蝉時雨

彩音様・作



雨が降っていた。
夏とは言え、湿った空気が肌寒さを誘う。
「直樹。あんた、駅まで都ちゃん迎えに行って来てくれんか?」
母さんに言われて僕はひんやりとする木の柱から身を起こした。
「もう、来るって?」
「2時50分に列車が着くから。」
時計を見ると2時10分過ぎ。田舎の列車が良く遅れるとは言ってももうそろそろ出たほうがいいだろう。
僕はポケットの中から車の鍵をつかみ出すと、玄関でスニーカーをつっかける。
「行ってきます。」
「はい。気をつけて。」
母さんの返事を背に、僕は雨の中を駅に向かった。

紫垣都しがきみやこは、今年11歳になる。
僕の記憶のままなら、まっすぐな黒髪を腰のあたりまで伸ばした、おとなしい印象の子だ。実際、あまり口数も多くなく、おとなしいと思う。
どこまでも細い腕、足。白い肌。我が従妹ながら色黒で健康優良児の僕と似たところはまったくない。
病弱な彼女は、夏休みの一月、避暑のためにここに来るのが毎年の恒例になっていた。何でも、暑さが大敵らしい。
一体学校ではどうしているんだろう、と思わなくはないが。
そして僕は、大学の長い夏休みのうちの一月、丸々実家にいることになる。大学二年の今年の夏休みもそのために空けた。
「冬は寄り付きもしないのに。」
と母さんは言う。
僕にも理由はわからない。
ただ、都といたら落ち着く。それだけなんだ。
20分もしたら古びた駅舎が見えてくる。僕は、駅の前に車を止めた。
田舎の小さな駅には人影もほとんどない。特に、この時間は列車に乗る人も降りる人も少ないから出迎えは僕だけだ。
時計を見れば後5分。
僕は、車のシートを少し倒して列車の到着を待った。
目を閉じれば、去年の夏に会った都の姿が脳裏に浮かぶ。
少しは大きくなっただろうか・・・。
ガタンガタン・・・ゴトンゴトン・・・
遠くから列車の音が近づいて僕は目を開けた。田舎のせいか、都会とは違って列車の音までテンポが違うような気がする。身を起こし、後部座席に傘があるのを確認して手を伸ばす。
キィー・・・・・ガタン・・・・
列車が止まった。
僕は車を降りると傘を差し、小雨の中、駅の改札口に向かった。
無人駅の改札をくぐると、大きな荷物を重そうに抱えた白いワンピースの少女が列車を降りようと四苦八苦しているのが目にとまる。長い黒髪が顔のほとんどを隠しているが、僕にはわかる。都だ。
相変わらず細く、清楚な面差しをしている。僕は興奮を胸の底に押し込めながら駆け寄った。
「都。」
声をかけると少女が振り返り、その顔にぱっとはにかんだような笑みが浮かんだ。
「お兄ちゃん・・・。」
都の手から大きな荷物をとり、車掌に軽く頭を下げて都の手を引くと同時にドアが待ちかねたように閉まった。
昨日結構な量の荷物が届いたが、この上にまだあったらしい。
女の子と言うのは面倒なものだ。
「あの・・ごめんなさい・・・。」
遠慮がちな声が背中から聞こえる。振り向けば都が俯いて申し訳なさげな顔をしていた。
「え、なにが?」
一瞬わけがわからずに僕はきょとんと都に尋ね返した。傘をさしかけ、車に向かう。
「あの・・荷物・・・。」
遠慮がちなその声に僕は笑みを漏らした。
「気にしなくていいよ。そんなに重くないから。さ、乗って。母さんが楽しみにしてる。」
「・・・うん。」
控えめな笑みがその顔に浮かび、こくりと頷くと都は僕の車に乗り込んだ。
そう、荷物なんて全然重くはない。
君に会えたのだから。

母さんはもともと女の子が欲しかったらしい。だから、都が来るとあれこれと世話を焼く。
「直樹、あの部屋にお布団運んでおいて。」
「わかった。」
『あの部屋』とは、都がここに来たときに使う離れのことだった。離れとは言っても、母屋とは廊下でつながっていて完全な離れじゃない。もともとは同居していたばあさんが使っていた部屋で、ばあさんが死んでからこの部屋は空き部屋になっていた。
「よいしょ・・・っと・・・・。」
都の荷物のあらかたは昨日すでに運んである。今日持ってきた荷物と、布団を入れて開け放してあった窓を締めるといつのまにか後ろに都が立っていた。
「あれ・・。都、どうした?遠くまで来て疲れた?」
僕は身を屈めると都の目線で声をかけた。すると都は恥ずかしげに瞳を伏せてするっと髪を耳に引っ掛けた。
