《夢夜/走闇》
(kampfer様・作)
「くっ・・・・・・・」
冬条綺羅は顔を歪めながら、壁にもたれ掛った。わき腹の傷はまだ塞がらず、抑えている手の間からは、血が流れ続けている。如何やら「奴」の牙には何かしらの毒が付いていたのだろう。そうでなければ、今頃この傷はとっくに塞がっているはずだ。そう・・・吸血鬼である今の自分ならば・・・・
(吸血鬼か・・・・・・ふっ・・・・)
自分で既に自分が「化け物」であることを認めていることに対して、綺羅は心の中で自嘲的に笑った。こんな体になってまで仕留めたかった敵は未だに生き延びている。そのことに対してもだが、こんな体になっても当然の如く「死」などと言う物を選択肢にすら入れられない自分にも笑えて来る。
ガサッ・・・・
そんな事を考えていた時、物音がした。綺羅は痛む体を抑えて音のした方向に意識を集中した。だが如何やら「奴」では無いらしい。風がゴミでも飛ばしたようだ。綺羅は溜息をつくと、その場を離れようとした。今は違ったが、「奴」が自分を追って、もうすぐやって来るのは間違いない、ならば一刻でも早くここから立ち去ったほうが賢明だ。
綺羅はそう思い、立ち上がろうとした。しかし。
「あれ・・・?」
脚に力が入らず立ち上がれない。どうやら毒が入っている所に血を流しすぎたせいだろう。吸血鬼である者にとって、血は人間以上にその意味合いが大きい。
「くっ・・・・」
綺羅は手に必死に力を入れて立ち上がろうとする、しかし体は一向に立ち上がるという行動を取ろうとしない。その内に目までかすんで来た。その時、綺羅は何かの気配を感じた。それは明らかに自分に近づいてきている。
(こ・・・これは・・・本気でピンチですね・・・・)
綺羅はかすむ意識の中そう思った。そしてだんだんとその意識を暗い闇の中へと落としていった。
その綺羅に一人の男が近づいていた。男は倒れているのが綺羅だと分ると少し驚いたようだった。だが気を失っているのに気付くと、その体を抱き上げ、ゆっくりと歩き始めた。
・・・・・・・・・それより数時間前の事・・・・・・・・・
「はい、これ!」
萌木緑郎は事務所のソファーに座りながら、これ以上無いと言う満面の笑みを浮かべると前のソファーに腰掛けている綺羅に紙を手渡した。
「何ですか・・・これ?」
綺羅は萌木の笑みに不気味な物を感じつつ、聞き返した。
「何って・・・・見てわかんない?」
「・・・・依頼書・・・・・・」
「分ってんじゃない♪」
相変わらずとぼけたように言う萌木に綺羅は溜息をついた。
「で・・・その依頼書がなんなんです・・・?」
「いや・・・・だから、この依頼を君にやらせてあげるって・・・・・」
綺羅の質問に萌木は、さも当たり前の様に言いはなった。綺羅は頬をひくつかせた。
「何であなたの所に来た依頼を、私がやらなきゃならんのですか!」
綺羅はソファーから立ち上がろうとした。その時、
「これがノインテーターの旦那がらみだったとしてもかい?」
萌木の言葉に綺羅は上げかけていた腰を再びソファーに戻した。
「如何言うことですか・・・?」
綺羅の言葉に萌木は口に笑みを浮かべながら話し始めた。
「この依頼が来たのは一週間くらい前なんだけどね、ある有名大学の学長さんが直々に来て、何でも自分の学校の教授の一人が、自分の研究室を使っておかしな事をしているらしいから調べてくれって・・・・」
「・・・・・・・」
「ほら、ああ言う所はかなり体面を気にしちゃうから、他に漏れちゃまずいってんで、他人でしかも絶対に信用が置けるような所がご希望でね・・・・まぁ・・・だからうちに来たんだけど・・・・」
萌木は自慢げに言った。
「で・・・調べに行ってみたんだけどね・・・なんとそこにビックリするような人物が現れたんだ・・・」
「・・・もったいぶらないで下さい」
焦らすように言う萌木に綺羅は少し頬を膨らませて言った。
「・・・千坂静夜・・・・・ノインテーターのペットの一人のね・・・・」
綺羅は「やはり」と言う顔をした。ノインテーターは自らが率先して動く事はあまり無く、何かしらの事を行う場合必ず「ペット」を自らの代わりとする事が多い。千坂静夜はその一人だ。
「彼女・・・何度か研究室に何かを運んでいったんだ。それが何か、ってのは分らないんだけどね・・・」
萌木は話を続けた。
「綺羅ちゃんノインテーター絡みの情報欲しがってたでしょ?だからさ・・・・」
綺羅は分っていた。萌木は自分でこの仕事をさばき切れないのが分って自分にやらせようと言うことくらい。
「分りました・・・その代わり依頼料もちゃんと分けて貰いますからね・・・・」
萌木は驚いたような顔で綺羅を見つめた。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ、ノインテーター絡みの情報は市場に流せば結構な値になる物なんだよ・・・其れをただであげるって言うのに・・・・その上お金までなんて・・・・」
「今回はノインテーター自身が出て来た訳じゃありませんし、たかだかペットさんが一人何かしたってくらいの情報買う人なんていませんよ・・・・私がそんな事も分らないと思いました?」
「ぐぅ・・・・・」
萌木は自分の計画が読まれていた事が分り呻き声をあげた。
「でもでも、そこはホラ、オレと君の仲で・・・」
「だめです・・・・いやならどうぞあなたが直接調べてください・・・仲のいい飄次郎さんと一緒に・・・」
萌木の言葉を綺羅はあっさり蹴った。
「だって・・・飄次郎ちゃん、栄二ちゃんとの戦いが気に入らなかったらしくて、鍛えて来るって出かけたっきり帰ってこないんだもん・・・・」
「それならどうぞ一人で行ってください」
萌木は少し考えてから溜息をついていった。
「分った・・・7:3なら・・・・・」
「私が7ですね♪」
「しょんな!・・・まだランちゃん用に買った色んな物(皮手錠や貞操帯)の支払いだって残ってるのに・・・」
「だったら一人で行ってください」
萌木は少し考えてから目じりに涙をうっすらと浮かべた。
「わかった・・・・」
二人がそんなやり取りをしていると、いきなり台所へと続くドアが「バタンッ!」と大きな音を立てて開いた。萌木と綺羅の二人は驚いてその方向に顔を向けた。そこに立っていたのは犬月ランだった。
