第1章
「ユウキ……リョウさんでいいのかい?」
「ハルカ、と読みます」
電話の向こうの低い声に、結城遼は面白くもなさそうな声で応じた。その、長い前髪で両目を隠した顔は、いかなる表情も浮かべていない。
「それは失礼した。私は、槙本というものだ」
「私のクラブで、お会いしましたかね」
「ああ、一度だけ」
電話の声は、少し、間を置いて、続けた。
「仕事を依頼したいのだが」
「……依頼は、乾という男を通じて受けることになってるんですがね」
「知っている。私は、奴の属する組織の幹部だ。一応な」
穏やかではあるが、ドスのきいた声で、槙本が言う。
「でも、その組織ってのが、うるさいんですよ」
遼の声の調子は変わらない。
「乾を通せない事情があるんですか?」
「……あるとしたら、君に話せるわけないだろう」
「もっともな話です」
慇懃無礼の見本のような声で、遼が応える。
「報酬は、通常の倍用意する。それでよかろう?」
「いいですよ。私も、自分では組織専属のつもりはないですから」
「話が分かるな。では、明日の夜、店が終わったら、自宅の方にうかがう」
「お待ちしてますよ」
そう言う遼に答えもせず、電話が切れる。
遼は、苦笑しながら、コードレスの受話器を充電スタンドに戻した。
日本海に面した、中規模の大きさの、ある地方都市。
海の向こうからやってくる非合法な品々をめぐって、裏社会の連中がうごめく。そんな、ある意味では珍しくもない街である。麻薬、拳銃、密入国者……それらは、錆の浮いた貨物船から、この街の港に上陸し、大小いくつかの組織の資金源となる。
表向き、町は明るく健全に運営され、管理されている。だが、一皮向けば、この国の首都に匹敵するほどの悪徳と退廃が、街の夜の側を支配しているのだ。
結城遼は、そんな裏の組織の末端に、不吉なコウモリのようにぶらさがっている。
年齢は23歳。
前髪を長く伸ばし、両目を隠しているため、容貌や表情は判然としないが、顎のラインは、年相応に若い。だが、その声の調子や皮肉げな口元は、もっと上の年齢を想像させた。
表向きの職業は、小さな酒場の店主。
実際は、女奴隷の調教師だった。
その夜、遼はカウンターで、バーテンの真似事をしていた。
雑居ビルの地下室にある、さして大きくないバーである。店の入り口は閉じられ、「CLOSED」の札がかかっている。
しかし、客はいた。この店本来の客が。
手に、思い思いのグラスを持ち、粘つく視線で、店の中央を見つめる男達。
その視線の先には、両手を手錠で拘束され、天井から下がる鎖につながれた若い女が、喘いでいた。
くせのない、腰まで届きそうな漆黒のロングヘアが印象的な、はっとするほどの美人である。年は、二十歳前後だろうか。上品な顔立ちに似合わないグラマラスな体が、黒い革のコルセットをまとっている。
「んぅう……くッ……ふぁあ……」
そんな、男の脳を痺れさせずにはおかないような鳴き声をあげながら、女は身悶えする。その度に鎖が鳴り、コルセットから無残に飛び出た双乳が、ふるふると震える。
剥き出しになった女の股間からは、毒々しいピンク色のバイブが覗いていた。
鈍い振動音をたてながら、バイブは女の最も敏感な部分を責めつづけている。女は、その刺激にゆるゆると腰を動かしながらも、ともすればずり落ちそうになるバイブを、しっかりと膣肉で咥えこんでいた。
絶え間なく分泌される愛液は、太腿を濡らして、リノリウムの床に小さな水たまりを作っている。
この快感に耐え、どれだけの時間、バイブを咥えこんだままでいられるかが、この女の価値を計る物差しとなる。男達は、興奮に目を血走らせながらも、どこか値踏みするような表情で、女の痴態を見つめていた。
「んんんんんッ! んぐッ! ンあああああああああッ!」
衆人環視の中で、残酷な性具に、大事な部分を責め続けられる快感に、女はひときわ大きな声をあげた。
