beginning


第6章



 遼は、普段、避妊のために基礎体温を計っている体温計で、由奈の熱を見ている。
「ごめんなさい、ごしゅじんさま……」
 妙に幼い調子の声で、ベッドの中の由奈が言った。
「気にするな。奴隷の健康管理は、主人の役目だ」
 意外と高くなってる由奈の体温を確認しながら、遼はぶっきらぼうな口調でそう言う。
「やっぱり熱がある。おとなしく寝てろ」
 そう言いながら、遼は、すでに用意していた洗面器の中の冷水で冷やしたタオルを、由奈の広い額にのせた。
「きもちいい……」
 ぼんやりと、由奈はつぶやく。
 遼は、無言で、由奈のベッドの傍らにイスを運び、座った。
「……いてくださるんですか? ごしゅじんさま」
「邪魔なら、出てく」
「そんなこと……!」
 言いかけて、由奈はけほけほと咳の発作に襲われた。
「大声出すなよ。喉もやられてるんだから」
 遼が、苦笑いをしながら、水を注いだコップを差し出してやる。
「す、すいません……」
 由奈は上体を起こして、少しずつ、水で喉を潤した。
「あの……邪魔なんてこと、ないですから……できれば、ずっとココにいてください……」
 コップを返しながら、由奈が遼に訴えた。
「分かった」
 短く答えて、遼は、イスに座ったまま、腕を組む。そんな遼の方を見て、由奈は、安心したように毛布の中にもぐりこんだ。

 しばらく眠らせた由奈の汗をふいてやり、おかゆを作り、また眠らせる。
 そして、由奈を起こさないように、そっと店に出かけ、帰宅する。
 一日、二日と、遼の日常は、ひどく静かに過ぎていった。

「ご主人様……」
 二日目の夜中、帰ってきた遼に、由奈は、ぽつんとつぶやいた。
「……なんだ、まだ起きてたのか?」
「昼間寝てたから、目が覚めちゃって……」
「……」
 遼は、無言で、ベッドの傍らの椅子に腰を下ろす。
「あのぅ……」
 由奈の言葉に、遼は前髪に半ば隠れた顔を向けた。
「天国って、あると思います?」
「なに?」
 由奈の意外な問いに、遼は思わず不審の声をあげてしまう。
「だから、天国です」
 素直に、由奈は繰り返す。
「……死んだ後のことは、死んだ後で考えるさ」
 答えにもならないことを、遼は言った。
「そう、ですか……」
「どういうつもりで、そんなこと、訊くんだ?」
 そう問い返す遼の方に、由奈は大きな瞳を向けた。
「もし、天国があるなら……お母さん、そっちに行ってるといいなあって……思ったんです」
「お前の、母親? つまり……」
「あたし、お母さんが病院で死んだとき、そばにいてあげられなかったんです」
 由奈は、透明な悲しさを表情ににじませながら、続ける。
「だから、お母さんが、どんなふうに思いながら死んだか、分からなくて……」
「……」
「お母さんとあたし、あまり、うまくいってなかったんです……。お母さんは、お父さんのところから、男の人と一緒に逃げ出して……。でも、その時には、おなかの中に、あたしがいたんです。……そのせいで、結局、お母さんは男の人とも別れて、一人になっちゃって……」
「それで、辛くあたられたのか?」
「それは……そんなこと、なかったですよ……」
 由奈は隠し事が下手だな、と、遼は声に出さずにつぶやいた。
「……でも、あたし……お母さんが、本当は好きでした」
 ひどくはっきりと、由奈は言った。
「なのに、きちんとそのことを、言えなかったから……そのせいで、お母さんが天国に行けなかったら、どうしようって……あたし……」
 ぽろ、とひとしずくだけ、涙の玉が、由奈の垂れ目からこぼれる。
「……」
 遼は、無言で、由奈の髪を優しく撫でた。
「ごしゅじん、さま……?」
「悪いな、由奈」
 驚いたような顔の由奈に、遼は静かな声で語りかける。
「俺は、この通りの男だから……お前を慰めるような言葉は、知らないんだ」
「え……えっと……」
「余計なことは考えずに、寝ろ」
 すっ、と手を引いて、遼は言った。
「俺にできることは、主人としてお前に命令することだけだ。何も考えずに、眠って、風邪を治すんだ」
 由奈は、整理のつかない表情をした後、こっくりと肯いた。



(……まずい、かな……)
 くうくうと、可愛い寝息をたてている由奈の顔を眺めながら、遼はぼんやりと考え込んでいた。
(うまくいっていないわけじゃない……いや、うまく、いきすぎたのか……)
 そんなことを思いながら、遼も、とろとろとまどろみの中に沈んでいく。
(……結花里は、何て言ってたかな……問題は、由奈だけに、あるんじゃないって……)
(……あいつの……うしなわれた……なんだったっけ……?)