「ん・・大丈夫・・。」
遠慮がちな返事に僕は微笑んで頷いた。無理をしてるのかもしれない。遠慮深い彼女は、気をつけて見ていないとすぐに無理をするから。
「本当に大丈夫かい?辛いなら今から布団、敷いたっていいんだ。」
さらりとした黒髪を撫でるとふわりといい香りが鼻腔を擽った。その黒髪をさらさらと音を立てて首を振る。
「・・・大丈夫・・・・。」
「そっか。じゃあ、荷物の整理とかあるだろ?僕は母屋にいるから、終わったらおいでよ。」
笑みと共にそう言って身を起こすと、都が僕の手をきゅっと握った。
夏だと言うのに冷たい手。
「どうした?」
再び身をかがめる。こんどは膝をついて。
なぜだか都は、何かに怯えているように見えた。
「ここに・・いて・・・。」
「ここに?どうかしたの?」
問い掛けても都は口をつぐんで答えない。僕はぽんぽんと都の頭を軽く撫でると、そのままその場に腰を下ろした。
「いいよ。ここにいる。荷物の整理終わったら、一緒に母屋に行こう?」
「うん・・。」
やっと都は、小さな、だけどほっとしたような笑みを浮かべてみせた。
だけど僕は。逆にその笑みに、染みのような不安を覚えた。
そしてその染みは少しずつ広がっていく。
「来週はお祭りだよ。行くだろ?」
僕の問いに都は柔らかい笑みを浮かべたまま頷く。
「金魚掬い、するの・・。」
「そうだね。一匹も掬えない都の代わりに僕が掬ってあげるよ。」
「お兄ちゃん酷い。」
くすくすと笑う都に、広がった染みは、上塗りされるように薄らいでいった。

それから1週間は、何事もなく過ぎた。
去年と同じように僕は口数の少ない都とぽつりぽつりと話し、彼女の夏休みの宿題を手伝い、そして時折図書館に行ったり、無理のない程度に夕涼みに行ったり。
一日一日が平和に過ぎて、僕がいつもながらそれが日常だと勘違いし始めたころ、やはり去年と同じように夏祭りの日になった。
小さな神社の境内に出店が出て、町の人たちが集まる。たったそれだけのこと。にもかかわらず都はこの祭りを楽しみにしていて、今年も浴衣を用意していた。
紺色に鮮やかな赤い朝顔。清楚な都によく似合う。素直に僕はそう思った。いつもは背中に流した髪も今日はアップに結い上げている。
「女の子っていつもと違う格好するとドキッとするもんだね。今日の都、なんだか色っぽいよ。」
冗談めかしていった言葉に都が首まで真っ赤になった。
「お兄ちゃん・・。」
紅くなった項に不思議な色香を覚えて、僕の中でどろりとした欲望が頭をもたげた。
・・・やばい・・・。
慌ててその感覚を振り払おうと頭を振って、僕は都に手を伸ばした。
「行こう。金魚掬い、約束したしね。」
ひんやりと、柔らかい手の感触が手のひらに染みる。
ずくん・・・。
僕は、幼く清楚なこの従妹に欲情していることを改めて思い知った。
まだ空が紅く染まったままの夕暮れ時。
外に出るとまばらに人影が神社のほうへ向かっているのが見えた。
神社まではすぐ。都のゆっくりとした足取りでも10分もあればたどり着く。境内までの石段をゆっくりと登ると、近所のおばさんが気さくに声をかけてくる。
「あら、直ちゃん。今日はかわいい彼女連れてるね?」
顔を真っ赤にする都をちらりと見て僕はあははと軽く笑い飛ばした。
「残念ながら従妹だよ。彼女がいたら帰ってきてないかもしれないしさ。」
僕の言葉に反応してか僕の手を握る都の手に力がこもった。
「・・・都・・?」
不思議に思って都の顔を覗き込んでも首を振るばかり。戸惑う僕の手を都が引いた。
「お兄ちゃん・・金魚掬い・・しよ・・。」
「あ・・ああ、そうだね。」
今年はなにか・・変だ。
直感が僕にそう告げる。何がどう、とは言えない。
ただ、都の存在感がどことなく薄いのだ。
そんな不安を抱きながらやった金魚掬いは惨憺たる結果だった。
「・・・そう笑うなよ。」
おじさんのお情けでもらった一匹を眺めながら笑う都に僕は口を尖らせた。
「水に潜らせた途端に破れるなんて網が貧弱なんだよ。」
「うん。お兄ちゃんは悪くない。網が悪いのよね。」
・・そう言いながら笑うなっての。
黒い出目金を都に差し出すと僕は周りを見回した。
「焼きとうもろこし食べよう。都。」
