awakening


第4章



 遼は、久しぶりに街に出ていた。
 街に出ると、自分の住んでいる方向が、濃い緑の小山のように見える。あそこから、バスを乗り継いできたのだ。自宅のガレージには、年代物の小型の外車があったのだが、大事を取って、バスを利用したのである。
 残暑というほどではないが、風はまだ冷たくない。
 未だ記憶が戻ってはいないが、自分のただっぴろい家で、TVを見たり、アルバムをひっくり返したりする生活には、もう飽きてしまっていた。しかし、それ以外に何もすることはない。せいぜい、由奈を手伝うために厨房に立つくらいである。
 自分でも意外なことだが、記憶を失う以前、遼はたまに料理をしたらしい。
「ご主人様、器用だから」
 由奈に代わって手際良くジャガイモの皮などをむいている遼に、由奈はそう言って屈託ない笑顔を見せた。
 その由奈とは、あの嵐の夜以来、しばしば寝床をともにしている。
 由奈を陵辱し、乱暴に犯したいという衝動は、今のところ収まっている。消滅したのか――それとも、無意識に抑圧しているのか。
 そんなある日、遼は病院に行くために一人で街に出たのである。
 街は、日本海側の地方都市としては、それなりに賑わいを見せていた。十階建てのデパートが二つ、売上を競っている程度だが。
 病院での形式的な検査の後、医者は遼の額の傷を抜糸した。
 記憶が戻らない旨を言うと、病院の精神・神経科にカルテを回すという。定期的な通院を勧められ、遼はおざなりに答えた。結局、ケガの原因については訊けなかったし、医者もあえて説明しようとはしなかった。すでに、遼は知ってるものと思っているらしい。
 遼は病院を出て、街を歩いた。最近整えられたらしい歩道には、まだあまり育っていない桜の木が街路樹として植えられている。
「お兄ちゃん!」
 と、その歩道で、いきなり声をかけられた。
 見ると、暖色系のワンピースに身を包んだ少女が、自分を見て目を丸くしていた。栗色のくせっ毛気味の髪をショートカットにした、中学生くらいのきゃしゃな美少女だ。
「お兄ちゃん、退院してたんだァ」
 言いながら、人懐っこそうな笑顔を浮かべ、こちらに小走りで走り寄ってくる。通行人の、特に男どもが、思わず振り返ってしまうような、快活で可愛げな仕草だ。
(妹……?)
 確かに、自分には妹がいたという話だが、遼は何となく違和感を感じていた。そもそも、年がちょっと離れすぎている。
(ああ、母親が違うとか言ってたな……)
 それで、今は別居しているのだろうか、と考えたときには、少女が目の前に立っていた。まだ発育途上の胸を上下させ、息を整えている。
「……お兄ちゃん、記憶喪失って、ホント?」
 開口一番、少女は遼の顔を覗きこむようにしてそう言った。
「ん……実は、そうなんだ」
「じゃあ、円のことも忘れちゃったの?」
(まどか……?)