まるで「ズーン」と言う効果音でも入りそうな位、重たい雰囲気でランは手に持ったお盆にコーヒーをのせて二人の所に歩いてきた。コーヒーは萌木が綺羅が来た時に炒れるように頼んでおいた物だ。
ランは二人が座っているソファーとソファーの間に置いてある机にコーヒーを置いた。酷く乱暴に置いた為「ガチャ」と音がした。コーヒーも少しだがこぼれてしまっている。だがランは何事も無かったかのように台所に戻っていこうとした。
「ラっ・・・・・ランちゃ〜ん・・・・・?」
萌木が恐る恐る声をかけると、ランはゆっくりと後ろに振り向いた。顔は笑っているが明らかに機嫌が悪いのが分る。
「お二人共とても仲がおよろしそうで・・・・どうぞごゆっくり・・・・・・」
ランはそれだけ言うと又ドアを「バタンッ!」と音を立てしめた。萌木はランが放った気配が、初めて九堂と対峙した時の飄次郎と同じ物だと感じ身震いをした。
「あの・・・・もしかして、私って凄い嫌われてます?」
綺羅が汗をたらしながら萌木に聞いた。
「さっ・・・・・さぁ・・・・」
萌木は首を傾げ曖昧な返事をした。
深夜、郊外にある馬鹿でかい大学の敷地の中に綺羅はいた・・・・さらに詳しく言うのなら、依頼書に書かれていた怪しい事をしていると言う教授の研究室の近くに生えている木の枝の上にだ。
綺羅はそこから研究室を見つめていた。暗視ゴーグル等を使わなくても、様子は、はっきり見えていた。吸血鬼の体もこう言うときは ありがたい。
暫く様子を眺めていて綺羅は何かがおかしい事に気がついた。研究室の中に人の気配が無いのだ。この研究室は一つの建物として孤立しているので、人の出入りがあるなら分るはずだ。先程何人かの人間が入っていったので、気配がないというのはおかしいのだ。
「・・・・・・・・」
綺羅は中の様子を調べる事にした。本当なら千坂が来るまで待とうとしたのだが、(今日来るとは限らないが)こうも様子が変なのでは仕方がない。
綺羅は木の枝から音も立てずに飛び降りると、研究室の窓の傍までやって来た。窓は外からは中が見えないようになっている、だめもとで少し引っ張ってみたが、当然の如くあかなかった。表の扉はかなりなセキュリティなので、入るとしたら窓からしかない・・・もっとも表から堂々と忍び込む奴なんて綺羅が知っている中では一人しかいない。この時、綺羅の頭の中では見慣れた顔が「いや〜照れるな〜」なんて言いながら頭を掻いている映像が浮かんだ。
ブルブルブル・・・・
綺羅は首を二・三度振ってその映像を振り払うと、気を取り直して、コートの袖口から長方形の紙を取り出した。紙には墨で何か文字が書かれている。綺羅はその紙に「ふぅ・・」っとやさしく息を吹きかけると、それをそっと壁に近づけた。するとその紙は、急に蠢き始めた。そして紙は、まるで百足のような虫になった。
虫は壁を這いずりながら、窓の上にある換気口に入ると、そのまま室内に侵入し、そしてあっさりと窓の止め具を外した。綺羅は止め具が外れた音を聞き取ると、窓を音を立てないように開けた。そして室内に侵入すると、虫の頭を指で撫でた。
「有難う御座いました」
綺羅が小さく優しい声でそう言うと、虫はその姿を元の紙に戻していった。元に戻った紙には所々に切れ目が入っていた。
綺羅が今扱った様な札形の式神は一度主人に命を授けられ、そしてその命をとかれると、二度と使えなくなってしまうのだ。
綺羅はその紙を拾ってコートのポケットに入れると、研究室の中を歩き始めた。といってもそんなに広い建物ではないので少し歩き回れば全てが見れてしまう。
綺羅が感じた通り研究室の中には人は一人もいなかった。だが人が入っていった以上、居ないと言うのはおかしい、式神を使って調べさせようか? などと思っていた時、綺羅はあることに気がついた。菌等を保管する用の馬鹿でかい冷蔵庫が少し開いているのだ。綺羅は何と言う気持ちも無くその冷蔵庫の扉を引っ張ってみた。
「あっ・・・・・・」
綺羅は驚いた。冷蔵庫の中は階段になっていたのだ。
「中々面白おかしい事しますね〜・・・・」
綺羅はそう言いながら、気配を殺してその階段を下っていった。電気を付ける事は出来ないので非常に暗いが、綺羅にとって見れば、明かりの中を歩いているのとさほど変わりは無い。
階段を一段下りるにしたがって何やら奇妙な臭いが綺羅の鼻孔を刺激していった。
「これは・・・・・」
その臭いには覚えがあった。いや・・・そう何度も嗅いだ事は無い臭いの筈だ。しかし覚えがある・・・それは・・・そう・・・綺羅にとって・・・いや・・・『今の』綺羅にとって・・・とても香しい・・・とても素晴らしい・・・
「くっ・・・・・・」
綺羅は頭を振ってその考えを追い払うと、さらに下に降りて行った。そして扉の前にたどり着いた。扉は半開きの状態になっていた。中から光が漏れている。綺羅はそこから中を覗いてみた。
「あっ・・・・・」
綺羅は声を洩らすと、扉を少しずつ開けていった。そこには死屍累々と横たわる研究員達がいた。皆、腹や喉ありとあらゆる所を「何か」に食い千切られていた。中には爪で引っかかれたような痕がある者もいる。床にはその死体から流れ出た血が溢れ返っている。
「うっ・・・・・・」
綺羅は右手で口の辺りを抑えた。酷くなる喉の渇き、恐ろしいまでの吸血衝動・・・・いや、そもそも吸血鬼に対しこれだけの血液を見せて「何も感じるな」と言うほうが不可能だろう。
だが綺羅は耐えた・・・血の臭いを嗅ぎ過ぎない為に口と鼻を手で抑えると、近くのテーブルに空いている方の手を置いて気持ちを整えた。「大丈夫・・・・これくらい」そう自分に言い聞かせると、ゆっくりと閉じていた目を開けていった。気持ちも心なしか落ち着いている。
普通の吸血鬼ならばこうは行かないだろう、普通ならば自分の吸血衝動を抑えられず、理性をなくし、生きている人間を探して襲っている所だろうが、そこはやはり綺羅の並外れた精神力のなせる技だろう。
その時綺羅は机の上に乗っている書類に気が付いた。
「・・・・レポート・・・・・?」
綺羅は其れを手にとると読み始めた。
『レポート・・・・・吸血鬼の細胞(写真Aを参照)を他の生物と掛け合わせ作り上げた実験体A〜E(別書類参照)はその細胞分裂の段階、及び成長過程において著しい疾患を見せ死亡―――特にA・B・Cの三種においては同じ段階で死亡した事からプログラム細胞死(グラフ1)と見られ、その部分を初期段階から取り除いたD・Eも段階は違うものの死亡(グラフ2)―――こちらについての原因は只今解明中
