血族

−第三章−



 飄次郎は、詩織の体を、柔らかなバスタオルで丁寧にぬぐった。
 詩織は、顔を真っ赤にさせながら、おとなしく飄次郎にされるがままになっている。
 湯気でしっとりと濡れた髪が、詩織の雰囲気を少し変えていた。
 笑顔の似合う明るい顔が、まるで、朝露に濡れた野の花のように、どこか憂いを含んで見える。
 詩織の体を拭き終わってから、飄次郎は、どうにもたまらなくなって、彼女の唇に優しく口付けた。
 そして、詩織の小さな体を、ひょい、と抱きかかえる。
「きゃ……」
 さすがに詩織は、小さく叫び声をあげてしまった。二人とも全裸のままなのだ。
 だが、飄次郎は、平気な顔で、詩織を抱きかかえたまま、廊下を歩く。
 肩と膝を両腕で支えた、“お姫様だっこ”などと呼ばれている格好だ。
 そのような格好だと、詩織の体の小ささが、余計に際立って見える。
 飄次郎は、詩織を抱えたまま、器用にドアを開けて、彼女の部屋に入った。
 大小さまざまな種類のぬいぐるみが、とぼけたような顔で、部屋のあちこちに並んでいる。
 詩織が、恥ずかしそうに、飄次郎の胸に顔をうずめた。
「ぬいぐるみに見られるのが恥ずかしいのか?」
 やや苦笑しながら、飄次郎が訊く。
「す、すこし……」
 小さな声でそう答える詩織の小さな体を、飄次郎は、ベッドに横たえた。
 夕方。すでに日は暮れかかっている。西に面した詩織の部屋で、夕日に照らされたその体は、オレンジ色に輝いているようにも見えた。
 飄次郎が、詩織の肩の両脇に、両手をつく。
 上から覗き込む飄次郎の一重の目と、下から見上げる詩織の長いまつげに縁取られた目が、互いを見つめ合った。
 飄次郎の眉が、かすかに寄せられている。
「飄次郎さん……迷ってます?」
 と、詩織が、そんなことを訊いた。
 飄次郎が、その顔に驚いたような表情を浮かべる。
「ああ……少しだけ、な」
 正直に、飄次郎は言った。
 血族の掟が、見えない鎖となって、飄次郎の心を縛っている。その掟に従うことで、彼はこれまで彼でいられたのだ。
 しかし――
「……飄次郎さんの、好きなようにしてください」
 そう言って、詩織は目を閉じた。
「あたし、何されても……何もしてもらえなくても……それで、いいですから……」
「……詩織は、どうしてほしいんだ?」
 飄次郎が、詩織の耳元に口を寄せて、訊いた。
「えと……い、いっぱい、さわってほしいです……」
 消え入りそうな声で、詩織が、恥ずかしそうにそんなことを言う。
「……分かった」
 そう言って、飄次郎は、詩織に寄り添うようにベッドに横たわった。詩織の右側だ。
 すぐそばにある男の体の気配に、詩織が緊張しているのが分かる。
 飄次郎は、横になっていても形を崩さない詩織の胸の膨らみに、そっと右手を重ねた。
 すでに一度触れたことのあるその部分の、瑞々しい弾力が、手の平に広がる。
 そのまろやかな柔らかさを思いきりも揉みしだきたい衝動に耐えながら、飄次郎は、ゆっくりと右手を動かした。
 円を描くようにしながら、壊れ物を扱うように優しく、詩織の白い乳房をまさぐる。
「ンっ……」
 詩織が、かすかに眉根を寄せ、小さく喘いだ。
 緊張のせいか、あまり快感を感じている様子ではない。
 飄次郎は、はやる気持ちを抑えながら、詩織の左の乳房を、ゆるゆると揉んだ。
 そして、右の乳房に、顔を寄せ、胸の膨らみの頂点にある小粒の乳首を、口に含む。
 飄次郎は、口の中で詩織の乳首を舌でまさぐり、舐め回した。
「ん……んふ……ふ……ぅン……」
 次第に、詩織の声の様子が変わってきた。
 控え目な喘ぎに、どこか、甘えるような響きが混じっている。
 飄次郎の右手と、そして口の中で、左右の乳首が、それぞれぷくん、と立っていくのが感じられる。
