awakening


第3章



 暗い嵐の夜だった。
 横殴りの雨が、この年代ものの屋敷の屋根を打ち、壁を叩いている。時々、稲光が夜の闇を切り裂き、雷鳴が轟く。どうやら、この周辺は嵐のど真ん中にあるらしく、光と音の間隔はごくわずかだった。
 遼は、寝床の中、目が冴えて眠れないでいる。
 嵐のため、ということもないではないが、眠れない主な理由は、乾の語った自分の過去のことを考えているからだ。乾と対面してから丸1日以上が経っていたが、遼は乾の言葉を消化しきれないでいたのである。
 女性を監禁し、調教し、奴隷にする調教師……。
 何とも現実感の希薄な言葉ではある。由奈と遼の狂態を映したビデオがなければ、とても信じることはできなかったろう。
 そして、由奈と関係を持っている間に現れた、もう一人の自分。
 おそらく、あれが記憶を失う前の遼なのだろう。つまり、本来の遼の姿だということになる。
(記憶を取り戻すと言うことは、そういう自分に戻るということか……)
 遼は、闇の中で目を凝らした。無論、黒一色の視界には何も見えてはこない。時々、電光が青白く部屋の細部を浮かび上がらせるだけだ。
 と、かすかなノックの音が、遼の寝室に響いた。
「……由奈です」
 そんな声とともに、寝室の、重い木製のドアが開く音がする。
「あの……寝てますか?」
「……いや、寝てないけど」
 ちょっと迷った末、遼はそう答えた。答えながら、枕もとのスタンドを点ける。
 ドアのところに、赤地に白ネコのキャラクターがプリントされたパジャマを着た由奈が立っていた。いつも頭の両脇で結んでいる髪は解かれ、片手に枕を抱いている。
「どうしたの?」
 何か言いたげな由奈に、遼はそう声をかけた。
「あの……添い寝して、いいですか?」
 もじもじと体を動かしながら、由奈が上目遣いでそう訊いてきた。
「え……?」
「だから、添い寝……」
 言いかけた由奈の姿を、ぱっと窓からさし込んだ強い光が照らした。
「きゃあッ!」
 一瞬遅れて、まるで巨人が大木を引き裂くかのような音が、びりびりと部屋をふるわせる。
 見ると、由奈は両手で枕を抱えて、床にへたりこんでいた。その服装のせいか、それとも巨乳を枕で隠しているせいか、いつも以上に幼く見える。
「雷、怖いのか?」
 遼の問いに、しゃがんだままの由奈は、泣くのをこらえているような顔で何度か肯いた。そんな少女の姿に、なぜか遼の血が体内でざわめく。
「……いいよ」
 渋々、といった感じの声で、遼は由奈の申し出を了承した。正直、由奈と寝床をともにすることに、一種の不安のようなものを感じてはいる。しかし、この広い屋敷の中で、こんなに怯えている由奈を一人にさせるのは、何となく気がとがめたのだ。
「あ、ありがとうございますぅ……」
 ひどく情けない声で礼を言いながら、由奈は遼の左となりに潜り込んだ。遼のベッドは、二人で寝ても充分なほど大きい。
 仰向けになり、持参したふわふわの枕に頭を乗せると、ようやく安心したのか、由奈は小さく一息ついた。
 遼も、つられたように溜息をつく。無論、これは安堵によるものではない。
「じゃ、消すよ……」
「ええっ?」
 電気スタンドのスイッチに手を伸ばした遼に、由奈は抗議の声をあげた。
「暗いのもヤなのか……」
「ごめんなさい……だってぇ……」
 うるうると潤んだ大きな瞳が、遼の顔を見つめる。
 遼は小さく肩をすくめ、由奈に背を向けて自分に毛布をかけなおした。



 眠れない。
 当然だった。
 同じ毛布の中にいれば、たとえ触れていなくても、相手の体温が伝わってくる。遼は、それを意識せずにはいられなかった。
 由奈の寝返りの動きや、呼吸の音、そしてかすかに漂ってくる石鹸の匂いが、ますます遼の頭を冴えさせる。
