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第7章



 控えめなノックに対する答えを聞いて、由奈は、その部屋に入った。
「失礼します……」
 声が震えないように、努力する。
 街からかなり離れた場所にある別荘群。その外れにある、かなり大きめの別荘の中の、奥の一室である。
 そろそろ避暑のシーズンであるが、周囲の別荘は、みな無人らしい。窓を通して、高原の静けさが染み入ってきそうである。
「槙本の娘にしては、可愛い顔をしてるじゃないか」
 その静寂の中、男の声が響いた。バスローブをはおった、肥満した壮年の男が、部屋の中央にあるソファーに腰掛けている。
「槙本由奈です。よろしくお願いします」
 指定通り、学校の制服をまとった由奈が、深々と頭を下げるのを、男はねっとりとした視線で眺めていた。
 由奈は、男が佐久間という名前で、自分の父親と仕事上、深い関係を有している、ということくらいしか知らされていない。そして、それ以上を知りたいとは思わなかった。
「こっちに来るんだ」
 佐久間が、そう言いながら立ちあがる。
「はい」
 素直に返事をして、由奈が近付くと、佐久間はバスローブの前をはだけた。大きく膨れた腹の下に、グロテスクな器官が、だらんと垂れ下がっている。
 何も言われないうちから、由奈は、佐久間の前にひざまずいた。
「ご奉仕、いたします……」
 そう言いながら、由奈は佐久間のペニスを両手で捧げ持ち、初めにそっと口付けした。桜色の可憐な唇と、赤黒くエラを張った亀頭のコントラストに、佐久間は思わず声をもらしてしまう。
「あむ……」
 すでに血液を充填しつつあるペニスを口内に入れながら、由奈は、上目遣いに佐久間の顔を見つめた。由奈の小さな口の中で、きつい牡の匂いを放つ男根が、容積を増していく。
「んふ……んん……うン……」
 小さく鼻を鳴らしながら、少し顔をねじるようにして、由奈は頭を前後させる。そのあどけない顔が醜悪な器官に一心に奉仕する姿は、無残なほどにエロチックだ。
 由奈は、シャフトに舌を絡め、唇で優しく締め上げながら、ちらちらと佐久間の顔に媚を含んだ視線を送る。
「うお……おっ……」
 幼げな顔の、セーラー服の夏服の少女が、風俗嬢顔負けの技巧を駆使してフェラチオする様に、佐久間は不覚にも声をあげてしまっていた。
「どうですか……? 由奈のご奉仕、気持ちいいですか……?」
 可愛いピンク色の舌で、静脈の浮き出たシャフトの裏筋をしゃぶり、小さな手で唾液に濡れた亀頭部分をなでさすりながら、由奈が甘い声で訊く。
「おお……子どものくせに、いやらしいヤツだな……」
 満足そうな薄ら笑いを下卑た顔に浮かべながら、佐久間が言う。由奈は、恥じ入る初心な乙女のように頬を染めながら、佐久間の股間に顔をうずめ、その浅黒い陰嚢を舐めしゃぶった。その間も、右手はすりすりと竿の部分を優しくしごき、左手でたるんだ尻や毛むくじゃらの太腿をなでさする。
 佐久間は、バスローブを脱ぎ捨て、かなりの努力をして、腰を引いた。
「あン……」
 由奈が、名残惜しそうな声をあげる。
「つ、次は、尻の穴を舐めるんだ」
 犬のように荒い息をつきながら、佐久間は由奈に命じた。その股間のモノは、年に似合わぬ勢いで上を向いている。
「はい……」
 由奈は、膝で歩いて、佐久間の背後に回りこんだ。
 そして、白い手で尻たぶを割り開き、その不潔な器官に舌を伸ばす。
「おおおッ……!」
 柔らかい舌が肛門に侵入する感覚に、佐久間は大きく声をあげた。
 由奈は、佐久間の肛門に舌をねじこむようにしながら、両手を前に回し、佐久間のペニスを握る。そして、右手で巧みにシャフトをしごきあげながら、左手で亀頭を撫でさする。
「う、うおお……おお、おおっ……」
 腰が砕けそうな快感に、佐久間はしきりに声をあげた。
 ふンふンという、由奈の苦しげな鼻息までが、佐久間の下半身を絶妙に刺激する。
 このまま出してしまうのはもったいない、などと思いながらも、佐久間は由奈の奉仕を止めることができない。
「うおオっ!」
 ちゅううっ、と由奈の唇が肛門を吸引した拍子に、佐久間は高校生の餓鬼のように欲望に身をゆだねきってしまっていた。
 どぷっ! と溢れかえる精液が由奈の小さな手を汚し、フローリングの床に飛び散る。
 脚を震わせながらも、座り込んでしまわなかったのは、佐久間の意地によるものだった。
「はァ……」