 小生意気に勃起した乳首を、飄次郎は交互に口に含み、丁寧に舐めしゃぶった。
 飄次郎の唾液に濡れ、ピンク色の乳首が、ますます固くしこっていく。
「はぁ……あ……あン……ン……ンふっ……ふあン……」
 ぴくん、ぴくん、とその小さな体が反応するのが、可愛らしい。
 飄次郎は、いつしか夢中になりながら、詩織の乳首を吸い、ちゅるん、ちゅるん、と唇でしごくように刺激していた。
 詩織は、シーツをぎゅっとつかみ、まるでさらなる愛撫をねだるように、体を弓なりにそらしている。
 ひとしきり、詩織の胸を責め終わった後、飄次郎が顔を上げた。
 左手で詩織の肩を抱き、右手で乳房をゆるゆると揉みながら、再び彼女の耳元に顔を寄せる。
「感じるか?」
 そう訊かれて、詩織は、かーっと顔を赤く染めた。
「か……感じ、ます……」
 それでも、小さな声で、そう答える。
「嫌じゃないか?」
「イ、イヤじゃありません……だって……飄次郎さんが、触ってくれてるから……」
 そういいながら、詩織が、うっすらと目を開く。
 濡れたようになった黒い瞳が、至近距離にある飄次郎の顔を見つめる。
「じゃあ、次はこっちだ」
 そう言いながら、飄次郎は、詩織の股間に右手を伸ばした。
「あ……っ」
 そう声をあげながらも、詩織は、飄次郎の手の動きを目で追ってしまった。
 飄次郎の手が、詩織の茂みに触れる。
 控え目に恥丘を飾る黒いヘアは柔らかで、そしてスリットの周辺はまったくの無毛だった。
 胸を愛撫されたためか、その部分は熱く火照り、意外なほどに愛液で濡れている。
 飄次郎は、その淫らな液を指に絡めるように、詩織のその部分をまさぐった。
 童女のように縦線一本だったスリットが、まるである種の花のように次第にほころんでいく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 詩織は、熱い吐息を漏らしながら、まるで何かに憑かれたように、飄次郎に愛撫される自分の大事な部分を凝視していた。
「どんどん濡れてくるぞ」
 飄次郎が、いささか意地悪な口調で、そんなことを言う。
「だ、だってェ……」
「気持ちいいのか?」
「は……はい……気持ち、いいんです……」
 素直にそう答え、詩織は、耳まで赤くしながらうつむく。
 飄次郎は、詩織に気付かれないように、ほっと安堵の息をついた。
 心に傷を抱えながら、自分の愛撫で感じている詩織が、たまらなく愛しい。
 自分が癒せるものなら、癒してやりたいと、そう思った。
「きゃん」
 詩織が、首をすくめるようにして、声をあげた。飄次郎が、詩織のうなじを舐め上げたのだ。
「あ、ああっ……ンあ……はン……」
 飄次郎は、詩織の秘所を愛撫しながら、首筋から鎖骨のくぼみ、乳房の脇へと、舌を這わせていく。
 詩織は、ベッドの上で身をくねらせながら、ふうン、ふうン、と主人に媚びる子犬のような鼻声をあげていた。
 飄次郎の頭部が、詩織の股間に到達した。
「あ……っ!」
 その時になって、ようやく飄次郎の意図に気付いたのか、詩織が慌てたような声をあげる。
「ダ、ダメです、そこは……ひゃん!」
 詩織の言葉が、自らの悲鳴によって途切れる。
 飄次郎が、愛液に濡れた詩織のクレヴァスを、舐め上げたのだ。
 蜜をたたえた秘裂を、下から上へ、舌でえぐるようにする。
「そ、そんな……ダメえ……そこ、きたない、です……」
 詩織が、泣きそうな声をあげる。
 しかし飄次郎は、まるでミルクを舐める犬のように浅ましい音を立てながら、詩織のそこを長い舌で嬲った。
 ピンク色の肉襞がひくひくと息づき、熱い愛液を分泌する。
「ダメえ……ダメえ……」
 詩織は、声をあげながら、飄次郎の頭を両手で押しのけようとした。
「気持ちよくないか?」
 少し顔を上げて、飄次郎が訊く。