 由奈も、まだ眠ってはいないらしい。稲光が閃き、雷鳴が轟くたびに、その小さな体がびくっと震えるのだ。
 雨が窓ガラスを叩き、風が庭の木をゆすっている。
 さすがに頑丈なこの屋敷はびくともしていないが、激しい嵐であることは確かであった。
 ふと、由奈が体を動かす気配が伝わってきた。
 ぴと、と、何か温かい感触が、遼の背中全体に押し付けられる。
 それは、由奈の背中だった。遼のTシャツと、由奈のパジャマの薄い生地ごしに、由奈のぬくもりがじんわりと伝わってくる。
 その温度が、じわじわと遼の欲望をとろ火であぶった。股間に血液が集まってくるのが分かる。
「ン……」
 しかも由奈は、ちょうどいい位置を探り出そうとするかのように、もぞもぞと体を動かしている。
「おい……」
 これ以上されてはヘンになる、と思って、遼は小声でそう言った。
「眠れないよ……」
「ご、ごめんなさい」
 そう謝って、あっさり由奈は身を引いた。遼は、なんとなく拍子抜けしてしまう。
 背中に、何とも言えない喪失感が残った。
「あの……ご主人様……?」
「ん?」
 おずおずと声をかける由奈に、遼は思わず返事をしてしまった。
「ご主人様……どっか行っちゃったり、しないですよね?」
「え?」
 質問の意味がよくわからず、遼は間抜けな声を出した。
「由奈、不安なんです……このまま、一人になっちゃうんじゃないかなあって……」
「……」
「ご主人様が、由奈のこと忘れて、どっか行っちゃったら……夜寝てると、そんな風に考えちゃって……怖くて……」
「由奈……」
 遼は、体を半回転させ、由奈の方に向き直った。その動きを察したのか、由奈も遼の方に向き直る。
「ご主人様は、憶えてないと思うけど……あたし、もう帰るとこないんです……」
 正面から遼と目を合わせようとせず、視線を落としながら、由奈は続けた。
「お母さんは死んじゃって……お父さんも、いなくなっちゃって……学校にも戻れなくて……」
 遼は、一瞬、由奈が泣き出すのではないかと思った。
 しかし、由奈は泣かなかった。ただ、そのあどけない顔に似合わない、寂しげな笑みをうかべて、うつむいているだけだ。
(……由奈を、そういう立場に追い込んだのは、俺だったのだろうか?)
 そう考え、遼はぎくりと体を硬直させた。
 ありえないことではない。乾の言葉が本当なら、記憶を失う前の遼が、由奈を家庭や学校に戻れなくしてしまった張本人であるという可能性は、充分ある。いや、そう考える方が自然なくらいだ。
「ご主人様?」
 ふと、視線を上げた由奈が、ちょっと怯えた声をあげた。
「ご主人様、怒ってます?」
「い、いや、そんな……」
 よほど思いつめた顔をしていたのだろうか。由奈は、遼が何かに怒りを覚えているように見えたらしい。もともと、遼の切れ長の目は、時折ひどく険悪な表情を浮かべているように見えることがある。
 ぽろ、と由奈の目から涙がこぼれた。
「あたし……ひどいコだ……」
「え……?」
「記憶なくして、一番ツライのはご主人様なのに……自分のワガママばっかり言って……」
 遼が自分を怒ってるのだと勘違いした由奈は、両手で顔を多い、ぽろぽろと涙を溢れさせた。華奢な肩が、細かく震えている。
「……」
 誤解を解こうとして、遼は言葉に詰まった。記憶を失ってしまっているせいかどうなのか、適当な言葉が思いつかない。
 勘違いをした由奈よりも、その誤解を解くことができない自分自身に、苛立ちが高まる。
 その時
「ヤアァッ!」
 ひときわ大きな雷鳴が、稲妻とほぼ同時に轟いた。どうやら、近くに落ちたらしい。
 由奈は悲鳴を上げ、遼にしがみついていた。
 どろどろどろ……という余韻を残し、次第に雷鳴が遠くなって行く。
