことの無い激しい嫉妬に突き動かされて、小夜歌をベッドに押し倒した。
「きゃっ」
前触れの無い乱暴な仕打ちに、小夜歌が短く悲鳴をあげる。
そんな小夜歌の細い体を抱き締めながら、健はその唇を強引に奪った。
「ん、んぐ……んんン……ッ」
舌で口腔を蹂躙しながら、左手で肩を抱き、右手を脚と脚の間に差し入れる。
小夜歌のクレヴァスは熱く濡れながらめくれあがり、健の指に絡みつくようだった。
「ぷは……っ」
息が苦しくなるまでキスを続けた後、健はようやく唇を離した。
そんな健の、どこか悲痛な表情を、小夜歌がぽーっとした顔で見上げている。普段の彼女からは考えられない、呆けたような様子である。
健は、不可解な衝動の命じるまま、ぐい、と小夜歌のその部分に指を挿入させた。
「きゃうッ!」
小夜歌の細い体が弓なりに反りかえり、辛うじてまとわりついていたバスタオルがはだける。
その形のいい乳房の頂点で、痛いほどに尖っている乳首を、健は口に含んだ。
ぐちゅぐちゅと音が出るほどに小夜歌の秘部を乱暴にまさぐりながら、左右の乳首を交互に吸い上げ、軽く歯を立てる。
「ン、ンうッ! くッ! んんんんンッ!」
小夜歌は、短い悲鳴のような喘ぎを漏らしながら、健の腕の中で身をよじった。
その秘めやかな部分からは止めどもなく熱い愛液が溢れ、健の右手を手首まで濡らす。
健は、小夜歌の右の乳首を、ちゅうううッ、ときつく吸い上げた。
「ひああアアアーッ!」
切なそうに眉を八の字に寄せながら、小夜歌が高い声をあげた。
健は、ちゅぽん、と音をさせて口を離し、赤く染まった乳首を、ぺろぺろと舐め回す。
「あっ、ああっ、あっ、ああ〜ン」
敏感になった部分への執拗な責めに、小夜歌は甘い喘ぎをあげる。
健は、胸の膨らみから顔を離して、そんな小夜歌の蕩けるような顔を覗きこんだ。
小夜歌の切れ長な目と、健のカールした睫毛に縁どられた目が、合う。
「健クン……おねがい……」
そう、おねだりをしながら、全裸の小夜歌が、健の学生ズボンの股間に両手を伸ばす。
健のズボンのその部分は、すでに熱い血液を充填させた強張りで、はちきれそうになっていた。
「あぁ……ス、スゴい……」
布地の上からでも分かるそのペニスの大きさに、小夜歌はかすかに怯えたような声で囁く。
健は、ちゅっ、ちゅっ、と小夜歌の首筋や胸元にキスを繰り返しながら、脱ぎにくそうに片手でズボンを脱いだ。
そして、トランクスを脱ぎ捨て、その巨根を露わにする。
それは、健の優しげな顔には似合わない勢いで、逞しく反り返っていた。
「お、おっきい……」
何度も見ているはずなのに、小夜歌は思わず口に出してしまった。
この剛直に貫かれることを想像したのか、小夜歌のそこが、じゅわり、とさらに愛液を分泌する。
両手を添えてもまだまだ先端が余る感じの巨根を、小夜歌は自らの秘裂に導いた。
「あ……ッ」
互いの靡粘膜の感触に、小夜歌と健が、同時に声を上げる。
「おねがい……コレで、小夜歌のここ、むちゃくちゃに犯して……」
あからさまなおねだりを耳にして、ますます頭と股間に血を昇らせながら、健はぎこちなく腰を前に進めた。
「ああああアァ……ッ!」
たっぷりと濡れているはずの膣内へのきつい挿入に、小夜歌は悲鳴のような声をあげる。
これまで想像もしなかった熱く甘美な感触にペニスを締め上げられ、健はぞくぞくとその華奢な体を震わせた。
「あひっ……ま、まだ、まだ入ってくるゥ……っ」
体の内側から強引に押し広げられるような感覚に、小夜歌は我知らずぽろぽろと珠のような涙をこぼしていた。