レポート・・・・・協力者により補充された吸血鬼の細胞を使い実験を再開、その際吸血鬼の細胞と共に渡された血液(別記参照)を使えとの協力者の指令により、日本猿のDNAと掛け合わせた実験体F(別書類参照)と渡された血液と掛け合わせた実験体G(同別書類参照)を現在育成中
レポート・・・・・驚くべき事態が発生、実験体FについてはD・Eと同時期に死亡・・・しかしGについてはその段階を突破、驚愕すべきスピードで細胞分裂を繰り返し、今尚成長を続ける』
「・・・・実験体・・・・・」
綺羅の考えが正しいなら、協力者とは静夜のことだろう。しかし綺羅にはそのことより、実験体と言う文字のほうが気になっていた。その時だった。
ギィィィィィ・・・・・
何かが開く鈍い音がした。綺羅が音のした方を見ると。奥へと続く扉が少しずつ開き始めていた。・・・いや正確に言うのなら元々開いていたのを誰かがさらに開けようとしているのだ。
綺羅は袖から式神用の札を取り出すと、その方向に意識を集中した。
「あっ・・・・・・たす・・・・け・・・・・・・」
扉から出てきたのは血まみれの男だった。男の顔には見覚えがあった。緑郎に渡された書類の中にかかれていた調べる対象・・・・つまりこの研究室の教授の長田と言う男だった。
長田は地面を這いずりながら、綺羅に向け手を伸ばし、ひたすら「たすけて」とかすれた声で言いつづけた。
綺羅がその長田に近寄ろうとしたその時、長田は一瞬目を見開くと、そのまま壊れた人形のように必死で起こしていたであろう上体を地面に倒すと其れきり動かなくなった。
綺羅がその長田に近寄ろうとしたその時、長田の体を踏み越えて何か別の物が現れた。それはひたすら奇妙な物だった。かろうじて生物だと言う事は分るが、こんな生物を綺羅は見た事が無かった。・・・・いやこの生物に近い物なら何度となく見ているだろう、それは自らが呼び出した式神だ。そうまるで物語に出てくるようなモンスター・・・
似ている生物をあげるとするならば狼だろう・・・しかし発達し過ぎた牙と爪、全身に体毛は生えていない。いや体毛どころかその体には皮膚すら形成されておらず、骨格の上に異様な盛り上がりを見せる筋肉が張り付いているだけだ。そして至る所にプラグらしき物が埋めつけられている。
綺羅は思った。多分これが先程見た書類に書かれていた「実験体G」なのだろうと・・・・そしてこれこそがこの死体達をつくり上げた張本人なのだろうと・・・・。
その時一瞬だが綺羅にはGが笑ったように見えた。その瞬間Gは信じられないスピードで綺羅に向かってきた。
「くっ・・・・・」
頭を狙っていると判断した綺羅は、両手で頭を庇うようにした。しかしGは綺羅の行動を読み取ると狙いを変え、綺羅のわき腹に襲い掛かった。その速さは信じられないほどで、綺羅は脇腹を殆ど庇えないで一撃を喰らってしまった。
Gは口の周りについた綺羅の血を舐めとると、次は何処に攻撃を浴びせようかと言う風に、綺羅を睨んでいた。
一方、綺羅は脇腹をおさえて立ち尽くしていた。Gは綺羅が動けないのを悟ったのか、今度こそ頭に狙いを定めると、一直線に飛び掛ってきた。綺羅は脇腹の痛みに耐えながら間一髪その攻撃を横に飛んで避けると、袖からありったけの札を取り出した。そして短い呪言を唱えると、着地してまだ姿勢のとれていないGに其れを全て投げつけた。札はその形をゴルフボールほどの大きさの、羽を持った虫に変えると、Gの体にまとわり付いた。
「グゥォォォォ!!!!」
Gは咆えながら体に付いた虫を一匹又一匹と食い千切り、踏み潰していった。綺羅はその間に階段を駆け上がると、鍵を閉めずにおいた窓から外に出て、そのまま大学の敷地から出た。そして走りつづけた。何処へなどと今は考えている暇は無い一歩でも遠く・・・・遠くへ行かないと・・・・あいつが・・・・追ってきて・・・・追って・・・お・・・・
「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
綺羅は悲鳴をあげると、ベッドから跳ね起きた。
「・・・・えっ・・・・・・?」
自分は今までどうやら夢を見ていたらしい。・・・いや夢と言うよりは、自分の身におきた事を思い出していたらしい。そして如何言うわけか、自分はベッドの上で寝ていたらしい。
綺羅は周りを見渡した。造りからしてどうやらホテルだ。そして綺羅は自分の体を見た。ショーツとブラウス一枚と言う格好だが、傷には手当てがされ包帯が巻かれている。幸いな事に手に枷ははめられていない。その時、部屋の入り口の近くにある扉が開いた。綺羅は一瞬身構えたが、それが見知った人物だと分ると少し驚いた風に言った。
「く・・・・九堂さん・・・・・」
扉の中から出てきたのは九堂栄二だった。
「・・・気が付いたのか・・・・・」
九堂はシャツと皮製のスラックスと言う格好で、まだ乾ききっていない髪の毛をホテルの名前がついたバスタオルで拭きながら行った。どうやらシャワーを浴びていたようだ。九堂は言いながら備え付けの小さな冷蔵庫に近づくと、中から缶ビールを取り出し、それを飲み始めた。
「あっ・・・・・あの・・・・・」
綺羅はベッドの掛け布団でショーツだけの下半身を隠すと、おずおずと話し掛けた。
「如何して自分が俺と此処にいるか・・・だろ?」
「えっ・・・・は・・・・まぁ・・・」
自分が言おうとしていた言葉を取られて、綺羅は口篭もった。
「・・・あんたが倒れていた所の近くに用事があったんだ・・・・で、歩いてたら誰かが蹲ってたんで近寄ってみたら、あんただったってだけだよ・・・・・・」
「・・・・で、助けてくれたんですか・・・・」
「まぁ・・・・そう言うことだ・・・・」
綺羅の言葉に九堂はそっけなく答えた。
「あ・・・・有難う御座いました・・・・ところで・・・」
綺羅はお礼もそこそこに疑問に思った事を口にした。
「九堂さんの用事ってもしかして、長田って人と関係あることじゃありません・・・?」
「知ってるのか・・・?」
九堂の反応に綺羅は、やはりと思った。九堂が個人的にノインテーターを追い始めたことは、萌木から聞いていた。そしてあの近くに用事がある。と言えば、それ以外考えられないだろう。
