それは、ほんの些細な出来心だった。
 その時、僕はリビングのソファに寝転がってマンガ雑誌を読んでいて、姉さんは風呂に入っていた。
 姉さんが、携帯を置き忘れていかなかったら、僕もそんなことをしはしなかった。
 でも、その時、姉さんの携帯はテーブルの上に置きっぱなしになっていた。
 そして、メールの着信を告げる曲が鳴った。

 最初は、うるさいなぁと思っただけだった。
 でも、その時、ふと思ってしまった。
 誰からだろう、と。
 そういえば、彼氏でもいるのかな、と。

 姉さんは、風呂に入ると長い。時計を見たら、入ってまだ10分ほどしか経っていなかった。タップリ、後20分は入っているだろう。
 母さんは、台所で洗い物をしている。こちらも、まだしばらくかかると思う。
 父さんは書斎に引っ込んでいる。何をしてるか知らないけれど、出てくることはないはずだ。

 で。
 僕はつい、姉さんの携帯を手に取ってしまった。

 いきなり、驚いた。
 サブディスプレイに表示されていたのは「タクヤくん」という名前。
 タクヤ……つまり、拓也?
 家から三軒隣の向かいの家の、子供の頃からよく一緒に遊んだ、言うならば僕と幼馴染みの、あの拓也?
 拓也が何で、姉さんにメールを?
 ていうか、2人は付き合ってたの? ホントに? 僕に内緒で?
 え? それとも、単に同じ名前だけで、別人? え? え? え?

 すっかり混乱してしまった僕は、急に動悸が激しくなり、寒いような変な感じになっていた。手の平に汗が滲んで来て、携帯を持つ手が震え出す。
 落ち着けと、僕は自分に言い聞かせた。
 見知った名前があっただけで、何をそんなに慌ててるんだ?
 仮にこれが本当に拓也からで、姉さんが本当に拓也と付き合っていたとして、だから何だって言うんだ?
 別に、そんなの良いじゃないか。

 そんな風に考えたけれども、駄目だった。
 事実はただ、拓也とも限らない“タクヤくん”から姉さんにメールが来たと、それだけなのに、僕は何故か酷く動揺してしまっていた。
 深呼吸をしても駄目で、手がいよいよ震えてくる。

 見ちゃいけないと、思いはした。
 けれども、“タクヤくん”が何者なのか、拓也本人なのか、それだけは確認せずにいられなかった。

 僕は携帯を持ち替え、手の平の汗をズボンで拭うと、改めて右手に携帯を持った。
 パチンと音がして、携帯が開く。
 僕は震える指で、メール画面に切り替えた。

 一覧画面のほとんどは“タクヤくん”からのメールだった。
 学校の友達からのメールも来ていたが、それは“タクヤくん”からのメールに紛れて、といった感じ。
 明らかに、姉さんは“タクヤくん”と付き合っている。
 そもそも、件名に【チカちゃん可愛すぎw】とか、普通の男友達は書かないと思う。

 僕は深呼吸を一つして、着信したメールを開いた。
 そして、死ぬほど後悔した。


Date 20**/08/1*
From タクヤくん
Sub  チカちゃん可愛すぎw
添付 20**0*1*.3gp

いや〜今日もご馳走様でしたヾ(〃^∇^)ノ♪
やっぱチカちゃん最高! 超気持ち良かったしヾ(≧∇≦*)〃
てかチカちゃんもかなり感じてたでしょ(*゚ー゚)ニヤニヤ
あ〜でもやっぱ携帯の動画はきついね(つд`)
それでも美味く取れてると思うんだけどどうよ((≧ω≦))
じゃあ俺この動画でオナって寝るからチカちゃんもぜひそうしてね!  ヾ(*´∀`)ノ


 顔文字だらけで、非常に不快だった。それに句読点もないし。
 けれども、それ以上に不快だったのは、こんなに読みにくい文面なのに、卑猥な内容を含んでいるのが読み取れてしまう、ということだった。
 心臓が、ギリリと刺されたように痛んだ。
 息が、詰まる。
 グッと唾を飲み込むと、喉もヒリヒリと痛みを訴えてきた。
 その痛みに、嫌な予感に涙が目に滲む。
 それでも僕は、添付された動画を開けてしまっていた。


 姉さん、だった。
 制服を着た姉さんが、多分、ベッドに横たわらされていて、それを上から録っているよう。
 カメラがブレまくって見にくい、けれども……姉さんが、何か苦しげな顔をしているのは、ハッキリと、分かる。
 顔全体が、赤くなっていて、汗ばんだ額に、髪が貼り付いている。

「んっ、んっ、あっ……んぅっ、んっ……」

 控え目な、小さな、それでもやっぱり、ハッキリとそうと分かる、喘ぎ声を、姉さんは漏らしていた。
 AVなんかとは、全然違う。
 でも、それが余計に、何ていうか、変な話だけれども、本物っぽくて……。
 僕は……僕は、姉さんだというのに……興奮、してしまっていた。
 目を背けるどころか、食い入るように画面に見入る。
 小さな画面の中で、バストショットの姉さんが、小刻みに揺れる。

「あー、マジ気持ちいーしっ、てかもう出そうだし。チカちゃ〜ん、このまな中出ししていい?」

 聞くに不快な、ヘラヘラした様子の男の声がした。
 拓也……の、声だろうか?
 よく、分からない。
 って、中出しだって? 冗談じゃない!