 そして、遼も、椅子に座ったままで、眠りについた。

「!」
 朝、はっとして、遼は目を覚ました。
 傍らのベッドに、由奈の姿が無い。
 遼の服のポケットから、鍵を取り出し、外に出る……それも、できないことではないのだ。
 さすがに肝を冷やしながら、遼は立ちあがった。ぐるり、と暗い地下室の中を見回す。
「……ふっ」
 思わず、遼は笑みを漏らしてしまった。部屋のすみにある冷蔵庫を開けて、由奈が中の何かをほおばっている。
「由奈」
「あ……お、おはようございます、ご主人様」
 両手に、きゅうりと魚肉ソーセージを一本ずつ持ったまま、由奈は慌てて冷蔵庫の扉を閉めた。
 今の由奈は、寝巻き代わりに、遼のワイシャツをまとって、いつもは結んでいる髪を解いている。その姿が、遼にはひどく新鮮に見えた。
「食欲は、出たみたいだな」
「は……はい……」
 手に持っているものを背中に隠して、由奈は顔を赤くしてうつむいた。
(やばい、な……)
 遼の表情は、前髪に隠れて、由奈には分からない。
「由奈、もし……」
「はい?」
「もし、いいようだったら、昼、外に出るか?」
「え……外って?」
「ドライブに、連れてってやるよ」
 ふっ、と遼が微笑む。
 しかし、由奈から見えるのは、遼の口元だけだ。その微笑みの温度までは、由奈には伝わらない。
「嫌か?」
「い、いえ、連れてってください!」
 それでも由奈は、元気といってもいいくらいの口調で、そう返事をしていた。

「わあ、かわいい〜」
 いつも通り、髪を左右で結んだ由奈は、思わず声をあげていた。
 久しぶりの、まぶしい日の光の下で、由奈は、着替えの中から遼が選んだ、純白のブラウスとやや長めの赤系のスカートを身にまとっている。どちらも、初日のワンピースと同様、過剰なまでにリボンやフリルで飾られていた。
 すでに、梅雨は終わり、夏になっている。が、丘の上の風は、適度な涼気を運んでいた。
「何だか、ご主人様に似合わないですね……♪」
 地下室では、けしてありえなかったような打ち解けた調子で、由奈は言った。
 その由奈の目の前には、明るいオレンジ色の、旧型フォルクスワーゲン・ビートルがうずくまっている。
「悪かったな」
 遼は、その愛嬌のあるフォルムの車体を軽く叩きながら、苦笑した。
「別に、俺の趣味じゃない。定期的に、足がつかない盗品を回してもらってるだけだ」
「とうひん……って、盗んだものなんですか? コレ」
「俺が盗んだんじゃないけどな。さ、乗れよ」
 そう言って、助手席側のドアを開けてやる。
 由奈が乗りこみ、きちんとシートベルトをしたのを確認して、遼はビートルをスタートさせた。

「きれい……」
 昼を回ったばかりの太陽の光を、湖面がきらきらと反射している。
 遼の家のある丘が連なる山の中に、その湖はあった。さして大きくなく、観光地として整備されているわけでもないが、逆にそのせいで、景観は悪くない。
 車を無人の駐車場に止めて、その湖をぐるりと巡る遊歩道を、二人は並んで歩いている。他に、人影は無かった。
「大げさだな」
 そう言いながらも、遼は由奈に歩調を合わせてやっていた。
「だって……きれいですよ、この景色……」
「そうだな」
 遼の返事は、そっけない。
「あの、ご主人様……」
「ん?」
「他の人が見たら、あたしたち、どんなふうに見えるでしょうね?」
「どういう意味だ、そりゃ」
「だから……えっと……」