ごまかすように都の手を引く僕の後をまだくすくす笑いを浮かべながら都がついてくる。なんとなく落ち着かなくて焼きとうもろこしを買った僕達は、境内のはずれにこしらえてあるベンチに腰掛けた。焼きとうもろこしを食べながら人ごみを見ていると、母親に手を引かれた小さな男の子が目の前を通り過ぎながら都が持っている出目金を羨ましげに見ていた。
「あの金魚、おっきくていいな・・。」
男の子が持っているのは小さな紅い普通の金魚で。
男の子の呟きに都は僕を見た。
「・・あげていい・・?」
僕はにっこりと微笑んだ。
「それ、都の金魚だから。」
「ありがとう・・。」
にっこりと微笑んで都はベンチを立つと、男の子の傍に歩いていく。内気な都にしてはかなり思い切った行動だ。二言三言言葉をかわすと、男の子の笑顔と、こちらに向けて頭を下げる母親が見えた。僕は焼きとうもろこしをかじりながら軽く頭を下げて戻ってきた都に照れ笑いをした。
「・・お情けの金魚で喜ばれちゃったな。」
僕の隣でまたくすくす笑いながら都はとうもろこしの続きをかじっている。
「笑うなよ・・・。」
恥ずかしくなって都を見ると、その口元にとうもろこしの粒がついている。
「都、ついてる。」
「え・・・?」
きょとんとして僕を見上げる都になんだか余計落ち着かなくなってそのとうもろこしを取ってあげる。都の顔が瞬時に赤く染まった。
「あ・・ありがとう。」
指にとったその粒を僕は少し考えて口に運んだ。
「・・・あ・・・。」
都の驚いた呟きを聞きながらそれを咀嚼し、飲み込む。それはなぜか、僕が今まで食べていたものより微妙に甘かった。
「ほら、もったいないし。贅沢は敵だってさ。」
冗談めかして都を見るとその顔も耳も、首も、見事に真っ赤に染まっていた。
僕は、食べてしまっていたとうもろこしのかすを袋に入れるとそばのごみ箱に捨てた。
「・・帰ろうか。」
そう提案した僕を都が見上げた。
「お兄ちゃん・・。あのね・・。聞いて欲しいことがあるの・・・。」

まだ祭りもたけなわ。おかげで帰り道に誰かと出会うことはない。
僕達は近くの川原に来ていた。周りには誰もいない。ひっそりとした橋の袂に並んで腰をおろし、真っ暗な川の流れを見ていた。
「話って・・?」
問い掛けると都は少し迷っているようだった。
自分で切り出したのに、言おうか、どうしようか。
僕は黙って待っていた。無理やり聞き出すのも違うと思ったから。
遠くでウシガエルの鳴き声が響いている。
さらさら・・さらさら・・・・
川は静かに流れている。
そして、都は口を開いた。
「お兄ちゃん・・彼女、いる?」
「・・え?」
その内容に僕は思わず問い返した。暗がりで都の表情はよくわからない。ただ、僕をまんじりともせずに見ていることはわかった。
「あ・・うーん・・・。いたら、たぶん夏休みに一月もここには帰ってこないと思うよ?」
暗にいないと告げて僕は川の流れを見た。隣で都が細く息をつくのがわかった。
実際にいない。今のところそれほど興味もないからだ。
付き合おうといわれないこともない。だけど、僕自身にその気がない以上、相手に失礼なように思えて断っていた。
「それが、どうかした?」
静かに尋ねると都が僕にぴったりと体を寄せてくる。
自然、鼓動が早くなった。
「あのね・・。私、冬休みに手術を受けるの・・。」
思ってもなかった話の内容に僕は都を見た。うっすらとしか見えないその頭は僕の腕にもたれるように寄せられている。
「手術・・?」
「うん。心臓の。」
「そっか・・。それは、頑張らないとね。頑張ってよくならなきゃ。」
僕の腕を都の小さく細い手がきゅっと掴んだ。
「五分五分・・・・なんだって・・。」
・・・ごくん・・・。
生唾を飲み込む音が、妙に響いた。
妙な耳鳴りが聞こえる。
「何が・・五分五分なの・・?」
「成功する確率が・・。」
「そ・・うか・・・。」
情けない。僕は他に言葉が見つからなかった。
なんと言ったらいいのか。
慰めか?
励ましか?
それとも・・。
「もしかしたら・・・もうお兄ちゃんに会えなくなるかもしれないから・・・。」
「馬鹿なことを言うなっ!」
知らず語気が荒くなる。
当たり前だ。会えなくなるなんて考えたくもない。
「頑張って手術を乗り越えるんだ。絶対成功するって気持ちで。」
何をこんなに焦っているんだろう?