「やっぱりそうですか・・・・・・」
綺羅はそう言うと、自分が見たことを九堂に話し始めた。普段なら軽軽しく他人に情報を流したりはしないが、少なからず助けてもらった恩を感じているのだろう。
「・・・・・・・・・・」
綺羅の話を聞き終わると、九堂は考え込むようにして椅子に座り込んだ。
「・・・・で、どうします・・・?」
「・・・・・・・・・・」
「あっ・・・あのう・・・」
「・・・別にあんたに話す必要は無いだろう・・・・」
綺羅の言葉に九堂は、冷たく言い放った。
「いや・・・それは・・・・私だって話したんですから・・・」
九堂の冷たい反応に綺羅は少々口篭もりながらも、言い返した。
それを聞くと九堂は、ビールの缶を椅子の隣りの小さなテーブルの上に置き立ち上がった。
「悪いが俺はあんたを完全に信用してるわけじゃない・・・・・」
「・・・・・・」
九堂の言葉に綺羅は黙り込んだ。九堂はそれを横目で眺めながら、洗面台のほうへ歩き出した。
「それは・・・・・」
「・・・あっ・・・?」
その時綺羅がぼそりと何かを呟いた。その声に九堂が反応すると、綺羅は今度は聞えるよう少し強く言った。
「それは・・・私が吸血鬼だからですか・・・・?」
「・・・・・・・」
綺羅の質問に今度は九堂が黙り込んだ。
実際、綺羅の言動は的を射ていた。吸血鬼に対する第一印象が悪すぎる九堂の中では、まだ一度しか会った事の無い綺羅は所詮、吸血鬼でしかないのだ・・・・たとえこちら側の人間だとしても・・・・極端な話、「大丈夫!このライオン噛まないから!」と言われても、そのライオンを始めてみた人間にしてみれば、ライオンは所詮ライオンなのだ。
そう・・・特にその『ライオン』が如何言う経緯で『ライオン』になったか知らない人間にしてみれば・・・・。
「悪いが、俺はあんたの仲間のように、仲間だからと言って、吸血鬼を完全に信用できるような、お人よしじゃないんでな」
「・・・・・・・・」
九堂は又黙り込んでしまった綺羅から目をそらした。
「私だって・・・・・・」
「・・・?・・・・」
しばしの沈黙から綺羅は急に話し始めた。
「私だって好き好んでこんな体になったんじゃありません!!」
「・・・・・・・」
綺羅はその美しい顔に強張らせながら柄にも無く大きな声で九堂に言い放った。その瞳は必死で何かを訴えているようにも、今にも泣き出しそうな少女の瞳のようにも見えた。
「あっ・・・・・・・・」
「私だって・・・・・・」
下を向きシーツを握りしめる綺羅を見つめて九堂は戸惑った。考えてみれば言いすぎたかもしれない、思えば自分は彼女の事をまるで知らない、なのにあんな事を・・・・九堂はそんな事を考え、ますます動揺していった。
「・・・・・・・」
「いや・・・・あの・・・・俺も・・言いすぎっていうか・・・・・その・・・」
「・・・・・・・」
黙り込んでいる綺羅に九堂はおろおろしながら、話し掛けた。
「だから・・・・その・・・すまなかった・・・・・じゃなくて・・・・ごめん・・・」
「・・・・・くっ・・・・・・・・・」
「・・・?・・・・」
「くくくく・・・・・・・・・」
その時綺羅の肩が震えだした。口からは何かが漏れるような音が聞える。
「お・・・・おい・・・」
九堂が近寄っていったその時だった。
「あははははははははは・・・・くっ・・・九堂さん・・・可愛すぎです・・・・くくく・・・あははは」
綺羅が急に笑い始めたのだ。九堂はそれを見つめながら呆けたように口を開けている。だがはっと気付くと綺羅を睨んだ。
「お前な・・・・」
「いやだな、怒んないで下さいよ」
睨む九堂に綺羅は悪びれた様子もない。
「九堂さんがそんなに酷い人じゃない事くらい分ってますよ、だって私の事助けて手当てまでしてくれたんですから。九堂さんはとってもいい人です」
綺羅の言葉に九堂は、ばつが悪そうに頭を掻いた。そしてその照れを隠すように、置いてあった温くなったビールを一気に飲み干した。
「ふふふ・・・・・」
「・・・・だ・・・大丈夫なのか・・・・・」
「えっ・・・?」
まだ笑い続ける綺羅に九堂は誤魔化すように話し掛けた。
「傷だよ・・・・その」
九堂が指差した脇腹に綺羅は手を当てた。
「まだ少し痛みますけどね・・・・血が足りないんで治りが遅いみたいです」
「血・・・・・」
「ええ・・・・私吸血鬼なもんで・・・・」
笑いながら言う綺羅に九堂はすまなそうな顔をした。
「いやだな、そんな顔しないで下さいよ。私全然気にしてませんから」
「・・・・・ああ・・・」
綺羅の言葉に九堂は何かを考え込むように黙り込んだ。そして何かを思いついたかのように、椅子の背もたれにかけてあった皮製のコートを持ち上げると何かを探すようにコートを触り始めた。
「どうか・・・・したんですか・・・?」
その様子を見ながら綺羅が呟いた。九堂はそれを聞きながら、お目当ての物が見つかったらしく、コートの内ポケットに手を入れた。そして中から取り出したのは、バタフライナイフだった。それはミハエル・・・今の彼の行動を決めた男が使っていた物だった。九堂は ミハエルが灰となった後このナイフを拾っていたのだ。
「あの・・・・・・・」
綺羅の問いかけを無視するように九堂はナイフの刃を取り出すと、それで自分の左掌を斬り付けた。
「ちょ・・・・何してるんですか?」
身を乗り出すように言う綺羅に九堂は左手を差し出した。
「あっ・・・・・あの・・・・」
綺羅は少し戸惑いながら九堂の顔を見た。
「飲めよ・・・・」
「えっ・・・・?」
九堂の言葉に綺羅は驚いた。
「噛まれてやるわけにはいかないんでな・・・」
「で・・・・でも・・・・・」
綺羅には分っていた。これは彼なりの罪滅ぼしのつもりなのだろう。しかしだからといって・・・・・
「気にするな・・・・それにどの道、斬っちまったんだ・・・・」
綺羅のそんな気持ちを悟ったのだろう。九堂が言った。
正直な話、今の綺羅にとってこれほど有り難い事は無いだろう。綺羅は血の流れつづける九堂の手を見つめ、そして九堂の顔を見上げた。
「本当に・・・・いいんですか・・・?」
「ああ・・・・・」
綺羅の問いに九堂は優しく答えた。綺羅はそれを聞くと九堂に近寄ったそして九堂の左手を両手で持つと、その血が流れつづける傷口を見つめた。