「い、イクっ! イク、イク、イクぅーッ!」
腰を大きくグラインドさせ、白い喉を反らせながら、女は絶頂の声をあげた。男達の低いどよめきの中、ぴくン、ぴくンとしなやかそうな体を痙攣させる。
「ふぁあァ……あぁ……ん……」
がっくりと頭を落とし、アクメの余韻にひたりながらも、女のそこは、貪欲にバイブを咥えこんだままだった。
それを認めた男達の口から、賞賛の溜息が漏れる。
そして、たった今、デモンストレーションが終わったばかりのこの性奴隷についてのオークションが、始まろうとしていた。
「なかなかの出来だな」
遼の立つカウンターに、一人のごつい男がやってきた。年齢は、20代半ばくらいだろうか。禿頭に黒眼鏡。どう見てもまともな職種の人間とは思えない。
「ああ、乾か」
そんな男に、遼は恐れ気もなく声をかける。客にではなく、同僚に対する口ぶりだ。
「……俺を通さず依頼を受けたってのは、本当か?」
遼の差し出す琥珀色の洋酒に視線も向けず、乾は単刀直入に言った。
「受けちゃいけないのか?」
遼が、ひどく不敵な態度で応じる。
「いや、いけなくはない……いけなくはないがな……」
言いながら、乾は身を乗り出し、遼の耳に顔を寄せた。
「もし、うちの連中の依頼だったら、やめておけ」
「あんたのとこの、誰だよ?」
乾の囁き声に、遼も抑えた声で訊き返す。
「それが分かれば苦労しない」
「理由は?」
「そいつは、多分、うちを裏切ろうとしている」
淡々とした声で、乾は言った。
「裏切って、西の佐久間に尻尾を振るつもりらしい」
「……」
「佐久間の女の趣味は、有名だからな。お前に話が来ても、おかしくはない……お前、巻き込まれるぞ」
「巻き込まれるも何も、俺は一介の調教師だぜ」
遼の顔に、自嘲に似た笑みが浮かんだ。
「俺に出来ることは、調教しろといわれた女を、注文通りのメス犬に変えるコトだけさ」
「あんなデカい家に住んでて、よく言うよ」
乾は、皮肉げに片頬だけで笑った。
「家は、前からのものだ。俺の稼ぎで買ったもんじゃないよ」
「ま、それはともかく用心に越したことはない。それに……」
ちらり、と乾は背後を振り返った。遼が調教した奴隷に対するオークションが、ますます白熱している。
「結局、どうしたって男は女に溺れるもんだ。お前の力は、お前が思ってるほど軽視されんよ」
「……あんたにしては、意外なことを言うもんだな」
そう言いながら、遼は小さく肩をすくめて見せた。
深夜、遼が自宅に戻ってすぐ、槙本が訪れた。
遼の家は、人気のない丘の中腹に建つ、古びた洋館である。大きさよりも重厚さで、人を圧倒するような館だ。それなりに洗練された造りをしてはいるが、その館が過ごしてきた長い長い時間が、全体の印象を暗くくすんだものにしている。
それは、館の部屋も同じであった。薄暗い照明しかない応接間の絨毯やソファーは、高級品ではあるのだろうが、どうしても古臭さが感じられる。
そのソファーに、物騒な目つきの壮年の男と、一人の少女が、並んで座っている。
彼女は、この部屋の雰囲気に全く合わない、ひどくひらひらした服をまとっていた。
少女は小さな体を堅く強張らせ、自分の膝の上の握りこぶしをじっと見つめている。
そんな二人に向き合う形で、遼が、やはりソファーに座っていた。
「期間は一ヶ月」
槙本が、電話での声同様、低くさびた声で言った。
「その間で、誰に対しても、きちんと夜の相手が出来る女に仕立て上げてほしい」
遼は、小さく肯き、槙本の隣で縮こまってる少女に目を向けた。
かなり幼く見える。身長は、150センチそこそこ。長めの髪の毛を左右で結んで垂らしている。俗に「ツインテール」など呼ばれる髪形だ。髪を結ぶゴムひもにつけられた、緑色の、丸いプラスチックのかざりが、ますます幼さを感じさせる。とても、調教に耐えられそうな様子ではない。
「……年は、今年で18だ。遠慮はいらない」
(誰が遠慮なんかするか)