心臓が早鐘のように打ち、手のひらにはうっすらと汗をかいている。夏とは言え、この川原はとても涼しいと言うのに。
「ん・・・ありがとう・・。でもね・・。『もしも』があったらいやだから・・。だから・・・。」
僕だっていやだ。
そう思いながらもうまい言葉が見つからない。
可能性の問題ならそれを全否定することなどできない。だけど、僕はそれを認めるのがいやだった。
「都・・・。」
名前を呼ぶと都が僕を見上げるのが気配でわかった。そして、口を開こうと息を吸い込む。
「あのね・・・。可能性が半分でもあるなら・・・。怖い・・怖いの・・。」
「死ぬことなんて考えちゃいけない。」
思わず都を抱きしめる。恥ずかしがりの都が僕の腕の中で震えた。
「死ぬのは怖くないの。そうじゃない・・・。・・・お兄ちゃんに会えなくなるのが怖い・・。」
「都・・・。」
「好き・・・。お兄ちゃんのこと、好きなの・・。」
どくん・・・・。
ある種、とんでもないエクスタシーが僕の中を駆け巡る。思っても見ない高揚感に僕の体は震えた。
無言の僕を勘違いしたのか、都は腕の中ですすり泣き始めた。
「ごめ・・ごめんなさい・・。私みたいな子供が好きになって・・。ごめんなさい・・。でも・・今年が最後かもしれないと思ったら・・どうしても言いたくて・・。」
必死で謝る都の髪に僕は唇を押し付けた。なぜか、夏草の香りが鼻腔を擽る。
「好きなら・・・なおさら頑張らないとね。だって・・都を好きな僕を置いていくなんて大罪だろ?」
「お兄・・ちゃん・・?」
見上げた都の顔に手を触れる。薄暗がりの中、僕は感覚だけで都の唇を探り当てる。
「好きだよ・・。」
幼い従妹の唇は、僕が知るどんな女のそれよりも甘く、そして柔らかかった。
夏の夜は、人を狂わせる魔力に満ちているのかもしれない。
僕は、欲望を示すある一点が熱を持ち始めるのを感じていた。
相手は子供だ。
それがどうした。
細い体を抱きしめる腕に力をこめながら僕は欠片ほどの抵抗を示す理性を笑い飛ばした。
好きだ。それでいいだろう?それが全てだ。
「お兄ちゃん・・・。」
震える声がさらに僕の理性を溶かしていく。僕は再び重ねた唇を割り開き、都の柔らかい唇の中に舌を押し込んでいく。そんなキスは初めてに違いない都はびくんと震えながらも抵抗はしない。
ただ、僕のなすがままに身を任せているだけだ。縮こまっている舌を吸出し、絡め、貪るように僕はその甘い唇を味わった。
「ん・・んふ・・んんっ・・・。」
不慣れな刺激に都の手が僕の服の袖を握り締め、鼻から抜けるような荒い息を漏らしながら堪えている。
たまらなくなって僕は唇を都の首筋に移動させた。ほっそりとした項から首筋を唇でたどると都が震えた。
「あ・・お兄ちゃん・・。」
細く頼りない声が漏れる。浴衣の襟を押し広げようとして僕はかろうじて踏みとどまった。
「都・・。帰ろう・・・。」
「お兄ちゃん・・。」
泣きそうな、頼りなさげな声で僕を呼ぶ都をぎゅっと抱きしめた。
「私が・・・子供だから・・・?」
途中で止めてしまった僕に不安げに都が問い掛ける。僕は、抱きしめた都の耳もとに囁いた。
「・・・ここで都を襲ってもいいのかい?」
恐らく真っ赤になったのだろう。都の頬が触れた胸元の温度が上がった。都の首がふるふると横に振られる。
「だろう?・・・それに、ここで都の浴衣を乱しても、僕にはちゃんと着付けなんてできないからね。」
くすりと笑うと僕は都を抱き寄せたまま立ち上がった。
本当は、それが最大の理由だ。家には母さんがいる。都が浴衣を乱して帰ったらどんなに心配するかわからない。
もちろん、浴衣姿の都はそういった僕の理性を狂わせるに十分な存在ではあったんだけど。
「あとで・・家でね。」
僕の囁きに都の体温がさらに上がった。
そろそろ祭りも終わる。僕は都と寄り添ったまま川原を後にした。

田舎の夜は静かだ。ほんの少しの物音も聞かれているんじゃなかろうかと思うほどに。
ウシガエルの鳴き声が遠くに聞こえる。
僕は、離れへの廊下をひたひたと歩いていた。
鼓動が聞こえるんじゃなかろうか。