 頭の中で反芻しても、該当する記憶は蘇らない。遼は、すまなそうに肯き、言った。
「悪い。ダメだ。思い出せない」
「ふーン」
 と、少し悲しげな顔をした円だが、再び笑顔に戻る。
「あのね、これからお姉ちゃんと待ち合わせなんだ。お兄ちゃんも来なよ」
「お姉ちゃん?」
「そ。サヤカお姉ちゃん……。やっぱ、憶えてない?」
「ああ……どんな字、書くんだ?」
「小さな夜の歌」
 円はそう言って、くくくっ、と可愛く笑った。
「ぴったりだよね。お姉ちゃんね、今日は合唱部の練習だったんだ。さ、早く行こ!」
「あ、ああ……」
 円の白い小さな手が、遼の手を取って引っ張る。何とも微笑ましい風景だ。
 結局、遼は円についていくことにした。
 違和感は、まだ消えない。

 そこは、駅前の瀟洒な喫茶店だった。ドアを開けると、からころとベルが来客を告げる。
 その店に入り、ひとしきり店内を見まわした円は、視線を止め、遼にささやいた。
「お姉ちゃん、来てる」
 三割くらいしか埋まってないボックス席の一番奥に、つややかな黒髪を左側でまとめた、セーラー服姿の少女が座っていた。高校生くらいだろうか。可愛い、と言うより綺麗なといった表現の似合う顔を少し伏せ、文庫本を読んでいる。理想の美人像なるものがあるとして、それと比べると、やや目が大きすぎるようではあるが、かえってそれが魅力的な個性になっている。
(写真の……)
 遼は、アルバムの中の一枚の写真のことを思い出していた。自分の父親らしき男と写っていた、中学に入学したばかりらしい、切れ長の目の少女。
(ってことは、あの写真はたいして昔じゃないのか)
 と、その少女が顔を上げた。その目が、円と、そしてその隣に立つ遼を捉える。
「……!」
 少女が、目を見開いて声にならない声をあげたようだった。
「お待たせ、お姉ちゃん。お兄ちゃんも連れてきたよォ」
 そんな少女――小夜歌の様子に全く頓着せず、円は小夜歌の隣にちょこんと座った。
 自然、遼はこの二人に対面する形で座らざるをえない。
 なぜか動悸が早まるのを感じながら、遼も席についた。円はフルーツパフェを、そして遼はアメリカンを注文する。
 しばらく、沈黙が続いた。その沈黙の中、円はニコニコと微笑んでいる。
「……退院してたの?」
 小夜歌が、ひどく硬い声でそう言った。
「ああ」
 遼の返事もそっけなかった。とても、兄妹の会話とは思えない。
「どうしてここに?」
「それは……」
「そこでね、偶然会ったの」
 言いよどむ遼に代わって、円が答えた。
「本当に偶然……?」
 小夜歌が、妙に鋭い視線を投げてよこす。目が切れ長な分、そうされるとひどくキツい印象を受けた。
「偶然だよォ。だってお兄ちゃん、ボクのこと気がついてなかったもん」
「ああ、本当に、記憶喪失なのね」
 円の言葉に、やっと、小夜歌の警戒が少し緩んだようだった。
 しかし、軽くにらむような小夜歌の視線は変わらない。出されたフルーツパフェを目を細めて嬉しそうに食べる円とは好対照だ。ただ、この気まずい雰囲気の中、パフェをぱくつくことのできる円の神経も、ある意味で普通ではない。
 一方で、小夜歌は目の前の紅茶に手をつけようともしていなかった。
(……似てない姉妹だなあ)
 この三人の中では、まだ、遼と小夜歌の方が似ていると言えた。遼と小夜歌が父親似で、円は母親似なのだろう。
 と、その時、遼は唐突に違和感の正体に気付いていた。
(妹が一人と……弟が一人……?)