見つめているだけで、喉が焼け付くように熱くなって来る。心臓が早鐘のようになり始める。体中の全てがこの甘美な液体を欲しているのが綺羅にはわかった。
「そ・・・・それじゃ・・・・・」
「おい・・・歯・・・立てるなよ・・・・」
頬を真っ赤に染め上げ、自分の手を見つめつづける綺羅に九堂は複雑な気持ちになった。
「あは・・・・なんか・・・えっちぃですね・・・」
綺羅は照れくさそうにそう言いながら、九堂の掌に口をつけた。
「くっ・・・」
『ピチャ』と言う音と共に、自分の掌の上を舌が蠢く奇妙な感覚に、九堂は顔をしかめた。
(ん・・・・・あ・・・・美味しい・・・)
しかし当の綺羅はそんな事気にせず、自らの渇きを癒してくれる甘美な液体を飲みつづけた。
「・・・・・おい」
その時九堂が声をあげた。指の先がしびれ始める。血と共に「何か」が一緒に吸い取られていくような、そんな感覚に耐えられなくなったのだ。
「・・・・おい!」
だが綺羅はそんな声聞えていないかのように、ただ一心に九堂の血を舐め取り、喉の奥に流しつづけた。
「・・・おい!!」
しかしもう限界だこれ以上吸い取られたら此方が失神してしまう。九堂はそう思った。
「おい冬条!!!」
「はっ・・・・」
ひときは大きい九堂の叫びに綺羅は我に帰った。
「あ・・・・すみません・・・あの・・・・わたし・・」
口の周りについた血を手で拭いながら、綺羅は泣き出しそうな顔をした。
「いや・・・大丈夫だ・・・気にするな・・・」
傷口を洗い綺羅に巻いた包帯の残りを、手に巻きつけながら、九堂は優しくいった。
「・・・・・・・・」
抑えられると思っていた・・・少しだけ・・・そう思っていた。しかし・・・九堂には大丈夫と言われたが、綺羅は下を向いて黙り込んでしまった。
九堂はそれを見ながら、椅子に座ると、少し困ったような顔をしたが、すぐ沈黙をもみ消すように、綺羅に語りかけた。
「すこしは・・・ましか・・・・」
「えっ・・・・・・」
「いや・・・・その・・・・傷だよ・・・・」
九堂が気を使っているのが分り、綺羅は精一杯の明るい顔を作った。
「ええ、もう九堂さんのおかげでこんなに・・・・」
そう言いながら、綺羅はベッドから立ち上がろうとした。しかしまだ足のふら付きが取れてはいなかったようだ。綺羅はベッドに倒れそうになった。
「きゃ・・・」
「この・・・馬鹿」
九堂は綺羅を支えようと綺羅の腕を掴んだ。しかし角度が悪かったらしく、九堂も一緒に倒れこんでしまった。
ドスンという音と共に二人の体が、ベッドの上に重なる。まるで九堂が綺羅を押し倒したような格好になってしまっている。
「す・・・・すまん・・・・今避ける・・・」
それに気付いた九堂は、急いで避けようとした。照れているのか、顔は真っ赤になっている。無理も無いだろう。自分の体の下には、ショーツとブラウス一枚の―――――自分がそうさせたのだが―――――美しい女性が横たわっているのだから。
その時、綺羅が九堂にのみ聞えるような小さな声で囁いた。
「いい・・・・ですよ・・・・」
「えっ・・・」
九堂は戸惑った。「いい」とはつまりそう言う意味なのだろう。それが分らないほど極端な人生を九堂は送っているわけではない。
だが綺羅は戸惑う九堂から目をそむけると、頬を紅く染め、もう一度呟いた。
「いいです・・・・九堂さんなら・・・」
そういい目を瞑る綺羅を九堂は見つづけた。美しい髪、透き通るような肌、吸い込まれそうな瞳、艶やかな唇、豊満な胸・・・月並な言い方だが、おおよそ女性が望む全ての物を持ち合わせたこの女性を、今彼は手にする事ができるのだ。しかし・・・
綺羅は九堂が動いているのを感じ、目を固く瞑ると、シーツを握りしめた。しかし・・・しかし何時までたっても一向に自分の体に何かが触れる気配が無い、綺羅は薄く目を開けていった。すると九堂はベッドの端に座っていた。
「あ・・・あの・・・」
綺羅は上半身を起こすと九堂に声をかけた。
「悪い・・・弱みに付け込んで抱くみたいのは、あんまり気が進まない・・・・・」
九堂は照れくさそうに頭を掻いた。
「あんたを抱く時は・・・本気でくどくよ・・・・・」
綺羅はそう言う九堂の傍に近寄った。
「・・・・九堂さん・・・・」
声に振り向いた九堂の顔に綺羅はその美しい顔をまるでキスでもしそうなくらいに近づけた。
「・・・お・・・おい・・・」
「九堂さん・・・・」
戸惑う九堂に綺羅はおどけるように言った。
「私そんなに軽い女じゃないですよ」
「は・・・・?」
当惑する九堂から体を離すと、綺羅はベッドに座りなおした。
「私、誘われたからって簡単に落ちるような女じゃないです。今回が私を抱く最後のチャンスだったかもしれないのに残念でしたね〜」
「おまえな・・・・」
呆れ顔で言う九堂に綺羅は人差し指を立てて少し膨れたように言った。
「それと・・・さっきから、おまえおまえって・・・私には名前があるんですから、ちゃんと名前で呼んでください」
そう言う綺羅に九堂は薄く笑った。
「分ったよ・・・・冬条・・・」
そう言うと九堂はベッドから立ち上がった。そして乾いた喉を潤すため冷蔵庫に向かった。その間綺羅は自分の格好に気付いて近くに置いてあったスラックスとシャツを着た。
「・・・それとな・・・・」
「はい・・・?」
新たに取り出した缶ビールに口をつけながら九堂は言った言葉に綺羅は問い返した。
「さっきの話だよ・・・・それに俺は男がいる女を抱くほど餓えていない・・・・・」
「?」
何を言っているのか、綺羅にはさっぱり分らなかった。その表情を読み取り、今度は九堂が顔に疑問符を浮かべながら言った。
「・・・お前・・・萌木と付き合ってるんじゃないのか・・?」
「はい・・・!?」
綺羅が素っ頓狂な声をあげた。
「違うのか・・・?」
「ち・・・違いますよ!何言っちゃってくれてるんですか!」
明らかにうろたえて否定する綺羅をみて九堂は、「そうか」と短く一言だけ言った。
「そっ・・・・・それに・・・緑郎さんにはちゃんとお付き合いしている人がいますし・・・・」
「そうなのか・・・・」
まあ不思議な事ではないだろう。九堂はそう思った。
「誰なんだ・・・・」
「飄次郎さんです」
ブーーーーーーーーーーッ!!!