「え? ……それは……そ、そのぅ……」
「本当に嫌なら、やめる」
「イ、イヤって言うか……だって、きたないですよ……」
「汚くなんかないさ」
 そう言って、飄次郎は、愛液に濡れ光るその部分に、ちゅうっ、とややキツく口付けした。
「ああン……」
 詩織が、身じろぎする。
 その両手の力がゆるんだところで、飄次郎は、クンニリングスを再開した。
 丸い、小ぶりのヒップを捧げるように持ち、ぴちゃぴちゃと音をたててクレヴァスに舌を這わせる。
 そして、襞の間を舌でなぞり、尖らせた舌先を膣口に差し入れた。
「ひッ! ああっ……う……ンああああッ!」
 強すぎる性感に背中をのけぞらせながら、詩織は、飄次郎の髪の間に指を食いこませた。
 そして、知らず知らずのうちに、飄次郎の頭を、自らの恥ずかしい部分に押しつけてしまう。
 飄次郎が、舌で、まだ包皮に包まれたままのクリトリスを刺激した。
「あっ……はああン!」
 明らかな歓喜の声を、詩織はあげてしまう。
「そ……そこはァ……あ……ンあッ! ひ……あア……ひゃうン!」
 詩織があげる媚声を聞きながら、飄次郎は、クリトリスを唇で挟むようにし、ちろちろと舌でバイブレーションを送った。
「ンはあああああん!」
 とぷとぷと溢れる熱い液が、会陰を伝い、シーツを濡らす。
 飄次郎は、舌と唇で敏感な肉芽を愛撫しながら、右手の人差し指で、膣口の周囲をまさぐった。
 すっかり熱く、柔らかくなった靡肉が、まるで指先にまとわりつくようだ。
「指、挿れるぞ……」
 飄次郎が、詩織にそう言う。
 しばらくして、詩織が、こくん、と肯いた。
 飄次郎は、ゆっくりと、右手の中指を詩織の中に侵入させていった。
「あ、ああああぁ……っ」
 まだ挿入に対しては恐怖心があるのか、詩織の声はかすかに震えている。
 飄次郎が、再び詩織のクリトリスを唇に咥えた。
 そして、ゆっくり、ゆっくり、指を膣内に入れていく。
 熱く濡れた粘膜が、痛いくらいにしっかりと、飄次郎の指を握り締めた。
「は……あぁ……ン……はぁ……っ」
 とうとう、飄次郎は、根元まで指を差し入れた。
 みっちりと中指を締め付ける膣肉の感触は、予想以上にきつい。
「痛いか?」
 そう、詩織に訊く。
「い、いたくは、ないです……」
 はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、と大きく息をつきながら、詩織が答える。
「なんだか、すごく……その……入ってる、って感じで……」
 言葉を探すような口調で、詩織が言う。
「動かすぞ」
 飄次郎がそう言うと、詩織は、また、こくん、と素直に肯いた。
 飄次郎が、指をピストンさせ始める。
「あっ、あっ、あっ、あっ……」
 その指の動きに合わせて、詩織は、断続的に声をあげた。
 形のいい眉は寄せられ、目尻には、うっすらと涙が浮かんでいる。
 飄次郎は、さきほどとは逆のルートをたどるように、腰からお腹、乳房、首筋へと、キスをしながら頭を移動させた。
 指は、動かしたままだ。
 無論、激しい動きではない。それでも、詩織にとっては、快感より異物感の方が強いようだ。
 やや辛そうな詩織の顔を、飄次郎がすぐそばから覗き込む。
「大丈夫か?」
 そう訊くと、詩織は、眉をたわめながらも、にこっと笑った。
 そして、右手を、飄次郎の股間に伸ばす。
「あ……」
 その小さな手にペニスを握られ、飄次郎は、思わず声をあげていた。
「あは……かたくなってますね……」
 きゅっ、と優しくシャフトに指を絡めながら、詩織がそんなことを言う。
「詩織……」
 強すぎも、弱すぎもしない力でペニスを握られるもどかしいような快感に、飄次郎の声は、他愛もなく上ずっていた。
「飄次郎さん……気持ちいいんですか……?」
