「タケ坊、ちょっと」
リビングにしかないテレビを占領してゲームをしている時にナズナ姉にそう声をかけられ、俺は、思わず背筋なんか伸ばしてしまった。
姉たちの――とくにナズナ姉の“ちょっと”は恐ろしい。“ちょっと”では済まない用件であることが圧倒的に多いからだ。
しかも、俺は、サツキ姉やアヤメ姉と人様には言えないような関係を継続中であり、もしもそれをナズナ姉に質されたりでもしたら……。
「ねえ、聞こえてる?」
「う、あ、うん」
ギリギリと音が出そうなほど堅い動きで、俺は、ナズナ姉の方を向く。
学芸会の演劇か、はたまたコスプレのためにスーツを着て、たわむれに胸に詰め物をしている小柄な中学生――にしか見えない、伊勢里家の長女、ナズナ姉が、ぎゅっと眉を寄せ、ちんまりとした口をへの字にしている。
金曜日の夜とは思えないほどにご機嫌斜めのようで、ますます恐ろしい。弟というのは、姉の不機嫌にはどうしても敏感になってしまうのだ。
「えっと、何?」
「あのね、タケ坊……お姉ちゃん、知ってんのよ」
「はひっ?」
マンガなら、ギクッという擬音が響くとともに、冷や汗が飛び散ったであろう。と言うか、俺は、腋の下にマジで汗をかいてしまっている。
何を――いや、どこまで知ってるんだ? サツキ姉の方? アヤメ姉の方? それとも両方?
瞬間的に頭の中で何十周もグルグルと思考が回転するが、何をどのように言うべきかの結論は出ず、要するに、俺は脳内でプログラムがループしてフリーズしている状態だった。
ああ、いったい、俺はどうすれば――
「タケ坊、お姉ちゃんのプリン食べたでしょ」
「ふぇ?」
予想外の質問に、俺は、間抜けな声を上げてしまう。
「プリンよ、プリン。オペラ屋の限定プリン。お姉ちゃん、知ってるんだぞ」
「あ、ええと、それは――」
俺は、食べていない。サツキ姉が食べていたような記憶があるけど、もし冤罪だったら俺の立場は非常に悪くなる。それに、ナズナ姉が俺を犯人と決めつけているということは、サツキ姉も、そしてアヤメ姉も、起訴事実を認めなかったに違いない。
いろいろと――特に、このナズナ姉の不機嫌っぷりを考慮すると、ここは、俺が罪を被るしかなさそうだ。18年間も姉3人の下で弟をしていると、諦めばかりよくなってしまう。
「よく覚えてないけど、食べた、かもしれない」
「そう」
ナズナ姉は、短くそう返事をしてから、何ともいえない表情になった。
への字にしていた口を真一文字に戻し、瞳に、妙に真剣な光を宿しながら、俺をじっと見つめる。
「じゃあ、おわびに、お姉ちゃんの言うこと、ききなさい」
「あ、その……」
その内容による、と続くはずの俺の言葉にかぶせるように、ナズナ姉が言う。
「タケ坊――お姉ちゃんの彼氏になって」
「はい、これが、私の彼氏」
土曜日の昼下がり、俺は、都内の繁華街の駅前で、ナズナ姉にそう紹介された。
爽やかな服に身を包んだイケメンのお兄さんが、はぁ、と声を上げる。
「あ、どうも、ええと、タケダです。伊勢里さんの――ナ、ナズナちゃんの彼氏です」
見えない角度で太腿をつねられ、俺は、声が裏返りそうになるのを堪えつつ、言った。
「――嘘じゃなかったでしょ」
「いや、その、僕は疑ってたわけじゃ――」
「とにかく! 私には彼氏がいるんです。そういうわけで、もう、連絡とかやめてください!」
ナズナ姉に鞭で打たれるような口調で言われ、イケメンお兄さんが、しょぼんとした顔で俺の方を見る。
俺は、異様なほどの居心地の悪さを感じながら、きょどきょどと宙に視線をさ迷わせた。
「さ、タケダさん、行こっ」
ナズナ姉が、俺を偽名で呼んでから、ぎゅっと腕を抱え、歩き始める。
俺は、弾みで思いきりよろけつつ、イケメンお兄さんにへこへこと会釈をしてその脇を通り抜けた。
ちょうど青になっていたスクランブル交差点を、たくさんの人ともに、ナズナ姉はずんずんと進む。組まれた腕が解けていない以上、俺は、それについていかざるをえない。
「あ、あのさ、ナズナ姉」
「ちょっと、黙って」
じろり、と俺を睨んでから、ナズナ姉が、素早く背後に視線を送る。
「……たぶん、後をつけてる」
「んなことするような人には見えなかったけど?」
「するようなヤツなの! あいつ、ストーカーなんだから!」
「…………」
取引先の会社で知り合った男の人に何度か誘われただけだっていうのに、何て大袈裟な。
しかし、俺が何を言っても、ナズナ姉は自説を翻したりはしないだろう。姉にとって、6歳年下の弟など、世間知らずの子供でしかないというわけだ。
外見上は、むしろ、こっちが6歳年上なんだがなあ……。
しかし、いくら姉とはいえ、いもしない彼氏のふりを弟にさせるなんて、横暴が過ぎるんじゃないか?