 由奈が、口の中でごにょごにょと何か言う。しかし、遼の耳には届かない。
「他の人が見たら、か……」
 遼は薄く笑って、そっと由奈の肩に手を置いた。
「少し、休むか。ちょっと疲れた」
「はい」
 素直に肯いて、由奈は、遼に導かれるように、湖に向かう形で置かれた木製のベンチに腰掛けた。
 遼は、右隣に座った由奈の肩を、ごく自然に引き寄せた。
「あ……」
 頬を赤く染める由奈の耳に、遼は顔を寄せ、そして、何かをつぶやく。
 はっ、と由奈は大きな目を見開いた。
 見る見るその顔がこわばっていく。
「どうした? 由奈」
 遼が、意地悪く訊く。
「だって、こ、こんなトコで……」
「お前は、自分の立場を、勘違いしてるんじゃないのか?」
 遼は、冷たい口調でそう言った。
「でも……でも、誰かが、もし来たら……」
「見せ付けてやれよ。俺は、平気だ」
「……」
 由奈は、長いまつげに涙をため、唇を噛んだ。
 しかし、今の由奈には、遼に逆らうことはできない。
「し……失礼、します……」
 由奈は、ベンチから腰を上げると、のろのろと遼の軽く開いた脚の間にひざまずいた。そして、白く小さな両手でそっと遼のスラックスの股間の部分をさすりあげる。
「はあぁ……っ」
 その、すでに硬度を増しつつある感触にため息をつきながら、由奈は、かつて結花里がしたように、口だけでジッパーを下げた。
 そして、そっと、壊れ物を扱うように慎重に、ペニスを外に解放する。日の光の元で見るそれは、地下室で見たときと、なんだか違って見えた。
 由奈は、ちらっと左右に視線をやり、そして、半ば勃起した遼のそれを口に含んだ。
「ン……」
 さわさわと、わずかな風が髪をなぶる。その度に、由奈はここが戸外なのだということを思い知らされるような気がした。
 それでも、奉仕に気を抜くことは許されない。
「ん……んぷ……んン……んむン……」
 小さな口を一杯に開いて、口蓋や頬の内側に、熱くたぎりつつある遼の亀頭をこすりつけるように、頭をピストンさせる。
(早く……早く、終わらせなきゃ……)
 そんなことを思いながら、由奈は、遼のシャフトに大胆にピンク色の舌をからめ、ちろちろと尿道口を舐めしゃぶった。かと思うと、つるつるとした感触の亀頭の表面に唇を這わせ、たっぷりと唾液で濡らす。
 しかし、由奈の焦りとは裏腹に、遼はひどく余裕のある態度である。
「ごひゅじんさまァ……」
 由奈はとうとう、はしたないおねだりを口にしていた。
「おねがいれす……早く、早く由奈のお口に、ミルク、下さい……」
 遼は、そんな由奈の懇願に何も言わず、歪んだ笑みで答えるだけだ。由奈は、諦めたように、よりいっそう激しく、遼のペニスに奉仕をした。
 舌の先端や平、柔らかな裏側まで駆使して、雁首や裏筋、鈴口など、遼の感じる場所を、唾液で濡らしながら、責め続ける。
 びく、とその由奈の動きが止まった。
 遠くから、声が聞こえたのだ。
 まだ子どもの……男の子のものとも、女の子のものともつかない、二人分の歓声。どうやら、仲良くこの湖畔で遊んでいるらしい。
 それが、確実にこちらに近付いてくる。
「ご、ごひゅじんさま、おねがい……」
 半ばペニスを咥えたまま、何か言おうとした由奈の頭を、遼は無言で自分の腰に押し付けた。
「んンーッ!」
 由奈が、大粒の涙をぽろぽろとあふれさせる。
(見つかっちゃう……見つかっちゃうよォ……ッ!)