余計な心配をしてしまうほど早い鼓動が胸を揺るがす。
都もすでに風呂に入り、離れに一人でいるはずだった。両親も二階で寝ている。
僕は、離れのドアを小さくノックした。
コンコン
その音すら家中に響き渡るのではないかと思うほどに。
「はい・・。」
どきどきしながら扉を開け、僕は中に滑り込んだ。
「・・・都・・・。」
部屋の明かりは豆電球のぼんやりしたオレンジ色だけだった。その中で都が布団の上に座り込んでいるのがわかった。
眠れなかったのか、布団に潜り込んだ様子はない。パジャマ代わりのTシャツにスウェットのショートパンツからすらりと伸びた足がさらに僕の鼓動を早めた。
「お兄ちゃん・・・。」
なんとなく気恥ずかしくなって僕は都の真正面に正座した。いや、普通に座ればよかったんだけど、緊張のせいかなぜか胡座をかくなんてことができなかった。
そのまま、少しの時間が過ぎる。
先に口を開いたのは都だった。
「あ・・の・・。」
「・・ん・・?」
僕を必死に見上げる都は多分明るいところで見ると真っ赤だったに違いない。
「私・・頑張るから・・。子供だけど・・お兄ちゃんが気持ちよくなるように・・・。」
「都・・。」
「雑誌とか・・たくさん読んだの・・。恥ずかしかったけど・・・。友達に借りたり・・買ったりして・・・だから・・・あ・・・・。」
抱きしめた都の体は小さく震えていた。僕は、この小さくてか細い少女がたまらなく愛しかった。
「何も・・気にしなくていいから・・。」
ゆっくりと髪を撫でると都の腕が僕の背中に回る。
知らなかった。都って結構胸が大きかったんだ・・。
僕の胸に当たるふくらみの意外な大きさにどぎまぎしながら僕は都の耳に囁いた。
「都こそ・・いいの・・?僕みたいな『おじさん』で・・。」
考えたら、僕と都の年の差は9歳だ。『おじさん』と言われてもおかしくはない。
僕の質問に都はほんの少しだけ笑った。
「『お兄ちゃん』だから・・・。大丈夫よ・・?」
そして少女が僕を見上げる。豆電球のおぼろげな明かりの下でもその瞳が潤んでいるのがわかった。
「好き・・・。」
「都・・・。」
後は言葉は要らなかった。
僕は都の唇をふさぎ、川原で口づけたよりも熱く、深く都の口腔を蹂躙していく。甘い唾液を啜り、柔らかい舌を吸い上げて思う様粘膜を舐め尽くした。
「ん・・んん・・・ふ・・。」
都が荒い息をつきながらきゅっと僕のTシャツの袖を握り締める。
小さく震えている。その背中を抱きしめて僕は都が力を抜いて僕にもたれかかるまで口付けを続けた。
長い時間だったかもしれない。
短い時間だったかもしれない。
僕は都の細い体を布団に横たえ、そっとその上に覆い被さった。
「お兄ちゃん・・。」
声が震えていた。
その都の唇を啄ばむように食みながら髪を撫でる。
「都・・好きだよ・・。」
都の唇、頬、耳朶、瞳、鼻、顔のいたるところに口付け、首筋へと降りていく。都の甘い香りが鼻を擽り、下半身がたまらなく熱を持つのを感じた。
「あん・・あ・・。」
ちろちろとわずかに出した舌で首筋を舐めあげていくと都の体が震え、吐息にも似た喘ぎが漏れる。まだ、自分に与えられる刺激に戸惑っているようだ。感じる、というのとは少し縁遠い。
「都・・できるだけ・・静かにね・・。聞こえたらまずいから・・。」
耳元で囁くとこくりと都が頷く。離れとは言え、油断はできない。
僕は都の首筋に口付けながらTシャツの裾から手を潜り込ませた。
「ぁ・・・。」
ぴくりと震える都のすべすべとした肌をたどっていくとやがて指にこの年にしては大きめの膨らみが当たった。
「お兄ちゃん・・・恥ずかしい・・・。」
震える声が心地よく耳に響く。僕は都の頬に口付けてそっとそのふくらみに触れた。わずかに硬い膨らみを優しくなでると不安げな吐息が都の唇から漏れた。
「ぁ・・。」
「都・・。僕に見せてくれるね・・?」
一瞬怯えた瞳が僕を見上げた。その間も胸を優しく撫でるとその瞳が伏せられ、恥ずかしげにこくりと頷く。
「ありがとう。」
囁いて耳朶に口付けると小さな悲鳴をあげて都が震える。僕は、ゆっくりとすべすべした腹をなでおろすとTシャツの裾に手をかけた。