 一仕事終えた由奈は、ぺたん、と腰を下ろしてしまった。そして、自分の手に付着した熱い白濁液を、じっと見つめる。
「ン……」
 由奈は、その汚穢な体液を、ぺろぺろと無心な顔で舐めとった。
 さらには、犬のように四つん這いになって、床のこぼれた精液を舐め取っていく。
 短めのフレアスカートに隠れたお尻を高く上げ、無意識にふりふりと小さく振りながら床を舐める由奈を、佐久間が欲望に血走った目で見つめている。
「きゃン!」
 突然、堅い床の上に乱暴に仰向けに組み敷かれ、由奈は可愛い悲鳴をあげた。
 下品に歪んだ佐久間の唇からは、だらしなく涎がこぼれている。その股間のモノは、放ったばかりだというのに、すでに回復しかけていた。
「ぐひひひひっ」
 すでに自己のコントロールを失った佐久間は、そんな声をあげながら、セーラー服の胸元を、その太い指で強引に開いた。
「いやああン!」
 布地の引き裂かれる音に、由奈の子どものような声の悲鳴が重なる。
 レモンイエローの、可愛いデザインのブラに包まれた意外なほどの巨乳に、佐久間は物も言わずにむしゃぶりついた。
「あ、あああッ!」
 分厚い舌で、ねばっこい唾液を下着に塗りたくられ、由奈が声をあげる。
 かまわず、佐久間は由奈の丸い乳房を、ブラの上から両手でぐにぐにと揉みしだいた。
 乱暴な愛撫にブラのカップがずれ、弾力に富んだ双乳と、その頂点にある桜色の乳首があらわになる。
 佐久間は、その乳首にきつく噛み付いていた。
「ひヤあああああン!」
 佐久間の巨体の下で、可憐と言ってもいいくらいに小さな由奈の体が、痛みに跳ねる。
 苦痛と、そして、どうしても感じてしまう快美感に、由奈は空しく身をよじらせた。しかしその動きは、佐久間の興奮を昂ぶらせることにしかならない。
 尖った乳首をつまみ、くりくりといらいながら、佐久間は脂ぎった毛の薄い頭を下にずらしていった。
 そして、張りのある太腿を、頭の動きだけで割り開き、紺色のフレアスカートの中に顔をねじ込む。
「あひッ!」
 敏感な肉の突起を隠した秘裂の上部に、ショーツ越しに鼻面を押し当てられ、由奈は短く悲鳴をあげた。
 佐久間は、なおも左手で由奈の豊かな胸を弄びながら、右手をショーツにかける。
「ン……」
 しばしの逡巡の後、汚辱に顔を背けながらも、由奈は、腰を浮かして協力した。
 ブラと同じ色のショーツが、まだ白のソックスをはいたままの由奈の右の足首に、くしゃっとまとわりつく。
 佐久間は、由奈の腰を抱え、大きく持ち上げた。俗に「まんぐりがえし」などと呼ばれる格好である。
「いやア……は、恥ずかしい、です……っ」
 由奈の弱々しい抗議に耳も貸さず、佐久間は由奈のクレヴァスに粘液質の視線を浴びせた。
 犯罪的なまでに薄く繊細な恥毛が、分泌した汗と愛液で、ぷっくりとした恥丘にはりついている。佐久間は、柄にもなく溜息をもらしそうになった。
 しかし、実際に佐久間の口から発せられたのは、獣じみた唸り声である。
 佐久間は、果実にかじりつく豚のような勢いで、由奈の秘部に口を付けた。
「あうン! ン、んうううううッ!」
 佐久間の舌が由奈のほころびかけたスリットをえぐる。太い舌を強引にねじこまれ、肉ヒダごと愛液がすすられる感覚に、由奈はぞくぞくと体を震わせてしまう。
 その童顔に似合わない感度のよさを見せる由奈に、佐久間はいっそう熱を入れてクンニリングスを続ける。普段であれば、まったく前戯無しで女を犯すこともしばしばの佐久間だが、由奈の反応のよさに、すっかり気をよくしてしまっていたのだ。
「ひあああああアアアんッ!」
 クリトリスを吸引されて、高い嬌声をあげながら脚をぱたぱたと空しく動かす姿が、妙に愛らしい。
 佐久間は、その突き出た腹で由奈の逆さまの背中を支え、アソコを舐めしゃぶりながら、両手を乳房に伸ばした。
 佐久間の大きな手にさえも余る、柔らかく弾力のある胸を揉みしだき、堅く尖った乳首をひねりあげる。
 由奈は、あられもない声をあげながら、いやいやをするように首を振った。
「欲しいか、由奈?」
 愛液でべっとりと濡れた口で、佐久間が訊く。
「ほ、ほしい……ほしいです……」
 はァはァと可愛い喘ぎ声をあげながら、由奈が目を潤ませながら訴える。
「もっとはっきり言え!」
「ああッ……オ、オチンチン、オチンチンを、入れてほしいです……ッ!」
「入れてやる! 入れてやるぞ!」
 佐久間は余裕のない調子でそう声をあげ、由奈の両足首を持って、脚をV字に開いた。
