第3章



 春の初めの、とある休日の朝。
 厚いカーテンの向こうで、朝日が柔らかな光を投げかけている中、僕は、布団の中で小さく身悶えていた。
 生理現象から浅ましくたぎってしまった僕のを、布団の中に潜り込んだミミコが、淫らな奉仕で慰めているのである。ここのところ、仕事が休みの日の朝は、たいていこうやって始まる。
「ま、待って、ミミコ……」
 僕はそう言うが、強い制止ではない。もし本気で制止すれば、忠実なアンドロイドであるミミコは、この甘美な朝の挨拶を本当にやめてしまうはずだ。
「なんれれすカ? マスター」
 口に僕のを半ば咥えたまま、はっきりしない発音でミミコが訊く。
「もうすぐ……お嬢さんが来ちゃう……」
 子どもの言い訳のような口調で、僕は言った。
 そう、今日は、ミミコの“悪夢”について意見を聞くべく、涼香お嬢さんを呼んでるのである。本当は、師匠にも話を聞きたいところだったのだが、あの人は相変わらず方々を飛びまわっているらしい。要するに行方不明なのだ。
「じゃあ、来る前に済ましちゃいまス♪」
 そう言って、ミミコは再び僕のソレを口に含んだ。
 が、そのセリフとは裏腹に、まるで僕の反応を楽しんでるみたいに、じっくりと竿の部分に舌を這わせたり、先端の部分にキスを繰り返したりする。さすがに、朝食前の時間に、涼香お嬢さんが来るようなことはない、と思ってるのだろう。
 が、それはちょっと甘かった。
「おっはよー♪」
「ぅわあ!」
 玄関から響くお嬢さんの声に、僕はパジャマ代わりのスウェットスーツのパンツをずり下ろしたみっともない格好で飛び起きる。
「ミサちゃーん、朝ご飯ごちそうしてー」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
 僕は、ミミコの唾液に濡れたソレをあわててトランクスの中に仕舞い込み、前かがみの姿勢でさして広くない家の中をばたばたと走り回った。

「ごちそーさまっ♪」
 トーストとミルク、それにスクランブルエッグといういたってシンプルな朝食を平らげ、お嬢さんは満足そうに言った。相変わらず、ミミコは目玉焼きを焼くことができない。
「……どうして、こんなに早かったんです?」
 イヤミにならないように注意しながら、僕はお嬢さんに訊いた。
「自分から呼びつけといて、ひっでーなあ」
 お嬢さんが、笑いながら言う。
「ま、二人の朝のひとときを邪魔して悪かったけどさあ」
「そんなんじゃないですけど……」
 どき、と心臓が跳ねる。お嬢さんは、どこまで気付いてるんだろう?
「ちょっとね、この後で、前に世話になった研究室に顔出さないといけなくてさ」
「忙しいのにすいません」
「いーっていーって。んじゃ、さっそく始めよっか」
 言いながら、お嬢さんは、小さなダンボール箱に収められたミミコのシステム・モニタのプリントアウトを、びらびらびらーっと広げだした。僕も、傍らからそれを覗き込む。
 そんな僕とお嬢さんの様子を、食器を片付けるミミコが不思議そうに見ていた。

「アンドロイドが“眠る”ってのはさ、言うまでも無く、ただのモノの喩えだよね」
 しばらくして、一通りシステム・モニタに目を通したお嬢さんは、唐突に話し出した。
「活動してない時間、身体維持に必要な処理だけを、サブの電子頭脳にやらせて、やたら電力を喰うメイン電子頭脳のスイッチをオフにする……」
 そう言いながら、お嬢さんはミミコのシステム・モニタのプリントアウトの束を再び取り上げる。すでにそこには、日本語、英語、ドイツ語によるメモ書き、そして無数の計算式などが、お嬢さんの手によって書き加えられていた。
「なのに、サブの電子頭脳じゃ処理しきれないような大容量の情報が突如発生して、制御系全体に強い負荷をかけてる……ってコトしかわかんないなア」
 この膨大なプリントアウト全てに目を通し、1時間足らずでそれだけの分析ができるだけでも、やはりお嬢さんは違う。
 今さら、劣等感は抱いたりしないけど……でも、ミミコのマスターとして、ちょっと悔しいのは確かだった。
「無責任に、おもしれー、とは言ってらんない……か」
 言いながら、お嬢さんは黒目がちな目を、隣の台所に向けた。
 ミミコが、お嬢さんのリクエストに応えて、鼻歌なんか歌いながらコーヒーのお代わりを淹れている。
