第6章
一年前の、春。
遼は、中学校の校門の前に立っていた。
路上に駐車している、軽快そうなツードアの外車にもたれかかるような姿勢である。
黒いワイシャツに、やはり黒いスラックス。そのスラックスのポケットからは、キーホルダーに繋がっているらしい細身の鎖がのぞいている。伸びた前髪が、表情のほとんどを隠している。どう見ても、まともな職業の人間ではない。
学校の方でも、警察への通報を真剣に検討しただろう。しかし、遼はほどなく目的の人物に出会うことができた。
「お兄ちゃん!」
学生服姿の円が、大きな声を上げた。まだ声変わりしていないのか、まるで同年代の女の子のような声である。栗色の髪が男子中学生としてはやや長めなため、美由紀にそっくりのその顔も、まるでショートカットを伸ばしかけた少女のように見える。
「円……。元気か?」
「げ、元気、だけど……どうしたのお兄ちゃん。今まで、どこ行ってたの?」
遼に小走りで駆け寄り、目に涙を溜めながら、円が訊く。
「ママ、心配してたよ……もちろん、ボクもだけど」
「親父と小夜歌は、そうでもなかったろ?」
遼がそう言うと、図星なのか、円はちょっと言葉に詰まったようだった。
「そうかもしんないけど……でも、内心では心配してると思うよ。多分」
「ありがとよ……」
遼は軽く笑みを浮かべ、そして、すぐに真剣な顔に戻った。
「美由紀さん、亡くなったんだってな」
「うん……おととしの、冬……」
「そうか……」
きり、と遼の口元から音が漏れた。きつく歯と歯を噛み合わせた音だ。
「あの人には、いろいろ迷惑かけたからな……ずいぶん遅れたけど、墓参りしようと思ったんだ。案内してくれるか?」
「うん、いいよ。……あ、だからお兄ちゃん、そんな真っ黒な格好なの?」
円の無邪気そうな言葉に、遼は苦笑いした。
さわさわと風に葉桜が鳴る中、遼は墓参を済ませた。
街から少し離れた、閑静な墓地である。駐車場には、遼のもの以外、車は一台も止まっていない。
遼は、駐車場の端にある自動販売機で缶コーヒーを二つ買い、一つを円に投げ渡した。そして、運転席に滑り込む。
「ありがと」
そう言いながら、円も助手席に座った。
「お兄ちゃん……家に、戻ってくるの?」
シートにもたれ、ブラックの缶コーヒーを飲んでいる遼に、円は声をかけた。
「まさか」
遼が、軽く苦笑いをする。
「今更、親父と一緒に暮らすつもりはないよ」
「ふぅん……」
「小夜歌も、その方が喜ぶだろうしな」
「そうかなァ……」
円は、フロントガラス越しに視線を宙にさまよわせた。五月晴れの空の中、カラスが呑気そうに飛んでいる。
「お兄ちゃんが気にしてるほど、お姉ちゃんはお兄ちゃんのこと、嫌ってないと思うけど」
「どうだかな」
そっけなくそう答えて、遼はちらりと円を盗み見た。その視線が、遼の方に向き直った円の視線とぶつかる。
「おっきくなったな、円……」
柄にもなく、照れたような笑いを口元に浮かべながら、遼は言った。
「お兄ちゃんが出ていった時、ボク、まだ小学校三年生だもん」
「そうだな……。それにしても、ますます美由紀さんに似てきた」
遼のその言葉に、円は、はっとするような笑みを浮かべた。その可愛らしい顔に似合わない、妖艶な、とでも言った方がいいような微笑みである。
「……ボクね」
どこか濡れたような声で、円は語りだした。
「ボクね、ママの代わり、してるんだ……」
「なに……?」
遼が、前髪に隠された眉を曇らせる。
「見る?」
そう言いながら、円はかすかに頬を赤く染め、制服の上のボタンを、細く白い指で丁寧に外し始めた。
そして、完全に学ランの前をはだけると、今度は純白のワイシャツのボタンを、上から順々に外していく。
「円、お前……」
遼は、不覚にも絶句していた。
円はワイシャツの下の胸に、白いサラシの布を巻きつけていたのである。
「暑苦しいから、これ、外すね」
そう言いながら、サラシをくるくると取り去っていく。
その下から現れたのは、まだ成長途上とはいえ、はっきりと分かるほどに膨らんだ乳房だった。同年代の、早熟な少女のそれと、ほぼ同じくらいのボリュームを有している。
もともと円は、骨格や肉付きからして、男くささが微塵もない上、喉仏も出ていない。その姿はまるで、中学生の女の子が、戯れに学ランを着て男装しているようにしか見えなかった。それも、とびきりの美少女が、だ。
「それは……」
「パパが、ボクにいろいろ、お薬を注射してね、それでこうなったの」
恥ずかしそうに顔をうつむかせ、それでもまだ微笑みを浮かべながら、円は言った。
「最近じゃ、ぜんぜん薬は使わないんだけど、おっぱいがどんどんおっきくなってるんだ……。パパは、フカギャクキに入ったから、もう薬は必要ないんだって言ってた。何だろうね、フカギャクキって」
(不可逆期……?)