「うおおおおおッ!」
 そして、ぷにぷにとした感触の陰唇に、今やすっかり勢いを取り戻したペニスを押し当て、一気に侵入する。
「ンはああああああああああアッ!」
 おぞましく、どす黒い快感に、由奈は子どものような高い声をあげた。
 由奈の意思に関係なく、その膣壁は絶妙な収縮を見せ、佐久間の欲棒を優しい力で締め上げる。
 しばらく、その淫靡な動きを堪能した後、佐久間はぐいぐいと抽送を始めた。
「あ、あひッ! ひッ! ひあああッ!」
 まるで、レイプにあったかのように、乱れたセーラー服をまとったままの美少女が、自分の体の下で快感に悶える様に、佐久間は我を忘れる思いだった。
 力ずくで犯されて人形のように無反応になった素人娘とも、羞恥心のないスレた女子高生とも、ましてやただの娼婦とも違う。
「感じるか、この淫乱め!」
「か、感じるぅ……オチンチン、気持ちいいですゥ……ッ!」
 恥じらいながらも、猥語を口走ってしまう由奈の媚態に、佐久間はますます腰の動きを速くした。
「んッ! あああ! あひいいいいッ!」
 由奈は、佐久間のペニスをより深く迎え入れようと、幼げな腰をはしたなくせり上げる。佐久間は、その由奈の腰を両手で持ち、ぐりぐりと大きく回すようにした。
「ンわあああああああああああああッ! す、すごい、ですう……ッ!」
 圧倒的な快感に翻弄され、由奈はその小さな体をおののかせた。
「イ、イク、由奈、イキますう……ッ!」
 絶頂を間近に控えたアソコはますます佐久間のペニスを咥えこみ、二度目の射精に追いこもうと蠢動する。
「出してやるぞッ!」
 佐久間が、夢中になって叫ぶ。
「ああッ! 出してえ! 由奈のお口に、いっぱいミルク飲ませて下さいッ!」
 由奈は、びくびくと体を震わせながら、感極まった声で訴えた。
「うおおおおおおおおおおッ!」
 その鈍重そうな体からは考えられないような素早さで、佐久間は、由奈の中からペニスを引きぬいた。
「ンああ、あああッ! あああアアア……!」
 その動きによって、由奈は絶頂に追い込まれた。
 ひくひくと震える可憐な唇に、愛液でべっとりと濡れた佐久間のペニスがねじこまれる。
「んぶッ!」
 その瞬間に、佐久間も限界を迎えていた。
「うああ、あ、うおあああああっ」
 何事かをわめき散らしながら、由奈の小さな口の中に、大量の精液を注ぎこむ。
 その年齢からは考えられない量と勢いの青臭い粘液が、由奈の喉奥を叩き、口腔を満たしていく。



 それが、由奈の限界だった。



「エええええッ!」
 苦しげに体を丸め、由奈は激しくえずいていた。
 肘で、ぐったりとなった体を起こし、その口から、生臭い黄色がかったスペルマを床に吐き出す。
「けほっ、けほ……うえッ……ぐ……ンええッ……」
 涎と、胃液と、鼻水と、そして今までこらえていた涙が、由奈の顔をどろどろに汚す。
 膣内射精を避けようとしていた最後の理性も、由奈の頭からは消え去っていた。もはや、自分が何故こんな辛い目にあっているのか、よく分からない。ただ、言いようのない苦痛と悲しみに、止めどもなく熱い涙が溢れる。
 佐久間は、そんな由奈の傍らに、のろのろと立ちあがり、凄まじく歪んだ笑みを、その顔に浮かべた。
 そして、無言で部屋の片隅の戸棚を開き、一本の鞭を取り出す。革を編んで作られた、本格的な拷問用の一本鞭である。
 その鞭を、佐久間は、何の遠慮もなく由奈の背中に振り下ろした。
「ンぶっ!」
 由奈は、体を支えきれず、自らが吐き出した汚濁に顔を突っ伏してしまった。
 セーラー服の背中が大きく裂け、むき出しになった肌にじわじわと血がにじんでいるのが見える。
 二度、三度、四度、五度……ほとんど間をおかずに、佐久間が由奈の体を鞭打ちする。
「ンぎッ! いッ! いあッ! んぐゥ! ひぎッ!」
 由奈は、苦痛に食いしばった歯の間から、短い悲鳴をあげ続ける。その悲鳴に、骨にまで響きそうな鋭い鞭の音が重なった。
 佐久間は、その股間のものを恐ろしいほどに勃起させ、強烈な笑みを浮かべたまま、鞭を使い続ける。
 由奈が快感を訴えていたときの何倍もの興奮が、今、佐久間の体を焼いていた
 すでに、由奈のまとっていたセーラー服は、原形をとどめない布切れと化している。
 由奈は、自らの吐瀉物に顔を押しつけるようにして、胎児の姿勢でうつぶせになっていた。
 精液を飲みこめなかった詫びの言葉を言うどころか、呼吸さえもままならない。
(ころされ……ちゃう……の……?)