その裾をわざとゆっくりとたくし上げていくと都の瞼が震える。
かわいい・・。
不安を押し隠すそのしぐさに愛しさを感じて、僕は思わず笑みを浮かべた。
「恥ずかしい?」
わざとそう聞くと小さくうなずく。
大き目のふくらみの先端にはわずかに陥没した乳首があった。片方は指で優しく撫でながら僕はもう片方をちろりとなめた。
「ぁん・・。」
なんとも未成熟な喘ぎがもれる。その反応に勢いづいて僕は陥没した乳首を口に含んだ。
ちゅ・・ちゅちゅ・・・・れろ・・ちゅう・・・
卑猥な音が響く。その音に恥らう都の表情を楽しみながら徐々に出てくる乳首のこりこりとした感触を楽しむ。
「あ・・あ・・・。」
やんわりと胸を捏ねるように揉みながら僕は左右の乳首を交互に口に含んだ。引っ込んでいた乳首がおずおずと顔を出す様はまるで恥らう都そのもののようでとてもいとおしい。
徐々に感じてくるのか、都は僕が乳首を吸い出し、乳房を揉むほどにその体を震わせる。まだ硬い乳房は力を込めて揉むと痛みを訴えた。だから、じれったくなるほどに優しく触れ、揉みながらも時折強く刺激する。すると都は僕が嬉しくなるほどに体を捩じらせて湧き上がるものを堪えようと喘いでいた。
そんな都の様子を愛しく思いながら僕は優しく優しく胸を弄りながら片手をショートパンツにかける。
「あ・・・。」
都の体が緊張するのがわかる。少しこわばった都の乳首をちゅっと吸い、そのまま腹を舐め下ろすと僕は顔を上げた。
「脱がすよ・・?」
この確認は、都の羞恥を煽るだけだったに違いない。
けなげな都。
声も出ない風に僕をじっと見つめると、ほんのわずか首が頷いたように見えた。
ショートパンツをずり下ろすと、都らしい白いシンプルなショーツが姿を覗かせた。僕を手伝って膝を曲げる都のすらりとした足からショートパンツを引き抜くと僕はそっとその白い下着に指を触れた。
都は恥ずかしげに顔をそむけている。ショーツの上から腰を撫でるとその体がぴくりと跳ねた。
羞恥を堪え、僕のなすがままにされている都の姿に僕の欲望はもうこれ以上はないというほどに高まっていた。
「都・・好きだよ・・。」
間断なくそう囁くのは、もしかしたら羞恥に震える都から最後の砦を取り払う良心の呵責を紛らすためだったかもしれない。
僕の囁きにわずかに向いた視線を気づかない振りをして僕は都のショーツに手をかけた。
「・・・ぁ・・・・。」
かすれた声がかすかに聞こえる。反射的に足を閉じてしまったころにはショーツはすでに僕の手の中にあった。
美しい恥丘。そこはまだ産毛すら生えてはおらず、ただの線が1本走るだけだった。
「おにい・・ちゃん・・・。」
都の声がとてつもない羞恥に震える。それはそうだろう。
父親以外、都のここを見た男は恐らく僕だけだ。
「もっとよく・・見せて・・。」
脱がした下着を脇に置き、僕は都に覆い被さると羞恥に固くなる都を解すように短い口付けを繰り返した。
「ね・・。都の全部・・見たいんだ・・・。」
「ん・・ふ・・・・。」
口付けに都が溶けていくのがわかる。髪を撫で、ゆっくりと囁きながら僕は都の脚の間に膝を割りいれる。
「見せて・・・。全部・・。大好きな都・・・。」
熱にうかされたように囁きながら口付け、都の瞳を覗き込むと、泣き出しそうなその瞳が数回瞬きをした。
恥ずかしい・・・。
でも・・・好き・・・。
目は唇よりも雄弁に僕に語りかける。
「ありがとう。」
僕は都の額にそっと口付けると、震える都の膝をそっと開いた。M字になるように膝の裏を抱えて押し開くと、都の手がぎゅっとシーツを握り締める。
そして僕は、美しく慎ましやかなその蕾とも言うべき華に見とれた。
「綺麗だ・・。」
思わず言葉が口をつく。
「や・・恥ずかしい・・。」
都の足が小さく震える。僕はもっとよく見ようと間近に顔を近づけた。
襞はまだぴったりと閉じ、そこが未成熟であることを表していた。クリトリスもまだまだ小さく、つんと小さくとがっていた。
だが・・。
「都・・濡れてるよ・・。」
