第2章
「しんじゃいたい……」
薄暗い地下室の中、由奈はぽつりとつぶやいた。
鉄製の頑丈そうなベッドの中、由奈は、一人、シーツにくるまって横たわっている。
時計がないので、今が何時のなのか分からない。
由奈の荷物は、全て、遼が持ち去っていた。ご丁寧に、はいていたソックスや靴も、だ。
由奈は、何も持たず、全裸で、この部屋にいる。由奈のものといえば、それこそ、髪を両脇でまとめているゴムひもくらいだ。
ぼんやりと、由奈は天井から下がる何本もの鎖を見上げた。
あれを使えば、首くらいは吊れるかもしれない。
そう考え、由奈はぞっと体を震わせた。一瞬、本当にその気になりかけたからだ。
が、無理だった。例のビデオを撮られているということもあるが、それ以上に、由奈には自らの命を絶つだけの勇気がなかった。
もし、そんな勇気があったのなら、こんな場所に連れてこられはしなかったろう。どうにかして、途中で逃げ出していたはずだ。
「しんじゃいたい……」
それでも、まだそんなことを言っている自分の声が、由奈にはひどく空ろに聞こえた。
「朝だぞ」
そう言いながら、遼が地下室に入ってきた。
上に、だぶだぶの黒いワイシャツをまとっただけで、あとは何も身につけていない。しかし股間は、服のすそにかくれている。
すらりとした形のいい脚に思わず目をやってしまい、由奈は慌てて目をそらした。
遼は、左手にプラスチックのトレイを抱えていた。その上には、パンとスープとサラダという、ひどく簡単な食事が載っていた。
「食え」
ベッドから身を起こし、一糸まとわぬ裸体にシーツを巻きつける由奈に、遼が言った。
「食べたくない……」
うつむいてそう言う由奈の髪を、遼は、ぐい、と掴んだ。
「うぅ……」
悲鳴をあげる気力もなく、由奈は小さくうめいた。
「お前が食いたいかどうかは問題じゃない。食え、と命令してるんだ」
その理不尽な物言いに、由奈の目にみるみる涙がたまる。
「それとも、すっきりしてから詰め込むか?」
由奈はあわてて首を振り、トレイを受け取った。
ひどく時間をかけて朝食を終えた由奈を、遼は鎖につないだ。
由奈は、かすかに抵抗したが、結局は遼のなされるがままになってしまう。
犬に使うような首輪を由奈の細い首に巻き、細い鎖で、床にある金具に止めたのだ。
鎖の長さがあまりないため、自然と、由奈は座り込んでしまう。
「メス犬だな、まるで」
自分でそうしておきながら、遼はそう言い、部屋のロッカーから何かを取り出した。
「ひ……」
由奈が、思わず声をあげる。遼が手にしたのは、黒く光る革製のムチだった。それも、先が何本かに分かれたタイプのものだ。
「こいつで、お前をしつけてやるよ」
「そ、そんな……なんでぇ?」
「とりあえず、口のきき方を憶えさせないとな」
そんなことを言いながら、遼は見せ付けるように手にした房状のムチをゆらしながら、由奈に近づいていく。
「や、やめて……やめてェっ!」
思わず体を丸め、床に這うようにしながら言う由奈に、遼は容赦なくムチを振り下ろした。
「キャアアアーッ!」
ばしっ、という派手な音に、由奈の高い悲鳴が重なった。その白い背中に、無残な赤い筋が浮かび上がる。
「ひ、ひああ……あァ……」
ムチで打たれた痛みもさることながら、自分がムチで打たれるということの理不尽さに、由奈は泣き声をあげた。
しかし、遼は、そんなことに気を使う様子もなく、一定の間隔を置いて、ムチを振り下ろし続ける。