遼は、声に出さないように呟いた。
(もう……もとには戻らないということ、か……)
「お兄ちゃん、目がコワイよ」
「……親父は……お前を抱いたのか?」
遼の問いに、円は、こくんと肯いた。
「ボク、ママの代わりだからね」
遼は、空き缶を握る拳が白くなるほど力を込めた。ぱき、という音とともに、スチールの缶がへこむ。
「……学校は、大丈夫なのか?」
「体育の授業や、身体検査なんかは、パパが書類を用意してくれたから、どうにかなったけど……でも、もうダメだと思うよ」
「ダメ?」
「胸はなんとか隠せても、やっぱり、何か違うって分かっちゃうからね。多分、そろそろイジメか何かにあっちゃうんじゃないかな」
あっけらかんとした口調で、円は言ってのけた。
「でも、そうなったら、あんまりヒドイ目に合わないうちに、登校拒否するんだ。そしたら……パパは、ボクのオチンチン、手術して切っちゃうんだって、言ってた」
ふふふっ、と円は、屈託のない笑みを漏らした。明るい、そしてどこかしら壊れた笑い声だ。
「そしたらボク、本当に女の子になっちゃうのかなあ……」
遼は、自分でもうろたえるくらいに、荒い息をついていた。歯が、きりきりと音をたてている。
カラスが、意外なほど近くで、一声鳴いた。
数週間後、結城秋水の死体が、山道の路肩で半壊したハイヤーの中で、発見された。
しとしとと、小さな音を立てながら雨が降っている。
すでに、街は梅雨に入っていた。
遼の部屋。
椅子に座る遼の正面に、小夜歌が立っていた。黒いセーラー服にフレアスカート、そして赤いスカーフという制服姿だ。
ちょうど、二人の父、秋水の納骨が終わったところである。が、遼は出席しなかった。普段、何の付き合いもない親戚達が、秋水の遺体の入った棺を霊柩車に積むのを、窓から眺めていただけである。
その親戚達も帰っていった。そして、小夜歌がこの部屋を訪れたのだ。
遼は、小夜歌から目をそらすように顔を横に向け、相変わらず窓の外を見ている。
「発表じゃ、事故死だろ。事故による、全身打撲」
遼が、囁くような声で言った。
「……あたしは信じないわ」
小夜歌は、きつい目で、遼の横顔を睨んでいる。
「あいつは、あんたに殺されたのよ」
「……あいつ呼ばわりか。仮にも親父だぜ」
ふっ、と遼は、唇を笑みの形に歪めた。
そして、その表情のまま、ゆっくりと小夜歌に向き直る。
「で、その『あいつ』が俺に殺されたんだとしたら、小夜歌はどうするんだ?」
そう言いながら、遼はすっくと立ち上がった。その動きに、びくっ、と小夜歌の体が震える。
「敵討ちでもするのかよ」
「まさか」
身のうちから湧き上がってくる震えを押し殺すように、小さな拳を握り締めながら、小夜歌は言った。
「ただ、確かめたいだけよ。あたしの家族とやらが、どんなにメチャクチャなものかってことをね」
「……」
遼は、ゆっくりと小夜歌に歩み寄った。その顔からはあらゆる表情が消え、長い前髪の間からのぞく目が、半目に閉じられている。
「な、何よ……」
小夜歌は、振り絞るようにそう言った。その声がかすかに震えている。足がすくんで動けない様子だ。
遼は、右腕で小夜歌の左の腕を取っていきなり引き寄せた。
「んッ!」
そして、左腕でその細い体を抱くようにして、強引に唇を奪う。
「んんッ、んッ、んんーッ!」
小夜歌は、遼の腕の中で必死にもがいた。しかし、遼は左手で小夜歌の後頭部を押さえ、左右の腕でがっちりと動きを封じている。
「ッ!」
不意に、遼は口を離した。その口の端から、赤い血が一筋垂れている。口内に侵入した遼の舌に、小夜歌が噛みついたらしい。しかし、遼の腕は小夜歌の体を絡め取ったままだ。