「結城、さん……」
そんな小夜歌の顔を茫然と見つめながら、健がつぶやく。
「あア……して……うんと、うんと乱暴にうごいてェ……」
罪悪感に苛まされながらも、小夜歌に抽送をねだられ、健は本能の命じるままに腰を使い出す。
「ああああアーッ!」
発達した雁首に膣内をずりずりとえぐられ、小夜歌の声が悲痛さを増した。
「あうッ! ンあああッ! ス、スゴい、スゴいいィッ!」
それでも、その苦痛を快感と感じているのか、小夜歌は健の体に両腕でしがみついた。
「もっと、もっとォ……もっと、小夜歌を犯してエ……!」
「あッ? ああッ! んあああッ!」
小夜歌のその部分に強烈に締めつけられ、健はまるで少女のような声を上げてしまった。
それでも、健は腰を叩きつけるような勢いで、激しくピストン運動を繰り返す。
ずん、ずん、ずん、ずん、と子宮口を硬いペニスで小突かれる重苦しい快感に、小夜歌はふるふるとかぶりを振った。
「ス、スゴい……ンああ……あう……さ、小夜歌、こわれちゃう……ひううッ……!」
「結城さん、結城さんッ……!」
濡れた髪を振り乱すようにして喘ぐ小夜歌に、健は繰り返し呼びかける。
二人の粘膜は摩擦によって熱を帯び、互いに粘液を分泌しながら、ひりつくような快楽を紡ぎ出した。
もはや健も、苦痛と快楽がごっちゃになり、区別がつかない状態だ。
ただ、何か強烈な衝動に突き動かされるまま、ことさら乱暴に腰の動きを速めていく。
「もう、ダメえ……ッ!」
膣内を並外れて大きなペニスで繰り返し突き上げられ、小夜歌はとうとうそう叫んだ。
「ダメ……ダメなの……さやか、もう、イク……イっちゃう……ッ!」
「ああ……結城さん……ッ」
小夜歌は、健の首にしがみついたまま、ふるふると首を振った。
「お、おねがい……さやかって、さやかって呼んで……」
そして、長い髪に隠れた健の耳に、切羽詰った声でそう囁く。
「さ……小夜歌さん……ッ!」
そう、叫ぶように言って、健は一際深くその巨根を突き入れた。
「ひあああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアーッ!」
体の一番深いところを突かれ、小夜歌が体を大きく反らして絶叫する。
その高い声を聞きながら、健も、その股間で熱く渦巻く欲望を解放した。
そのペニスの大きさに相応しい大量の精液が、小夜歌の膣内に注ぎ込まれる。
「あッ! あッ! あッ! ああアーッ!」
その熱い体液に、体の奥底まで陵辱されているように感じて、小夜歌は歓喜の声をあげていた。
そして、健の細い体を抱き締めながら、ぴくン、ぴくンと体を震わせる。
その可愛らしい痙攣を腕の中に感じながら、健は、何度も何度も小夜歌の体内に精を放ち続けた。
(結城さん……小夜歌さん……か……)
甘美なけだるさの中で、健は、ぼんやりと思っていた。
(そうだよね……お兄さんは、妹のこと、名字でなんて呼ばないもんね……)
(僕は……僕は……やっぱり……)
(でも……)
(それでも……僕は……君が……)
はっ、と健は我に返った。
いつのまにか、ベッドに仰向けになって横たわっている。
「あ……」
脚の間に気配を感じて、健は上体を起こした。
「ふふふっ、お目覚めね」
まるで獲物を狙うネコのような姿勢で、健の白い脚の間にうずくまった小夜歌が、悪戯っぽい表情で言う。その顔には、先ほどまで健に組み敷かれ、その巨根に蹂躙されていた気配は全く残っていない。
「ココは、とっくに起きてたけど」