そんなことを考えながら、俺は、ナズナ姉に腕を引かれるまま、大通りから、上り坂の路地に入る。
えっと、ここは……
「――あいつ、まだいる」
「え?」
「振り返らないで」
反射的に後ろを確認しようとした俺に、ナズナ姉が、鋭い口調で囁く。
「ここ、入るよ」
「はぁ?」
「あいつに諦めさせるの。ほら、早く」
「いや、だって、ここは――」
言いかける俺を、ナズナ姉は、その建物――ご休憩4,560円のラブホテルの中に、強引に引っ張り込んだ。
「ここに一緒に入ったところを見たからには、あいつも諦めるでしょ」
「…………」
俺は、返事をしないことによって、ナズナ姉の言葉に同意していないことを表明する。
もちろん、あの爽やかイケメンお兄さんが、ナズナ姉が考える以上に偏執的なストーカーであると言いたいわけじゃない。そうではなく、問題のお兄さんは、俺達がスクランブル交差点を渡る前に姿を消してしまったと思うのだ。
でも、まあ、これでナズナ姉の気が済むのなら、ご休憩分の代金を払ってこのラブホテルに入った意味も、無いわけじゃない。
そう思いながら視線を向けると、ナズナ姉と目が合った。
これは……ちっとも気が済んだというような顔じゃない。むしろ、何というか、これから成人の儀式のためにバンジージャンプを決めなくてはならない、というような、そんな表情を浮かべている。
「……タケ坊」
俺の方をじっと見つめたまま、ベッドに座るナズナ姉が口を開いた。
「な、何?」
「えっと、その……」
自分から声をかけてきたくせに、ナズナ姉が言いよどんでいる。
「だからさ……タケ坊は、何とも思わないわけ?」
「それは、さっきの人のこと?」
「そうじゃなくて――いや、でも、それを含めてでもいいんだけど、要するに――こういうところで、お姉ちゃんと二人っきりということについて――」
ナズナ姉が、視線を落としながら、頬を赤くしていく。
「へ?」
「何でもないっ!」
大きな声でそう言って、ナズナ姉は、俺に枕を投げ付けた。
顔面を直撃しかけたそれを、俺は、両手で受け止める。
「シャワー浴びるから!」
そう宣言して、ナズナ姉は、バスルームへと向かった。
その目尻がきらりと一瞬光って見えたのは――そこに、涙が浮かんでいたからだろう。
「…………」
俺は、小さく嘆息し、枕をベッドに戻した。
もう……知らん顔はできない。これ以上、鈍感なふりを続けるのは、欺瞞を通り越して罪悪ですらある。
同じように罪を犯すのなら、せめて――
俺は、素っ裸になってから、ナズナ姉に続いてバスルームのドアを開けた。
シャワーを浴びているナズナ姉は、俺の存在に気付いているはずなのに、振り返らない。
俺は、ナズナ姉の小さく白い背中に体を寄せ、ほんの少しだけためらった後、その両肩に左右の手をそれぞれ置いた。
「……ごめん」
そう言った瞬間、ナズナ姉がくるりと振り返り、ぎゅっ、としがみついてきた。
「――好き」
俺の鳩尾辺りに額を押し付けながら、ナズナ姉が言う。
「好き。好きなの。タケ坊のことが好きなの! ずっと、ずっとずっとずっと好きだったのっ!」
堰を切ったように、ナズナ姉が、声を浴室に響かせた。
絶対に何か恨み言を聞かされると予想――というか覚悟していた俺は、ちょっと面食らってしまう。
そして、そんな自分自身についてさらに反省を重ねてから、俺は、ナズナ姉の華奢な体を抱き締めた。
幼児体型と言ってもいいくらいの体に不釣り合いなバストが、俺の腹に押し付けられている。
高まっていく胸の鼓動を自覚しながら、俺は、ナズナ姉の頬に手を当てた。
ナズナ姉が、俺の意図を察したように顔を上げ、そして、目を閉じる。