 もはや痛みを痛みとして感じず、断続的な衝撃と閃光に意識を途切れさせながら、由奈はぼんやりと思った。
(ごしゅじん……さま……)
 目蓋の裏に、仏頂面の遼の姿が、浮かぶ。
(どうせさいごなら……もっと、たのしそうなかお……してほしかったな……)
 ――いつしか、由奈は、鞭から解放されていた。
「あれ……?」
 恐る恐る顔を上げ、周囲を見まわす。
 そこに、先ほどの幻と同じ、苦い顔の遼がいた。
「え……?」
 黒いシャツにブラックジーンズといういでたちの遼が、佐久間の持つ鞭の中ほどを、右手で無造作に掴んでいる。
 由奈は、その現実を受け止めきれず、ぼんやりとその風景を眺めていた。
「なんだ、お前は……」
 最高の娯楽を中断させられた佐久間が、物騒な声で遼に言う。「西の組織」でそれなりの地位にあるだけあって、全裸であるというのに、どこか威厳を感じさせる声だ。
「そこの奴隷の製造責任者ですよ」
 遼は、面白くもなさそうに言った。
「たかが色事師風情が、何の用だ?」
「入金が確認されてないんで、商品を引き取りに来たんですがね」
 淡々と、遼は告げた。
「金なら、槙本が払ったはずだろう」
「その槙本さんの口座ですが、組織に押さえられたようなんですよ。裏切りが、発覚したためにね」
「なに……?」
 佐久間の顔色が、変わる。
「確かめますか?」
 ひょい、と遼は胸ポケットの携帯電話を左手で放った。思わずそれを受け取ろうとした佐久間の手から鞭がこぼれ落ちる。それを遼がくるくると魔法のような手つきで手繰り寄せ、自らの右手に収めた。
 佐久間は、電話と、鞭とを交互に睨みつけ、そしてどこかの番号をプッシュし始めた。
 そんな佐久間から視線を外し、遼が由奈に歩み寄る。
「大丈夫か、由奈」
 まだ空ろな表情の由奈の大きな両目から、再び涙が溢れた。
「ごしゅじんさま……あ、あたし……」
 遼は、何を言っていいか分からない様子の由奈の体をそっと立たせ、抱き寄せた。
「……ひでえ傷だな」
 そして、由奈の背中を確認し、苦りきった口調でつぶやく。
 一方佐久間は、電話口に向かい、何事かをわめいていた。
 どうやら、槙本の資金を当てにしていた大きな事業が、幾つか破綻したらしい。そのたるんだ頬肉が、ぶるぶると震えている。
「き、貴様が……」
 佐久間は、遼に物騒な声を浴びせかけた。
「貴様が、槙本を密告したのか?」
 ちら、と遼は佐久間に視線をやった後、由奈の顔を見つめ、言った。
「悪いな、由奈。あのおっさんの言ったとおりだ」
「わ、儂をコケにッ!」
 佐久間の声は、あとはきちんとした言葉にならない。獣のような唸り声をあげながら、部屋の端の机に飛びつき、引出しをあける。
 鞭を持つ遼の右手が一閃した。
「げっ!」
 鋭い音ともに、佐久間の右手から、取り出したばかりの拳銃が弾き飛ばされた。
 佐久間は、鞭で打たれた右の手首を左手で押さえた。その指の隙間から、どくどくと大量の血がこぼれおちる。
「半端な技術で、こんな大げさな鞭を使うもんじゃない」
 遼は、努めて抑えた声で、続けた。
「場所が悪ければ、太い血管を破ることだってある」
「い……医者を……」
 貧血を起こしたのか、床にへたり込みながら、佐久間が声を上げる。
「甘えるな」
 唾でも吐き捨てるようにそう言って、遼は、まだ足もとのおぼつかない由奈を、背中の傷に注意しながら抱え上げた。
「あ……」
 小さく声をあげた由奈が、その身を遼の胸に預ける。
 遼は、佐久間に一瞥もくれずに、部屋を後にした。



「お疲れ」
 一見してチンピラと分かる若い男の額に拳銃を突き付けた乾が、部屋を出た遼に声をかけた。
 別荘の警備を担当していたその男は、顔にいくつか痣を作った上に、後手に縛られている。乾にどのような目にあわされたのか、もはや抵抗する気力もなさそうだ。
「悪いな、つきあってもらって」
 遼が、乾に言う。
「いいさ。槙本から貰うはずだった報酬をフイにした詫びだ」