遼の印象を察したかのような槙本の言葉に、遼は密かに毒づいた。
「名前を訊いて、いいですかね?」
代わりに、遼は見せかけだけの丁寧さで訊いた。
「槙本由奈……」
言いながら、槙本はその顔に歪んだ笑みのようなものを浮かべた。
「俺の娘だ」
その言葉に、少女――由奈は、びくっ、と体を震わせた。
少女の父親は、去った。
応接間の、黒い革張りのソファーの中に、彼女一人が残されている。
「ユナ、だったか?」
「ユウナ、です。真ん中を伸ばします」
立ちあがりながら言う遼の言葉を、由奈がかすかに震える声で訂正した。
「そりゃ悪かった」
遼の声に、わずかに嘲弄の色がある。
「じゃあ由奈、これから、お前が厄介になる部屋に案内しよう」
声の調子を変えずに、遼は言った。初対面の少女を、ごく自然に呼び捨てにしている。
「ついて来い」
その言葉に、一瞬ためらった後、由奈は従った。
それを確かめた後、遼が、ずんずんと館の中を歩く。そして、広いホールの中で優雅な曲線を描く階段の陰にある、無粋な鉄製の扉の前に立った。
「この奥だ」
言いながら、ポケットから取り出した鍵で、扉を開けた。扉の向こうは、漆黒の闇に塗りつぶされている。
遼が電気のスイッチをつけると、地下に続く下りの階段が現れた。
地下へと降りていく遼に、由奈は震える足で、どうにかついていった。
「……ッ」
地下室に導き入れられ、由奈は小さく息を飲んだ。
そこは、異様な部屋だった。
コンクリートが打ちっぱなしの、何の装飾もなされていない部屋である。天井にある蛍光灯が、無機的な光で部屋の中を照らしている。
しかし、部屋のあちこちには、何とも奇妙な調度が並べられていた。
部屋の中央にある鉄パイプで組まれた大型のベッドや、全身がゆうに映せる姿見はともかく、天井から何本も下がるフックつきの鎖や、それを動かすための滑車などは、由奈がこれまで見たこともないような代物だった。
さらに、壁にはハリツケ台のようなX字に組まれた板があり、手足を拘束するためらしい革製のかせが取り付けられている。
そして、部屋の隅には、むきだしのままのバスユニットがあるのだが、なぜか、そのバスユニットにはドアがなく、中が丸見えだった。
「お前は、これから一ヶ月、ここで暮らすことになる」
遼は、ひどく残酷な口調で言った。
「うそ……」
「嘘なものか。親父から、どんな風な目に合うか聞いてなかったのか?」
茫然とつぶやく由奈に、遼はくつくつと笑いながら続けた。
「それとも、聞いてたら来なかったか? ……まあ、今のところ、お前ら親子の事情は詮索しないことにしとこう」
そう言いながら、まだ茫然としている由奈の背後で、この地下室の扉を音を立てて閉める。
「!」
あわてて振り返る由奈の視線の先で、遼は内側から扉に鍵をかけた。
「さて……」
遼は、ゆっくりと由奈に向き直った。
「まずは、身体検査といくか」
きょとん、と、やや垂れ気味の大きな目を見開く由奈に、遼はにやりと笑いかけた。
「そんな、不思議そうな顔をするな。身体検査だよ、身体検査」
「……」
遼の意図を察したのか、由奈の顔色が、少し、白くなる。
「服を、脱げ」
そんな由奈の様子に頓着せず、遼は冷然と命じた。
遼の言葉に、由奈はぎゅっと自分自身の体を抱きしめた。
遼は、おびえた表情を浮かべる由奈のことを、じっと観察している。
垂れぎみの大きな目に、ちまっとして形のいい鼻。ピンク色の可愛い唇。そして、思わず指でつつきたくなる、柔らかそうな頬……。
(ガキだな、こりゃ)
とても、今年18歳というのは信じられない。どう見ても中学生くらいだ。
しかし、遼はそんなことで気持ちがくじけるような人間ではなかった。
「脱げよ」
一歩、遼は足を踏み出した。すると、由奈が一歩さがる。
と、遼は、素早く腕を伸ばして、由奈の胸倉を掴んだ。
「きゃあッ!」
由奈が悲鳴をあげるのも構わず、思いきり引き寄せる。
(おや……?)