「んあああ! ……ひあァっ! ……んくっ! ……んあああッ!」
実際は、房鞭は音の割に一本鞭より痛みは軽い。しかし、生まれて初めてムチで打たれる由奈には、そんなことは知りようもない。
その背中やお尻の肌に、縦横に赤い跡をつけ、遼はムチ打ちを中断した。
「あぁ……ふぁ……んぁ……うぅぅ……」
由奈は、泣き声混じりの荒い息をついている。
「痛かったか?」
震えて縮こまってる由奈の傍らに膝をつき、遼は当たり前の事を訊いた。由奈が、こくこくと肯く。
「言葉で言うんだ」
「……い……いたかった……ですぅ……」
「そうか……すまなかったな……」
ひどく優しい声で言いながら、遼は由奈の背中にくちづけした。
「んッ!」
熱く、敏感になった肌への突然の刺激に、由奈が声をあげる。
まるで、今までの暴虐を詫びるように、由奈の小さな背中を抱えるようにして、そのすべすべした肌に唇を押し付け、赤い筋を舌で舐めていく。
「んん……ク……んぅう……」
いつのまにか、由奈の背中を抱えていたはずの遼の手が、前に回されていた。
「あッ……?」
そして、由奈の重たげな乳房を、両手でやわやわと揉みほぐす。
「今度はどうだ? 痛いか?」
背中から口を一時離し、遼が訊く。
「い、いたく、ないです……でも……」
切なげに眉を寄せ、濡れたような声で、由奈が答える。短い間に加えられた苦痛と快感に、由奈の頭には白い霞がかかっているようだった。
「なんだか、ヘンな気持ち……です……」
「気持ちいいんだろ?」
「そ、そんな……ンあっ!」
くい、と遼が由奈の乳首をひねりあげた。
「い、イタい……」
「痛いか……じゃあ、こういうのはどうだ?」
そう言って、遼は指先でひっかくようにして由奈の乳首を連続して弾く。
「あ、あァ、んああ……」
困ったような、すがるような目で、由奈が遼の顔を振り返る。
「コレは、気持ちいいだろう?」
「……」
「答えろよ」
「……き……きもちいい、です」
柔らかな頬を赤く染めながら、とうとう由奈は告白した。
「やっと素直に言えたな、由奈」
そう言って、遼は由奈の耳たぶにキスをする。
「もっと感じさせてやるからな……」
耳のすぐそばでそう囁かれ、由奈はびくんと体を震わせる。
遼は、由奈を膝立ちの姿勢にして、その前に回りこんだ。
そして、とまどっているような表情で、潤んだ瞳を向けてくる由奈に軽く笑いかけ、両手でその豊かな乳房を揉みしだく。白く丸い双乳が、遼の手の中でぐにぐにと形を変えるのは、由奈の幼い顔にはアンバランスな、ひどくエロチックな光景だった。
「い、イヤぁン……」
まるで当の由奈に見せ付けるように、その巨乳を揉みしぼる遼の手首を、由奈の小さな手がつかんだ。しかし、由奈の手の力は、ひどく弱々しい。
遼は、その手を逆に握り返し、由奈の背中に回した。
「あ……」
そして、由奈が声をあげるのにも構わず、後ろ手にして手錠をかける。
「あんまり手間をかけさせるなよ」
笑みを含んだ声でそう言いながら、遼は由奈の胸を愛撫するのを再開した。
「んはぁ……っ」
首輪の鎖を床につながれ、両手まで拘束されては、抵抗することもできない。まるで、そのことを言い訳にしているかのように、由奈は、遼から身をよじってよけることさえ、やめていた。
自らの胸を捧げ出しているかのような膝立ちの姿勢で、遼の狼藉を甘受している。
「あァ……んあ……ふぅン……」
いつしか由奈の声は、快感を訴えるような甘い鼻声に変わっていた。
「どうだ? 由奈」
「は、恥ずかしい……恥ずかしいです……」