 いつになく神妙な顔の遼に、乾は、その爬虫類っぽい薄い唇に、笑みを浮かべて見せて、続けた。
「お前さんをここに案内するくらいじゃ、お釣りが来るぜ」
「……」
「……だが、今までだんまりを続けてた件については、別計算だぜ」
 そう言いながら、見張りのチンピラに銃で狙いをつけつつ、乾が玄関まで後ずさる。
「分かってるよ」
 遼は諦めたようにそう言い、自分と乾のために、佐久間の別荘のドアを開けた。



「しみるけど、ガマンしろよ」
 自分の胸までしかない由奈の体を抱きとめながら、遼はシャワーのコックをひねった。
「んく……」
 やはり、傷にしみたのか、遼の胸に回した由奈の腕に、力がこもる。
 屋敷に戻った二人は、今、全裸になって、抱き合うようにしてシャワーを浴びている。場所は、遼の部屋の備え付けのバスルームである。遼の屋敷は、もともとホテルか何かに使われていたのか、主要な部屋一つ一つに、小さなユニット型のバスルームが備わっている。
「雑菌が入るといけないからな」
 遼の言葉に、由奈はこっくりとうなずく。
 遼は、まるで小さな娘に父親がしてやるように、タオルで由奈の顔をぬぐってやった。由奈は、ほんわかとした表情で、されるがままだ。
 そして、乾いた血と汗に汚れた由奈の背中を、これ以上はないというくらい、優しく洗う。
「うン……」
 痛みに、由奈が軽く身をよじる。その度に、遼は、何かを詫びるように、由奈の体に軽くキスをした。
 しばらくそうした後、遼は、由奈の全身を、バスタオルで丁寧に拭いた。傷だらけの背中には、そっとタオルで叩くようにして水気を取った後で、傷薬を塗る。
「ごしゅじんさま……」
 由奈は、そのつぶらな瞳を、遼の顔に向けた。
「?」
「はみがき、したいです……」
「新しい歯ブラシが、洗面台の下に入ってる」
 そう言い残して、遼は、自分の部屋に戻った。
 そして、寝室の中央にあるベッドに横たわる。
 ドア一枚隔てたユニットバスから、かなり長い歯磨きの音に続いて、由奈が何度も何度もうがいをする音が聞こえた。
 からからというその音が、突然、けほけほと咳き込む音によって中断される。
「おいおい、大丈夫か?」
 苦笑しながら遼が覗くと、由奈は、バスタオルをまとっただけの格好で、洗面台につっぷすようにしてしきりに咳き込んでいた。どうやら、うがいをしていて、気管に水が入ってしまったらしい。
「ご主人様、あたし……」
 自分を見つめる遼に気付いて、由奈が顔を上げた。その可愛い垂れ目が、涙で潤んでいる。
 遼は、何も言わずに、由奈を抱き寄せ、その桜色の唇に唇を重ねた。
「あン……」
 遼の舌が口腔に侵入すると、おずおずといった感じで、舌をからめてくる。だが、何かひどく臆病な動きだ。
 しばらくして、遼は口を離した。細い唾液の糸が、一瞬、二人をつなぐ。
「……歯磨きの味しか、しないぜ」
 そんな遼の言葉に、由奈は一瞬きょとんとした表情を見せ、そして、いきなり遼の体にしがみついた。
 遼は、由奈が泣き出すのかと思ったが、そうではなかった。
「ごしゅじんさま……」
 遼の胸に顔を押しつけながら、由奈は言った。
「せっくす、して……」
「おい……」
 あからさまなおねだりに、遼が苦笑いする。
「傷に障るぞ」
「ダメ、なんですか……?」
 いよいよ泣きそうな声を、由奈があげる。
「いや、そんなんじゃないが……今日のところは、おとなしくしとけ」
 しかし、由奈は無言で、むずがる幼い子どものように、遼の胸に押しつけた頭を振るばかりだ。
「しょうがない奴だな……」
 遼は、安心させるように、由奈の頭をぽんぽんと叩いた。



 遼は、由奈の背中に負担をかけないように、向かい合わせの姿勢で座っている。あぐらをかいた遼の脚の上に、由奈がまたがるようにして座る格好だ。
 まだ挿入はしていないが、対面座位の姿勢である。二人とも、一糸もまとっていない。
 遼は、傷のない肩に手を添えて由奈の上半身を支えながら、その体を舌で愛撫していた。