 きゅっ、きゅっ、とペニスを握る手に力を込めながら、詩織が訊く。
「……ああ」
 飄次郎が、ひどく答えにくそうに答えた。
「んふ……飄次郎さん、やっぱり、なんだか可愛い……」
 そう言いながら、詩織は、もうすっかり勃起している飄次郎のペニスの表面に手を滑らせた。
 たちまちに先走りの汁が鈴口から溢れ、詩織の手を汚していく。
 詩織の手の動きが、だんだんとスムーズになっていった。
 しゅちゅっ、しゅちゅっ、といったような湿った音が、かすかに響く。
「う……」
 飄次郎は、思わずうめきながら、止まっていた右手を動かした。
 中の感触が、先ほどとは違って、驚くほど滑らかになっている。
 柔らかい力で指に絡みつきながらも、痛いほどのきつい締め付けはなくなっていた。
「あ、あン……なんか……きもち、いい……です……」
 うっとりとそう言いながら、詩織は、飄次郎のペニスをしごき続ける。
「飄次郎さんも、いいんですよね……きもちいいんですよね……?」
「ああ……」
 荒く息をつきながら、飄次郎が短く答える。
「うれしい……あたしたち、いっしょに、きもちよく、なってる……」
 切れ切れにそう言いながら、詩織は何かをねだるような目で飄次郎を見つめた。
 飄次郎が、詩織の顔に顔を寄せる。
 が、最後の距離を詰めたのは、詩織の方だった。
 枕から頭を浮かせるようにして、飄次郎とキスをする。
 二人の右手は、互いの性器を愛撫し続けたままだ。
「ン……んぷ……うン……ふ……う〜ン♪」
 甘い鼻声を漏らしながら、詩織が、飄次郎の唇を吸う。
 飄次郎は、そんな詩織の唇を舌でこじ開け、舌先を口内でうごめかせた。
 互いの舌が絡み合い、ぷちゅ、ぷちゅ、と唾液の泡がはじける。
 ようやく口を離すと、二人の唇の間で、唾液の糸が下向きのアーチを描いた。
「はぁあ……ン」
 幸せそうな声をあげる詩織の瞳が、うるん、と潤んでいる。
「飄次郎、さん……」
 詩織が、濡れた声で言う。
「詩織……」
「い……いれて、ください……」
「……ああ」
 詩織のはしたない申し出に肯いて、飄次郎は、詩織の脚の間に、腰を置いた。
 そして、詩織の白い脚を、さらに広げる。
 詩織は、赤い顔のまま、自分の股間と、飄次郎のペニスとを交互に見つめていた。
「あたしのアソコ……すっごいエッチ……」
 両手で口を覆いながら、詩織がそんなことを言う。
 そして、左手で口元を隠したまま、再び飄次郎のペニスに右手を伸ばした。
「積極的だな」
 飄次郎が、ペニスに詩織の指先を感じながら、言う。
「だって……な、なんだか、安心するんです」
「……変な奴」
 そう言って、飄次郎は、その一重の目を閉じた。
 そして、何かを決心したかのように、すぐに目を開き、詩織の右手に導かれるように、ゆっくりと腰を進める。
 赤黒い亀頭が、濡れそぼるクレヴァスに触れた。
 飄次郎が、左手で、詩織の右手をそっと外す。
 そのまま、両の手の平を合わせるように握り、体を前に進ませた。
「あ……」
 飄次郎のペニスが自分の中に侵入していくのを、詩織は、じっと凝視していた。
 その瞳には、不安と期待とが複雑に見え隠れしている。
 それでも、詩織は目をそらそうとしない。
 ぐうっ、と飄次郎が腰に力を込めた。
 亀頭部分が、詩織の小さな膣口をくぐる。
「あッ……」
 びくっ、と身をすくませる詩織の華奢な体に、飄次郎が覆い被さった。
「あン……ひょ、飄次郎さぁん……」
「ん?」
「これじゃ、は、入ってるとこ、見えないです……」
 そんなことを言う詩織に、飄次郎はふっと笑いかけた。
「ひどいです……笑うなんて……あたし、自分が飄次郎さんと一緒になるトコ……きちんと見たかったのに……」
「悪いな、詩織」
 そう言いながら、飄次郎は、きゅっ、と詩織の体を抱きしめた。