「な、何すんのよッ!」
小夜歌は勝気に叫んだ。しかし、その切れ長の大きな目の端には、さすがに涙が溜まっている。何と言っても、まだ中学三年生なのだ。
「どういうつもり? 離してよ! 早く離してっ!」
そう言いながら、体と体の間に挟まれた右腕で、どうにか遼の体を押しのけようとする。しかし、遼の体はびくともしない。
と、いきなり遼は小夜歌の体を床に投げだした。
「あっ!」
厚手のじゅうたんが敷かれているとはいえ、遼の力は容赦がなかった。倒れた衝撃で、小夜歌の動きが止まる。
床に尻をつき、両手で体を支えている小夜歌を、遼はのしかかるようにして押し倒した。
「や、やめてよ! やめて! いや、いやーッ!」
そんな悲鳴に構わず、遼は左手一本で小夜歌の両手首を握り、彼女の頭の上で床に押し付けた。そして右手を、小夜歌の白く細い首に当てる。
「ひっ……」
小夜歌は小さく悲鳴を漏らした。遼の指に、強く力が込められたのだ。
(殺される……!)
恐怖に、小夜歌は全身を強張らせた。
と、遼は右手を離し、優しく小夜歌の頬を撫でた。
「え……?」
小夜歌が目を見開いて驚くその隙に、遼は素早く右手を動かし、小夜歌のフレアスカートのホックを外した。そのまま、強引にスカートを引き摺り下ろす。
「あ、や、ヤダ、ヤダーっ!」
まるで一度も日の光を浴びたことがないような、白い太腿があらわになる。その付け根には、白いシンプルなデザインのショーツがあった。
遼の意思がどこにあるのかを知った小夜歌は、スカートを膝にまとわりつかせたまま、きつく足を閉じ合わせる。
「んっ!」
小夜歌は、思わず声を上げてしまった。遼の指が、セーラー服のすそをはだけ、脇腹をくすぐったのだ。
「や……ヤダぁ……さわらないで……!」
小夜歌の抗議の声に耳を貸す様子もなく、細くしまったウェストやへその周囲などを、指の腹や爪の先などで、さわさわと撫でていく。音楽家が楽器を操るよりも繊細で微妙な手つきが、小夜歌の早熟な官能を炙ってゆく。
「あぁっ……」
小夜歌が、絶望的な声を上げる。
遼が、セーラー服を大きくたくし上げ、ブラジャーに包まれた胸を剥き出しにしたのだ。
そのカップを軽くひと撫でして、遼はブラのフロントホックを片手で器用に外す。
「あぁっ……バカ! やめてよぉッ!」
そう言う小夜歌の声は、もはや泣き声に近い。
遼は、ブラのカップをのけた。手のひらにちょうど収まるくらいの小ぶりな乳房の頂点で、桜色の小さな乳首がつつましやかに顔を覗かせている。
ぎゅっ、と力を込めて、遼が小夜歌の胸のふくらみに指を食い込ませた。
「いたぁい!」
敏感な部分を乱暴にされて、小夜歌が涙をこぼしながら叫ぶ。
一転、遼は、右手の指で、小夜歌の左の乳首の周りを、優しく撫でた。
「うン……」
その絶妙なタッチに、小夜歌は思わず声を上げていた。
遼は、触れるか触れないかの微妙な感触を維持しながら、五本の指で小夜歌の左の乳房全体を愛撫する。
「やめて……やめてよぉ……」
小夜歌の声から、次第に力が失われていった。その代わりに、だんだんと呼吸がせわしくなっていく。
遼の指が、小夜歌の乳首を優しくつまみ、鳥がエサをついばむような感じで引っ張り、刺激する。
「ンッ……ん……んふ……んんン……」
小夜歌の意思とは関係なく、まるで甘えているように鼻が鳴ってしまう。
再び、遼は小夜歌の唇に自らの唇を重ねた。
唇の間を割り、歯をこじ開けるようにして、口内に舌を侵入させる。そして、舌に舌を絡め、口蓋を細かくくすぐる。