 首筋から、鎖骨のくぼみ、丸い大きな乳房に、舌を這わせ、そして、ぴょこんと上を向いた慎ましやかな桜色の乳首を、口に含む。
「はア……っ」
 由奈は、遼の首を両腕で抱いた格好で、うっとりと溜息を漏らした。
 遼は、円を描くようにして由奈の乳首を口の中で文字通り舐めまわす。そして、充分にとがったその部分を、ちゅばちゅばと音を立てて、左右交互に吸いたてた。
 そうしながら、遼は、そっと由奈の股間に手を這わせた。
「んあっ……」
 短く喘ぐ由奈のその部分は、すでに驚くほどの愛液で濡れている。
 体が密着しているため、指の腹ではなく背中の部分で、柔らかなクレヴァスを撫で上げ、親指でくりくりと肉芽を隠したフードをいじくる。
「あ、んはあ、ンあぁ〜ン」
 由奈は、聞いている遼の脳をとろかすような甘い声をあげ、遼の首に回した腕にぎゅっと力を込めた。
 由奈の秘所はさらにとろとろと愛液を分泌し、遼の指を汚した。
「すごい濡れ方だぞ、由奈」
 そっと体を離して、遼は由奈の目の前に、濡れ光る自らの指をかざした。
「は、はずかしい……」
 自分自身の浅ましさの証を見せつけられ、由奈の頬が染まる。遼は、そんな由奈の柔らかい頬に、自らの指をべっとりと濡らす粘液を塗りつけた。
「しゃぶれ」
 そして、人差し指と中指を、由奈の唇にもってくる。
「はい……」
 由奈は、まるでフェラチオでもするかのような顔で、自らの分泌液で汚れた遼の指を口に含んだ。
 ふンふンと嬉しそうに鼻を鳴らしながら、由奈は口の中で舌を使い、遼の指を情熱的に舐めしゃぶる。かと思うと、まるで乳児のような無心な表情で、ちゅうちゅうと指を吸った。
「どうだ、自分のオマ×コの味は」
 遼が、意地悪く訊く。
「ああッ……い、いやらひい、味がひます……」
 口に半ば指を咥えたまま、由奈は答えた。
「お、おねがいひます……いやらひい、由奈のおま×こに……ごひゅじんひゃまのオチンチン、いれてくらさい……」
 そして、遼の指をなおもちろちろと舐めあげながら、そう訴える。
「ああ……」
 遼はそう答えて、両手で、由奈のぷりぷりとした可愛いお尻を抱えあげた。
 そして、すでに堅く上を向いている自分のペニスに、由奈の愛液を塗りつけるように、シャフトの裏側でクレヴァスをこすりあげる。
「イ、イヤ……じらさないで、ください……」
 泣きそうな声で、由奈が言う。遼は、まるでそんな由奈をなだめるように、頬や首筋にキスをした。
 そして、挿入の感覚を少しでも長く味わいたいとでもいうように、ことさらゆっくりと、浅ましく静脈を浮かせた肉茎を、由奈の胎内に侵入させていく。
「あ……ンはァ……由奈、このかっこうが、いちばん好き……あ、あ、あっ……」
 ずりずりと雁首が膣内の粘膜をこすりあげる感触に、由奈は高い声をあげる。
「ス、スゴい……いっぱい……いっぱい、入ってくるゥ……きもちイイ……」
 舌足らずな声でそう訴える由奈の顔は、快感にとろけきっていた。
「んんんッ!」
 ようやく、遼のペニスが根元まで埋まったとき、由奈はぷるぷると体を震わせていた。
「イったのか? 由奈」
 少し驚いたように、遼が訊く。
「ハ、ハイ……」
 由奈は、空ろな瞳のまま、素直に肯いた。
「可愛い顔してたぞ、由奈」
 そんなことを言いながら、遼は、腕に力を込め、由奈の腰を上下させた。
「あ、ンあああッ! んあァ!」
 絶頂を迎えたばかりで敏感になってる由奈のそこを、堅く反りかえった遼の剛直が容赦なくえぐる。
「あいッ! ひやン! ダ、ダメ、ごしゅじんさま……由奈、また、またイっちゃいそうですゥ……!」
「いいぞ、イっても……何度でもイクんだ……」
 荒い息の合間に、遼が由奈の可愛い耳たぶに囁きかける。
「あああッ! でも、でもッ!」
「イクときの顔、見せてくれ、由奈……」
「そ、そんなの、はずかしい、ですゥ……ふあああアアアん!」
 ずんずんと下から子宮口を突き上げられる、鈍い痛みにも似た衝撃が、そのまま由奈の胎内で深い快感に変わっていく。