ちょっとした奇妙な感覚を感じながら、遼は由奈の顔に顔を寄せ、低い声で囁いた。
「せっかくの服を、破られたくはないだろ?」
その言葉に、由奈が硬い表情でうつむく。
「どうだ?」
言いながら、遼は両手に力を込めた。可憐なデザインのワンピースが、小さく悲鳴をあげる。
「や……やめて……」
由奈は、消え入りそうな声で訴えた。
「自分で脱ぐから……」
遼は、手を離した。由奈が苦しげに息を整える。
そして、ひらひらのフリルのついた、ピンクのチェック柄の服のボタンを外していく。体のラインをあまりうかがわせない、なんとも少女趣味なデザインのワンピースだ。
ボタンを外し終えたところで、由奈の動きが止まる。
「どうした? 別に寒くはないだろ」
「……」
促す遼に、由奈は答えない。ただ、羞恥と屈辱に頬を染め、じっとうつむいている。
「お前、何のためにここに来たんだ?」
遼は、何かを見透かすように、前髪の奥に隠れた目を細めた。
「それとも、父親に売られたお前に、どこか帰る所があるのか?」
その言葉に、由奈はぎゅっと目を閉じた。
そして、何かを覚悟したように、ワンピースをするりと脱ぎ捨てる。
「ほぉ……」
思わず、遼は声をあげていた。体を寄せたときに何となく気付いてはいたが、由奈の胸は、その顔に似合わず、ひどく豊かだったのだ。
幼児体型、と言っていいほどの姿態の中で、その大きな丸い胸だけが、白い清楚なデザインのブラに包まれながらも、自己主張をしている。
由奈は、自らの巨乳を恥じるように、両手で押し包むようにして胸を隠している。剥き出しになった白いシンプルなショーツよりも、その胸の方が恥ずかしいらしい。だが、由奈の胸は、彼女の細い腕や小さな手では隠し切れないほどの大きさだった。
「でかいおっぱいしてるな、お前」
由奈のコンプレックスをえぐるように、遼はわざと下品な言葉で言った。
「い、いやァ……」
たまらず、由奈はしゃがみこんでしまった。できれば、足元でしわくちゃになってるワンピースの中に潜り込んでしまいたいような感じで、その身を低くする。
「おい、まだ終わりじゃないぞ」
そんな由奈を見下ろしながら、遼は冷酷な口調で続けた。
「立って、下着も全部脱ぐんだ」
しかし、由奈は答えない。きつく目を閉じ、ふるふると頭を振るだけだ。
「素直に言うことを聞いといた方がいいぞ」
そう言いながら、遼はまた由奈に近付いた。
由奈は、立とうとしない。
遼は、かすかな笑みを口元に浮かべながら、腰を曲げて、胸を隠している由奈の両手首を握った。
「あッ! いたァい!」
由奈が悲鳴をあげるのもかまわず、無理矢理に両腕を高々と上げさせる。
そして、片手だけを素早く離し、天井から下がる手錠式の手かせを、片方の手首にはめた。
「あああっ!」
由奈は、絶望に満ちた悲鳴をあげた。しかし、遼は一向に心を動かされない様子で、もう片方の手にも、銀色に光る手かせをがちゃりとはめる。
「やめて! 外して、外してェ!」
叫びながら、由奈は身をよじった。頑丈そうな鎖が、そのたびにじゃらじゃらと鳴る。
「暴れるな」
けして大声ではないが、ひどく低い声で、遼は由奈に言った。そして、懐から出したポケットナイフを、由奈の顔の前にちらつかせる。
「ひっ……!」
よく光る刃物に対する純粋な恐怖が、羞恥に勝った。由奈は体を堅くし、再び沈黙する。
遼はかすかに微笑んだまま、ナイフの平を由奈のむきだしの胸元に押し付けた。
「や、やめて……やめて……」
恐怖に声をわななかせ、目に涙をためながら、由奈が哀願する。
「じゃあ、これから大人しく言うことを聞くか?」
遼の問いに、由奈はきゅっと唇を噛んだ。そして、うつむいたまま、何も言おうとしない。
「顔の割には意外と強情だな」
何となく楽しそうにそう言いながら、ブラの肩紐を片方ずつ切断していく。
そして遼は、由奈の胸の谷間に、ナイフをそっと潜り込ませた。
「んッ!」
由奈の体が、さらに硬直した。
「動くな。動くと怪我をするぞ……」
言いながら、遼はナイフを手前に引っ張っていく。
「ああああァ……」
カップとカップの間の、くびれた布の部分をナイフが切断したとき、由奈は悲鳴をあげていた。