「あ……っ♪」
 詩織も、飄次郎の背中に、腕を回す。
「俺、もう我慢できないんだ……お前を、こうしたくて……」
 そう言いながら、詩織を抱き締める腕に、力を込める。
「あ、あ、あぁン……!」
 詩織が、精一杯の力で、飄次郎の体を抱き返す。
 飄次郎は、詩織の体を腕の中に収めながら、ずずずっ、とさらにペニスを挿入させた。
「ひあ……っ」
 膣肉を内側から押し広げられる圧倒的な感覚に、詩織が声をあげながら、その体をのけぞらせる。
 飄次郎の挿入は、まだ終わらない。
「す、すごい……です……あ、ああ、ア……ひあン……」
 逞しい雁首に、膣内粘膜をずりずりとこすられる感触に、詩織は、悲鳴のような声をあげる。
 ようやく、詩織のその部分が、飄次郎のペニスを根元まで飲みこんだ。
「はあァ……」
 詩織が、ため息に似た恍惚の声をあげる。
「詩織……キツいか……?」
 飄次郎が、詩織の耳元で囁く。
「ううん……平気、です……。す……すごく、飄次郎さんを、感じます……」
 はぁっ、はぁっ、と息をつきながら、詩織が答える。
 内部の熱い温度と、ぴったりと吸いつくような感触に、飄次郎は、そのままでいても精を漏らしてしまいそうだった。
「詩織……」
 耳朶に熱い息を吹きかけながら、飄次郎はつぶやいた。
 その声は、かすかに震えているようだ。
「好きだ、詩織……」
「え……? あ、あッ!」
 聞きかえそうとする詩織のその部分を、飄次郎のペニスが、大きくえぐった。
 そしてそのまま、ぐうっ、ぐうっ、と抽送を始める。
「ひょ、ひょうじ、ろう、さん……ッ!」
 強烈な刺激に、詩織は、思わず飄次郎の背中に爪をたてていた。
 しかし、飄次郎の動きは止まらない。
 それどころか、抽送のストロークは次第に大きくなり、その上、リズムが少しずつ速くなっていった。
 愛液にまみれながら出入りする、静脈を浮かしたシャフトに、詩織の靡肉がいやらしく絡みついている。
「ンあッ! はン! ン! あンッ! はうン! んンっ!」
 詩織は、抽送のリズムに合わせ、短い悲鳴のような声をあげ続けた。
 抜かれるときには、充血した肉襞がめくれあがり、差し入れられるときには、その肉襞が一緒に体内に押し入れられる。
 飄次郎は、犬のように荒い息をつきながら、ますます激しく腰を動かした。
 単純だが、力強い動きを、飄次郎が詩織の中に送り込む。
「詩織……悪い、俺……体が、止まらない……」
 飄次郎が、いつもとは明らかに違う口調で、そんなことを言う。
「だ、だいじょぶ、です……あたし……ンっ! んあん! き、きもち……いい……っ!」
 詩織が、うわ言のように頼りない調子で、そう言った。
「いいのか? 詩織」
「はい……あ、ああッ! いい……いいです……あ! あ、あたし……か、感じてるぅ……っ! いいの……いい……っ!」
 言葉に出して、初めてその圧倒的な快感に気付いたように、詩織がそう繰り返す。
 じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ、という淫らに湿った音が、その声に重なった。
 二人の結合部からは、白く濁った愛液が止めど無く溢れ、ペニスの激しい動きにしぶきを散らしている。
「詩織……っ」
 飄次郎は、激しい抽送を中断し、一回り大きくなったペニスを、深々と詩織の中に差し入れた。
 そして、腰をグラインドさせ、ペニスで詩織の蜜壷をかき回すようにする。
「ひああああああンっ!」
 明らかな歓喜の声をあげて、詩織が、きゅううっ、と無意識に膣肉を収縮させた。
 凄まじい快感が飄次郎の背筋を駆け上り、射精感が、耐えられないほどに高まっていく。
「し、詩織……俺、もう……」
 飄次郎が、まるで子供のような声をあげた。