「あああッ! イク、イク、イクっ! また、由奈だけイっちゃうゥ〜ッ!」
 いつしか、由奈は自ら腰を使い、貪欲に遼のペニスを牝の器官で貪っていた。しかし、由奈自身は、そのことに気付いていないようだ。
「あああああああアアアアアアアァーッ!」
 きゅううっ、と由奈の靡粘膜が収縮し、遼のシャフトを締め上げる。遼は、危うく精を漏らしそうになるのを、下腹部に力を込めて辛うじてこらえた。
「ああア……はア……ンはア……あうぅ……」
 ほとんど間をおかずにアクメに追いこまれ、由奈は息も絶え絶えな様子だ。
 そんな由奈の小さな体を、遼はさらに下から責めたてる。
「ンあぁ……ごしゅ、じん、さまァ……」
 その体を上下させられるたびに、壊れた人形のように、かくんかくんと首を振りながら、由奈が切れ切れな声で訴える。
「おね、がい……こんどは、ごしゅじん、さまも……いっしょに……いっしょにィ……」
 遼は、その懇願に答えるように、ひときわ抽送を速めた。
「んううううううううううッ!」
 由奈が、まるですがりつくように、遼の首に回した両腕に力を込める。
「く、くださいッ! ごしゅじんさまァ! おねがい、おねがいッ!」
「ゆ……由奈ッ!」
 遼は、そのペニスをめいっぱい由奈の膣内に突き入れた。
 その状態で、根元の部分に溜まりに溜まった熱い白濁液を、一気に解放する。
「ふわあああああああアアアッ!」
 遼の、熱く勢いのある体液を、一番深いところを立て続けに注ぎ込まれ、由奈は視界が真っ白になるほどの快感を覚えた。
 遼のペニスの律動に合わせ、二人の体が痙攣し、そして、そのまま硬直したようにうごかなくなる。
「はあァ……っ」
 長く息をついて、遼は仰向けに上体を倒した。
 一瞬遅れ、由奈も、遼の腰にまたがったまま、うつ伏せになる。
 遼と由奈は、無言で、しばらく呼吸を整えた。



 我に返るのが遅れたのは、遼の方だった。
 由奈が、遼の体の上でうつ伏せになったまま、ちろちろとピンク色の舌を使っている。遼の胸板を舐め、乳首を、まるで乳児のような無心な表情で、ちゅっ、ちゅっと吸っている。
「おい、由奈……」
 遼が声をかけると、由奈は恥ずかしそうな顔で笑って見せた。
「ごしゅじんさま……もっと、ください……」
 そして、囁くような声で、そう言う。
「お前なあ……」
 苦笑しながらそう言いかけて、遼は言葉を止めた。
 大量に精を放ち、力を失った遼のペニスは、しかし、まだ由奈の体内にある。そのペニスを包みこむ粘膜が、微妙にうごめき始めたのである。
「……」
 遼は、無言で息をついた、ぞわぞわとした快感に、遼のペニスは、他愛もなくまた力を取り戻していく。
「はァん……ごしゅじんさまの、また、おっきくなってきました……」
 自分のアソコの中で、ペニスが容積と硬度を増しつつある感覚に、由奈は嬉しそうな声をあげた。
「欲張りだな、由奈は」
 そう言いながら、遼は由奈の頭を、愛しそうに撫でる。
 由奈は、頬を染めながら遼の胸に顔をうずめ、そして、そろそろと腰を動かしだした。くいくいと小ぶりなヒップが可愛く踊るのが、由奈の肩越しに、遼にも見える。
 遼のそれは、もはや完全に勃起していた。その遼のシャフトに、さきほどまで微妙な蠕動を見せていた由奈の膣内粘膜がからみつく。
 遼は、下から由奈の上半身を起こした。
「ああ〜ン」
 騎乗位の姿勢をとらされて、さらに深くペニスを体内深くに迎え入れた由奈が鼻にかかった声をあげる。
 遼は、そんな由奈の大きな乳房を、下からすくいあげるように手の平に収めた。が、その小さな体に似合わない巨乳は、手の中からこぼれ落ちんほどだ。
「はぁ……ごしゅじんさま、由奈のおっぱい、揉んでください……早く、もみもみしてェ……」
 子どものような声で、由奈がはしたないおねだりをする。
 遼は、その柔らかいながらもぷりぷりと張りのある感触を楽しみながら、由奈の胸を揉みしだいた。
 そして、固くしこった乳首を指の間に挟み、くりくりと刺激する。