小夜歌は、全身から力が抜けていくのを感じていた。
(あぁ……ダメ……これ以上されたら……もう……)
いつの間にか、遼の右手はショーツに潜り込んでいた。小夜歌は足を閉じて抵抗するが、その力は哀しくなるくらいに弱々しい。
遼の中指が、縦に割れたスリットを強引に這い進む。そこは、すでに熱いぬめりを分泌していた。
中指を、割れ目に沿って上下に動かす。
「んんっ……んん! んん、ん、んんんん〜ン……」
ディープキスによって口腔をなぶられながら、小夜歌は明らかに快感による声を漏らした。
遼が、自分と小夜歌の唾液に濡れた唇を離す。
「お願い……もう……もう、やめて……」
自分を無表情に見下ろす兄に、妹は涙声で訴えた。
「もう、いいでしょ……お願いだから……」
恐怖と屈辱にその切れ長の目を濡らす小夜歌の顔は、どきりとするほど美しかった。普段が勝気な分、その被虐美はかえって男の獣欲を燃やさずにはいられない。
しかし、小夜歌自身は、全くそんなことには気付いていなかった。
「はァあっ!」
小夜歌は、体を弓なりに反らせた。遼の指が、さらに激しく小夜歌の幼い秘部を刺激し始めたのだ。
暗い赤色の、毛足の長い絨毯の上で、黒いセーラー服をまとった白い裸身が、陸に上げられた魚のように跳ねる。
遼は、そんな小夜歌の首筋にキスの雨を降らし、さらに頭を下に移動させ、剥き出しの乳房の間に顔をうずめた。まだ青い果実を思わせる胸の肌触りを頬で感じ、その頂点にある乳頭を咥える。
「やめて……やめてよぉ……」
小夜歌の声は、ますます弱々しくなる。
そして、次第に大きくなるぐちゅぐちゅという湿った音が、小夜歌の耳に届いてきた。
「イヤ、イヤああああぁぁぁぁぁぁ……」
自分自身の体の浅ましい反応に、小夜歌は左右に首を振った。しかし、円との禁じられた遊戯によって、あまりにも早く目覚めさせられていた小夜歌の性感は、遼の巧みな指使いの前にあっけなく高まってしまう。
「濡れてるぞ、小夜歌……」
ことさらに音を大きく響かせるように指を動かしながら、遼が言った。その言葉に、小夜歌は細い声で泣き出してしまう。
「ひっ……ひぃっ……ひあっ……いっ……はぁッ……」
しかし、その泣き声も、次第に甘く濡れたものになってしまうのだ。
(だめ……あたまが、ぼぉっとしてきて……なにも、かんがえられない……)
いつしか、小夜歌の両手は遼の左手から解放されていた。しかし、もはや小夜歌に遼を押しのける気力は残っていない。
「はぁっ……はあぁン……はぅン……んんんんんんン……ッ」
両手をだらしなく投げ出し、遼によって与えられる快感に体を震わせ、主人に甘えるペットのような、媚を含んだ声を漏らすだけだ。
「あ……」
愛撫が中断され、小夜歌は空ろな目を遼に向けた。
遼は、小夜歌の下半身からスカートとショーツを取り去り、長くしなやかな両脚を大きく割り広げていた。そして、その中心部に顔を近づけていく。
「やめ、て……」
とんでもないところに兄の顔を見つけた小夜歌は、力なくいやいやをして、両手で遼の頭を押さえた。しかし、遼を止めるだけの力は、その両手に宿っていない。
「あぅっ!」
びくん、と小夜歌は体を痙攣させた。すでに愛液をたたえているクレヴァスを、遼の舌が舐め上げたのだ。
「ああ……イヤ……そんなとこ……こんなの、イヤぁ……」
そんな言葉に構わず、遼はまるで捧げ持つように両手で小夜歌のお尻を支え、本格的なクンニリングスを始める。
わずかにほころびている秘肉を、強引に割り広げるように舌でえぐり、左右に展開する肉襞を丁寧に舐めしゃぶる。