そう言って、小夜歌がその白く優美な指を添えた健のペニスは、すでに力を取り戻していた。
「あの……ゆ、結城、さん……」
そう言いかける健に、妖しい笑みで答えながら、小夜歌は天を向くペニスに顔を寄せた。
「あッ……」
亀頭の裏側の敏感な部分に口付けされ、健はぞくりと体を震わせた。
「特別に、ご褒美あげるね……健クン」
そう言って、小夜歌はぱっくりと健のペニスの亀頭部分を口内に収めた。
「ンあああッ!」
肘で上体を支えきれなくなって、再び健は仰向けになってしまった。
生温かく柔らかい感触に包まれた亀頭を、かすかにざらつく舌が舐めまわす。
さらに、舌先で鈴口をえぐられ、亀頭全体を吸引されて、健は切なげに身をよじった。
「ふふっ……健クンの、おっきくて、全然お口に入りきらないよ」
そんなことを言いながら、小夜歌は、ペニスの先端を責めるのを中断し、浅ましく静脈を浮かせたシャフトに口付けを繰り返した。
「あううッ!」
裏筋を舐め上げられ、健は少女のような声を上げてしまう。
「健クン……可愛い♪」
頬を染めながら喘ぐ健にそういいながら、小夜歌はぬるぬるになった亀頭の表面を右手で撫でさすった。
そして、少し首をかしげるようにして、竿の部分を横に咥え、ハーモニカでも吹くように舐めまわす。
「あァ……そ、そんなに、されたら……」
呆気なく主導権を奪われ、健は、両手でシーツを掴みながら、いやいやをするように無意識に首を振ってしまう。
小夜歌は、健のその部分からちょっと顔を離し、自らの唾液と先走りの汁で濡れたシャフトを、すりすりとやさしくしごき始めた。
「あうううう……ッ」
もどかしいくらいに繊細な刺激に、健の細い腰がびくびくと動いてしまう。
「すごぉい……健クンの先っぽから、お汁がどんどん出てくるよ」
自らのはしたない反応をあけすけに指摘され、健は羞恥に顔を耳たぶまで染めた。
小夜歌は、竿への攻撃を休めることなく、ちろちろと亀頭の先端を舐めしゃぶる。まるで、甘いものの好きな少女がアイスクリームを舐めるような表情だ。
自分のペニスが小夜歌の可憐な口を汚している、という罪悪感が、そのまま官能の電流となって、健の体を震わせる。
小夜歌は、健の尿道口に唇を付け、まるで射精をねだるかのようにちゅうちゅうと吸引した。
「ひゃううううッ!」
絶頂の予感に、健の逞しいペニスがひくひくとしゃくりあげる。
しかし小夜歌は、右手でシャフトをしごきながら、左手でぎゅっと輸精管を圧迫した。
「あアアーッ!」
射精を強引に中断させられ、健が悲痛な声をあげる。
「ダメよ、健クン……まだまだ楽しませて……」
きらきらと欲情に目を輝かせながら、小夜歌が言う。
健は、こみあげる射精感すら一瞬忘れて、その小夜歌の顔に見入ってしまった。
とても自分と同い年とは思えないような、妖艶な瞳……。
顔立ちが、年相応のあどけなさを残している分、その切れ長な目が湛えている光は、危険なほどに美しく感じられた。
そんな健の想いを知ってか知らずか、小夜歌は、健の顔を見つめたまま、淫らな口唇愛撫を本格的に再開させる。
「コレで、小夜歌のこと、犯したんだね……」
そう言いながら、小夜歌は、亀頭部分を口に咥え、くるくると舌を回して大胆に刺激した。
そして、左手の親指と人差し指で輪を作って、ペニスの根元を締め付けながら、右手でシャフトをしごきあげる。
さらには、ペニス全体をじゅぶじゅぶと音を立てながらしゃぶりあげ、右手で陰嚢や内股を撫でさするのだ。
「ああッ! ゆ、結城さん! 結城さんッ!」