その言葉を証明するかのように、顔を赤く染めながら、由奈が答える。
「恥ずかしいだけじゃないんだろ」
そう言って、遼は右手を由奈の股間に差し込んだ。
「んくぅッ!」
びくん、と由奈の体が硬直し、鎖がじゃらりと鳴る。
「もう濡れてるぞ、由奈……どうして、ここを濡らしてるんだ?」
「い、イヤぁ! イヤです……!」
由奈は、羞恥のあまり激しく首を振った。しかし、遼は容赦しない。
「気持ちいいからだろ。それとも、痛い目にあいたいのか?」
くい、と遼が指先に軽く力をこめる。
「や、やめてください……」
「なら、素直に言うんだ」
そう言って、遼は巧みに指を動かした。由奈の敏感な部分を、こすりあげ、はさみ、優しく撫で上げる。
「ふあああああ……ッ!」
いつしか、はしたなく腰を突き出しながら、由奈の幼い体は快感に震えていた。
「言えよ」
耳元に口を寄せ、熱い息を吹きかけながら遼が促す。
「き、きもちイイ……きもちイイんです……んあっ、イイっ……」
甘い喘ぎ声を上げながら、 由奈が舌足らずな声で繰り返す。
「どこが気持ちいいんだ?」
「む、胸と……アソコが……」
まるで催眠術にかかったように、遼に問われるまま、由奈は答えてしまう。
「可愛いぞ、由奈」
そう言って、遼は由奈の耳たぶにキスをした。
「んあン」
ぴくん、と体を震わせる由奈の首筋に舌を這わせ、さらに左の乳首を口でくわえる。
そして、すでに堅く尖っている乳首を軽く吸い上げ、さらには舌で転がすように舐めしゃぶった。
「んくうゥ〜っ、んあっ、あっ、あああッ!」
由奈の声が、高く、切羽詰ったものになっていく。
遼は、ひとしきり左の乳首を刺激した後、右の乳首も同様に口でじっくりと愛撫をした。
「んああ、イイ……すごく、きもちイイの……イイですゥ……ふあぁ〜ん」
由奈が、互いに共鳴するように高まりあう、乳首と陰部の快美感に翻弄され、うわごとのような口調で言う。
と、遼はいきなり右手を股間から離した。
「あ……ど、どぉしてェ?」
由奈が、なんとも情けない声を出して、遼の顔を見る。
「どうした?」
由奈が分泌した透明な粘液にまみれた右手の指を由奈に見せ付けながら、遼が訊いた。
「何かしてほしいんだったら、きちんと言葉でお願いしないと駄目だろ」
意地悪くそう言いながら、遼は右手の指を由奈の頬になすりつけた。
「ひ、ひどい……」
由奈は、顔を背け、涙をこぼした。しかし、その白い太腿は、もじもじともどかしげに動いている。
「つ……続けて、ください……」
屈辱と羞恥に顔を真っ赤にさせながらも、由奈は、そう言ってしまった。
「何を続けるんだ?」
なおもそう訊く遼は、由奈の胸を揉み、お尻を撫でさすりながらも、肝心な部分に触れようとしない。
「あそこを……あそこを、いじって……!」
「あそこってのは、オマ×コのことか?」
「そ、そうです……オ、オマ×コを、いじって、ください……」
あまりの恥ずかしさにひっくひっくとしゃくりあげながら、由奈は卑猥なおねだりをしてしまう。
「よく言えたな。偉いぞ……」
そんなことを言いながら、遼は由奈のクレヴァスに再び指を滑りこませた。
「ふゥっ!」
体を支えきれなくなった感じで、由奈は膝立ちの姿勢のまま、やはり膝で立っている遼の胸に体重を預けた。
「ひあッ! ああ、あ、あアッ! んっふぅ〜ン」
「由奈、オマ×コ気持ちいいか?」
「はい……オ、オマ×コ、きもちイイ……オマ×コが、きもちイイです……」