「で、ミサちゃんはどう思うの?」
「どうって……言われても」
「何か、仮説とか無いの?」
「仮説ってほどのものは……」
「あーもう、しっかりしなよっ! ミミコちゃんのマスターなんでしょ!」
「そうですヨ」
 大きな声を出すお嬢さんに、僕の代わりにミミコが答えた。
「マスターは、あたしのたった一人のマスターでス♪ はい、コーヒーどうゾ」
 にこにこしながらちゃぶ台の上にコーヒーカップを置くミミコに、お嬢さんは毒気を抜かれたみたいだった。
 そして、少し苦笑しながら肩をすくめ、豊かな香りをたててるコーヒーに口をつける。
「ん、おいし」
「ありがとーございますゥ」
 褒められて、嬉しそうにミミコが言う。
 と、お嬢さんは、ちょっと体をずらして、そんなミミコの背後の台所に目を向けた。
「……ミミコちゃん、あれ、何?」
「何って……買い物カゴですヨ。スーパーの」
「なんでソレがミサちゃんちにあんの?」
「なんでって……あーッ! 持って来ちゃいましたア!」
 ミミコは、ぴょこん、とばねじかけみたいに立ち上がって、台所に走り、床に置いてあったプラスチックの買い物カゴを抱えあげた。
「マスター、あたし、コレ返してきますウ!」
「えっと……車に気をつけてね」
「はあイ!」
 ばたばたと外へ走り去るミミコの後姿を見ながら、お嬢さんはくすくすと笑っていた。
 僕はと言えば……そうそう、笑ってもいられない。そんな僕の様子を見て、お嬢さんは笑いを引っ込めた。
「えーっとお、この失敗は、何度目?」
「初めてです。一度で済めば、いいんですけどね」
「ま、女のコは、ちょっとくらいドジな方が可愛いじゃない」
「そりゃ、そうかもしれませんけど」
「……人の失敗責めるなんて、ミサちゃんらしくないぞ」
「別に、責めるつもりは無いですよ。でも……ミミコの失敗と悪夢の間には、何か関係があるんじゃないかな、と思って」
「へ?」
 お嬢さんは、不思議そうな顔で、プリントアウトに目を移した。
「そんなの、どこに書いてあるのさあ?」
「いや、どこって……勘ですよ」
「勘、ねえ……」
 お嬢さんは、ちょっと吊り気味の目を細めた。
「……ミサちゃんの勘は、あなどれないからなあ」
「そうですか?」
「あのねえ、ミサちゃんは、もっと自信持っていいの」
 まるで弟を叱るお姉さんみたいな口調で、お嬢さんは言った。
「言われてみれば、ミミコちゃんの失敗も、悪夢も、両方とも記憶情報の抽出過程の障害よ。ミサちゃんの勘は、たぶん当たってる」
 そう言った後、お嬢さんはプリントアウトの束を自分のカバンに詰め込み始めた。
「これ、借りとくね。見落としがあるかもしれないし。研究室の方で、いろいろ分析してみる。何か分かったら、連絡すっから」
「はい」
「じゃ、あたし、悪いんだけど、これで失礼するわ」
 立ち上がるお嬢さんを見送ろうと、僕も立ち上がる。
「ミサちゃん」
 そんな僕の両肩に、お嬢さんは両手を置いた。目が、いつになく真剣だ。
「しっかりしなきゃ、ダメだよ。ミミコちゃんには、ミサちゃんしかいないんだから」
 僕は、肯いた。それは分かってる――つもりだ。
 だけど……それがプレッシャーなことも、確かなのである。



「ただ今帰りましたア」
 元気なミミコの声が、玄関から聞こえた。
「お帰り」
「お魚とか安かったんで、買ってきちゃいましタ」
 出迎える僕にそう言って、ミミコが右手に下げたビニール袋を差し上げる。
 例の、プラスチックの買い物カゴは、持っていない。買い物をしたために返すのを忘れた、ということはないようだ。僕は正直ほっとして、ミミコに分からないように息をついた。
「アレ? 涼香さんハ?」
 冷蔵庫に、買ってきた魚や野菜を入れながら、ミミコが訊く。
「お嬢さんなら帰ったよ。大学の研究室に用事があるんだって」
「そうですカ……」
 冷蔵庫の扉を閉めたミミコが、僕の方に向き直る。なんだかその顔が緊張してる。
「マスター、質問、いいですカ?」
「ん?」
「涼香さんは……マスターの、恋人さんなのですカ?」
「えええ?」
 僕は、びっくりして大きな声を出してしまった。
「そりゃ違うよ。お嬢さんは……僕の恩人である師匠の娘さんで、幼なじみ。それだけだよ」
「そっかァ……そーなんですネ」