 そうだった。自分には、年の離れた妹と弟が一人ずつ、いるはずだったのだ。妹二人ではない。
「……弟は、どうしたんだ?」
 遼は、思わずその疑問を口にしていた。
「弟?」
「だから、俺の弟……」
 きょとんとする小夜歌に、遼が重ねて訊く。
 小夜歌は、しばらく遼の顔を眺め、そのままゆっくりと笑みを浮かべた。
「ホントに、何も憶えてないのね……」
 言いながら、小夜歌は予想外の行動に出た。
 右手で、円のワンピースのすそをそろそろとめくりだしたのだ。
「お、お姉ちゃん……」
 顔を赤く染め、小声で円が抗議の声をあげた。
 しかし、小夜歌はどこか妖しい笑みを浮かべながら、その手を止めようとはしない。そして円も、そんな小夜歌の行為を本気で制止しようとは考えていないようだった。
 この一番奥のボックス席は、他の客席はおろかカウンターからさえも、死角になってる。
「ボ、ボク、恥ずかしい……」
 消え入りそうな声をあげて、円は遼の顔から目をそらした。遼は、声をあげることもできない。
 ワンピースが、完全にまくれあがった。
「……!」
 遼は息を呑んだ。
 ワンピースの下の、白いレースの小さなショーツの中に、明らかに男性のソレがあったのだ。
 このシチュエーションに感じているのか、それは半ば勃起し、全体の半分までを、繊細な女性用の下着からはみ出させている。
「弟はココよ、お兄さん」
 小夜歌も興奮しているらしく、頬を染め、舌で唇を舐めながら言った。
「……」
 遼は、言葉もない。ただ、円の顔と、膨らんだ胸と、そして可愛げな容姿に似合わない大きさのペニスに目を向けるだけだ。
「言っとくけど、胸はホンモノよ」
 ようやく裾を離しながら、小夜歌は言った。円は、自らの裾を直し、たぎる股間を両手で押さえながら、うつむいている。しかし、その目は明らかに欲情に濡れていた。
「円はね、十二歳のときに、こんな体にされたの。二年前のコトよ」
「……だ、誰に?」
 遼の声がかすれてるのが、さもおかしいといった感じで、小夜歌はくすくすと笑った。
「あなたの父親に、よ」
 したたるような悪意を込めて、そう言う。
「親父……?」
 思わず、遼は小さく息をついていた。おまえだ、と言われるよりはまだマシだ。
 しかし、自分の父親と言うことは、この小夜歌や、当の円にとっても父親に当たるはずだ。
「聞きたい? 昔のこと……」
 まるで修行者を誘惑する女夢魔のような優しいささやき声で、小夜歌が言う。
(聞くな!)
 遼の頭の中で、何かが叫んでいた。
(聞くな! 今すぐ席を立ってこの店から出ろ! そしてコイツには二度と会うな!)
 しかし、遼は小夜歌に対し、肯きかけていた。小夜歌が、満足げな微笑を見せる。
 円は、そんな二人をどこか壊れた目で、うっとりと見つめていた。



 小夜歌の話は、六年も前に遡った。
 当時、小夜歌は十歳、円は八歳でしかなかった。遼は、十七歳である。
 小夜歌と円の母親である美由紀が、三人の父、結城秋水の後妻となってすぐ、小夜歌が産まれた。その二年後には円が産まれ、一家五人は例の屋敷に住んでいた。
 美由紀は、二児の母親とは思えないほど、若々しく、快活だった。そもそも、秋水と結婚した時点で、まだ学生だったのだ。ややくせのある栗色の髪をショートにまとめ、先妻の子である遼にも、常に明るい笑顔で接していた。
 当時の小夜歌と円にとって、遼はどこか近付きがたい兄だった。年が離れている以上、当たり前と言えば当たり前であったが、いつも無表情なこの大人びた少年が、自分たちや自分の母親にどのような感情を抱いているのか、一向に分からなかったのである。
 そんな遼が、ある日の真夜中、一緒の部屋で寝ている二人を起こしたのだ。
「面白いものを見せてやるよ」
 そんなことを、少しも笑わず、遼は言った。
「面白いもの?」
 きょとんとした顔で、姉弟は聞き返す。
「ついてくれば分かる」
 そう言って、遼は寝室のある二階から一階へと下りていった。
 小夜歌と円も、それに従う。遼の様子は穏やかだったが、どこか逆らいがたい雰囲気があったのだ。
 遼は、ポケットから鍵を取り出し、階段下の目立たない場所にある頑丈そうなドアに差し込んだ。
「わぁ……」
 このドアの奥がどうなっているのか、幼い姉弟は知らない。そのドアを、兄が易々と開けているのを見て、小夜歌と円は思わず声をあげていた。
 ドアの奥は、地下に下りる階段だった。