白い布切れと化したブラジャーが床に落ち、外界に開放された二つの乳房が、ふるん、と揺れる。由奈自身の無理な姿勢にもかかわらず、彼女の双乳は丸い形を崩さず、可憐な桜色の乳頭は上を向いていた。
「ブラの大きさが小さかったんじゃないか? 今までずいぶんキツかったみたいだぞ」
言いながら、遼は由奈の胸にそっと触れる。
「やああァ! さ、さわらないでェ!」
高い、子供のような声で、由奈が叫んだ。
遼はそんな悲鳴に全く動じる様子もなく、まるで重さを確かめるように、由奈の乳房の下に左手を当て、たぷたぷとゆすった。
柔らかさと、ほどよい弾力とを誇るかのように、由奈の乳房全体が大きく震える。
「いやァあああああ……」
由奈の声が、涙で濡れていく。
まるで、その声に聞きほれているように、口元に笑みを浮かべながら、遼はポケットナイフの刃を、由奈の腰の高さまで下ろした。
そして、ショーツのサイドにあたる部分を、左右とも切ってしまう。
「いやッ、いやァ、いやアぁぁぁぁッ!」
由奈は、脚をぎゅっと閉じた。歪んだ砂時計の形になった白いショーツが、その脚の間にぶら下がる。
遼は、ナイフをしまい、剥き出しになった由奈の恥丘に、そっと右手を置いた。左手は、相変わらず由奈の胸を弄んでいる。
由奈のそこは、完全に無毛ということはなかったが、ほとんどそれに近かった。細く柔らかい陰毛が、かすかなかげりとなって、ぷっくりとした丘の中心辺りに生えているに過ぎない。まるで幼女のそれのように閉じ合わさったクレヴァスの周辺は、なんとも犯罪的な風情をかもしだしている。
「胸はこんなにでかいくせに、ガキみたいなオマ×コだな」
身動きができない由奈の耳元にそう囁きかけながら、遼はその両手の指をそろそろと動かした。
「んんンッ」
由奈が、思わず悲鳴以外の声を漏らす。
遼の指が、触れるか触れないかの微妙な強さで、由奈の敏感な部分をくすぐりだしたのだ。野卑な言葉に似合わず、遼の指は繊細な動きで、ひどく優しいタッチである。
「どうだ、由奈……」
こころなしか、声の調子まで柔らかくして、熱い吐息を由奈の耳たぶに吹きかける。
「脚の力が抜けてるぞ……」
そんなことを言いながら、遼は、無残な切れ端となったショーツを、まるで手品師のような手つきでするすると引っ張った。
「あァ……」
ぱさ、と小さな音を立ててその白い小さな布切れが床に落ちたとき、由奈はがっくりとうなだれた。
今、由奈が身につけているのは、可愛げなデザインのソックスと靴だけである。考えようによっては、全裸よりも無残な状況だ。
「ふふっ」
小さく声に出して笑い、遼は右手の動きを再開した。手の平全体で恥丘を包み、クレヴァスをなぞるように中指でそっとこすりあげる。
一方、左手の指は由奈の白い胸の肌を丸く撫で、時々、桜色の乳首を指の腹で刺激した。
乳房が全体が大きいため、実際よりも小さく見える乳首が、半ば生理現象のように尖っていく。
そして、由奈のアソコは、透明な蜜をしっとりと分泌し始めていた。
「気持ちいいか? 由奈……」
遼が、穏やかな声で訊く。
「イヤ……イヤぁ……ヤダよぉ……」
弱々しくそんな声をあげている由奈の首筋に、遼は顔を寄せ、くちづけした。
「いやッ! イヤあ!」
由奈が激しくかぶりをふる。
突然、遼は由奈の胸とアソコに、爪を立てた。
「い、イタあアアアアアアアアアアアーッ!」
激痛に、由奈の体が跳ねる。
しかし、遼は容赦しない。左手で乳首をつまんでひねりあげ、敏感な粘膜を指で強く挟む。
「イタい、イタい、イタあああああァい!」
眉根を寄せ、鎖をじゃらじゃら鳴らしながら、由奈が暴れる。
「痛いのか? 由奈」
澄ました声で当たり前のことを訊く遼に、由奈は激しく肯いた。
「やっと素直になったな」
遼は満足そうに言って、ようやく由奈を解放した。
胸と股間に残る激痛の余韻に、由奈は肩で息をしている。
「奴隷はな、痛いときは痛い、気持ちいいときは気持ちいいって、素直に言うもんだ。分かったか?」
言いながら、遼は、頭一つ分以上低い位置にある由奈の顔に、自らの顔を寄せた。
涙を溜めた目で、由奈が遼の顔をにらみ返す。
「……あたし、ドレイなんかじゃない!」
そして、かすかに声を震わせながらも、そう言ってのける。
「そうか? ……でも安心しろ。俺がしっかり調教して、一人前の奴隷にしてやるよ」
「イヤぁ!」