 その気配を察したのか、詩織が、逃すまい、とするかのように、両の脚を飄次郎の腰に絡みつける。
「詩織……」
 飄次郎が、詩織の顔を見つめた。
「おねがい、飄次郎さん……最後まで……最後まで、いっしょに……!」
 両手両足で飄次郎の体にしがみつきながら、涙目で、詩織が訴える。
「詩織っ!」
 こみあげてくる愛しさと欲情に突き動かされるまま、飄次郎は、抽送を再開させた。
 詩織の繊細なその場所を壊しかねないほどに激しく、その剛直を激しく繰り出す。
「ひあああッ! あ! ンあッ! ああアーッ!」
 詩織が、切羽詰った声をあげた。
 初めて経験する絶頂を前にして、詩織の、まだ成熟しきっていない体がうねり、のけぞる。
 まるで射精をねだるように、きゅんきゅんと柔らかく締めつけ、絡みつく詩織の膣肉の動きに、飄次郎の我慢の限界は呆気なく突破された。
「くううッ!」
 ペニスの中心にある輸精管を、大量の熱い精が駆け抜ける快感に、飄次郎は、思わずうめいていた。
 そして、その凄まじい量のスペルマを、詩織の体内深くで、激しく迸らせる。
「ひあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 びゅるるっ! びゅるるっ! びゅるるっ! と何度も何度も熱い精を膣奥に叩き込まれ、詩織は、叫び声をあげていた。
 びくん! びくん! びくん! と詩織の華奢な体が、飄次郎の腕の中で何度も痙攣する。
「あ……あぁ……あ……あぁぁ……」
 びゅーっ、びゅーっ、と、呆れるほど長く続く射精に、飄次郎が茫然としたような声をあげる。
 そして、ようやくそれが終わったとき、飄次郎は、ぐったりと体を弛緩させた。
 詩織のその部分が、さらにスペルマを搾り取ろうとするかのように、きゅううん、と収縮しているのが、感じられる。
 詩織の体は、まだぴくぴくと震えていた。
 絶頂から、帰ってきていない様子である。
 さすがに飄次郎が少し心配になった頃に、ようやく、詩織の痙攣が収まった。
 くったりとなった詩織の目尻から、珠のような涙が、一筋、こぼれ落ちる。
「詩織……」
 飄次郎は、涙を、そっとキスでぬぐった。
「ん……」
 詩織が、かすかに声をあげ、うっすらと目を開ける。
「あ……あれ……?」
 そして、不思議そうに飄次郎の顔を見る。
「あの……あたし、どうなっちゃったんですか……?」
 ぽやん、とした顔で、そんなことを訊く。
「イった……んだと思う。……多分」
 飄次郎がそう答える。
 詩織は、はっきりしない顔で、それでも何か考え込んでるようだったが、不意に、にっこりと微笑んだ。
 そして、飄次郎の胸に、すりすりと頬をすり寄せる。
「嬉しい……」
「嬉しい?」
 やや予想外の言葉に、飄次郎が聞き返す。
「だ、だって……大好きな飄次郎さんと、えと、エ、エッチなことして……それであんなに気持ちよかったんだもん……すごく、嬉しいです……」
「そう、か……」
 飄次郎は、うまい言葉をみつけられず、そんなふうに返事をした。
「好きな人とのセックスって……きもちいいんですね……」
「……」
 飄次郎には、うまく答えられない。
 と、まるで代わりに返事をするかのように、飄次郎の腹が、盛大に鳴った。
「んふっ……」
 詩織が、たまらず吹き出す。
「んぷっ、くふふふふふっ。そ、それに、セックスって、おなか空きますねえ」
「いや、それは……」
 飄次郎は、初心な少年のように、真っ赤に顔を染めた。
「夕食前ですもんね。あたし、すぐ、準備しますね」
 そう言って、詩織はベッドから降りようとして――
「きゃ!」
 腰に力がはいらなかったのか、そのまま、すってーん、と転んでしまった。
「……」
「……」
 ベッドの上の飄次郎と、カーペットの上の詩織が、見詰め合う。