「これから先は、何があっても声をあげるなよ」
 目を丸くする二人に、遼がそう警告する。小夜歌と円は、素直に肯いた。
 三人は、あまり広くない階段を下り始めた。明かりは点けない。ホールの方から漏れてくるかすかな光だけが頼りである。
 階段の先は、目の前にドアがあるだけの小さな空間だった。遼たち三人が立てば、それだけで満員になるような場所である。そこにあるドアは金属製で、ひどく重たげなものである。全体に錆びの浮いた、かなり年代物だ。
 そのドアを、遼は音を立てないように注意しながら、開けた。こちらには、鍵はかかっていない。ドアと壁の間の隙間は、二センチから三センチほどだ。
(まるで、ろうやのドアみたい……)
 小夜歌が、幼い頭でそう考える。そう考えると、ひどく恐ろしいところに立っているような気がして、きゃしゃな足が細かく震えてきた。
 その時、ドアの向こうからかすかな悲鳴が聞こえた。
 思わず体をびくっとさせ、声をあげそうになる小夜歌の口を、後から遼が手でふさぐ。
 悲鳴は、さらに聞こえた。何度も何度も、一定の間隔を置いて聞こえてくる。
「覗いてみろ」
 遼は、囁くような声で小夜歌と円に言った。
「でも、声はたてるなよ」
 念を押す遼に、こっくりと肯いて、二人は頭を寄せ合うようにして、ドアに近付けた。後に回った小夜歌の頭が上、前の円の頭のほうが下である。円は正座のような格好をし、立て膝になった小夜歌は、その小さな両手を円の細い肩に置いている。
「!」
 二人は、あれほど念を押されていたのに、思わず声をあげそうになった。実際に声をあげなかったのは、遼に言われたからではなく、むしろ、あまりに衝撃が大きかったからだろう。
 そこは、コンクリートが打ちっぱなしの、冷え冷えとした地下室だった。天井からは何本かの鎖が下がり、その中には、先端が金属の輪になっているものもある。奇妙な金具のついた椅子や寝台が置かれ、壁には何種類ものムチと、大きな鏡が架かっていた。
 そして、天井から伸びる鎖に、何か白いものが吊り下げられている。
(ママ……!)
 それは、頭を下にした全裸の美由紀の体だった。
 美由紀は、、両手を後ろに回され、乳房の上下を縄がけされた上で、逆さまに天井から吊り下げられていた。無論、母親の姿を見る子供達はそのような言葉は知らないが、いわゆる高手小手の形である。また、両足首を戒めている足かせには、それぞれ別々の鎖がつなげられており、そのために美由紀のすらりとした両脚はゆるく開いていた。
 およそ、実の子が見る母親の姿としては、これ以上はないというほど残酷な格好である。
 そして、美由紀の背後には、二人の父親である秋水がいた。やはり、身には何もまとっておらず、乗馬用のものらしき短めのムチを手にしている。
 秋水はそのムチを振り上げ、美由紀の背中を打っていた。
 ぴしッ!
「ひぃッ!」
 ぴしッ!
「あぁッ!」
 ムチが白い肌を打つたびに、痛みに声をあげ、美由紀は体をのけぞらせた。そのたびに、不自然な形で突き出された乳房が揺れる。
 さらに数度、秋水はムチで美由紀の背中や尻を叩いた。
「あぁッ! あッ! んあぁ! あひッ! あぅうッ!」
 そのたびに、美由紀の口から悲鳴が漏れる。
 秋水は、その声に切れ長の目を細め、口髭に隠された唇を笑みの形に歪めているようだった。
 その秋水が、美由紀の前に回り込んだ。
「あぁ……」
 美由紀が、何とも言えない熱い吐息を漏らす。
 逆さになった美由紀の整った顔の高さに、ちょうど秋水の股間があった。美由紀は、痛みと恍惚に潤んだ目で、うっとりとその肉棒を見つめている。
 秋水は、何かを促すように、その肉茎で美由紀の頬をつついた。
「ご主人様……」
 はぁはぁと興奮に呼吸を早めながら、美由紀は口を開いた。どこか幼さの残る唇を、無意識に舌で舐めながら、続ける。
「美由紀は、ご主人様の犬です……このイヤらしいメス犬を、どうか、厳しく躾てください……」
 秋水は満足げに肯き、ペニスで美由紀の口元に狙いをつけた。
(パパの……前におフロで見たのとちがう……何かコワい……)
 その、赤黒い色とグロテスクな形に、小夜歌ははっきりと恐怖を感じていた。
 しかし美由紀は、まるで好物のエサにありついたペットのように、うれしげに目を細め、その肉の凶器にむしゃぶりつく。
 限界まで開かれた美由紀の口に、ずるずると秋水のペニスが呑み込まれていった。
(ママ……パパのオチンチン、食べちゃってる……!)