由奈が、かみつくような勢いで叫ぶ。
しかし、遼の口元の笑みは消えない。
そして遼は、由奈から視線を外さず、ゆっくりとその背後に回りこんでいった。
由奈は、目に敵意と怯えを浮かべながら、その動きを追おうとするが、両腕を別々の鎖で拘束された身では、それもままならない。
遼は、背後からすくいあげるようにして、由奈の胸を両手に収めた。
「くっ……!」
屈辱と羞恥に染まった短い悲鳴を楽しみながら、やわやわと由奈の乳房を揉みほぐしていく。
「く……んんン……ふうッ……」
由奈は、何かに耐えるように、白い歯で下唇を噛みながら、自らの胸にくわえられている蹂躙に耐えている。しかし、その呼吸は次第に荒くなり、鼻から漏れる声は本人の意思と関係なく濡れていった。
遼は、由奈の髪の香りを嗅ぎながら、由奈の双乳を揉みしだき、ピンク色の乳首を軽くつまんだ。
「んんんんんン……ッ」
一時おとなしくなっていた乳首が、遼の指による刺激で、また堅く勃起してしまう。
そんな自分にとまどっているような表情を見せながらも、由奈は必死で声を漏らすまいとしていた。
遼が、右手を胸から離し、脇やへその周辺をそっとまさぐる。
そして、じれったくなるほど太腿の内側や恥丘の辺りをくすぐった後、遼の中指が、ゆっくりと由奈のクレヴァスに侵入していった。
「んくぅ……っ」
ぴくん、と由奈の腰が可愛く跳ねる。
「濡れてるぞ、由奈……」
その部分をまさぐりながら遼が言うと、由奈は耳までかあっと赤く染めて、うつむいた。
そんな由奈に聞かせるように、遼はわざとくちゅくちゅと音をたてながら、由奈の割れ目をこすり上げていく。
好悪の感情とは別の、生理現象としての快感が、由奈の下半身を甘く痺れさせていった。
「はァ、はァ、はァ、はァ……」
いつしか、由奈は唇を噛むのを止め、口を半開きにしながら、荒く短い息をついていた。閉じられた目の端で、長いまつげが震えている。
遼の右手は、巧みなタッチで由奈の未成熟な靡肉をまさぐり、快感のしるしの体液を分泌させていた。そして、左手はその間も休むことなく、左右の乳房を交互に揉んでいる。
「気持ちいいんだろ、由奈?」
耳たぶに熱い息を吹きかけながら、また、遼が訊く。
しかし、由奈はふるふるとかぶりを振った。二つにまとめられた長い髪が、その動きに合わせてゆれる。
遼は、薄く笑いながら、右手の動きを次第に速めていった。
「あ、あ、あァ、ああああああァッ」
とうとう、由奈は声をあげてしまった。
「んんッ、んあ、あ、あァあッ!」
そして、まるで自分の声に突き動かされたような感じで、かくかくと腰を動かしてしまう。
遼は、けして焦ることなく、しかし確実に由奈の感じる部分を刺激した。手の平全体で恥丘をさするようにしながら、中指が肉の割れ目をなぞり、最も敏感な肉芽を保護するフードを、親指で押し揉むようにする。
一方、その左手は柔らかな乳房の感触を楽しむように、由奈の胸を揉みしだき、その頂点の乳首を指で挟むようにして転がす。
「イ、イヤ、イヤぁ、イヤぁ〜ン」
由奈の抗議は、すでに甘たるく鼻にかかった声になっている。聞きようによっては、まるで背後の遼に媚びているかのような声だ。
「ああッ! な、何? イヤあ、こんな、こんなのって……ッ!」
眉を切なげに寄せ、ぎゅっと目を閉じながら、由奈は、未知の感覚の到来に、その小さな体をおののかせた。
「イキそうなのか? 由奈」
まるでイヤイヤをするかのように首を振りつづけている由奈に、遼が残酷に訊く。
「も、もうダメ。ダメ、ダメダメダメぇ〜ッ!」
ほとんど意味をなさない、切羽詰った由奈の声は、結局のところ遼の問いに対する答えになっていた。
「んあああああああァあーッ!」
高い、悲鳴のような声をあげて、由奈の体がきゅうっと硬直する。
そして、遼の腕の中で、ひくん、ひくんと何度か痙攣する。
「ふぁああァ……」
そんな声を漏らしながらがっくりとうなだれる由奈を、遼は満足そうな薄笑いを浮かべながら見つめていた。
由奈は、涙に濡れた空ろな目で、ぼおっと自分の足元を眺めていた。
くしゃくしゃになったピンクのワンピースの上に、快楽のしずくが数滴、落ちている。
遼は、そんな由奈の顔を、顎に指をかけ、くい、と持ち上げた。
「もしかして、イったのは初めてか?」