豆電球のほのかな明かりにも、そこがてらてらと濡れているのがわかった。幼い性感でも胸を愛撫されて感じたのに違いない。思い切り鼻で息を吸うと甘い蜜の香りが鼻腔を擽る。
「お兄ちゃん・・やだ・・匂いなんて嗅がないで・・。」
都の哀願にくすりと笑いながら僕はそっとその未開の花園に指を触れた。
優しく。優しく感じさせてあげたい。
「どうして?すごくいい香りだ・・。」
「お兄ちゃんの馬鹿・・ぁ・・・え・・嘘・・・。」
都の戸惑う声をよそに僕はそこを丁寧に舐め上げていた。
ぺちゃ・・くちゅ・・・ちゅ・・じゅる・・・
「あ・・だめ・・汚い・・ぁ・・ん・・・。」
戸惑いながらも湧き上がる性感にその声が濡れていく。僕をそっと襞を開いて丁寧に舌を這わせながら微笑んだ。
「都の体に汚いところなんてどこにもないよ。全部、綺麗だ。」
ちゅ・・ちゅちゅう・・・じゅる・・・
「ぁん・・ん・・・あ・・・。」
いやいやと都が首を振るほどにシーツに黒髪が美しく散っていく。
僕の愛撫に感じ、もだえている都はまるでよくできた人形のように美しかった。
小さかったクリトリスが口の中で吸われ、舐められるにつれて大きくなるのに満足感を覚えながら僕はさらに熱心にそこを責め立てた。
そうしながらそっと膣の入り口に指を押し当ててみる。舌の刺激に翻弄されて気づかないのか都はそちらには無反応だ。
つぷ・・・
「あ・・・ああ・・・。」
そっと指を少し押し込んでみるとさすがに都の背中が震えた。
「・・・怖い・・?」
指は押し込んだまま、顔をあげて尋ねると都は必死に首を横に振って見せる。
不安の内に、必死に僕の愛撫を全て受け入れようとしているのが見て取れた。
「大丈夫・・。お兄ちゃん・・して・・。」
不謹慎な話だが、その都の不安に怯え、泣きそうにも見える表情に僕は絶頂寸前に追い込まれてしまったのだ。
それをごまかすかのように指をゆっくりと埋没させていく。
「あ・・・ああああ・・・・。」
「痛い・・?」
僕の問いに都は息を荒げながらも首を横に振る。
もしかしたら、かすかな痛みでも感じたのかもしれなかった。僕は都のクリトリスに舌を伸ばし、そこを舐めたてながらゆっくりと指をなじませていった。
指の付け根辺りを締め付ける襞がある。恐らくそれが処女の証なんだろう。
それを傷つけないように、ゆっくりと指を出入りさせながらクリトリスを吸い上げると都の腰が戦慄いた。
痛かったか・・?
一瞬生じた僕の不安はすぐに杞憂に終わった。
「ぁ・・あ・・・お兄ちゃん・・変・・変だよぉ・・・。」
都の小さな啜り泣きが耳朶を打ち、僕は都が快楽に喘いでいることを知った。
「いいんだ・・うんと変になって・・。」
「でも・・・声が・・・ぁん・・あ・・ああ・・・。」
「そうだね・・じゃ・・。
僕は都を四つんばいにさせ、枕に顔をうずめさせた。恥ずかしがる都のアナルから尻たぶから全て舐めると僕は都の股間の下にもぐりこみ、下から都の突起を舐めながら指を突き入れた。
「ん・・んん・・・・ぅん・・んんっ。」
枕の隙間からくぐもった声を漏らしながら都の腰が時折跳ねる。徐々に愛液の量が増し、突き入れている個所からじゅぶじゅぶといやらしい音が響くほどに。
僕は、指の勢いを少しずつ増していきながら丹念にクリトリスを舐めあげ、ころころと舌で転がし、それから吸い上げた。
都に快楽を味わわせてあげたい。その一心で。
やがて、その時は訪れた。
震える襞を中から擦りあげ、激しい痙攣にも似た締め付けが僕の指を襲うと同時に僕はクリトリスを強く吸い上げた。
「ん・・んんっ!!んんーーーーーっ!!!」
くぐもった悲鳴が枕の隙間から漏れ、都の腰ががくがくと震える。指が動かなくなるほどに襞が締め付けたかと思うとどぷっと大量の蜜が溢れ、都は尻を突き出すようにしたままがっくりと力を失ったのだった。
「都・・・。」
都の下から抜け出し、僕は口元をぬぐって呆然と荒い息をついている都を仰向けにした。その額に軽く口付けると都はわずかに瞳を伏せる。
「今の・・何・・・?」
読む知識と実際の体験とはやはり違うのだろう。都の疑問に僕は服を脱ぎ捨てながら答えた。