 早くこの奉仕を終わらせようと、由奈は必死になって口と舌を使う。
 しかし、間に合わなかった。
 生い茂る緑の間から、一人の少女が現れたのだ。
「きゃっ!」
 高い、まだ小学生くらいのものらしき声が、由奈の耳を打つ。
(あああああああア……)
 由奈は、声に出さずに、絶望に満ちた泣き声をあげていた。
(み、見つかっ、ちゃった……)
 手遅れとは知りながら、どうにか身をよじって逃れようとする由奈の頭を、遼はがっしりと固定している。
「どうしたの、マミちゃん……」
「リュ、リュウくん……」
「あ……!」
 遅れてやってきた少年も、遼と由奈の姿を認め、絶句してしまっている。
 小学校4、5年生くらいの、私服の少年と少女である。少年が捕虫網を握っているところを見ると、二人で昆虫採集にでも来たのかもしれない。もう、学校は夏休みなのだろう。
「どうした?」
 遼は、由奈にではなく、少し離れた場所で茫然と立ち尽くす二人に向かって、声をかけた。
「そこからじゃよく分からないだろう。こっちに来いよ」
「い、いやあァ……」
 泣き顔でそう訴える由奈の頭を、遼はぐらぐらとゆすぶった。
「う、うぶっ……ううゥ……」
 恥ずかしさと惨めさに、由奈の頭は、かあっと熱くなり、そして、胸にはぞわぞわと被虐の快感が湧き上がっていく。
(あたし……あたし、感じてる……)
 年端もいかない子どもの前で、ペニスを咥え、しかもそれを目撃されて、倒錯的な快感を覚えている……。そんな自分自身が、由奈には信じられなかった。
 しかし、あの地下室で奉仕をしているとき以上に、胸はざわめき、股間は早くも熱い蜜を分泌しているのだ。
(もう……ダメ……)
 心地よい諦めの気持ちが、体の奥から湧き起こってくる。
 いつしか、由奈は、遼に頭を押さえられることなく、自発的にフェラチオを再開していた。
「さっきのおねだりは、どうした?」
 わずかに昂ぶった声で、遼が言う。
(ごしゅじんさまも、コーフンしてる……)
 ぼんやりとそんなことを考えながら、由奈は亀頭を口に含んだまま、遼の顔を上目遣いに見つめた。
「ごひゅじんさま……お口に、ごひゅじんさまのミルク、ください……」
 熱がぶり返したような口調でそんなことを言いながら、ちらりと由奈が横を向くと、真っ赤な顔をした男の子と女の子が、まるで石になったように動かずに、じっとこちらを見ている。いや、少しずつだが、こちらに近付いているようだ。
 おそらく、女性が男性自身を口で愛撫するなどということは、知らなかったのだろう。二人とも、目の前で起こっていることが、一体いかなる行為なのか、完全に理解しきれていない様子である。
 それでも、性的な行為であることは、充分すぎるほど伝わっていた。少年と少女は、頬を赤く染め、まだ薄い胸を上下させながら、遼に淫らな奉仕を続けている由奈を見つめている。
 と、遼は、左手で由奈の頭を押さえ、その口から唾液にまみれたペニスを引き抜いた。
「口を開けろ……!」
 そう言いながら、右手で自らのペニスをしごき上げる。
 言われるまま、口を開け、可愛いピンク色の舌まで突き出した由奈の顔に、遼は大量の精をぶちまけた。
「んア……!」
 ほぼ直線を描いて飛ぶ、勢いのあるスペルマが、由奈の顔を汚し、舌の上にはじけ、せいいっぱい開かれた口の中に入り込んでいく。
「あ、あああ、あァ……」
 うっとりとしたような声を漏らす由奈の口に、遼は再びペニスをねじこんだ。由奈は、ふンふンと鼻をならしながらも、口内に溢れた精液をすすり飲むとともに、射精直後の敏感なペニスに、ねっとりと舌をからめる。
「スゴい……」
 まるで、自分が射精してしまったみたいに、はァはァと息をつきながら、少年がつぶやいた。
「すごいのはこれからさ」
 由奈の顔に付着した白濁液を指で集め、それをペニスと交互に由奈にしゃぶらせながら、遼が言った。
「親がセックスしてるとこ、見たことあるか?」
 突然の遼の問いに、少年と少女はふるふると首を横に振った。