そして、俺とナズナ姉は、シャワーの湯滴を浴びながら、唇を重ね合った……
ベッドに、ナズナ姉の体が横たわっている。
俺は、覆いかぶさるような格好で、ナズナ姉を見つめた。
小さくて、華奢で、そして可愛い体――だからこそ、お椀型の乳房の膨らみは、扇情的なまでに強調されている。
言うまでもなく、二人とも、バスルームから出た時のままの全裸だ。
だから、完全に勃起してしまっているペニスを、隠しようがない。
そして、ナズナ姉は、浅ましい反応を示している俺の器官へ、興味深そうに、ちらちらと視線を向けていた。
「タケ坊のって、えっと、平均よりおっきいの?」
「さあ、比べ合いとかしたことないし」
「あ、しないんだ」
意外そうに、ナズナ姉が言う。
「男の人って、すごくサイズを気にするイメージがあるから、事あるごとに比べてるのかと思った」
「しないって」
吹き出しそうになるのをこらえながら、俺は言った。
ナズナ姉自身も、何だか悪戯っぽい笑みを浮かべている。
もしかして、お互いの緊張をほぐそうとして、あえて冗談を言ったのかもしれない。
姉ちゃんにはかなわないなあ、と思いながら、俺は、ナズナ姉の体に体を重ねた。
「ん……チュ……」
柔らかな唇に、唇を当てる。
すると、下から、ナズナ姉が俺にしがみついてきた。
「ん、んっ、んっ……! んちゅ、んんっ……!」
ナズナ姉が、強く唇を押し当ててくる。
この姿勢で、ナズナ姉をつぶさないように体を支えているのは、ちょっとキツい……というわけで、俺は、左側を下に横臥し、ナズナ姉の体を横抱きにするような格好になった。
その間も、ナズナ姉は、唇で俺の唇を追いかけ、キスを続けようとする。
「ん……ぷはっ……!」
ようやく唇を離してくれたナズナ姉の胸を、俺は、右手で緩やかにまさぐり始めた。
「ふゎ……あ、あふ……んっ……んうっ、んっ……は、ふン……」
ナズナ姉が、かすかな声を漏らす。
手の平からこぼれそうなほどに豊かな乳房の感触に興奮しながら、俺は、愛撫を続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ……あ、あうン……んく、ううン……も、もうっ……タケ坊、おっぱいいじりすぎ」
「あ……痛い、かな?」
「別に、そういうわけじゃないけど……お姉ちゃんは、キスの方がいい」
唇を尖らせ気味にしてストレートな要求をするナズナ姉に、思わず笑ってしまう。
そして、俺は、折衷案として、胸を揉み続けつつ、ナズナ姉に再びキスをした。
「んっ……んちゅ……んっ、んふン……ん、ん……んふ……んんん、んふ、んちゅっ……んふン、んく、んふぅン……」
ナズナ姉が、甘く鼻を鳴らしながら、体をくねらせるようにして胸への愛撫に反応する。
俺は、指先で乳首を転がすように刺激しながら、唇だけでなく、頬や額にキスを繰り返した。
「ひゃうっ……あっ、あふ、あ、ああぁン……ん、んふ、んちゅ……んんんっ、んんぅ……」
ナズナ姉の乳首が、堅くしこっていく。
さらに、軽く引っ掻くように愛撫すると、ナズナ姉は、大きく体をのけぞらせた。
「んああっ……! あっ、やっ、やだっ、もう……! あ、ああン! んく、あううっ……!」
ナズナ姉が、小さく丸めた拳で、俺の頭をポカポカ叩く。
俺は、その攻撃を甘んじて受けながら、頭の位置をずらし、ナズナ姉の乳首を口に含んだ。
「ひゃうっ!」
ナズナ姉が、全ての体の動きを止める。
唇に当たる柔らかな感触に誘われ、俺は、はむはむとナズナ姉の乳房を口で堪能した。
まるで、特大のマシュマロを味わっているような、そんな気持ちになる。