「イヤ……ああぁっ! あうン、んんんっ、んはぁっ!」
初めて体験する性器への口唇愛撫に、小夜歌ははしたなく声を上げ、身をよじらせた。
「やめて……やめて、お兄ちゃん……これ以上されたら、あたし……あたし……ッ!」
「どうした?」
笑みを含んだ声で、遼は言った。そして、すぐに顔を戻し、溢れる蜜を舌で受け止め、それを塗りたくるようにアソコ全体を舐めまわしたかと思うと、舌先を硬く尖らせて膣口に浅く出し入れする。
「あ、あたし……おかしくなっちゃう……バカになっちゃうよォ!」
遼は、小夜歌の秘所に口を付けたまま、くつくつと笑い、言った。
「小夜歌は、少しバカになったくらいの方が可愛いぜ」
そして、片手で小夜歌の腰を支え、もう片方の手でクリトリスの包皮を剥き、そこに口を寄せる。
「あああああああァーッ!」
小夜歌が、ひときわ高い声を上げた。遼が敏感な肉芽を吸引したのだ。
「おにいちゃん! そこ、そこは……ッ! ダメ、ダメダメダメぇっ!」
言葉とは裏腹に、小夜歌は自ら腰を浮かし、両手で遼の頭をそこに押し付けようとする。
「あひッ! イヤあ! ああああッ! ア、ア、ア、アアァーッ!!」
小夜歌は絶叫し、まるでブリッジのような態勢で、一瞬動きを止めた。
そのまま、ひくん、ひくんと何度か体を痙攣させ、そして不意に腰を床に落とした。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
半開きの可憐な口から、荒い息を漏らす。
遼は、そんな小夜歌を見下ろしながら、上体を起こした。
そして、右手で口元をぬぐいながら、ベルトを外し、スラックスをずり下げる。
「小夜歌……」
そして、小夜歌の脚をさらに大きく割り広げながらそう呼びかける。
「おにい、ちゃん……」
小夜歌は、目元を赤く染め、ぼぉっとした顔を遼に向けた。部屋が暗く、遼の表情はよく分からない。
「小夜歌……」
もう一度そう呼び、遼は一気に腰を進ませた。
「ひっ」
激痛が、小夜歌の体を貫いた。あまりの痛みに、呼吸が一瞬止まる。
「あああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァーッ!!」
そして小夜歌は、自らの処女肉に侵入する兄のペニスに押し出されるように、悲痛な叫びをあげた。
自分の身に何が起こったのか、おぼろげながら理解したのは、さらにその数秒後だった。
「いたい……いた……あぎっ……いあ……ひぃッ……いいいいいいいッ……」
小夜歌は、のしかかってくる遼の胸に爪を立て、かきむしった。ワイシャツのボタンが弾け飛び、剥き出しになった胸に幾条もの傷が走る。
しかし、遼は腰を進めるのを止めなかった。小夜歌にとっては信じられないことに、あれほどの激痛をもって侵入した肉棒が、なおも秘肉を押し広げるようにして進んでくる。
「いた、い……抜いて……抜いてよォ……ッ!」
そう言いながら胸をかきむしる小夜歌の手を、遼は両手で床に押し付けた。涙をあふれさせ、首を左右に振る妹の顔が、すぐ目の下にある。
「ああああぁ……」
ようやく、遼の侵入が止まった。
まるで灼けた鉄の棒を挿入されたような熱と痛みが、小夜歌の体を貫いている。
「そうか……初めてだったのか……。円とは、してなかったんだな……」
そんなことを、遼がつぶやいているが、小夜歌の耳には届かない。ただ、体と、そして心の痛みが、小夜歌の頭の中を赤く染めている。
(されちゃった……お兄ちゃんに……あたしの、はじめてが……)