「じゃあ、ビデオか本では?」
「……ビデオなら……」
 また首を振る少女の傍らで、少年が恥ずかしそうにつぶやく。
「……リュウくんのえっち」
「しょ、しょうがないよ。タッくんが、無理やり見せンだもん……」
 なじるように言う少女に、少年が小さな声で言い訳した。
「生で、見せてやるよ。そっちのコは、セックス見るのも初めてみたいだしな」
 遼の言葉に、由奈の動きが止まる。それは、二人の子どもも同じだ。
「脱げ」
 動きの止まった人形に、再び命を吹きこむ魔術師のように、遼が命じる。
「……下だけでいい」
 遼の言葉に、由奈はぎくしゃくと立ちあがった。そして、ふりふりのスカートと、そのスカートに比べるとあっけないほどシンプルなデザインのショーツを、じれったくなるほど、ゆっくりと脱ぐ。
「手で隠すなよ……」
 まさに今、そうしようとしていた由奈の手が、びくっと止まった。
 これ以上はないというくらいに顔を赤く染めて、由奈がうつむく。
「わァ……」
 少年が、思わず声をあげた。
 由奈の白く小さなお尻が、初夏の太陽の光にさらされている。白のブラウスをまだ身につけているせいか、由奈の幼い顔のせいか、妙に明るいエロティシズムを感じさせる風景だ。
 遼は、そんな由奈の左腕を、左手でつかんだ。
 そのまま、ぐい、と引き寄せる。自然と、由奈は遼に背を向ける形で、その膝の間に立ち尽くす形になった。つまり、子どもたちに“前”を見せることになる。
「くッ……」
 由奈は、子どもたちから目をそらすように、横を向いた。遼の命令のために、その、淡く体毛が生えただけの恥丘を手で隠すことはできない。恥毛が薄いために、かすかに肉襞をのぞかせたスリットまで、さらしているはずだ。
 たとえ、目を閉じていても、子どもたちが自分のその部分に注目しているのが、由奈にも分かる。
「あッ!」
 由奈は、うろたえた声をあげた。遼が、後から、脚の間を通して、右手で由奈の靡粘膜に触れたのだ。
 遼が指を動かすと、くちゅくちゅという、すっかり潤った音がその場にいる全員の耳に届いた。
「あ、ああン……んふ……ふあア……」
 遼の中指がスリットの奥をえぐり、フードに覆われた敏感な肉芽をつつくように刺激する。由奈は、立っていられないくらいに、足をかくかくと震わせてしまった。
「すっかり濡れてるな……」
「い、いやです……ッ」
 消え入りたげな声で、由奈が言う。
「つまり、準備OKってことだ」
「きゃあア!」
 いきなり、遼は由奈の体を後からすくいあげた。ベンチに座ったままで、由奈の両膝の裏に手を差し入れ、まるで、父親が幼女に排尿させるような、屈辱的なポーズをとらせる。
「イヤ、イヤ、イヤ、イヤああああああ!」
 遼の腕の中で、由奈がじたばたともがく。しかし、遼はびくともしない。
 遼は、由奈の小さな体を抱えあげ、濡れ光っている秘部に、すでに力を取り戻しているペニスをこすりつけた。
「あ、ああッ……ン……あ……」
 たったそれだけのことで、羞恥に暴れていた由奈の体から、くたくたと力が抜けていく。
「なんか、こわい……」
 少女は、由奈のアソコを狙うその肉の凶器に、声をあげていた。そして、少年の服のすそをぎゅっとつかむ。
「よく見とけよ。これがセックスだ」
 そんなことを言いながら、遼はゆっくりと由奈の体を降ろしていった。
「ふわ、あ、ああ、ああア……ッ!」
 ずりずりと、充分に愛液を分泌した靡肉をかきわけるようにペニスが侵入してくる感覚に、由奈が声をあげる。
「はあああアアア……」
 そして、自らの体内にその全てが収まったとき、ひどく満足そうなため息を漏らした。
「動かすぞ」
 遼の宣言に、由奈はかくかくと、壊れた人形のように肯く。
 ゆっくりと、遼は由奈の体を上下させ、抽送を始めた。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……」
 雁首が、肉ヒダをえぐるたびに、由奈は短い悲鳴にも似た媚声をあげる。