九堂は飲みかけのビールを口から吐き出した。だがそんな事より問題がある。九堂は咽るのを抑えながら真剣な顔をして聞き返した。
「ほ・・・・本当か・・・?」
九堂の問いに綺羅は真剣な顔をして答えた。
「嘘に決まってるじゃないですか」
「あのな・・・・・」
「九堂さんて本当に騙されやすいんですね」
綺羅の笑い顔に九堂は起こる気がうせた。その内に二人はどちらからとも無く笑い始めた。
その時、急に九堂の顔が険しいものになった。
「・・・どうかしました・・・?」
不審に思った綺羅が声をかける。しかし九堂はそれが聞えないかのように、部屋の外へと繋がる扉を見つづけた。
「・・・・何か来る・・・・」
「えっ・・・?」
九堂の呟きに綺羅が反応した。
「九堂さん・・・?」
「この部屋に来る時に廊下に何個か火種を撒き散らしておいたんだ・・・・それが弾けた・・・」
「でも・・・他のお客さんかも・・・・」
「こんなに早く動ける人間いないとおもうがな・・・・」
綺羅の言葉を九堂は否定した。もっとも今九堂が感じている感覚は、九堂本人にしかわからないのだから仕方がない。
「・・・・・・・・・」
しばしの沈黙・・・まるでホテル自体が死に絶えたかのような沈黙が暫く続いたその時、
ドーーーーーン!!! と言う音の後、九堂達の部屋の扉がいきなり歪んだ。まるで何かが外からハンマーで叩いているかのように・・・・其れは何度も何度も続いた。そして遂に扉が衝撃に耐えられなくなり、音を立て床に倒れたその後ろに奴はいた。
奇妙なほどにいびつなフォルムを持った生物・・・・それはGだった。
「あっ・・・・・」
綺羅が短く声をあげた。
「知ってるのか・・・・」
「さっき話した奴ですよ・・・研究所にいたあの・・・・」
「ああ・・・・・」
綺羅の説明に九堂は嘆息をあげた。想像以上に不味い面だ・・・・そんな事を考えていた時
「グワッ!!!!」
Gが凄まじいスピードで綺羅達・・・・いや正確に言えば綺羅に向かって飛び掛った。
「くっ・・・」
九堂は綺羅を弾き飛ばした。そのせいで綺羅に向かう筈だった攻撃は九堂に当たった。
「九堂さん!!!」
「かすり傷だ」
九堂は体制を取り直した。Gはまだ綺羅を狙うのを止めてはいない。速くも次の攻撃に移ったGに、九堂は自分のコートを掴むと、それで綺羅に向かって走りこんだGの体を覆うとその脇腹を思い切り蹴った。
ギャンと言う悲鳴をあげ飛んでいったGを横目で見ながら九堂は先ほどまで自分が座っていた椅子を掴むと、それを窓に向かって放り投げた。
ガシャン! と窓ガラスが割れ外から冷たい風が入ってくる。九堂は尻餅をついている綺羅を抱え上げた。
「ちょ・・・九堂さん・・・」
「しっかり掴まってろ・・・」
何をしようとしているか分らない綺羅に九堂は短くそう言うと、その窓から外に向けて飛び出した。その瞬間Gはコートを食いやぶった。しかし既に二人の姿はそこには無かった。
「九堂さん!!落ちてます!!おちてます!!」
綺羅が悲鳴をあげた。無理も無いだろう何せ九堂が飛び出したのは、そのホテルの最上階・・・つまり26階からだったのだから。だが九堂は少しも動揺した様子もない。
落ちる!綺羅はそう思った。吸血鬼の自分ならば助かるだろうが、九堂は・・・・そんな事を考えて九堂の顔を見たとき、綺羅は気がついた。九堂の瞳が炎のような色になっていることに。
「炎上姫(レッドオデット)!」
九堂がそう言った瞬間。虚空に現れた姫君は一際大きい紅蓮の紅球を作り出すと、それをこれから二人が落ちるであろう地面に投げつけた。炎は地面に当たると、凄まじい爆風を上空に上げた。九堂は其れを利用し、体制を立て直すと、綺羅を抱えたまま難なく地面に降り立った。
「走れるか?」
「え・・・・・・あっ・・・はい」
半ば呆然としたまま綺羅が答えた。九堂はそれを聞きながら自分達が降りてきた窓を見つめた。
「くそっ・・・」
最悪の状況だ。よほど凄まじい運動神経をしているのだろう、Gはホテルの壁面の僅かな取っ掛かりを利用して下に降り始めている。
九堂は綺羅の腕を掴むと走り始めた。バイクで行こうかとも考えたが、地下にある駐車場にバイクを取りに行っている暇は無いだろう。
「はぁ・・・はぁ・・・」
暫く走ると綺羅の息が上がり始めた。そう長い距離を走ったわけではないのだが・・・やはりあの程度の血では傷を完治させることは出来なかったのだろう。
(くそ・・・・このままじゃ・・・・)
九堂は心の中で呟いた。口に出すことはしなかったが、正直状況はかなり不利な物だ。ただでさえGのスピードは並外れている・・・・其れなのに此方はまともに走る事も出来ない。
「く・・・・九堂さん・・・・さき・・・・いってください・・・・」
その時綺羅が急に言った。綺羅もこの状況が分らないほど鈍くは無い。
「ばか・・・」
だが九堂は其れをあっさり否定した。綺羅もなんとなくは分っていた。この提案を九堂があっさり否定する事くらい。
(優しすぎですね・・・・絶望的に・・・)
綺羅は心の中で呟いた。正直一番扱いづらい人間だ・・・そして一番・・・好きなタイプの人間だ。
その時九堂が急に立ち止まった。
「どうか・・・・しま・・・」
「先にいけ!」
息を切らしながら言う綺羅に九堂は叫ぶと、進んでいた方向からそれた所へと九堂は走り出した。
「ちょ・・・・九堂さん!」
「行け!」
綺羅はわけが分らなかったが、九堂の言葉どおり又走り始めた。後ろを見るとGらしき陰が見え始めていた。
(九堂さん・・・・)
綺羅はそう心の中で呟くと、力の限り走った。
一方綺羅とは別の方向に走り始めた九堂も心の中で呟いた。
(あれなら・・・・)
九堂は走った。あの時・・・綺羅と一緒に走っていた時、見つけた「あれ」を手に入れるために。
九堂が走った先はコンビニだった。正確にはその店先にある駐車場だ。
深夜のコンビニの前には一人の少女が立っていた。年のころは13・4だろうか・・・酷く時代かかった服を着ている。しかし今必要なのはその少女ではない。その少女の傍らに置いてあるバイク・・・・ヤマハXJR1300だ。
九堂はXJRの傍まで一直線に走ると勢いをつけて其れに飛び乗った。
「えっ・・・・・?」
少女が声をあげた。いきなり現れた男に驚いたのだろう。しかし九堂は其れを無視した。
XJRにはキーが挿しっぱなしになっていた。どうやらバイクの持ち主は少女の関係者なのだろう。少女に見ていてもらえば大丈夫だとでも思ったらしい。
(ついてるな)
九堂はスタンドを上げると、キーを廻しエンジンをスタートさせた。下手な改造を行っていないらしく。XJR本来の軽やかなエンジン音がこだまする。
「ちょ・・・・」
「借りるぞ・・・・・」
戸惑う少女に一言そう言うと、九堂はアクセルを廻しXJRを発進させた。後に排気ガスを残し九堂の乗ったXJRは綺羅が走りつづけるほうへと向け、その車体を走らせた。
「おまたせ・・・」
食料や飲み物の入った袋を鞄に入れながら、一人の青年がコンビニの中から出ていた。語りかけた相手はあの少女だ。
「あっ・・・・鷹斗・・・」
少女が青年に気付き声をかけた。声が何処となく呆けたようになっている。
「どうか・・・・したのか・・・?」
それに気付いた青年が顔をしかめながら問い掛けた。
「ばいく・・・・盗まれちゃった・・・・」