 正確な性行為の知識さえない小夜歌に、その光景は刺激的過ぎた。いや、そもそもそれが性的な行為なのかどうかさえ、小夜歌にははっきりと分からない。
 しかし小夜歌の女としての本能は、それが男女の淫靡な営みであることに感づいていた。
(ヤダ、なんだか……アソコが、あつい……なんで……?)
 自分の最も恥ずかしい部分が、熱を持ち、じんじんと疼いている。痒いような、もどかしいような、切ないような、そんな感覚だ。
 ふと、目の前の弟の様子をうかがうと、円もその奇妙な感覚を感じているのか、しきりと太腿をもじもじさせ、両手で股間を押さえている。
 そんな子供達の視線に晒されていることにも気付かず、美由紀は吊るされた不自由な格好で頭を前後に動かし、自らの口腔を犯すペニスに刺激を与えようとしている。
 秋水は、そんな美由紀のしなやかな体に手を這わせ、縄で歪められた乳房や脇腹、背中などを刺激した。そして、太腿や、繊細そうな陰毛が茂る恥丘にキスの雨を降らす。
「んんんんん……っ!」
 秋水の指や口が、性感帯をとらえるたびに、美由紀は体をよじらせ、次第に硬度を増しているシャフトを咥え込んだまま、くぐもった声を漏らした。秋水は、そんな美由紀の反応を楽しみながら、その奉仕に合わせてゆるく腰を前後させている。
 緊縛の苦痛と、愛撫の快感に歪む美由紀の顔は、小夜歌の知っているどの顔とも違っていた。
(だいどころで、ハミングしながら、やさいを切ってるママ。いじめられて帰ったとき、やさしくなぐさめてくれたママ。円のオモチャを取ったとき、すっごくマジメな顔で自分をおこったママ。こわいテレビを見てねむれなくなった夜に、いっしょにねてくれて、先にねむっちゃったママ……)
 小夜歌の心の中で、そんな美由紀の映像が、どろどろに溶け、ふくらみかけた胸の奥を重苦しく満たしていく。
(さんかん日に、後ろにならんでるお母さんたちの中で、一番わかくてキレイなのは、うちのママだった……。あたしは、それが何よりもジマンだった……)
 そんな気持ちも、今日でおしまいだと、小夜歌は思った。
「ああ……ご主人様……じ、焦らさないで下さい……」
 巧みに一番感じる部分を避けて愛撫する秋水に対し、美由紀ははしたなくおねだりをしている。
「お願いです……み、美由紀のイヤらしいアソコを、イジめてください……」
「もっとはっきり言わないと分からんな」
 そう言いながら、口唇愛撫から解放され、反り返るように勃起しているペニスで、美由紀の顔をはたく。
「ああッ……!」
 屈辱と服従の悦びに全身を震わせながら、美由紀は声をあげた。
「どこを、どうしてほしいんだ?」
「オ、オマ×コを、オマ×コを舐めてください!」
 悲鳴のような声で、美由紀は言った。その言葉が、小夜歌の胸をえぐり、その幼い性器をたまらないほどに刺激する。
「ならば奉仕を続けろ」
 残酷にそう命じて、秋水は再び美由紀の口にペニスをねじ込んだ。
 そして、期待にひくひくと震え、愛液をしたたらせているその部分に、唇を押し付ける。
「んむぅ……ッ!」
 待ち焦がれた愛撫に、美由紀は拘束された体をのけぞらせ、快感を訴えた。
「んんッ! ンーッ!」
 秋水は、そんな美由紀の体を抱き締めるようにして固定し、恥骨を美由紀の顔に叩きつけるように、乱暴に腰を動かした。長大なシャフトが美由紀の唇を犯し、雁の部分が口腔粘膜をこすりあげ、亀頭が喉奥に侵入する。
 美由紀は恍惚とした顔で、だらしなく涎と愛液を吹きこぼしてた。
(ママ……なんで……? なんでイジめられてるのに、そんなにうれしそうな顔するの……?)