 由奈のそこは、遼のスラックスを濡らすほどに愛液をあふれさせ、ひっきりなしにぐちゅぐちゅという淫猥な音をあげた。
「あ、いや、いやァ……」
 その音が恥ずかしいのか、それとも昂ぶる快感のためか、由奈がいやいやをするように首を振る。
 しかし、遼は容赦なく、由奈の腰をピストンさせた。
 その動きに引きこまれるように、幼い少年と少女は、しきりに唾を飲みこみながら、ベンチに近づいてしまう。
「あ、あああアッ! も、もう、もう……ッ!」
 由奈が、あっけなく絶頂を迎えようとする。
 と、遼は意地悪く動きを止めた。
「い、いやあ、やめないで、やめないでェ……ッ!」
 涙までこぼしながら、由奈はあられもない声で訴える。
 しかし、遼はそのペニスを由奈のそこから引き抜いてしまった。それは、ぬらぬらと粘液に濡れて光っている。
「いっ、いやあ〜ん。ごしゅじんさま、ひどいィ……」
 由奈が、泣き声に似た声をあげる。
「疲れた」
 さして疲れた様子など見せずに、遼は由奈を地面に下ろした。
「続けたければ、自分でしろ」
 そんなことを言いながらも、まるで誘うように、由奈の体を半回転させて向かい合わせになる。
 わずかな逡巡の後、由奈はこっくりと肯いて、遼の座るベンチに、まだ靴をはいたままの両足を乗せた。よろけそうになるのを、遼の両肩に小さな両手を乗せて、バランスをとる。
 そして、まるで和式の便座にまたがるようなかっこうで、Mの字に足を開き、腰を下ろしていった。
 かたく反りかえった男根と、蜜をたたえた柔らかい女陰が、再会する。
「うううッ……」
 背後から感じられる、男の子の荒い息使いと、女の子のおののきに、由奈の羞恥心が燃えあがる。快楽の虜となり、自ら情けない姿勢をとりながらも、子どもたちの視線を無視することはできないのだ。
(いっそ……うんと感じて、忘れちゃいたい……)
 そんなことを考えながら、由奈は、すでに熱く潤んだ牝の器官で、遼の剛直を貪欲に咥えこんでいった。
「ンはああッ!」
 遼の肩をつかんだまま、由奈は、背筋を駆け上る快美感に体をのけぞらせた。遼が、その体を両腕で支えてやる。
「はあッ……んあ……あう、う、ううううう……ッ」
 しばらく動きを止めていた由奈は、ゆっくりと、腰を使い始めた。
 そして、自ら、快楽に没頭しようと、次第に腰の動きを速めていく。
 抽送のたびに、由奈のピンク色のひだひだが、ペニスに絡みつくようにめくりあがり、膣口の中に埋没していく。
「どうだ、セックス気持ちいいか?」
 子どもが聞いているのを意識してか、ひどくあけすけな言葉で、遼が由奈を責めた。
「きッ……きもちイイ……きもちイイ……せっくす、きもちイイの……」
 その幼い肢体からは考えられないような大胆な体位で腰を振りながら、由奈が答える。
 遼は、そんな由奈の体を左手で抱きとめ、右手だけで器用にブラウスのボタンを外していった。
 ふるん、と、フロントホックのブラに包まれた豊かな乳房が、外界に解放される。
 遼がホックを外すと、そのアンバランスなほどの巨乳が、皆の目にさらされた。
「うわ、おっきい……」
 思わずつぶやく少年の声を、由奈はぼんやりと聞きながら、腰を動かし続ける。
「はァん、はァん、んうッ、んはああ……!」
 狂ったように腰を使う由奈の動きにあわせて、乳房がたぷたぷと上下にゆれた。
 遼は、それをじっくりと目で楽しんだ後、乳房が大きいせいでことさら小さく見える桜色の乳首を、くりくりと指で転がし、さらには挟んだ指でしごくように刺激する。
「んあ、あ、そ、それ……ッ!」
 切なげに、由奈が形のいい眉をたわめた。
「あはッ……ふあ……それ、それ、イイですゥ……」
 ようやく動きを休めた由奈の上気した顔に、遼は顔を寄せた。
「んふっ……」
 嬉しげに微笑んで、由奈は遼の唇にむしゃぶりついた。
「あ……キス、してる……」
 少女が、不思議そうにつぶやいた。彼女の今までの常識では、キスとは、少なくともこのような場面で行われるような営みではなかったのだろう。