 腕の中の由奈が、涙に濡れた目で遼を見上げた。半開きの小さな唇が、何か言いたげに震えている。
 遼は、身の内に高まる衝動に耐えきれず、乱れた由奈の髪を直してやりながら、その唇に自らの唇を重ねていた。
「んン……」
 舌を侵入させ、上下の歯をこじ開けるようにして、由奈の舌を捕える。
 おずおずと言った感じで、由奈はぎこちなく舌を絡めた。その緊張を解きほぐすかのように、遼が由奈の髪を撫でる。
 由奈はうっとりと目を閉じ、遼のくちづけに身を任せた。
 しばらくして、遼は口を離した。由奈が、ぼおっとした目つきを遼に投げかける。
「別に、怒ってないから……」
 何とも芸のないセリフに、由奈は童女のような素直さでこっくりと肯いた。
 肯いた後、そっと自分の太腿に触っている、遼の股間のそれに手を伸ばす。そこは、先程から痛いほどに硬直していた。
 由奈の視線は、遼の顔に向けたままだ。
「お、おい……」
 由奈が、優しくそこを撫でたために、遼の声は他愛なく上ずってしまっている。そんな遼に、由奈はくすっと笑い、言った。
「ご奉仕させてください、ご主人様……」
 そのまま、返事を待たずに、体を下にずらしていく。遼が何か言おうとして半身を起こしかけたときには、由奈は遼の両脚の間に入り込み、そこに正座をしたまま深々とおじぎをしているような姿勢になっていた。そして、遼が寝巻き代わりに着てるTシャツをめくりあげ、トランクスの上からいとおしげに剛直に頬ずりをする。
「熱くなってる……」
 言いながら、由奈はトランクスを下にずらした。すでに充分に血液を充填させたペニスが、ばね仕掛けのように外に飛び出す。
「ああ……素敵、です……」
 由奈は、小さな口を精一杯あけて、ぱっくりと赤黒い亀頭を咥え込んだ。ぬるりとした口腔粘膜の感触が、電流となって遼の脳に届く。
 遼は、両肘をついて上半身を起こしたまま、じっとしていた。拒否するにはあまりにも甘美な感覚が、自分の股間で急速に育っている。
 由奈は、唾液を塗りつけるように、遼のペニス全体に舌を這わせた。血管を浮かべたそれはスタンドの灯かりにぬらぬらと光り、そりかえっている。
 そんなペニスに口だけで奉仕しながら、由奈はパジャマの前のボタンを外していた。ノーブラの豊かな乳房が、夜気の中に解放される。何度見ても、この幼げな容姿の少女にはアンバランスな、見事な形と大きさだ。
 じゅぽ、じゅぽ、じゅぽ、じゅぽ、というイヤらしい湿った音が、寝室の空気を断続的にふるわせた。由奈が、唾液にほどよく濡れたペニスを咥え、ピンク色の唇を規則的に上下させ始めたのだ。さらには、パジャマのボタンを外し終えた両手で、遼の太腿の内側を撫で、陰嚢を優しくもみほぐす。
 遼の呼吸が荒くなっていく。羞恥心から、声を出すまいとするだけで精一杯だ。
 いよいよ遼の股間に欲望の体液がこみあげてきたとき、まるでそれを察したように、由奈は唇を離した。亀頭と唇の間に、唾液と先走りの汁で、下向きのアーチが一瞬できあがる。
 しかし、由奈は股間への愛撫を完全にやめたわけではない。粘液でぬるぬるになったシャフトをゆるゆるとしごき、遼の欲望を巧みにアイドリング状態に保っている。
「胸で、しますね……」
 遼の方を上目遣いで見つめ、悪戯っぽく微笑みながら、由奈は言った。そして、その宣言通り、その豊かな乳房で遼のペニスを挟む。
 その時、ぱふ、という妙に可愛い音を、遼は聞いたような気がした。
「ん、ん、ん、ん、ん……」
 由奈が、一生懸命、という言葉が一番ぴったり来るような感じで、体ごと胸を上下させる。何とも言えない柔らかな感触に包まれたペニスは、そのたびに、胸の谷間から頭を出し入れしている。
「く……」
 その、柔らかくきめの細かい乳房の肌触りに、不覚にも遼は声をあげてしまった。