 そう思いながら、自分自身も幼い性器をじっとりと濡らしていることに、小夜歌はまだ気付いていない。
 一方で秋水は、愛液をすすり、肉襞を甘く噛みながら、舌で膣口を執拗にえぐった。かと思うと、クリトリスの包皮を器用に口だけで剥き、過敏な肉の突起を残酷に吸引する。
 そして、右手にまだ持っていたムチの握りを、ずぶずぶと美由紀のそこに侵入させた。
「んムーッ!」
 丸みをおびた硬いゴムが、美由紀の敏感な粘膜をえぐる。秋水はクリトリスの吸引を続けながら、右手でそれを激しくピストンさせた。
(ヒドい……あんなことされたら、ママ、死んじゃう……!)
 そう思いながらも、小夜歌は、体を動かすことも、声をあげることもできなかった。視覚情報によってかつてないほど刺激された牝器官が、幼い体には受けとめられないほどの感覚で、小夜歌の体を縛り付けていたのだ。
(アタシも……ママみたいに、イジめられたい……)
 いつのまにか、小夜歌の右手は円の肩から離れ、足と足の間の、女の子にとってもっとも大事な部分を刺激していた。
(ヘンな感じ……スゴいの……手が止まんないよォ……)
 昨日まではただの排尿器官でしかなかったそこが、服の上からこすりあげる自身の手の動きによって、名状しがたい感覚をつむぎ上げている。
 しばらく、粘膜と粘膜が、体液を分泌しながら互いを摩擦する。じゅるじゅるという湿った音が、地下室に響いていた。その音のリズムが、次第に早まって行く。
「ぐ……おぉッ」
 秋水が、獣のような声をあげた。そして、一層腰の動きを激しくする。
「で、出る……出すぞ、このメス犬め!」
 美由紀の喉の奥で、秋水の精液がはじけた。
「うぷッ! んむ……ッ」
 逆さ吊りの状態では、さすがにその大量の体液を飲み下すことはできなかったのか、美由紀の口から、白濁した粘液が次々とこぼれおちる。
 それは、逆さまの美由紀の顔をドロドロに汚し、栗色の髪の毛を伝って、コンクリートの床に小さな水溜りを作った。
(ママ……)
 小夜歌のパンツは、まるでおもらしをしたように、ぐっしょりと濡れていた。



 そのあと、天井から下ろされた美由紀は、手を後に縛られたまま、背後から犯された。
「ああァっ! イイーっ! オマ×コ、オマ×コが気持ちイイですッ!」
 膝を床につき、頬を床にこすりつけながら、秀麗な顔に似合わない卑猥な言葉で快感を訴える美由紀。
「行くぞ」
 そんな両親の様子を、まるで石になってしまったかのように動かずに見つめている小夜歌と円は、遼の言葉にびくっと体を震わせた。今まで背後にいたはずの兄の存在を、すっかり忘れていたのだ。
「アレが終わると、気付かれるかもしれないだろ」
 そう言って、扉を元通りにし、階段を上りだす。
「お兄ちゃん、アレって、なに……?」
 ドアの奥から漏れる声が気になるのか、ちらちらと後ろを振り返りながら、円が遼に訊いた。
「セックスさ」
 面白くもなさそうに、遼は答えた。
「せっくす?」
「そうさ。親父のあそこから、白いのが出たろ。あれを、お前等のママの腹の中に注ぎ込むんだ」
「……それで、赤ちゃんができるの?」
 学校かどこかで、多少の性知識を仕入れていたのか、円が訊いた。
「一応そうだけど、あの二人は違う」
「え?」
「親父は、パイプカットしてるからな」
「?」
 円や小夜歌には、遼が何を言っているのか分からない。