が、そんなセンチメンタルな思考は、すぐに頭の外に弾き飛ばされた。
遼が、血をにじませている小夜歌のそこに、抽送を始めたのだ。
「あ……んあ……あッ……あ……」
小夜歌は目を見開き、途切れ途切れの声を漏らした。断続的に襲ってくる、体の最奥部からの痛みに、動くことどころか呼吸さえままならない。
「やめ……て……うご、か……ない……でェ……」
やっとの思いで、それだけを言う。
だが、遼は動きを止めようとはしなかった。
ゆっくりと、しかし確実な動きを、つい先ほどまで処女だった妹の体内に送り込む。
「あァ……ぁ……ア……アァ……」
精神か神経かが、何かの限界を超えたのか、次第に、小夜歌は痛みを感じなくなってきた。
いや、痛みはある。しかし、その痛みが全て、燃えるような熱さに変換されていくのだ。
遼のペニスが小夜歌の粘膜をこするたびに、熱が生まれ、その未成熟な体を燃やしていく。
「あつい……あついの……あついよォ……」
小夜歌は、まるで童女のような口調で、そう繰り返した。
「小夜歌……小夜歌……」
遼も、荒い呼吸の合間に、囁くような声で、そう繰り返している。その腰の動きは、少しずつ速くなっているようだった。
「あァ……あつい……アソコが、すごくあついの……ンあああぁ……はァああぁ……」
小夜歌は、壊れた人形のように、遼になされるままだ。ただ、さらに高まる温度を、舌足らずな声で訴えている。その声は、徐々にトーンが上がっていった。
「おにいちゃん……アソコが……あつい……あついィ……!」
今や遼は、何かに取り憑かれたかのように、腰を激しく動かしていた。痛々しく引き伸ばされた小夜歌の膣口から、血と愛液が溢れ散る。
そして不意に、ひときわ熱い爆発が、小夜歌の膣内で弾けた。
「んあッ!!」
短くそう叫んで、小夜歌が体を強張らせる。
そして、小夜歌の意識は暗黒に飲み込まれた。
小夜歌は、セーラー服を着たまま、下半身を剥き出しにしてベッドの上にいた。
処女を散らされてから、どれだけの時間を、どのように過ごしたのか、ほとんど記憶にない。ただ、何度も何度も、灼けた肉棒が自らの内臓をえぐり、熱い液体を自らの中に注いでいった。
小夜歌は、その度に、半覚醒状態のままで、荒々しい快感に屈服し、声を上げてしまった。
そして今も、小夜歌はベッドの上で四つん這いになっている。いや、腕はもはや上半身を支えきれず、両肘と頬をシーツにつけた姿勢である。ただ、白く丸いお尻だけを高く上げているという、少女にとってはこの上もないほど屈辱的な姿勢だ。
しかし、今の小夜歌は、そのようなことを考えられるような状態ではなかった。
そんな小夜歌の腰に、両手が添えられる。
(ああ……またされちゃう……)
あきらめと、そして歪んだ期待感が、小夜歌の胸の内に湧き起こる。
まだ最前の行為の火照りの残る小夜歌のそこに、熱い感触が押し付けられた。
(オチンチンが……オチンチンが、また、あたしのなかにはいってくるゥ……)
ゆっくりと、ペニスの先端の丸い亀頭の部分が、淫靡な粘膜をかき分けて侵入してくるのが、小夜歌にも分かった。ただ、その挿入は、今まで放たれた精液と愛液が潤滑油になっている割には、みょうにぎこちない。
じれったくなるくらい長い時間をかけて、熱い肉茎が小夜歌の中にすっかり収まった。
「ふゥん……」
小夜歌は、我知らず、甘える猫のような声を上げていた。
両手で腰がホールドされ、ペニスによる抽送が始まる。
「んあっ、あぁァ、あッ、あぁぁあァ、ふぁァん……」
ペニスの雁首が肉襞をえぐるたびに、小夜歌は声を上げ、抽送に合わせて小さく体を前後に動かした。