 一方、由奈は、少し疲れたのか体を動かすのを止め、何か考え込んでいるかのように目を閉じた。そして、ちょっと顔を赤くしながらうつむくと、口から大量の唾液をてろーっと自分の胸元に滴らせる。
 潤滑油を補充し、さらにすべりをよくしたところで、由奈は動きを再開させた。
 前よりもさらに動きを大きくし、ペニスの先端が由奈の口元に届くくらいにする。
 ちゅッ、ちゅッ、ちゅッ、ちゅッ……
 そして由奈は、亀頭が近付いてくるたびに、その可憐な唇でキスをして、刺激を与えた。
「んんんン……」
 時々、こらえきれなくなったように、竿を乳房に挟んだまま、亀頭全体を口に含み、舌をレロレロと動かして情熱的に刺激する。
「ん……くッ……ぅあっ……!」
 遼は、あまりの快感に声を漏らしていた。肘で体を支えきれなくなり、再びベッドに仰臥する。しかし、それでも自分の股間で起こっている淫らな光景から目を離せず、首だけを持ち上げ、由奈の上半身全てを動員されて奉仕されている自らの性器を見つめている。
 限界が、すぐそこまで来ていた。
「はァ、はァ……ご主人様……」
 唇をペニスから離し、ぬらぬらと濡れ光るシャフトをその巨乳で揉みつぶすようにしながら、由奈は言った。
「ご主人様、下さい……由奈に、ご主人様の熱いミルク、いっぱい下さい……」
 そう言って、また何度も亀頭にキスの雨を降らす。
「うッ!」
 遼は、無意識に大きく腰を跳ね上げさせた。
 ぴしゃっ、と音を立てるほどの勢いで、白濁した粘液が由奈のあどけない顔を叩く。
「あぁっ、ミルク……」
 びくん、びくんとしゃくりあげているペニスに、由奈は文字通りむしゃぶりついた。
「んんン……」
 口の中で何度も小爆発を繰り返す亀頭を咥え込み、精液が口腔や喉にあたる感触にうっとりと声を漏らす。
 驚くほど大量の精を放ち、ようやくペニスは律動を止めた。
 由奈は、口内に溜まった精液をこくこくと小さく喉を鳴らして飲み干した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 荒い息をつきながら、遼はぐったりと体をシーツの上に投げ出した。
 それでもしばらくは、由奈はペニスを名残惜しげに口に含み、尿道に残った精液を、最後までちゅるちゅるとすするのだった。

「ふゥー……っ」
 どこか満足げな溜息をついた由奈は、体を起こし、とんび座りの姿勢で、再び遼に顔を向けた。ちょっと照れたように、まだ精液で汚れたままの顔で微笑む。
 遼は半身を起こして、そんな由奈を横抱きに抱きしめた。
「ご主人様……?」
 由奈が、顔についた精液をパジャマの袖口でぬぐおうとするのを止め、遼はその顔に舌を伸ばした。
「あ、ダメ! まだ……」
 そう言う由奈の顔を、まるで親猫が仔猫の顔をぬぐうように、舌で精液を舐めとっていく。
 無論、遼にとっては不快な味だが、自分自身の臭気になぜか興奮してしまっているのも事実だった。
 柔らかい頬に優しく舌を這わせ、耳たぶを甘く噛み、顎から首筋にかけて軽くキスを繰り返す。
「あっ……ああン……」
 最初は少し抵抗を示した由奈も、いつしか遼にその体を預けていた。
 そして、全てを舌でぬぐいとった後で、遼は由奈と唇を重ねた。
「ンン……」
 今さっき放ったばかりのものの味と匂いのする口腔に、同じ味と匂いのする唾液を注ぎ込む。由奈は、それを恍惚とした顔で受けとめ、小さく鼻を鳴らした。
 キスをしながら、パジャマとショーツを、一枚一枚脱がしていく。脱がしながら、すべすべとした肌の感触を楽しむように、肩や背中、太腿、乳房を愛撫する。
 そして、自らも身につけているものを全て脱ぎ、その合間にキス。