「あひッ! んあア、ふあア〜ん」
「腰がお留守になってるぞ」
 胸から与えられる快感に嬌声をあげる由奈に、遼が言う。
 由奈は、自分の乳房を愛撫する遼の手に、自らの手を重ねながら、腰を前後させ始めた。
 その幼げな体の中で、胸とアソコとで生じた快美感が共鳴し、さらに大きな快感のうねりになる。
「んはア……ス、スゴい……スゴく、きもちイイ……イイよぉ……ッ!」
 由奈は、結局、上体を支えていられなくなり、再び遼の胸の上にうつ伏せになってしまう。大きいながらも形のいい乳房が形を変え、みずみずしい弾力が遼の体に押しつけられる。
「ごしゅじんさま、ごしゅじんさま……ごしゅじんさまァ……」
 由奈は、体に力が入らないくせに、腰だけは別の生き物のように動かしてる。由奈の愛液にべっとりと濡れたペニスが忙しげに由奈の体内に出入りし、その度に、雁首の部分が膣壁をこするのだ。
「ふあっ! んんんああァ……あ、あ、んああ、あうウん!」
 由奈は、可愛い喘ぎ声を上げながら何かを求めるように、遼の顔をじっとみつめている。
 遼は、左の肘で体を半ば起こし、右腕で由奈の頭を支えた。そして、由奈の唇にキスをする。
 身長差があるため、キスをするにはやや辛い態勢になるのだ。
「んぐう、ふン……んんん……んむゥ……」
 くぐもった声をあげながら、由奈は顔をねじるようにして、積極的に遼の舌に自分の舌を絡みつかせる。
 遼も、その息が荒くなっていた。由奈の腰使いが、着実に遼の性感を高め、ペニスをその限界へと追い詰めているのである。
「はぁっ……」
 とうとう遼は唇を離し、ベッドに頭を戻した。前髪が乱れ、大きく切れ長な目をあらわにする。
「ごしゅじんさま、きもちイイですか……?」
 明らかに快感を感じている遼の表情を上からのぞきこむようにしながら、由奈が言う。
「ゆ、由奈は、スゴく、きもちイイです……んああ、もう、もう、たまンないですゥ……ッ!」
 そう言いながらも、愛液をしぶかせるほどに激しく腰を動かし、遼のペニスを膣口でむさぼる。
「くうぅッ!」
 とうとう、遼は声をもらしてしまった。
「ごしゅじんさま、やっぱり、感じてるんですね……かわいい……」
 いつのまにか主導権を手にしてしまった由奈が、うっとりとした表情で言う。
 しかし、遼はまともには答えられなかった。ペースを乱されたせいか、二度目だというのに、いつもの遼からするとひどくあっけなく、フィニッシュへと追い詰められる。
 だが、絶頂が近いのは由奈も同じだった。
「ごしゅじんさま、ごしゅじんさまア!」
 遼の胸にしがみつくようにしている由奈の声のトーンが、次第に高くなっていく。
「ああァッ! ミ、ミルク、くださいッ! ごしゅじんさまの、熱いミルク、由奈の、中に……ッ!」
 まるで、その部分もいっしょになっておねだりしているかのように、内部の粘膜が遼のペニスをきゅんきゅんとしめつける。
「あ……うぁっ……ゆ、由奈……ッ!」
 遼は、我を忘れて、由奈の体をきつく抱き締めた。
「ひあああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアァーッ!」
 背中の傷の痛みに、しかし、由奈は明らかな歓喜の声をあげていた。
 苦痛と快楽が融合し、さらに高みへと由奈の性感を押し上げる。
「くううッ!」
 とうとう、遼は由奈の子宮めがけ、二度目の精をほとばしらせた。
「あああああッ! ご、ごしゅじんさま、好き、好きィっ!」
 由奈が、両手両足で、遼の体にしがみつく。
 二人の体が、まるで一つの淫靡な生き物のように、いっしょになってびくびくと痙攣した。
 そして、二人の視界が、全く同じような白い光に覆われる。
「すき……すきです……ごしゅじんさま……だいすき……」
 遼の耳に、そんな言葉が、ぼんやりと届いていた。



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