 そんな会話をしているうちに、三人は子供部屋に戻っていた。
「あの二人はな、子供が欲しいとか、そーいうんで、ああいうことをしてんじゃないんだ」
 まだどこか夢を見ているような目つきの二人を部屋に入れ、ドアを閉めながら、遼は言った。
「キモチイイから、やってんのさ。ママも言ってたろ。キモチイイって」
 にやり、と遼の口が歪んだ。ぞっとするような笑みだ。
「じゃあな、お休み」
 その嫌な笑みを口に浮かべたまま、遼は自室へと去って行った。
 二人は、呆気に取られたように顔を見合わせ、そしてのろのろとお互いのベッドに身をもぐらせた。結城家の子供部屋は広々としており、二人分のベッドを別々に置いても、充分な余裕があるのだ。
「おやすみ」
 硬い声でそう告げて、小夜歌は枕もとのスタンドのスイッチを消した。円は、何も言わずに小さく肯くだけだった。

 ――眠れない。
 眠れなかった。
 体の芯が疼き、胸が切ない。
 小夜歌は、円に知られないように、ベッドの中で、パジャマの下とパンツを脱ぎ捨てていた。両方ともアソコに当たっていた部分が濡れ、はいたままだと風邪をひいてしまいそうだったのだ。明日の朝、どうにかして、円が起きる前に着替えて、洗濯機の中に放り込まなくてはならない。
(ア……)
 身じろぎすると、剥き出しの小さなお尻が毛布やシーツとこすれ、その感覚がさらに小夜歌の目を冴えさせる。
(イヤ……こんなのイヤ……イヤぁ……)
 この年齢の女の子特有の潔癖さが、自分自身の体の変化に、抗議の悲鳴をあげていた。しかし、それは儚い抵抗でしかない。
 手が、膨らみかけた胸と、そしてじっとりと蜜をたたえたあそこに伸ばされる。
 胸の突起に触れると、ぴくんと体が動いてしまう。そこは、硬く尖っていた。
 自分自身の両手に、大事な部分を犯されながら、小夜歌は声にならない声をあげる。
(イヤだよォ……イヤ……助けてェ……)
 しかし、もはや誰に助けを求めればいいのか、小夜歌には分からない。
 母親も父親も、この未知の恐怖に属する存在なのだ。兄にいたっては、その未知の領域に自分たちを突き落とした悪魔のようなものである。
(アアアアァ……)
 指がぎこちなく股間をまさぐり、胸を揉む。強すぎず、弱すぎず、ちょうどいい刺激を、文字通り手探りで小夜歌は探っていた。
(アタシ、おかしくなっちゃう……バカになっちゃうよォ……)
 それでも、小夜歌の指は止まるどころか、未発達の性感を少しでもさぐりだそうと、ますます貪欲になるばかりだ。
「お姉ちゃん……」
 びくっ、と小夜歌は体を起こした。
 いつのまにか、円が小夜歌のベッドの枕元に立っている。窓から入る月明かりに照らされたその女の子のような顔は、今にも泣き出しそうに見えた。
 そして小夜歌は、一瞬遅れて、円がパジャマのズボンとブリーフをずりおろし、その小さなペニスを剥き出しにしているのを見て取った。
「バ、バカっ!」
 小夜歌は、思わず叫んでいた。
「何してるのよ! は、早くしまってよォ!」
 円を頭ごなしに叱りつけるのは、いつものことである。しかし今回の小夜歌の声は、ヘンに上ずっていた。
「だって……ボクのコレ……ずっとこんなになっちゃって……元にもどんないよォ……」
 そう言いながら、くすンくすンと鼻を鳴らし始める。
「……」
 いつもなら、泣き虫、の一言を投げつけるだけの小夜歌だったが、今は違っていた。なぜか、弟のその部分から目を離すことができない。