 そして二人は、全ての緊張から解放されたように、声を出して笑いあった。



「ちょ、ちょっと緑郎、どこ触ってンのよお!」
「ランちゃんのふともも♪」
「こらバカこのスケベ!」
「暴れちゃダメだってば……んげ!」
 ランの後蹴りを脇腹に受け、その背後にしゃがみこんでいた緑郎がつぶれたカエルのような声をあげた。
「もう、さっきからべたべたべたべた触るばっかりでえ!」
 ランが、怒髪天、といった勢いで叫ぶ。
「ぜんぜん手錠外れないじゃないかあ!」
「だってさー、こう暗いと、手元がよく見えなくて……」
 緑郎は、その柔らかそうな鳶色の髪を、持っている針金でこりこりと掻いた。
 ここは、外灯もまばらな山道に隣接する、ちょっとしたオートキャンプ場である。
 と言っても、車を止めるスペースと、水道、それと簡単な作りのトイレがあるだけの場所だ。冬場は止められている水道の栓を、緑郎は、平気な顔で開いてしまっている。
 車は、すでに乗り換えていた。メタリックグリーンのワンボックスワゴンである。緑郎が、都内の駐車場に抜け目なく準備していたものだ。
 そして、しつこく追いすがる追手をまいて、ここまで逃げてきたのである。
 日は、とっぷりと暮れていた。明かりはランプの形をした電灯のみである。
 二人の脇で、携帯コンロが、鍋の中のお湯を沸かしていた。
「何が、オレの手にかかればこんなチンケな手錠なんてちょちょいのちょい、よお! まったく、口ばっかなんだから!」
「よくまあそんな正確に憶えてるねえ」
「とにかく――」
 ここで、ランは、ふと、口をつぐんだ。
「どしたの?」
 緑郎が、心配そうに声をかける。
「おなか、すいたァ……」
 そう言ってランは、後手に両手を手錠で戒められたまま、ぺたん、と座りこんだ。

「はい、あーん」
「だからあ、いちいちンな恥ずかしいこと言うなあ!」
 そう言ってから、両手を拘束されたままのランは、不承不承、口を開けた。
 その口に、プラスチックのスプーンで、緑郎はカレーライスを運ぶ。ルーも、米も、両方ともレトルトだ。
「ま、キャンプといえばカレーだからね」
 口をむぐむぐさせているランに、緑郎がそんなことを言う。
 そして、手に持ったスプーンで、自分のカレーをすくおうとする。
「間接キス禁止!」
 ランが、叫ぶように言う。
「はいはい」
 緑郎は、ちょっと悲しそうな笑みを浮かべて、そう返事をした。

「ようやく外れたぁー」
 ふう、と息をついて、緑郎が天を仰ぐ。
 夜空は、満天の星だ。都会ではまず確認できない天の川を、肉眼で見ることができる。
「緑郎」
 手首をさすりながら、ランが、言う。
「何?」
「ありがと……」
「うん」
 頬を少し赤く染めながら言うランに、緑郎はにっこりと笑いかけた。
「あのさ……緑郎って、どんな人なの……?」
「どんなって?」
「だからさ、職業とか、普段何してるかとか……」
「ただの、フリーの情報屋だよん」
 涼しい顔で、緑郎が答える。
「お金と時間さえあれば、どんな情報でも手に入れて見せる、ね」
「でも、それだけじゃないんでしょ」
 緑郎の手の中の銀色の手錠を見ながら、ランが訊く。
「ま、ね。新聞や雑誌の記事書くこともあるし、探偵もやったことあるなあ」
「探偵?」
「うん。他にも、薬屋さんとか、カメラマンとか、学校の用務員とか、コンビニ店員とか、ゴミ収集業者とか、ドロボーとか……」
「ふうん……」
「でも、ランちゃんを助けたのは、仕事じゃないよ」
「え?」
 ランが、緑郎の言葉に、その眼鏡の奥の目を見開いた。
「どういうこと?」
「商売抜きで、好きでやったこと♪」
 そう言いながら、緑郎は、ワゴンの後部座席を倒して、寝袋を二つ用意する。
「じゃ、ランちゃんは車の中ね」
「え、緑郎は?」
「オレは、車の外でいいよ」