そんな卑猥な言葉を言うたびに、ますます性感が高まってしまうのか、太腿の内側まで愛液で濡らしながら、由奈は悶えた。
遼は、由奈を左手で抱きしめ、右手を忙しげに動かす。
「あッ、あッ、あッ、あッ、ああァッ!」
由奈の声が、次第に高く大きくなる。
「イキそうか?」
「わ、わかりません……んあっ、あっ、ふァあああああっ!」
「お前はもうすぐイクんだよ」
中指で、痛みを感じる寸前の激しさでクレヴァスをこすりあげながら、遼が言う。その手の平はべっとりと愛液で濡れ、ぬるぬるとフードの上からクリトリスを刺激している。
「イクときは、イクって言うんだ」
そう命じる遼に、由奈はこくんと肯いていた。
その素直さを褒めるように、遼が由奈の頭を左手で優しく撫でてやる。
「あ、あッ……もう……もうダメぇーっ!」
昨夜、無理矢理味あわされたものよりも、より強い絶頂の気配が、ぞくぞくと由奈の体を包んでいく。
「すごい……これ、これナニ……? ん、んあッ! ああああああああああッ!」
「イクって言えよ、由奈」
「い、イク、イクぅーッ!」
言いながら、由奈はぎゅっと自分の体を遼に押し付けていた。もし両腕が自由だったら、たまらず遼の体を抱きしめていたかもしれない。
「イク、イクの、由奈、い、イク、イっちゃうううううううゥーッ!」
一瞬、由奈は純粋に快美感だけが存在する空間に浮かんでいるような気がした。
「あ、あああ、あァ……あ……」
そして、その天国から、すごい勢いで落下するような感覚。
由奈は、遼の体の上をずるずると滑り、がっくりと横たわってしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
絶頂の余韻に体をひくつかせながら、由奈は横たわっている。
遼は、その頭を両手で抱えるようにして、強引に由奈の上半身を起こした。
「ふぁ……」
横座りの姿勢で、由奈の半身が起きる。
空ろだったその大きな目の焦点が、ようやく合ってきた。
「キャッ……!」
可愛い悲鳴をあげて、由奈は目をそらした。すぐ目の前に、ワイシャツのすそを割ってそそり立つ遼のペニスがあったのだ。
由奈を絶頂に追い込むことで興奮したのか、赤黒いそれは熱い血液を充填させ、凶暴な角度で屹立している。
「目をそらすな、由奈」
そう命じながら、遼は由奈の髪を掴んだ。
「う……」
強引に顔を戻される由奈だが、きつく目を閉じ、遼のそれを見ようとはしない。
「なんだ、初めて見るわけじゃないだろ。……親父さんのを見たことはなかったのか?」
その遼の言葉に、由奈はびくっと体を震わせた。
そんな由奈の反応を、遼は興味深げな顔で見下ろした。
「ま、いいさ。何にだって最初があるんだからな」
そんなことを言いながら、遼は硬くなったペニスを由奈の頬に押し付けた。
「ひ、イヤっ!」
意外なほどの熱さに驚きながら、由奈が悲鳴をあげる。
「由奈……舐めろ」
「え?」
由奈は、思わず目を開き、遼の顔を見上げていた。
「フェラチオも知らないのか? 男のコレを、お前の口と舌で気持ちよくするんだよ」
「そ、そんな……」
「お前だけ気持ちいい思いをするのは不公平だろ」
にやにやと笑いながらそう言う遼の言葉に、由奈が頬を染める。
「それとも、例のビデオを、憧れの先輩とやらに送りつけてやろうか?」
「やめてえッ!」
悲鳴のような声で、由奈が叫ぶ。
「じゃあ、覚悟を決めろよ」
「で、でも……やり方が……」
目に涙を溜めながら、由奈が訴える。