それでいながら、小夜歌は、靄のかかった頭で、違和感を感じていた。
(なんだか、さっきとちがう……)
腰の動きがぎこちなく、小夜歌の動きときちんと同調していないのだ。ともすれば、ペニスがアソコから抜けそうになってしまう。
「あぁン……イヤ、もっと、もっとしてぇ」
その動きのもどかしさに、小夜歌は普段からは考えられないような媚を含んだ声を出し、自分の肩越しにペニスの持ち主に視線を向けた。
その流し目が、大きく見開かれる。
「ま、まどか……!」
小夜歌を後ろから貫いていたのは、遼ではなかった。全裸になった円が、その幼げな乳房を揺らしながら、懸命に腰を動かしていたのだ。
「円、ど、どうしてェ……? んあッ! あぁぁぁぁぁアッ!」
ようやくコツをつかんだらしい円の抽送が、小夜歌の身の内でくすぶっていた官能に、ようやく火をつけた。
「お姉ちゃん……気持ちイイ? 気持ちイイんでしょ?」
興奮に上ずった声で、円が言う。
「うれしいよ……ボク、ずっと、こうやってお姉ちゃんとしたかったんだ……あァ、お姉ちゃんのココ、すごく熱いよォ……」
どう見ても少女のようにしか見えない顔を快感に赤く染め、円はさらに腰の動きを加速させた。いかなる薬品の効果によるものか、円の腰は、第二次性徴期の女の子のように丸みを帯びているのだが、その体毛の薄い股間から突き出ているペニスは、グロテスクなほどに鋭く反りかえっている。
「ひあぁッ! あいッ! イイっ! はああぁアァッ!」
その角度で、膣壁の上の方を攻められ、小夜歌は断続的に媚声を放っていた。
「スゴイ……お姉ちゃん、スゴくエッチな声出してる……」
ピンク色の舌で唇を舐め、目を潤ませながら、円が囁く。
「たまには、下の口で咥えるのもいいもんだろう?」
そう言いながら、小夜歌の前に、遼が姿を現した。前をはだけた黒いワイシャツのみをまとった、ほとんど全裸に近い格好である。
そんな遼の顔を見上げる小夜歌の目には、いかなる理性の光も宿っていない。ただ、円と同様に、快感にその大きな切れ長の目を潤ませるのみだ。
遼は、そんな小夜歌の前で膝をついた。妹の処女血を吸ったペニスが、半ば勃起した状態で、小夜歌の目の前にさらされる。
小夜歌は、何も言われないうちに、そのペニスに口を寄せた。
「ふぅ……ン」
弟のペニスによってもたらされる快感に眉根を寄せながら、けなげに兄のペニスを咥えこもうとする。
遼は、そんな小夜歌のあごを左手で支え、右手を自らのペニスに添えて、その口腔に侵入させた。
「んぶっ、んむ、んぐ、んんんん、んふぅん……」
くぐもった声を上げながら、何度も円にしてやったように、舌を陰茎の裏側に這わせ、唇を優しく締め付けてペニス全体を刺激する。その小夜歌の口の中で、遼のそれは急激に硬度と容積を増していった。
「うっ……うまいぞ、小夜歌」
そう言いながら、遼はいいコいいコするように、小夜歌の黒髪を撫でてやる。
「んふン、んむ、ふゥん、んんーン……」
小夜歌は、誉められたのが嬉しくてたまらないかのように、ますます熱心に遼のペニスを愛撫した。深々と喉の奥まで咥えこみ、激しく頭を前後させ、頭を左右にねじるようにして、シャフト全体に舌を絡ませる。
「お、お姉ちゃん!」
円が、背後で切羽詰った声を上げた。
「お姉ちゃん、ボク、もう出ちゃう! セーエキ出ちゃうよォ!」
そう言って、ますます腰の動きを早く、激しくする。
「んーッ! んはッ! ンあああああ! はあぁアアアッ!」
たまらず、小夜歌は遼のペニスから口から離した。それでも、名残惜しげに舌を伸ばし、その肉棒を舐めしゃぶろうとする。