「は・・・・?」
少女の意味不明な言葉に青年は一層顔をしかめた。そして自分のバイクが置いてあったところを見直してさらに青年は顔をしかめた。
「あ・・・・?」
綺羅は後ろを振り返りながら走りつづけた。振り返るたびに距離が近づいてゆく最悪さにはいい加減嫌になってくる。
九堂は早く来てくれないだろうか・・・・・そんな事を考えていた自分がいたことに綺羅は笑えてきた。人を頼りにしたのは数えるほどしかない、まさか出会ってからの時間がこんなに短い奴を頼りにするとは思っても見なかった。
そんなことを思っている間にも距離はどんどん縮まってゆく。
(くっ・・・・・)
その時だった。ヴウウゥゥ・・・・と言う音と共に一つの光が綺羅のほうに向かってきた。よく見るとそれはバイクだ。そして其れに乗っているのは。
「九堂さん!!」
綺羅はつい声をあげてしまった。
「乗れ!」
九堂は叫んだ。走っているバイクに飛び乗る・・・普通の人間には到底無理だろう。しかし綺羅ならば、九堂はそう信じ叫んだのだ。そして綺羅も其れに答えるようにバイクのタンデムに飛び乗った。
「ナイス!」
後ろにいる綺羅に九堂が笑いかけた。
「ふつーけが人にこんな事させます?」
綺羅はむくれながらも、何処か楽しげに言った。九堂は其れを感じると、口に笑みを浮かべた。そしてアクセルを開け放った。九堂達を乗せたXJRは滑らかな加速で走りつづけた。しかし暫く進むと、一般道と交わってしまった。夜中とはいえ道路には未だかなりの数の車が走っている。
九堂は先行車を追い越しながらバックミラーを覗いた。
「うわ・・・・」
九堂は思わず声をあげてしまった。綺羅は其れに気付き後ろを振り返った。そして声こそあげなかったものの驚いた。そこには車の間を縫い、着実に距離を縮めてゆくGの姿があった。
「ちょ・・・九堂さん、もっと早くならないんですか?」
「ネイキッドでこれだけ速いんだ、むしろ誉めろよ・・・」
九堂が何時も乗っているのはフルチューンのレプリカ・・・しかし今乗っているのは一般的なネイキッド、基本的な操作方法に変わりは無いが、それでも染み付いた特有のクセはそう簡単に治る物ではない。それに性能でもかなりの差がある。九堂の言葉どおり、今乗っている物でこれだけの速さを出しているのは、むしろ誉められてしかるべきだ。
そうこうしている内にも距離は近くなってゆくばかりだ。炎上姫を・・・九堂は一瞬そうも考えたが、ここで使ったら確実に一般人を巻き込んでしまうだろう。
(・・・そう言えば・・・・)
九堂は何かを思い出したかのように、進路を横へ変えた。
「如何したんですか?」
「確か・・・・造りかけの高速がこっちに・・・」
九堂の言葉どおり、少し走らせると建設途中の高速道路への進入口があった。九堂は進入禁止の看板を炎で吹き飛ばすと、そこへXJRを進入させた。バックミラーを見ると、Gも其れに続いている。
「お前・・・相当好かれてるみたいだな・・・」
「みたいですね・・・・ぞっとしますけど・・・」
九堂の皮肉に綺羅が呆れたように答えた。勿論九堂の皮肉に対してではなく、自分の熱烈なストーカーに対してだ。
高速道路は当たり前の事だが建設中なので車は一台も通っていなかった。しかしあくまでも「建設中」であるため道路は途中で途切れている。と言う事はつまり・・・
「勝負はあの途切れている所までってことですね・・・」
後ろの綺羅の言葉に九堂は小さく「ああ」と答えた。
「何か策はあるんですか・・・?」
綺羅の言葉を聞きながら、九堂はバックミラーを覗き、Gとの距離を確かめた。
「炎上姫」
九堂がそう呟くと虚空に現れた4つの紅球が、一斉にGへと向かい飛んでいった。激しい爆風が起こると其れまでGのいた個所のコンクリートが捲れあがり、砂煙が巻き起こる。しかしその煙の中からGはかすり傷一つおわず飛び出てきた。
想像していた事だが、その通りの事が起こるとは何とも気分が悪い。
自分と、そして相手とが高速で移動している。この状態では炎を当てる事は難しい。せめて自分が立ち止まってさえいれば・・・しかし今立ち止まるのは、危険以外の何物でもない。
「九堂さん・・・」
その時、不意に綺羅が話し掛けてきた。
「なんだ」
「何か・・・物の中に火種を仕込んで、後で其れを爆発させるって出来ます?」
「如何言うことだ・・・」
「私が創った式神のなかに火種を仕掛けて、それがあいつに当たったら爆発させるって出来ますか?」
綺羅が言った事は、確かに可能だろう、しかし・・・
「・・・今の体力で式を創れるのか・・・?」
九堂は問い掛けた。
式神は無尽蔵に作り出せるわけではない、使役者の精神を媒体にするため、其れを創り出す者はある程度の負荷がかかる。今の綺羅にそれが可能なのか・・・しかし綺羅はそんな事まるで気にしていないかのように笑った。
「全然OKですよ!!それより如何するんですか」
正直迷っている時間は殆ど無かった。道路の端はもうそこまで迫ってきている。九堂は意を決した。
「わかった・・・・お前にかけるよ」
「はい!」
九堂の言葉に綺羅は微笑むと、ポケットの中から、紙を取り出した。それはホテルを出るとき、密かに取っておいたメモ用紙だった。綺羅は九堂の体から両手を離すと、吸血鬼特有のバランス感覚で不安定な車上で右手の親指の先端を噛み、血を出すと、メモ用紙に字を書いた。簡単な式ならこれで呼び出せるはずだ。
綺羅はそれに短い念を込めた。するとそれは蜂のような虫に姿を変えた。
「九堂さん」
九堂はアクセルを緩めないようにしながら、その虫に火種を入れた。綺羅は其れが終ると、虫に今あるだけの精神力を使い意識をリンクさせると、その虫をGに投げつけた。虫は生物としては出し切れない速さでGへと向かっていった。そして何かに衝突したらしく、大きな爆風と煙を上げた。
その時遂にXJRは道路の端まで到達してしまった。九堂はXJRを横にスライドさせながら、道路の端ギリギリに止めた。そして綺羅と共にその爆風を見つづけた。しかし・・・・衝突したのはGではなかった。Gはその機敏さで綺羅の式を間一髪避けていたのだ。そして最早逃げ場の無い二人・・・いや綺羅にむかって牙を剥き出しにし、高い跳躍を見せ、向かってきた。だが・・・この絶望的な状況の中、綺羅は笑っていた。
「所詮は畜生さんですね・・・・」
そう言う綺羅の手の中には先ほどはなった虫と同じ虫が、羽を激しくばたつかせていた。
「誰が一体って言いました?」
綺羅がそう言った瞬間、虫は一直線にGに向かって飛んでいった。空中での肉体の操作は羽を持ちえる生物で無い限り不可能だ。Gは短い唸り声を上げると、その虫の渾身の体当たりを腹部に受けた。
虫はその鋭い体でGの体内に侵入した。その瞬間九堂が意識を集中すると、虫はGの体の中で、激しく爆発した。その衝撃によりGは空中で弾け、ただの数十個の肉塊となり、地面にふりそそいだ。
その光景を見ながら九堂は綺羅の顔を覗きみた。そして綺羅も九堂の顔を見つめていた。二人は共に微笑を浮かべ、呟ききあった。
「行くか・・・・」
「はい」
九堂はゆっくりとアクセルを開けていった。
ピクピク・・・・
深夜・・・建設中の高速道路・・・その上に落ちている肉片はまだその生命を終らせてはいなかった。一つ一つの細胞がまるで癌細胞のように増殖を繰り返そうとしている。