「そうだな、まずは、舌を出して、こいつを舐めてみろ」
「……」
由奈は、おずおずとピンク色の舌を突き出した。
そして、目をぎゅっと閉じ、じれったくなるほどゆっくりと、遼の性器に顔を寄せていく。
ちょん、と舌先が、亀頭の表面に触れた。由奈は、その感覚に驚いたように、さっと顔を引く。
「おいおい、そんなんじゃダメだ。アイスキャンディーでも舐めるようにしゃぶるんだよ」
「そんなァ……」
泣き声をあげながらも、由奈は再び遼のペニスに舌を寄せていった。
そして、静脈を浮かせた竿の部分を、ちろり、ちろりと舌先で舐める。
その部分特有の牡の匂いに顔をしかめながらも、由奈はけなげにぎこちない奉仕を続けた。
「先っぽだけじゃなくて、舌全体を使え」
そう言われて、一層舌を伸ばして、舌の腹でペニスを舐め上げていく。そのたびに、遼のペニスは由奈の唾液に濡れていった。
「……今度は、こいつをくわえるんだ」
「くわえる……?」
「こいつをすっぽり口の中に入れるんだよ」
「……」
遼の残酷な宣告に、ぽたぽたと涙をこぼしながら、由奈はためらいがちに口を開いた。
そして、可憐な桜色の唇を震わせながら、その小さな口には大きすぎる遼のペニスをくわえようとする。
しかし、由奈は、亀頭の半分くらいまでを口に含んだ状態で、動きを止めてしまった。
「まだだぞ、由奈」
そう言われても、目を閉じ、涙をこぼすだけで、動こうとしない。
遼は、ものも言わずに由奈の頭を抱える手に力を込め、腰を突き出した。
「んうううううっ!」
「口を広げろ、由奈」
目を見開き、驚きの声をあげる由奈に、遼が言う。
「歯を立てるなよ」
とうとう、遼はシャフトの半ばまでを、由奈の口腔に侵入させた。すでに亀頭は喉にまで届き、これ以上深く咥えさせる事は難しい。
「う、うう、う……」
「歯を立てるな!」
もごもごと何か言いたげに口を動かす由奈に、再び遼が言う。今の強引な侵入で、由奈の歯が遼のそれに当たったらしい。
「もし、噛みつこうってんなら、俺を殺す気でやれよ。中途半端にやると、かえって後悔することになるからな」
「う……」
遼にそう言われて、逆に由奈は歯を立てるまいと大きく口を開いた。だらだらと、だらしなく唾液が口からこぼれる。
遼は、ゆっくりと腰を動かした。
「ん、んぶっ?」
生まれて初めて口腔を犯される感覚に、由奈が声をあげる。
しかし、遼は容赦せず、由奈の小ぶりな口を蹂躙した。
唾液に濡れた遼のペニスが、由奈の柔らかそうな唇を出入りする。
「ん、んぐ、んう、んぶうううぅ……」
由奈は、犯され続けている口から、くぐもった泣き声をあげていた。それでも、どうにか遼のペニスを傷つけまいと、けなげに努力する。
ぎこちない、技術のかけらもない口腔の感覚より、その由奈の態度が、遼の歪んだ性感を昂ぶらせた。
「いいぞ、由奈……初めてにしては、上出来だ……」
そんなことを言いながら、由奈の髪を撫で、さらにはペニスの角度を調節して舌にこすりつけるようにする。遼のペニスから、奇妙に苦い液が分泌されるのが分かる。
「んううううううっ!」
だが、由奈は、声をあげることしかできない。
そんな、由奈にとっては拷問よりも辛い時間が、延々と続いた。
「……くっ」
唐突に、遼は腰を引いていた。
「あ……」
由奈の空ろな目に、ひょこんと跳ねあがるペニスが映る。
遼は、左手で由奈の頭をしっかりと押さえ、右手で忙しげに自らのペニスをしごきあげた。
(な、なに……? なにしてるの……?)