「んひゃ、ひゃああン……こらぁ、お姉ちゃんのおっぱい食べないでよぉ……は、はふっ! あ、あ、あっ、あううン……!」
体をよじるようにしながら、ナズナ姉が声を上げる。
その脚の付け根に、俺は、そっと右手を伸ばした。
「あっ……!」
粘膜の部分に指先が触れたとたん、ナズナ姉が、驚きの表情を浮かべる。
俺は、触れるか触れないかという微妙なタッチで、ナズナ姉のそこを上下になぞった。
ナズナ姉の割れ目が、徐々に、湿り気を帯びてくる。
「んく……あ、あううン……はっ、はっ、はふ……んううっ……! ああン……そ、そんな……そんなとこぉ……んううっ、あふぅ……」
俺は、喘ぎ声を上げるナズナ姉の乳首に吸い付き、舌を回すように動かして舐め回した。
ナズナ姉のクレヴァスから、さらなる愛液が漏れ出る。
その繊細な部分を傷つけないよう注意しながら指を埋めると、熱く柔らかな感触が第一関節から先を包み込んだ。
「はぁ、はぁ、あふぅ……やだ、ゆ、指、入れてるの……?」
「うん、先っぽだけ」
「も……もしかして、他の何かも、入れたいとか考えてる?」
そう尋ねてくるナズナ姉の瞳は、うるうると潤んでいる。
自らが小柄なことを意識してか、普段、必要以上にお姉さんぶるナズナ姉が、今、どんな覚悟を決めているのか――そういうことを考えること自体、ナズナ姉に言わせれば、弟としての分をわきまえない生意気ということになるだろう。
だから、俺は、ナズナ姉のその部分をさらにまさぐりながら、言った。
「うん……これ、入れたい」
そして、すでにいきり立っている肉棒を、ナズナ姉の意外とムッチリしている太ももに押し付ける。
「あんっ、もう……先っぽ、ヌルヌルじゃない……タケ坊のエッチ……」
頬を赤く染めながら、ナズナ姉が、濡れた瞳で俺の顔を見つめる。
「……いい?」
「しょうがないなあ……い、いいよ……」
ナズナ姉が、んくっ、と白い喉を動かして唾を飲み込む。
俺は、体を起こし、ナズナ姉の丸い膝に手を当てて、ゆっくりと開いた。
「ああっ……」
ナズナ姉が、両手で顔を隠しかけてから、思いとどまったように、その手を口元に当てる。
可愛い……はっきり言って、ナズナ姉のことをこんなに可愛いと思ったのは、生まれて初めてだ。
いや、本当は気付いてた。気付いてたけど、ナズナ姉が嫌がるから、あえて意識してなかったんだ。
でも、もう、自分の気持ちを隠しきれない。
「姉ちゃん……すげー可愛いよ……」
「んっ、も、もうっ、生意気っ!」
ナズナ姉が、手の届かない俺の頭の代わりに、俺の左手をペチンと叩く。
その仕草にますます心臓の鼓動を高めながら、俺は、すっかり愛液に潤んでいるナズナ姉のワレメに、ペニスの先を押し当てた。
「あ、あっ……やだ、すごく硬い……」
赤く張りつめた亀頭の感触に、ナズナ姉が、ちょっとだけ怯えたような声を漏らす。
俺は、愛液を馴染ませるように、ぷっくりとしたナズナ姉の秘部にずりずりと肉棒を擦り付けた。
「ひゃううっ……あ、あっ、あううっ……ハァ、ハァ、んく……あ、あふぅ……んんんっ……」
ナズナ姉が、悩ましげに眉をたわめる。
「んっ、んくっ、んううっ……あっ、あっ、あふぅ……ど、どうしたの……? ん、んんんっ、え、遠慮しなくてもいいんだぞ……?」
「いや、遠慮とかじゃなくてさ……このまますぐ入れちゃうの、もったいなくて……」
「もうっ、何言ってんのよ……んっ、んっ、んく……ねえ、早く……」
「でも……」
このまま欲望の赴くままに挿入してしまったら、ナズナ姉のい華奢な体を傷付けてしまうんじゃないか、という懸念が、ここにきて俺をためらわせる。