由奈は、答えない。ただ、怒りや憎悪を表すには力の足りない、恨みっぽい目で遼の顔をにらむだけだ。
「自分でしたことは?」
遼のあけすけな問いに、かぁっ、と由奈の頬が赤く染まる。
「おおかた、オナニーしててもイクのが怖くて途中で止めちまうんだろ」
当てずっぽうに近い遼の言葉に、由奈の顔がますます赤くなる。どうやら図星らしい。
しかし、由奈は何も言おうとしない。
「……素直に話ができるよう、おまじないでもしてやるか」
由奈に聞こえるようにそう独り言を言いながら、遼は部屋の片隅に歩いていった。由奈の位置からは、死角になる。
「……な、何するの?」
はっきりと恐怖に震える声で、由奈が訊く。
「俺の質問には答えないくせに、それはムシがいいんじゃないのか?」
嘲弄するようにそう言いながらも、遼は何か作業を続けているようだった。かちゃかちゃという何かの器具を操るような音に、蛇口から水を出す音などが混ざる。
「……?」
由奈には、見当もつかない。そもそも今日の今日まで、好きでもない男に体を弄ばれても、体は快感を覚えるのだということさえ知らなかったのだ。
「センパイ……助けて……」
ぽつり、とそう漏らした由奈の声を、遼は聞き逃さなかった。
「誰のことだ、そりゃ?」
言いながら、背後から由奈に近付いてくる。
「……」
由奈は、答えない。
「学校の先輩か……。それが、お前の王子さまなのか?」
「……」
「ま、いいさ」
そう言って、遼は由奈の尻の谷間に指を滑らせた。
「きゃン!」
思わぬ感触に、由奈が奇妙な悲鳴をあげる。
「これから、お前が素直な奴隷になれるよう、たっぷり薬を流し込んでやるからな」
身をよじって逃げようとする由奈のアヌスをまさぐりながら、遼が言った。
「え……?」
由奈の動きが、止まる。その由奈の菊門に、何か冷たいものが押し当てられた。
「ひゃッ!」
「動くな!」
思わず体を跳ねさせようとする由奈に、遼は厳しい声で言った。
「ヘタに動くと、ガラスが割れて尻の穴がずたずたになるぞ」
さぁーっ、と由奈の顔から血の気が引く。
「おとなしくしろ。……あと、できれば尻の穴を緩めるんだ」
そんなことを言われても、由奈の体は恐怖で硬直している。
遼は、まるで由奈の緊張をほぐそうとするかのように、その丸く小さなお尻を撫でまわした。ほんの少しだけ、由奈の力が緩む。
つぷっ
「きゃああ!」
由奈の裏門に、冷たい医療器具が挿入された。ガラス製の、シリンダータイプの浣腸器だ。
「たっぷり入れてやるからな」
実際は、入っている薬液はさしたる量ではない。しかし、由奈の恐怖と羞恥を煽るかのようにそう告げながら、遼はゆっくりとピストンを押し込んでいった。
「や、やだァ! 抜いてぇーっ! イヤ、イヤああああっ!」
体内に、生温かい薬液が逆流してくる感触に、由奈は悲鳴をあげた。しかし、敏感な直腸粘膜を傷つけられることへの恐怖からか、体はぴくりとも動かさない。遼の、なすがままだ。
「やめて、やめてよおぉ……」
由奈が、子供のような泣き声をあげる。
「人に何か頼むときは、もっと丁寧な言葉で言うんだ」
そんなことを言いながら、遼は慣れた手つきで、シリンダーの中の薬液を最後まで由奈の中に注ぎ終えた。そして、由奈のアヌスを傷つけないように、そっと浣腸器を抜く。
「んくぅ……っ」
理不尽な暴虐に怒る間もなく、由奈は重い苦痛に襲われた。
今まで感じたことのないような猛烈な便意が、じわじわとおなか全体に広がっていく。
「く、苦しいよォ……」
悪寒を伴う苦しみに、由奈は早々と泣き言を言った。白い歯が、かちかちと小さく鳴る。
「おいおい、こんなところで漏らすなよ」
涙をぽろぽろとこぼしている由奈に、遼が冷酷に言った。
「俺は、ちょっと準備をしてくる。帰ってくるまで、ちょっと待ってろ」
「え……そ、そんな……」
「すぐ戻ってやるよ」
情けない顔をする由奈に、にやりと口だけで笑いかけ、遼は地下室から出ていった。
「んぐゥ……う……んんん……ッ」
残された由奈は、手首を戒める手錠につながった鎖を握り締めながら、体内で悶え回る苦痛に耐えていた。
時間が経つにつれて便意は強まり、出口を求めて暴れ狂う。少しでも気を抜けば、それは由奈にとって破滅を意味した。
(は、早く来て……帰ってきてよォ……!)