男の生理についてほとんど知識のない由奈は、思わずその行為に見入ってしまう。
「くぅっ!」
遼が、とうとうその溜まっていた性感を爆発させた。
「きゃあっ!?」
大量の白濁液が、痛いほどの勢いで、何度も由奈の顔を叩く。
その液体は、ねっとりと由奈の顔をよごし、顎を伝って、豊かな胸に滴った。
由奈の上半身は、彼女が今まで嗅いだことのないような異臭にまみれてしまう。
「え、えええ……?」
男の器官から吐き出されるその液体が、精液であることを思い出し、由奈は声をあげていた。
「え……ふえええ……ふええええええええ……」
その精液を顔にかけられたという事実に、声はすぐに泣き声になる。
「ひどい、ひどいぃ……ひどいよおォ……」
後ろ手に手錠をかけられているため、顔をぬぐうこともできず、童女のように由奈は泣き続けた。
そんな由奈の顔を、遼はウェットティッシュでぬぐってやろうとする。
「イヤ、イヤ、イヤあ!」
由奈は、むずがる子供のように、全身を振って遼の手から逃れようとした。
遼は、そんな由奈を、ぎゅっと両腕で抱きしめた。
「ふあ……」
意外と厚い遼の胸の感触に、思わず由奈は泣くのをやめてしまう。
「よく頑張ったな、由奈……」
そう言いながら、遼は由奈の髪を撫で、その広い額にキスをする。そして、耳たぶから首筋へと、唇をゆっくりと這わせた。
「あ、あン」
思わず声を漏らしてしまう由奈の胸を優しく揉み、指先で繊細な刺激を全身に与えていく。
「ご褒美に、また、気持ちよくしてやるからな……」
「あ、そ、そんなァ……やめ……ああァ……んあン……」
遼の巧みな愛撫に、一時収まっていた由奈の性感が、また熱く燃えていく。
「あ、ヤダ……あぁン……だ、ダメぇ、ダメです……っ」
そんな、由奈の抗議の声はひどく弱々しく、いつしか、甘い喘ぎ声の中に埋没してしまう。
「んあ、あああ……ふあッ……ふぁあ〜ン……んあああァ……」
いつしか、由奈は遼の愛撫に身を任せきっていた。
その日、由奈は何度も何度も、間を置いて絶頂に追い込まれた。
けだるい疲労感を抱えつつ、けだるい表情で店に顔を出した遼を待っていたのは、乾だった。
「よう」
手を上げる乾のごつい顔が、どことなく堅い。
「どうした?」
平気な顔で更衣室にまでついてきた乾を横目で見ながら、遼はバーテンにふさわしい白いワイシャツと黒いベストに着替える。
「……一ノ瀬が、いなくなった」
「結花里が?」
思わず、遼は振り返った。
「まさか、逃げ出したのか?」
「だったら、お前さんのペナルティーになったんだがな」
乾は、面白くもなさそうに笑った。
「残念だが、違う。この店に、木原とかいうのが出入りしてたろ」
「ああ。たしか、議員のガキだったな」
「そいつが、セリの後で、無理矢理に連れ去った。そうとうご執心だったようだな。要するに、警備担当である俺の責任さ」
「安心したよ」
遼が、芝居がかかった仕草で、両手を広げた。
「俺の調教が甘かったのかと心配したぜ」
「……木原の奴がどこに潜伏してるかは、目星がついてる」
無表情に、乾は言った。
「結花里なら、あのガキを一晩で骨抜きにできるさ」
一方、遼は口元に笑みを浮かべている。
「踏み込めばすぐにカタはつくだろうよ」
「かもな。だが、問題はその後だ」
乾は、ゆっくりと遼に近付き、低い声で言った。
「ウチの幹部の誰かが、西の佐久間に寝返ろうとしてるってことは、話したな」
「ああ」
そう答える遼の表情は、動かない。
「木原議員は、佐久間と深い関係がある。もし、木原の息子を俺達が捕らえれば、間違いなく佐久間を刺激するだろう」
「……それで?」
とぼけたように、遼が訊く。
「この件は、ちと微妙なことになる。前も言ったと思うが、裏切り者の依頼を受けるのは止めろ。知らせてくれれば、俺がいいように処理をする」
「……あんたに借りを作るのは、ぞっとしないな」
しばらく考えた後、遼は言った。
「貸し借りは、ゼロだ」
「先走りすぎだよ、乾さん」
ぽん、と軽く、遼は乾の肩を叩いた。そのまま、脇をすり抜けるようにして、更衣室から出て行く。
「まずは結花里を助けてやるのが先だろ」
「それは……そうだな」
しぶしぶ、と言った調子で、乾が認める。
「結花里を助けたら、知らせてくれるかい?」
「分かった」
「悪い」
言いながら軽く手を上げ、遼は店に入る。
更衣室のドアの前で、乾は、そのごつい顔に似合わない、困ったような苦笑を浮かべた。