 しかし、淫らな音を立てながら舌を絡ませあい、唾液を交換したとしても、キスはキスだ。少女は、ちょっと混乱しているようだった。
「ぷはっ……」
 息が苦しくなるくらいディープキスを交わしたあとで、由奈はようやく口を離した。
 空ろな、それでいながら、ひどく幸せそうな顔で、遼の顔をごく近くから見つめている。
 遼は、それに応えるように、下から腰を突き上げた。
「ンああああああッ!」
 その動きで、由奈は軽く達してしまったらしい。
 ぷるぷると震える由奈の小さな体を、遼は容赦なく責め続ける。
「んあ、あひッ! ま、また、またイっちゃう! イク、イク、イクううゥ〜ッ!」
 絶頂から、さらに高い絶頂へと次々と舞い上げられる由奈を腕に抱きながら、遼の表情も切羽詰ってきた。
「くッ……!」
 短く声をあげ、遼は由奈をきつく抱き締めた。由奈も、その細い腕で、しっかりと遼にしがみつく。
「イ、イっちゃうううううううううううううううううう〜ッッッ!!」
 遼のペニスの先端から、熱い精液が、何度も何度もほとばしる。
 体の中と外の両方で遼を感じながら、初夏の空の下、由奈は失神してしまっていた。
 間近で初めて目にした性交に圧倒されたのか、少年と少女は、ぺたん、と地面に座り込んでしまっている。
 もう、この二人も、昨日までの二人ではいられなくなるだろう。
 そんなことを思ったのか、遼は、聖者を堕落させることに成功した悪魔のように、満足げな笑みを浮かべていた。



「見られちゃった……」
 帰りの車の中、由奈は、空ろな表情で、ぽつん、ぽつんと、そんな言葉を繰り返した。
「見られちゃった……どうしよう……見られ、ちゃった……」
 遼は、無言でハンドルを握っている。由奈を叱責することも、慰めることも、しない。
 太陽がようやく目に見えて傾いてきた時刻に、ビートルは、遼の家の敷地に入った。
「?」
 遼の、前髪に隠れた眉がしかめられる。そこに、黒い高級車を従えて、見覚えのある男が立っていたのだ。
 槙本――由奈の父親である。
 そのことに、由奈も気づいたらしい。その幼げな顔に、表情が戻ってくる。
 不安と、恐れの表情だ。
「どうしたんです?」
 車を降りて、遼は訊いた。
「仕事は、今日で終わりだ」
 槙本が、あの低くさびた声で、そう言った。
「……なぜです? 期間は、一ヶ月のはずでしょう。まだ一週間はある」
 遼が、全くひるんだ様子を見せず、反駁する。
「事情が変わったのだよ」
 槙本の声の調子は、変わらない。
「今まで、ご苦労だった。無論、報酬は全額支払う」
「……調教は、まだ終わっていない。今連れてくと、厄介なことになりますよ」
 前髪に隠れた遼の切れ長の目が、いささか険悪な光を放った。
「それは、君が心配することではない」
「そうは、いかないでしょう。俺にも、一応、責任がある。あと、この仕事を続けていく上での信用もね」
「……」
 ちら、と槙本は、黒塗りの自らの車に目をやった。車内にいた黒ずくめの男が、うっそりと外に出てくる。暴力を生業とするもの特有の雰囲気が、そのごつい体の周辺に漂っていた。
 男が、意味ありげに、懐に右手を入れる。
 しかし、遼はひるんだ様子を見せない。
 じりじりと、その場の緊張が高まっていく。
「あたし、行きます」
 と、その緊張が、意外な方向から破られた。
「お父さん……あたし、行くから……」
 由奈が、わずかに震えてはいるものの、意外とはっきりした声で、繰り返した。
「ほう」
 満足そうに、槙本が笑みの形に顔を歪める。
「さすがは結城さんだ。成果は出ているようだな」
「……」
 遼は、何も答えなかった。

 丘のふもとへと走る車から、由奈は、一度だけ、ガラス越しに後を振り向いた。
 すでに、遼の姿はどこにもない。
(ご主人様が、あたしのこと、見送りなんてするわけないじゃない……)
 由奈は、くすりと哀しそうに笑った。



第7章へ

目次へ