「イクってことだよ。」
「そう・・・なんだ・・・・。」
慌しく服を脱ぐと、まだ射精もしていないのに僕のトランクスはべっとりと濡れていた。大量の先走りのせいだ。少々気持ち悪いその下着を脱ぎ捨て、僕は再び都に覆い被さった。
「都・・・・・・いい・・・?」
やっぱり聞いてしまうのは情けない男の性ってやつだろうか。
いやだといわれて止まる自身はなかったが、僕はそう尋ねずにはいられなかった。
「お兄ちゃん・・・好き・・・。」
答えの変わりに、都はそう告白した。それからまだ都の蜜の香りが残る僕の唇に、自分の唇をおずおずと押し付ける。
触れるだけの、不器用な口付け。僕は、そのまま舌を割りいれ、都の唇の中を味わいながら都の足を大きく開いた。
痛いほどにそそり立った熱棒に都の濡れた襞の感触が伝わる。
都の体が緊張するのがわかったけど、もう止まらない。僕は、都の舌を吸いながら少しずつその先端を埋めていった。
「ん・・んう・・・んむ・・ふ・・。」
ぐちゅ・・・ず・・・・・
指を入れたときにはすぐだったのに。僕は、先端に感じる取っ掛かりに一瞬躊躇してしまった。
だけど。
震える都の体が僕の欲望に火をつける。鼻からわずかに漏れる不安げな息が、僕をその先へと駆り立てた。
欲しい・・・!
ずちゅ・・・ぶ・・・ちっ・・・
「ん・・・んんんーーーーーっ!!!んぅ・・う・・・!!」
痛みに仰け反る都を押さえ込み、漏れる悲鳴を唇に吸い取らせながら僕はさらに押し込みつづけた。処女血のことが一瞬頭にかすめ、僕は慌てて脱ぎ捨てたTシャツを都の秘裂の下に押し込んだ。
そうしながら、都が落ち着くのを待つ。
「ん・・ん・・ぅん・・。」
荒い息をつきながらも都の震える体は少しずつ落ち着いてきた。僕は都をしっかりと抱きしめ唇を舌で弄りながら少しずつペニスの抽送をはじめた。
「ん・・・んむ・・・んっ・・。」
最初は酷く苦しげだった都の声は徐々に艶を帯び、僕の背中に爪が立つほどすがり付いていた手も徐々に緩んできた。何より、血で滑っているとは言え硬かったそこが少しずつほぐれて潤いを増してきたのだ。
「都・・都・・。」
後はもう必死だった。後から思い返しても、まるで童貞が貪るように僕は腰をひたすら動かしていた。
救いだったのは、少しずつ都の唇から喘ぎらしきものが漏れ始めていたことだった。
ぐちゅ・・ちゅ・・ぐちょ・・・
「あん・・・ぁ・・んん・・・ぅ・・・は・・。」
初めて男を受け入れたそこはものすごい締め付けを僕に与えていた。少しでも油断をしたらすぐにでも溢れそうなほどに。経験がないにもかかわらず絡みつくようにまとわりつく襞が僕を押し包んで絶頂へと押し上げようとしていた。
腰を進めるほどに都の喘ぎが高く、すすり泣きのように変わっていく。
「お兄ちゃん・・・・好き・・・。」
限界だった。
僕は都の腹に思い切り欲望の証をぶちまけると、そのまま崩れるように都に覆い被さったのだった。
「好きだよ・・・。」
何回囁いただろう。
それでも足りない気がした。
都の勇気ある告白には何度言っても届かないような気がした。
それでも僕は囁かずにはいられなかった。
「・・・好きだよ・・。」

それからの3週間、僕達は貪るようにお互いを求め合った。親の目を盗んで、離れで、僕の部屋で。
夏が終わるのが疎ましかった。長いくせに短い。そんな夏休み。
まるで、秋に飛ぶ蜻蛉のように儚い、そんな夏。
そして。
やかましいほど蝉が鳴く夏の終わり。
都は一人、家へと帰っていった。
「・・また・・・『来年』ね・・・。」
それがあることを信じて。
確かにある、その未来を信じて。

僕は、3年になった。
深緑の季節が過ぎ、また、蝉が煩いほど鳴く季節に。
僕は、駅のホームに車を止めた。
あの日と同じように。
うだるような暑さ。
目に痛いほどの晴天。
列車が止まる。
僕は、ホームへと足を向けた。
「都・・・。」
遠き日の思い出を迎えに・・・。



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