「だって……寒いよ。こごえちゃうよお」
「大丈夫、慣れてるから」
 屈託のない顔で、緑郎が言う。
「そんな……」
 しばらく黙ってから、ランは、ぽつん、と言った。
「いいよ。車の中で、一緒に寝ても」
「あ、ホント?」
 緑郎は、ランが拍子抜けするほど、あっさりとそう言った。
 そして、よいしょ、と声をあげながら、さっさとワゴンの中に入ってしまう。
「緑郎……」
 呆れたような顔で、ランが言う。
「何?」
「――朝使ってたスタンガン、貸して」
「ありゃりゃ、やっぱ信用ないなあ」
 苦笑いしながら、緑郎は、ランにスタンガンを手渡した。



「あの娘を取り逃がしましたか……不手際が目立ちますね、教授」
 真夜中、部屋の応接セットのソファーに座りながら、狗堂が言った。
「大きなお世話だ」
 “教授”が、デスクに座ったまま、答える。
「中佐は、どうしました?」
「知らん」
 “教授”の言葉に、狗堂は、くすくすと笑った。
 人の神経を逆撫でするような、いつもの笑みだ。
 その綺麗なアーモンド型の目は、しかし、少しも笑っていない。
「犬神村に、部隊を派遣されたそうですね」
 狗堂の言葉に、“教授”の眉がぴくりと跳ねた。
「ようやく、上からの許可が下りたというところですか」
「……」
 “教授”の額に、脂ぎった汗が浮かぶ。
 その右手は、狗堂から見えないように、ゆっくりと引出しの中をまさぐっていた。
 そして、軍用である大口径の自動拳銃を、しっかりと握り締める。
 “教授”は、自分の射撃の腕前に自信を持っていた。その歪んだ性癖を満足させるために、合衆国軍施設の敷地で、人間狩りをしたこともある。
 金で買い取った途上国の子供を追い詰め、射殺する、悪魔の愉悦だ。
 応接セットからデスクまでは、距離がある。
 いかに狗堂の運動能力が優れていても、自分の許に到達する前に頭部に銃弾を叩きこむは、充分に可能だ。
 弾は、国際法で対人使用が禁止されている、いわゆるダムダム弾である。ジャケットの一部を切り欠いて弾芯を露出させた弾頭で、命中すれば、その部位は原形をとどめぬまでに破壊されるはずだ。
「中佐が、部隊を率いて犬神村に赴いたということは……」
「……」
「いよいよ僕は用済みということですね」
 狗堂の言葉が終わるより早く、“教授”は銃を構えていた。
 しかし、“教授”の視界が何かに塞がれる方が、もっと早い。
「――ッ?」
 完全防音の室内で、拳銃の発射音が響いた。
 分厚い木の板が、“教授”の顔にまともにぶつかる。
 “教授”は、声をあげることもできずに、座っていた椅子ごと後に転倒していた。
 それは、応接セットのテーブルだった。
 狗堂が、黒檀でできた重いテーブルを、何の予備動作もなく、片手で放り投げたのである。
「ぐえ!」
 狗堂の左足が、倒れた“教授”の喉を踏みつけた。
 右足は、拳銃を握ったままの“教授”の右手を踏み砕いている。
 “教授”の顔は、額が割れ、血まみれだ。その目は、眼球がこぼれ落ちんほどに見開かれ、口は、空気を求めてぱくぱくと開閉されている。
 叫ぼうとしても、“教授”は叫ぶことができない。
 左手が、空しく宙でじたばたと踊っている。
「自分の喉の潰れる音を聞きながら、死んでください」
 そう言って、狗堂は、左足に体重をかけた。
 ごりっ――という頚椎の砕ける嫌な音に、狗堂が笑みを浮かべる。
 “教授”は、顔を紫色に染めながら、絶命した。
 と、ドアの外から、慌しく叫ぶ声と靴音が響く。
 “教授”付きのボディガードが、ようやくたどり着いたのだろう。
「ふっ……」
 狗堂は、殺戮の予感に、その唇に浮かぶ笑みをますます強烈なものにしていった。


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