 全裸になった二人は、互いの体を両手でまさぐりながら、何度もキスを繰り返した。
 ちゅぴ、と音を立てて、唇を離す。
「立って……」
 遼の言葉に、由奈は素直に従った。ベッドに胡座をかいて座る遼の顔の、ちょうど真ん前に、ぷっくりとした由奈の恥丘がある。柔らかそうな陰毛は、その一本一本が数えられるほどであり、やや上付きのピンク色のスリットは犯罪的に幼く見えた。
 遼は、由奈の腰を抱えるようにして、その部分にくちづけした。
「あ……ッ」
 由奈はちょっと前屈みになって、遼の両肩に両手を置いた。構わず、遼は由奈のその部分を、唇で優しく愛撫する。
 そうしながら、遼は由奈の足を誘導し、自分の腰の部分をまたぐようにした。自然、由奈の両足は開いてしまう。
「あぁン……」
 遼は、焦らすように、由奈の太腿に唇を這わせ、肉襞の周辺に舌を伸ばした。その左右をじっくりと責めながら、なかなか肝心の部分を攻撃しようとしない。
「はぁッ、あッ……んン……ッ」
 由奈は、遼の両肩から頭に手を移し、その髪に指をもぐり込ませた。
「あぁン……じ、焦らさないで……ください……」
 とうとう、由奈は音を上げてしまった。
「お願いです……由奈の、感じるところを……」
 腰をゆするようにして、はしたないおねだりをする。
 遼が、敏感な肉の突起に唇を当て、一気に吸引した。
「ンアッ!」
 鋭い声をあげて、由奈は体をのけぞらせた。遼がしっかりと腰を支えていなければ、後向きに倒れてしまいそうな勢いだった。
 遼は、ひとしきり吸引した後、クリトリスを舌で刺激し始めた。フードから顔を出しかけたところを、素早く舌を動かして上下にこするようにする。
「アアッ、アッ、アッ、アッ、アーッ!」
 指で遼の髪をくしゃくしゃにしながら、由奈は身悶えた。腰がしっかりと固定されているため、上半身が揺れ動き、そのたびに巨乳がたぷたぷと震える。
「イイ……気持ちイイ……か、感じちゃうぅ……ッ」
 由奈は、自分の足で立っていられないようだった。のけぞらせていた体を今度は前に倒し、遼の頭を抱え込むような姿勢になる。
 その由奈の右の脚を上げさせ、遼は肩にかつぐようにした。
 片足を上げた格好のため、いびつになった陰唇が、目の前でよじれている。そこは愛液で濡れ光り、ひくひくと息づいていた。
 じゅじゅじゅじゅじゅ、とわざと音をたてて、遼は愛液をすする。
「んンーッ!」
 倒れないように、必至で両手と片足を遼の上半身に絡ませながら、由奈が声をあげた。まるで、子供が岩をよじ登ろうとしているような姿勢だ。
 遼は、靡肉を唇で挟むようにして刺激した後、舌をねじ込むようにクレヴァスの奥に侵入させる。
「はァ、はァ、はァ……もう、もうダメ……」
 さすがに息苦しくなって、ぷは、と遼が口を離したときに、由奈がそう哀願した。
「ご主人さまぁ……由奈に、さっきのご奉仕の、ごほうび、下さい……」
「ごほうび?」
「ご、ご主人様のを……」
 そう言ってうつむく由奈の視線の先には、すでに勢いを回復させている遼のペニスがあった。
「今日は、だいじょぶな日だから……中に……お、お願いです、ご主人様ァ……」
 そういう由奈の顔は、羞恥と欲望に紅潮している。
「いいよ」
 遼はそう返事して、由奈の腰を徐々に下ろして行った。
 遼の意図を察して、由奈は遼の両肩に手を置き、慎重に股間で股間に狙いを定める。
「んンッ」
 亀頭が濡れた肉襞に触れたとき、由奈はぴくんと体を動かした。
 しかし、腰の下降は止まらない。
 ずずずず……ツ、とさしたる抵抗も見せず、遼のシャフトが由奈の膣口に呑み込まれていく。
「あっ、ああっ、あぁーン」
 とうとう、由奈の腰が遼の腰に着地した。いわゆる対面座位の格好である。
 このまま由奈を押し倒し、さんざん言葉で辱めた上で、乱暴に犯したい……。