まるで釣り上げられた魚のように、華奢な体をびくびくと痙攣させ、健は高い声をあげた。
「お願い……許して……イ、イかせてエッ!」
「ダーメ♪」
健の悲痛な言葉に残酷にそう告げて、小夜歌は、健のペニスにぴったりと頬を寄せた。
「あはっ……おっきくて、熱くって、ぴくんぴくんしてる……」
小夜歌は、半ば目を閉じ、うっとりとした口調で言った。
「コレ……小夜歌のものだからね……」
そして、どこか熱に浮かされたような口ぶりで、そんなことを言う。
「ゆ、ゆうきさぁん……く、くるしい……ゆるしてよぉ……」
健の声は、もはや涙声だ。
そんな健の情け無い声に、ますます頬を上気させながら、小夜歌は右手でシャフトを握り締め、本格的にしごき始めた。
「あ、ああ、あ、ンあああああアアアーッ!」
ぴゅるっ、ぴゅるっ、とカウパー氏腺液を漏らしながら、射精を求めて健の体がのたうつ。
小夜歌は、その汚穢な粘液を舐め取るように、鈴口や雁首を硬く尖らせた舌でえぐった。
「ンッ! んぎッ! くッ! んわアッ!」
健は、断続的に短い悲鳴をあげたあと、呼吸困難に陥ったのか、ぱくぱくと口を開閉させた。
その、少女のような目からは大粒の涙がこぼれ、大きな瞳は焦点を結んでいない。
「君は……もう、あたしのもの……」
小夜歌の宣言に、健は狂ったように何度も何度も肯いた。
「あたしの好きなときにオモチャになって……あたしの言う通りに、あたしのことを犯すのよ……」
「……は……はい……ッ……!」
健は、肺の中を空っぽにしながら、どうにかそれだけを言った。
「いいコね……」
小夜歌は、恍惚とした表情で、健の亀頭を咥え込んだ。
そして、ようやく左手による戒めを外す。
「……ッ!」
視界が真っ赤になるような激痛を感じながら、健は凄まじい勢いで射精した。
激痛は、すぐにその痛みを上回る快感となり、健の視界を純白に染める。
呆れるほど強烈に喉奥を精液で叩かれながら、小夜歌はうっとりと目を閉じていた。
そして、口内に溢れる青臭い粘液を美味しそうに飲み干しながら、相手を絶頂に導いたときに訪れる、強烈な官能の波に身を任せる。
陵辱されたときのそれとはまた別の、征服感に満ちた絶頂を、小夜歌は、感じていた。
健が再び目を覚ますと、傍らで小夜歌が眠っていた。
普段の冷たい感じの顔とも、自分を責めるときの妖艶な顔とも、頼りなく挿入をおねだりするときの顔とも違う、安心しきったような寝顔。
そんな、無垢な表情の小夜歌と、同じシーツにくるまっていることに気付いて、健はちょっと考え込んだ。
(僕じゃない……ってことは、結城さんの方から、潜りこんできたのかな?)
そう思うと、小夜歌への愛しさに、胸が痛いくらいに切なくなる。
健は、まるで壊れ物を扱うように、そっと小夜歌の肩を抱き、その顔に唇を寄せた。
そして、少しためらった後に、ちゅっ、と額にキスをする。
「……えっち」
そう言われて、顔を真っ赤にして体を離すと、薄目を開けた小夜歌がくすくすと笑っていた。
「ご、ごめん、結城さん……あの……」
ひどくうろたえながら、健が生真面目に謝る。
「健クンてば……」
寝言のような口調でそう言った後、小夜歌は、再び瞳を閉じて眠り込んでしまった。
「……」
健は、何となく毒気を抜かれたような感じで、短く嘆息した後、小夜歌の頭の下に、きちんと枕を入れてやった。少女らしいデザインの、大きなふわふわの枕だ。
そして、同じ枕に頭を預け、目を閉じる。
――健は、眠りに落ちる直前に、額に小夜歌の唇を感じたような気がした