「んっ……だ、めっ……ぁっ……中、駄目っ……んぅっ」

 さすがに、姉さんも拒絶する。
 辛そうな顔を、いっそう泣きそうにして、首を横に振る。
 けれども、それは男には予想通りだったみたいだ。

「じゃあ、どうしたらいいの? どうして欲しい?」
「ぁっ、んっ、うんっ、んんぅっ」

 男が、激しく姉さんを犯すのが分かった。
 カメラのブレが、速く大きくなる。
 姉さんの声が、姿が、弾むようになっていく。

「ほらほら、早く教えてくんないと、中出ししちゃうよ?」
「ぅっ、ぅっ、くんっ、んぅっ」

 泣きそうな顔をした姉さんが、何度も首を横に振る。
 哀しそうで、辛そうで……何かに必至に耐えようとしている姿は、見ていて、胸が痛くなる。
 その姉さんが、キュッと引き結んだ唇を、開いた。

「あっ、ぅっ、あっ……お口、にっ……ああっ、んぐっ」
「ん〜? 何て言ったの?」
「あぅっ、んっ、おくちっ、ちょうだい……っんんっ」

 ……おく、ち?
 それって……それって……。

「へへへ〜、お口だって。チカちゃん、ザーメン飲むの好きだねぇ、ホント」
「ぅっ……んっ、ぅっ、んっ、んっ」
「好きだよね、チカちゃん?」
「んぐぅっ! あっ、ああっ……好き、好き、だからぁっ」
「へへへ、りょうかーい」
「あっ、あぐっ、んっ、んっ、くっ、くふぅっ!」

 ひどい、こんな……。
 姉さんは、明らかに、無理やり、言わされてる。
 それなのに、男の声はとても嬉しそうだった。

 殺してやる。

 僕は本気でそう思った。
 けれども、そんな僕にお構いなしに、画面の中で男が激しく姉さんを犯す。
 姉さんが、哀しげな声で喘ぐ。声を抑えていても、どうしても漏れ出る、哀しい声。
 それを聞く僕も、哀しくて堪らないのに……僕の股間はどうしてだか、異様なほどに熱く硬くなっていく。

 姉さん、姉さんっ……!

 心の中で、呼びかける。
 けれども、僕の声は届かない。

「んあぅっ!」

 不意に、姉さんが大きな声を上げた。
 僕は思わず顔をしかめた。
 画面に、姉さんの口元に、男のそれが入ってきた。
 男の手が、自分でそれを扱く。

「いくよ、いくよっ……ほらチカちゃん、口開けて」
「ぁっ……ぁ、ぁぁ……」
「ぅっ……出るぅっ……!」
「っっっ……んぐぅっ……!」

 男が叫んだかと思うと、白い液体が姉さんの口に、顔に飛び散っていった。
 姉さんの身体がビクッと震える。
 姉さんは、強く強く顔をしかめる。
 その辛そうな顔に、精液がボタボタと垂れかかっていく。
 その様子を見ながら、僕は自分の股間を握り締めていた。


 射精を終えた男のそれが、少ししぼんだのまで分かる。
 男は、それを姉さんの口元に押し付ける。

「ほらほら、チカちゃん。いくら顔射が気持ち良かったからって、ボーッとしてちゃ駄目でしょ?」
「んぇっ……ん、グス、ぅぅ……っ……ペチョ、れろ、ん……」

 姉さんは……姉さん、が……。
 舌を伸ばして、男のそれを、舐めた。
 必至に嗚咽を堪えながら、姉さんが、舌を伸ばす。
 そこで、動画は終わった……。

 

「…………何なんだ、これ……」

 自分の声に、僕はハッと我に返った。
 慌てて、時計を見る。
 時間はほんの、2〜3分しか経っていなかった。
 けれども僕には、もっともっと長く感じられていた。
 全身が冷たく痺れているようで、携帯から指が離れない。
 身体の感覚自体が、上手く感じ取れない。
 僕は、前屈みになっていた身体を、ゆっくりと意識しながら、ソファに沈め直した。
 そうして、ホゥッと大きく息を吐いた。

 股間が、何か気持ち悪かった。
 トランクスごと、ハーフパンツのウェストを捲る。

 ムッと、精液の匂いが溢れてきた。
 僕は、自分が射精していたことに、その時になってようやく気が付いた。

 泣きたくなりながらも、僕は台所に目を向けた。
 母さんは、まだ洗い物をしている。
 姉さんは、まだ風呂から出る様子がない。
 ひとまず、ホッと胸を撫で下ろす。

 僕は、ようやくかじかみの取れかかった指を携帯から引き剥がし、元のようにテーブルに戻した。
 そうして母さんに気付かれないように、そっとリビングを離れた。

 

「………………はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 自分の部屋に戻ると同時に、強烈な自己嫌悪が襲ってきた。
 いったい、僕は何をやってるんだろう。
 情けなくて、死にたくなる。

 いや、でも……。
 あれは、どういう意味があるんだろう?
 姉さんは……嫌がって、いたはず……だと、思う。
 じゃあ、どうして?
 相手の男は、結局……拓也、だったのだろうか?

 さっきの映像が、姉さんの声が、思い出される。
 股間が、熱く疼いていた。
 さっき、出したばっかりなのに……。

 僕は、ひとまずトランクスを脱いで、それにまみれていた精液を拭った。
 それだけで、終わることは、出来なかった。

「っ……姉さん……ねえ、さんっ……!」

 その日始めて、僕は、姉さんを“おかず”に使ってしまった。
 それも……拓也に犯される姿を、想像しながら……。