その近くに一人の男が近づいていった。地味なスーツにふち無しのめがね・・・一見すると何処にでもいるサラリーマンといった風貌だ。しかし・・・その眼鏡の奥にある狂気じみた気配は隠し切れてはいない。
男はポケットに手を入れながら、肉片と化したGの傍に近づいていった。
「お〜・・・・想像以上に不味い面だな・・・・本当にオレの細胞使ってるのかね?」
「確かに使用しているよ・・・・」
男の言葉に答える様に闇が言った。いや・・・そこには誰かがいるのだろう・・・闇の中に輝く紅い二つの光が宙に浮かんでいる。吸血鬼のみが持ちえる赤い瞳・・・しかし幾ら吸血鬼とは言えここまで闇と同化出来るのあろうか・・・赤い瞳はそれ以外がまるで闇そのものかのようだ。
しかし男はその事にまるで驚いた様子もない。
「ライカン特有の我々以上の再生能力に目を付けたのは正解だったのだがな・・・・いかんせん「君」に似すぎて殺人衝動が強すぎたようだ・・・・・」
闇の中からかすかな笑い声が聞える。
男はつまらなそうに其れを聞きながら、Gの弾けとんだ頭を見ていた。するとその頭は目を男の方に向け牙をむいた。男は冷酷な目で其れを見ると、Gの頭に足を乗せた。
メキッ・・・と言う嫌な音と共に頭骸骨が砕け脳や眼球が飛び出してくる。男はそれを更に踏み、地面に擦りつけるようにした・・・まるで子供が蟻を踏み潰すように・・・・いくらGとは言えこれでは再生は不可能だろう。
闇の中の人物も其れを見ていたが、別段何も言いはしなかった。失敗作は所詮失敗作・・・そんな物は必要ない・・・それが闇の人物の考えなのだろう・・・・。
「それにしても・・・・・」
その時急に「闇」が話し始めた。
「あの発火能力者は中々面白い男ではあるな・・・・・」
その言葉に男は敏感に反応した。
「ちょちょ・・・彼はオレの玩具ですからね。そこの所お忘れなく・・・オレは昔から他人に自分の物を取られると不機嫌になるもので・・・・」
「ほう・・・・では如何するというのかね・・・・」
男の言葉に、闇が愉快そうに聞き返した。
「嫌だな・・・・・そんな好戦的にならないで・・・・まさかドイツ最強の吸血鬼を倒せるなんて思ってませんよ・・・・けど・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「けど・・・・死ぬ気でやれば・・・・・・・・・・・・・・・・なんちゃって♪」
そう言うと男は急に笑い出した。
「そんな何のメリットにもならないこと、オレはやりません・・・・あなたもそうでしょ?」
「・・・・・そうだな・・・・」
男の言葉に闇も同意した。
「それじゃ・・・オレは行きますよ」
男がそう言い終わらないうちに、闇の中に既に紅い光はなかった。言葉も帰っては来ない。男はそれが分ると溜息をついた。
「全く・・・せっかちな人だ・・・・」
男は右手で頭を掻きながら、その場を離れていった。だがある事を思いついたかのように立ち止まると、ぼそりと呟いた。
「あっ・・・・人じゃないか・・・」
「本当に有難う御座いました」
綺羅はXJRに跨っている九堂に頭を下げた。
あの後、・・・・Gを倒した後、綺羅は九堂に送られて、自分の家の近くまで来ていた。もっとも家に行くにはあと更に5分ほど歩かなければいけないが・・・家の前まで送ると言う九堂に綺羅は「乙女の家を詮索する気ですか」と断っていた。
「いや・・・・」
綺羅のお礼の言葉に九堂は短く答えた。元々御礼を言われたりするのには慣れてはいないのだ。
「でも・・・本当に九堂さんのおかげで助かりました」
「其れを言ったら、結局俺も助けられたよ」
二人はまるで長年の知り合いのようだった。実際二人にはその関係が成り立とうとしているのかもしれない。
「それじゃ・・・・そろそろ行きますね・・・」
その時、綺羅が言った。九堂も其れに短く「ああ」とだけ答えた。
「それでは・・・」
そう言って、後ろを向いて歩き出す綺羅から、九堂は視線をXJRのハンドルに戻した。だが・・・
「九堂さん」
行った筈の綺羅の声に九堂が振り向いた。その時
『チュ・・・』
綺羅が背伸びをしながら九堂の唇にキスをした。
其れは恋人同士がするような熱烈な物ではなく、まるで・・・そう・・・子供同士がする戯れの・・・そして純粋な、そんなキスだった。
「お礼です・・・・」
そう言いながら、悪戯っぽい笑みを浮かべ、今度こそ駆け出してゆく綺羅を見つめながら、九堂は、始めは呆けた様にそれを見つめていたが、その内に楽しそうに微笑みながら呟いた。
「まったく・・・・・」
「・・・・ふ〜ん・・・・・・」
ドクッ・・・・心臓が高鳴る・・・・聞きなれた声がしたような気がした・・・・・・・いや・・・確かにした。しかもそう遠い所ではない・・・近い・・・かなり近い・・・まるで自分の後ろに・・・。
九堂は恐る恐る首を廻しタンデムを覗き込んだ。そこには・・・
「りゅ・・・・りゅうら・・・・」
秋月りゅうらの姿があった。見慣れた高い支点で結んだ髪の毛。その年にしては少し小さめな体。そして可愛らしい顔(今は酷く不機嫌そうだ)その全てがそこにあった。
九堂は体中から嫌な汗をたらしながら、かすれるような声で言った。
「おまぇ・・・・なん・・・・・ここに・・・・・」
その声を聞くと、りゅうらは「じと」っとした目で九堂を見据えた。
「・・・・栄二と携帯で話した後、探してたんだ・・・・やっと気配を見つけたと思って『飛んで』きたんだけどね・・・」
「・・・・・・・」
「随分凄い化け物退治だね」
りゅうらが明らかなつくり笑顔で言った。しかし、かもし出している雰囲気とても重く・・・そうまるで九堂と初めて対峙した時の飄次郎のようだった。九堂は其れを感じると、更に冷たい汗を流した。
「い・・・いや・・・ちが・・・違う!あれは・・・あいつとは何にもないって。キスしてたけどあれは、挨拶みたいなもんだし・・・・」
正確に言えばキスだけではなくベッドで重なる・・・と言うこともあったが、あれは本当にそれだけで何もなかったわけだから、わざわざ誤解を招くような事はあるまい・・・・九堂はそう思った。
「・・・ベッドでそういうことして、何もないってことになるんだ・・・」
九堂は一瞬驚いたが、すぐに思い出した。りゅうらが一流のテレパスである事を・・・最も一瞬でも忘れていた九堂が悪いのだが。
「お前・・・心読んだな!卑怯だぞ!!」
だが九堂はベッドでの事を誤魔化すように、りゅうらを咎めた。それを聞いたりゅうらは頬を膨らませた。
「読まれちゃいけないような事して逆切れする訳?・・・もう知らない!」
りゅうらはそう言うと、タンデムから降りてすたすたと歩き始めた。「何処行く」と言う九堂の言葉にもまるで反応しない。九堂は自分もXJRから降りると、足早に進んでゆくりゅうらの後を追いかけた。
「ちょ・・・・待てりゅうら・・・りゅうらちゃん・・・・ごめん・・・何もなかったって・・・ほんと・・・神に誓う・・・りゅうら・・・待てって・・・・・消えた!?・・・・おい・・お〜い・・どこ〜・・・・・・」
朝日が昇ろうとしていた。
END
※ 本作は、『Happy end root』管理人の蘇我恋助さまの小説『朱−AKA−』と、拙作『Night Walkers』の二次創作です。(巽ヒロヲ)