「イタい、の……?」
 訊きながら、指をソレに伸ばす。
「イタくないけど……あッ!」
 円は、声をあげていた。小夜歌の指が、絶妙に感じるところを撫でたのだ。
 それだけの刺激で、円はへたりこんでしまった。
「円?」
 びっくりして、小夜歌がベッドから身を乗り出す。
「お、お姉ちゃん……ズボン、どうしたの?」
 円は、びっくりしたように目を見開いて、姉の下半身を見つめた。
「え……あ、イヤあ!」
 いつのまにか毛布がずれて、小夜歌の裸の下半身が剥き出しになっていたのだ。小夜歌は、毛布をかき集めるようにして腰を隠し、幼い顔を真っ赤に染めてうつむいた。
(見られた……!)
 勝気そうな小夜歌の目に、じわっと涙がにじんできた。よりによって、いつも気弱げに自分の後ろについてくるだけの弟に、自分の一番恥ずかしい姿を見られたのだ。
 そんな姉の様子を、円はじっと見つめている。
「お姉ちゃん……だれにも言わないから……」
 円が、立ち上がりながら言った。その股間の包茎ペニスは、いまだに鋭い角度で天を向いている。
「だれにも言わないから……ママがパパにしたみたいに、して……」
「えっ?」
 驚いて顔を上げると、視界にまたペニスが飛び込んできた。
「ねえ、してよ……」
 いつもだったら、手を上げてしまいそうなほどに生意気な円の口調に、小夜歌はなぜか逆らえなかった。
 こくン、と肯き、ベッドから下りて、弟の前に正座をする。
(アタシ、イジめられてる……イジめられて、弟のオチンチン……なめるんだ……)
 かつてないほどのゾクゾクとした快感に突き動かされ、小夜歌は円の細い腰に両手を当て、その小さなペニスを口に含んだ。脳裏に浮かぶ母親と自分の姿が重なる。
「ああっ! お姉ちゃん!」
 びくッ、と円の体が痙攣し、口の中のペニスが跳ねあがるような感覚があった。
(アタシも……ママみたいに……)
 小夜歌は、最初から速いペースで、頭を前後に動かした。フェラチオの洗礼を受けるには幼すぎる肉茎が、実の姉の唇によって咥えられ、その唾液にまみれる。
(ヘンな味……)
 弟のペニスの味は、想像していたどんなものとも違っていた。味よりもむしろ匂いが、強烈な刺激となって口腔に広がっていく。
 それでも、小夜歌は行為をやめず、まるで何かに取りつかれたように、円のソレをしゃぶり続けた。
 小夜歌は正座したまま膝を開き、右手を未成熟なスリットに当てていた。そして、先ほど中断していたことの続きを、弟のペニスにしゃぶりつきながら再開する。
「お、お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
 円は、いつもの気弱で頼りない弟に戻っていた。
「スゴい、スゴいよぉ! お姉ちゃん、ボク、ボク……ッ! んあぁッ!」
 かくかくと膝を震わせ、涙さえこぼしながら、円は快感を訴えた。
「あーッ! 出る、出ちゃうよ! セーエキ出ちゃうよォ!」
 それを聞いても、小夜歌は口を離そうとしない。
「あ、あ、ヤあああァーッ!」
 円は少女のような悲鳴を上げ、姉の口の中に精液を放っていた。
 それは、円にとって初めての射精だった。
 同時に、小夜歌も、生まれて初めてのエクスタシーを、その幼い体全身で受け止めていた。



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