「いいからさっさとしなさいよ……男の子でしょ? 早くしてくれないと……お、お姉ちゃん、ドキドキしすぎて死んじゃいそうっ……!」
「姉ちゃん……!」
かーっと頭に熱い血が昇るのを感じながら――俺は、さらにいきり立ったペニスを、ナズナ姉の小さな膣口の中に侵入させた。
「ひぐっ……! うっ、うぐ……んあ……あ、ああああぁぁぁ……」
眉根を寄せて声を上げるナズナ姉の中に、ゆっくり、ゆっくり、肉棒を沈める。
まるで、熱いお湯の中に挿入しているかのような鮮烈な刺激が、俺のモノを先端から包み込んだ。
結合部の狭間から、純潔の証である血が滲み、シーツに小さな赤いシミを落とす。
「う……うぐ……い、痛っ、痛ぁ……! ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとタンマ! ねえ、待ってっ!」
「あ、う、うん」
ペニスを半ばまで入れたところでナズナ姉に言われ、俺は、動きを止める。
「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ……」
ナズナ姉が、天井を見つめながら、しばし、息を整える。
「はふ……お、落ち着いた……ごめんね、タケ坊。もうだいじょぶ」
ナズナ姉が、目尻に浮かんだ涙をそっとぬぐいながら、にっこりと笑う。
「ナズナ姉……」
「ほら……もう、ここまで来たんだから、最後までビシッと決めなさいよ」
「わ――分かったよ」
高校受験終盤で音を上げそうになっていた時も、こんなふうに励まされたっけ……。
そんなことを頭の片隅で思い出しながら、俺は、さらに腰を進ませた。
「うううっ……んぐ……あっ、あっ、すご……んぐ……ああっ、あううっ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
さっきよりも、ナズナ姉の声や表情に浮かぶ苦痛の色は、薄い。
そして、ペニスを進めれば進めるほど、あの熱いくらいの快感が、大きくなっていく。
「ナズナ姉……は、入ったよ……」
残り一割を残して膣内の最奥部までペニスを挿入させてから、俺は、ナズナ姉の体に覆いかぶさった。
「うん、分かるよ……お姉ちゃんの中、タケ坊のでいっぱいになってる……」
ナズナ姉が、囁くような声で言って、俺の背中に手を回す。
俺は、うっすらと滲んだ汗で数本の前髪が貼り付いたナズナ姉のおでこにキスをしてから、恥骨と恥骨を擦り合わせるように、腰を動かし始めた。
「んあっ……あっ、や、やっ、ああっ……あっ、やだっ……あ、あふっ……あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……」
クリトリスを刺激されて感じているのか、ナズナ姉が戸惑ったような喘ぎを上げる。
ペニスを包み込む感触にヌメリが増していくのを感じながら、俺は、さらに腰を使った。
「ひゃっ……! あ、あっ、あぁん……! あっ、そ、それ、ダメっ……あん、ダメぇ……あっ、あううっ、んく……あっ、あふっ、んふ、あ、ああン、ああぁン……!」
ナズナ姉の声が、どんどん甘くとろけていく。
そのことに夢中になりながら、俺は、次第に、腰の動きを大きくしていった。
「はぁ、はぁ、はぁ、あ、あン……やっ、やんっ、あああン……! はっ、はふっ、あふ、あ、あふぅ、やああっ……! は、はひ、んひ、あひぃン……!」
「ナズナ姉……感じてる……?」
「あっ、あっ、んぐ、タ、タケ坊は、どうなのっ? あ、あン……!」
「俺は、すごい気持ちいいよ……むちゃくちゃ気持ちいい……」