いつしか、由奈は声に出さず、そう願っていた。もはや由奈が頼ることができるのは、伸びた前髪のために表情の読めない、あの冷酷な男しかいないのだ。
由奈のとっては、永遠に続くかと思われた時間の後、ようやく、遼が現れた。
「ほお……よく、我慢できたな」
「お、お願いッ……!」
由奈は、ひどく切迫した声で訴えた。
「コレ、外して……おトイレ行かせてぇ!」
「人に何かを頼むときは……」
「お願いですッ!」
みなまで言わせず、由奈は叫んでいた。
「お願いです。お、おトイレに……おトイレに行かせて下さい……!」
血を吐くような顔で哀願する由奈に、遼は妙に優しい顔で笑いかけ、ポケットから鍵束を取り出した。
そして、由奈を戒める手錠を外していく。
ようやく拘束から解かれた由奈だが、逃げるどころか、きちんと歩くことさえままならない。
「ほら、しっかりしろよ」
そう言いながら、遼は、小刻みに体を震わせる由奈を、部屋の一角にあるバスユニットに、なぜか左手だけで導いてやる。しかし、そのことを不審に思うほどの余裕は、由奈にはなかった。
「……!」
バスユニットの入り口で、由奈が、声にならない声をあげる。
その洋式の便器には、便座がなかったのだ。
「またげよ」
表情だけで何かを訴えようとする由奈に、こともなげに遼は言った。
由奈は、従うしかない。きつく目を閉じ、脚をみっともないがに股にして、ひんやりと冷たい便器をまたぐ。
「お、お願いします……出てって……見ないで下さい……」
水洗タンクを抱えるような姿勢で、しくしくと泣きながら、由奈は言った。
「遠慮するな……手伝ってやるよ」
言いながら、遼は由奈の左側に回り込み、左手でそっと由奈の腹を撫でてやった。
「ああああああああああああああ!!」
絶望に満ちた悲鳴を、由奈があげる。
派手な破裂音とともに、遼の目の前で由奈は大量に排泄した。
「やだアアアアアア、イヤだよおおお、イヤあああああああああああああああああああああああァ!!」
まるで、自分の声でその恥ずかしい音を聞こえなくしようとするように、由奈は大声で泣いた。
その声が、バスユニットの中で、哀しげに反響する。
「うあああアア……アアア……あうう……」
全て出し切り、放心状態のまま、涙だけを流しつづける由奈に代わって、遼が水洗レバーを上げてやる。
「ケツくらいは自分でふけよ」
そんなことを言う遼に、由奈はぼんやりと目を向けた。
「!」
たちまち、由奈の顔に絶望が蘇る。
遼が、右手にハンディタイプのビデオカメラを持っていたのだ。
ランニングランプが、無情にも赤く灯っている。
「そ……そんな……そんなァ……」
「安心しろ。別に誰に見せるわけでもないさ」
言いながら、遼はビデオカメラのスイッチをようやく切った。
「お前が、素直でいる間はな」
「……」
由奈は言葉もない。
「だが、お前が俺に逆らったり、自殺でもしようもんなら……分かるか?」
「やめてえ!」
ようやくそれだけ言った由奈を、遼は冷たく見つめる。
「や……やめて……ください……」
遼の意図を察した由奈は、力ない声で言い直した。
「それでいい」
そんな遼の声が、由奈の耳の中で、重く響く。
そして、重い扉のきしみと、鍵をかける音を残して、遼は地下室から出ていった。