 そんな衝動が、遼の血の中で湧き上がっている。
 前に由奈を抱いたときに遼を支配した、あの暗く熱い衝動である。
 遼は、その衝動から自らを振りきるように、由奈を抱きしめ、その唇に自らの唇を重ねた。身長差があるため、この体位だと、ちょうど遼の目の前に由奈の顔が来る。
「んんン……」
 そうすると、不思議と例の衝動が静まってくる。
 二人は、たっぷりと舌を絡ませた後に一度口を離し、今度はまるで初心な恋人同士がするような軽いキスを、何度か繰り返した。
 由奈の顔は上気し、その可愛い垂れ目は、快感にとろんと半ば閉じられてる。そして両手は、しっかりと遼の首に回されていた。体と体の間で、大きな乳房が形を変えてつぶれ、みずみずしい弾力で遼の胸を押し返している。
 遼は、とんび座りの姿勢で自分の腰をまたいでいる由奈の腰に手を当て、ゆっくりと回すように誘導した。
「ンン……はぁッ……あぁ〜ン」
 ペニスを熱く包み込んでいる粘膜が動き、ざわめくのが、感じられる。
「き、気持ちイイ……気持ちイイですゥ……」
 由奈は、遼に頬ずりしながら、耳元でそう訴えた。
「由奈……」
 血がざわめき、自分を見失いそうになるたびに、それを押さえつけようと、由奈の唇を奪う。由奈はそれに応え、はしたなく腰を動かしながら、遼の舌と唇を吸った。
「あン……ああッ……ご、ご主人様、ご主人さまァ……!」
 由奈はいつの間にか立て膝になり、さらに激しく腰を動かしていた。
 上下に大きくピストン運動をしたかと思うと、ぐりぐりと腰を大胆に回す。
「はン! はひッ! はアアッ! ひッ! イイ……ッ!」
 その由奈の狂ったような腰使いに追い込まれ、快感が高まるにつれて、あの衝動も強くなっているのを、遼は感じていた。真っ白になった頭を、じわじわと鮮血色の歪んだ欲望が侵蝕していく。
(また乗っ取られる……)
 こみあげてくる快美感の波の中、遼は、かすかにそんなことを考えた。
「あぁーッ!」
 由奈も絶頂が近いのか、そんな悲鳴のような声をあげながら、さらに腰使いを早くした。
「好きですッ! ご主人様ァ! 好き、大好きぃッ!」
「うぁっ!」
 思わぬ由奈の言葉に、遼は性感が一気に高まるのを感じた。
 自らを乗っ取ろうとするあの衝動が、急速にどこかへ行ってしまう。
 遼は、両腕に力をこめ、しっかりと由奈の体を抱きしめた。
「あああああああああァーッ!」
 膣内でペニスが膨れ上がり、次の瞬間、凄まじい勢いで射精していた。
「ああッ! あッ! あッ! あッ! あぁァーッ!」
 子宮口に次々と当たる精液の弾丸が、立て続けに由奈を絶頂に舞い上げる。
 びくン、と由奈の体が硬直し、しばらくして、ぴくン、ぴくンと可愛く痙攣した。
 膣内の粘膜が、まるで陰茎から精液を搾り取ろうとするように、貪欲そうに蠕動する。
「ふあああぁぁぁ……ン」
 ぐったりと、由奈は遼に体重を預けた。
 その顔が、遼には何だかひどく幸せそうに見える。
 そして遼も、由奈を抱いたまま、ベッドに仰向けに横たわった。



「何だか、今夜のご主人様、すごく優しい……」
 遼の左の胸に頬を乗せた姿勢で、由奈は言った。
 すでに、嵐は遠くへ去ったようだ。
「優しいのはイヤか?」
 乱れた髪をすいてやりながら、遼が訊く。
「そ、そんなコトないです!」
 驚いたように、由奈が声をあげた。
「優しいご主人様も、イジワルなご主人様も、両方とも大好きです……」
 そう言って、ちゅっ、と音をたてて遼の胸にキスをする。
 しかし、そのキスに、針で差されたような痛みを、遼は感じていた。



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