感じているままを正直に言いながら、なおも、肉棒を動かす。
ナズナ姉の膣肉が、快感ではち切れそうになっている俺のペニスを、ギュッ、ギュッ、と締め付けている。
「あっ、あぁン、あふ、んううン……! あっ、あっ、あふ、あううっ……! ハァ、ハァ、ハァ、んああ、やン、やン、ああぁン……!」
ナズナ姉が、可愛らしく喘ぎながら、下から俺にしがみつく。
さらには、その両脚までもが、俺の腰に絡みついていた。
そのままの体勢で、俺は、小刻みに腰を使う。
ストロークは短いものの激しいピストンが、熱い快楽を紡ぎ出し、俺とナズナ姉の下半身を融合させた。
「ね、姉ちゃん……もう、出そうっ……!」
体内で急激に膨らむ射精への欲求に、俺は、思わず情けない声を上げてしまった。
「んっ……い、いいよっ……! ハァ、ハァ、そのまま……出して……いいからっ……!」
まるで、俺を逃がすまいとするかのように背中に爪を立てながら、ナズナ姉が言う。
「ナズナ姉ッ……!」
俺は、ナズナ姉の体をきつく抱きしめながら、ペニスを根元まで膣内に捻じ込み、欲望を解放した。
「ンあああああああああああああああああああああああッ! あッ、あッ、熱ッ! 熱いーッ! あッ! あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁーッ!」
ナズナ姉が、俺の腕の中でビクビクと痙攣し――いきなり右の肩に噛み付いてくる。
「ふぐッ! んッ! んんーッ! んぐ! んぐぅーッ!」
痛みを感じるよりも先に、ナズナ姉によってもたらされた刺激に体が反応し、俺は、繰り返し、膣内にザーメンを放ってしまった。
「んっ、んぐっ、んぐぅうううう……! ぷはッ!」
ようやく、ナズナ姉が、俺の肩から口を離す。
「はッ、はッ、はッ、はッ、はッ、はッ……ふゎ……ンにゃあああぁぁぁ……」
ひくっ、ひくっ、と体をおののかせながら、ナズナ姉が、猫みたいな声を上げる。
俺は、そんなナズナ姉の上で、ぐったりと体を弛緩させてしまった。
どかなくちゃ、とは思うものの、体が、思うように動かない。
「んふ……タケ坊、汗びっしょり……がんばったんだね……ふふふっ……」
そう言って、ナズナ姉が俺の髪を撫で――全身が敏感になっていた俺は、さらなる精液を、ナズナ姉の膣内に漏らしてしまったのだった……。
「あのね、タケ坊」
先に着替えを始めたナズナ姉が、俺の方を振り返りながら、意味ありげな笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん、知ってんのよ」
「はひっ?」
すっぽんぽんでパンツを探していた俺は、その格好のまま、全身を凍り付かせてしまう。
「し、知ってるって、何を?」
「ぜ・ん・ぶ♪」
妙に余裕のある表情で、ウィンクまでかましながら、ナズナ姉が言う。
「だから、今夜は、かなりの修羅場を覚悟するんだぞ」
「そ、それは、その……え、え、ええと……」
「んっふっふっ、頑張れ! 潜った修羅場の数だけ、男の子はナイスガイになれるんだからね」
「――――」
もう、俺は、何も言えない。何を言っていいのか見当すらつかない。
ただ、いずれ付けなければならない決着を付ける時が到来したのだということを、いやが上でも理解する。
そして、本来であれば自分で決めるべきだったその時期を、姉によって、無理矢理に決められてしまったことを――
「うぅ……」
小さく唸るような吐息が、自然と漏れる。
そんな俺のことを、すでに身だしなみを整えたナズナ姉は――なぜか、妙に満足そうな目で見ていたのであった。