「お姉ちゃん、ボク、イク、イクぅーッ!」
高い悲鳴のような声をあげ、円は小夜歌の腰に指を食い込ませ、その細い腰を小夜歌のヒップに押し付けるようにした。
「ああッ! あッ! あッ! あああああああぁアーッ!」
びゅくっ、と勢いよく弟の精液が子宮口にあたる感触を引き金に、小夜歌も絶頂を迎えた。
その小夜歌の頭を左手で固定し、遼は自らのシャフトを右手でしごきあげた。
「ふぁッ!?」
遼は小夜歌の顔に白濁液をぶちまけた。ぴしゃぴしゃと音をたてるほど激しく、兄の精液が妹の顔を叩き、汚す。
そして遼は、両手で小夜歌の頭を持ち、唾液と粘液でぬらぬらと光るペニスを、やはり精液にまみれた小夜歌の秀麗な顔に押し付けた。
「んああぁ……ン」
小夜歌はそのおぞましい仕打ちにうっとりと目を閉じ、そして力を失ったペニスを愛しげに咥えるのだった。
「……それでまあ、現在に至る、ってとこよ」
小夜歌は、かすかに顔を伏せ、上目遣いで遼のことを見ている。
「もちろん、その日だけじゃなかったわ。あたしと円は、あんたの用意したマンションに暮らすようにしたけど、結局、そんなこと関係なかった。あたしは、何度も何度も、あんたの気が向いたときに、さんざもてあそばれたわ」
小さく抑えた声で、小夜歌の告発は続く。
「そのこと自体、辛くて、苦しいことだったけど……一番、悔しかったのは、あんたのすることに、どうしても抵抗できない体にされちゃったってことよ」
「……」
遼は、唇を噛んだまま、無言である。
「さすがよね」
ふン、と小夜歌は鼻だけで笑った。遼の「仕事」と、その手管に屈服した自分の、双方を嘲るような、そんな嗤いだ。
しばらく、喫茶店の当り障りのないBGMが、その場の空気を支配した。
「……すまない」
ぽつり、と遼は言った。
「思い出してない、のね?」
あらゆる感情を無理に押し殺したような声で、小夜歌が訊く。
「ああ、だが俺は……」
遼が何か言いかけるのを遮るように、がたん、と音を立てて小夜歌は席を立った。
「お姉ちゃん!」
「先に帰る」
呼びかける円を無視して、小夜歌はとっとと喫茶店を後にしてしまった。
遼はうつむき、自らの握り締めた拳を睨んだままである。
「お兄ちゃん……」
円の声に、視線だけ上に向けた。
「お姉ちゃんね、多分、すごく寂しいんだよ」
「?」
円の意外な言葉に、遼は不審げに眉を寄せる。
「お兄ちゃんが、ボクたちのことまで忘れちゃって、それが寂しくて、あんなに怒ってるんだよ。それに、記憶喪失のまま、あの家で由奈さんと二人っきりで暮らしてて……」
「何?」
思わぬ名前が出てきたため、遼は声を上げていた。
「なんで、由奈が関係あるんだ?」
「……そっか、それも憶えてないんだ」
円が、そう言って目を丸くする。
「だったら、多分、ボクからは言っちゃいけないと思う」
そして妙に思案げな顔をして、円は言った。
「とにかく、お姉ちゃんはお兄ちゃんに似て不器用だから、うまく言えないだけで、お兄ちゃんのこと、好きだよ」
「バカな」
遼は、吐き捨てるように言った。
「俺は……俺は、あいつを強姦したんだぞ。兄妹だってのに」
まるで、自分自身をくびり殺してやりたいとでもいうような物騒な表情を、遼は浮かべた。
「……記憶を取り戻せば、分かるよ」
円は、場違いなほど明るくにっこりと笑って、言った。
「ムリはよくないけど、なるべくなら思い出してね」
そんな台詞を残し、円も席を立った。
眉間に険しくしわを寄せた遼だけが、店に残される。
いつのまにか、外では雨が降り始めていた。