 ミミコの顔が、一転、ぱっと明るくなる。
「にゃはっ♪」
 そして、甘えるような声をあげて、いきなり僕の胸に飛び込んでくる。
「ミミコ?」
「朝のご奉仕、まだ終わってませんでしたよネ?」
 かあっ、とぼくの頭に血が上った。そして、頭以外の部分にも。
 固く、大きくなっていく僕のその部分に、ミミコが下腹部を押しつけてくる。
 僕は、ミミコの顔を、そっと上に向かせた。ミミコが、おっきな目を閉じる。
 僕は、その目蓋や広い額に軽くキスをした後、柔らかなミミコの唇に唇を重ねた。
 舌を絡めあいながら、互いの体に腕を回す。
 ようやく唇を離したとき、唾液が糸を引き、一瞬、下向きのアーチを描いて消えた。
「ミミコ……」
「なんですカ? マスター」
「朝の続きはいいから……後ろ向きになって、流しに手をついて」
「はイ……」
 僕の意図を理解して、かすかに頬を染めながら、ミミコが素直にそう返事をする。
 そして、ちょっと名残惜しそうに体を離して、ミミコは流しにその白い両手をついた。艶やかな毛に覆われた尻尾が、僕を誘うようにゆらゆらと揺れている。
 僕は、その背後に回り込み、その胸に手を伸ばした。
 そして、エプロンドレスの上から、やわやわと揉みしだく。
「ン……ふぅン……」
 ミミコの可愛い喘ぎ声を聞きながら、僕はその首筋にキスをした。ぷるぷるっ、とミミコの小さな体が震える。
 そうやって、ひとしきりミミコのことを後から愛撫した後、僕はその青色の古風なワンピースのすそをめくりあげた。
 ミミコの小さなお尻を、ショーツ、と呼ぶにはちょっと幼い感じのパンツが包んでいる。台所の床に膝をつくと、パンツにプリントされたゲームのキャラクターである眉毛のある白ネコと目が合ってしまった。
 僕は、そのネコをくしゃくしゃにしながら、ミミコのパンツをずり下ろす。
「あァ……」
 そんな声をあげながら、ミミコがその白いお尻を小さく震わせた。
 僕のにいたずらするときと違って、ミミコは、すごく恥ずかしそうだ。
 僕は、そんなミミコのお尻に両手を添え、ちゅっ、とわざと音をたててそこにキスをした。
「ひゃゥ」
 ミミコが、小さな悲鳴をあげる。
 僕は、お尻に何度かキスをくり返しながら、足の合間の、ミミコの大事な部分に口を寄せていった。
 めくれあがった柔らかな粘膜が、透明な液に潤んでいる。
「あ、あンまり、見ないでくださイ……」
 ささやくような小さな声で、ミミコが言う。
「どうして? ミミコのここ、すごく可愛いよ」
 僕は、思ったとおりのことを正直に口にした。
「そ、そんな……マスターのえっちィ」
 ミミコの子どもっぽいセリフに、ちょっと笑いながら、僕はその部分に口付けした。
「にゃうゥっ!」
 ちゅうっ、とぴらぴらを吸い上げると、ミミコはびっくりしたような声をあげた。
 構わず、僕はミミコのアソコを舐めしゃぶった。痛くしないように注意しながら、鮮やかな色合いの粘膜を唇で挟み、割れ目に舌をねじ込むようにする。
 ミミコのその部分から、とろとろと熱い粘液が分泌され、ももの内側を濡らした。
「あ、ああァ……んにゃァ〜ん」
 ずりずりずり、とミミコの体が下がっていく。
「ヘ、ヘンですゥ……体に、力が入ンないィ……」
 とうとう、ミミコは流しから手を離し、横向きに倒れるような感じで、床にぺたんと両手をついてしまった。足もがくがくしてて、今にも倒れそうだ。
 中途半端に四つん這いになったミミコのそこから口を離す。すると、ミミコは膝を床についてしまった。
「マスター……」
 ミミコが、肩越しに、僕に視線をよこす。
「ごめんなさイ……ミミコ、してもらうのって、あんまり慣れてないみたいで……」
「別に、あやまらなくてもいいよ」
 そう言いながら、僕はジーンズのファスナーを下ろして、さっきからいきり立ってる自分の分身を解放した。
 そして、本物のネコみたいに四つん這いになったままのミミコのお尻に、再び手を添える。
「入れるね……」
「はイ……来てくださイ……」
 幼い顔に似合わない潤んだ流し目にぞくぞくするような感じを味わいながら、僕は、ペニスの先端をミミコのそこに浅く潜らせた。
 そして、ミミコの膣内粘膜の感触を楽しみながら、ゆっくりと腰を進ませていく。
「にあああああ……ッ♪」
 ミミコが、背を反らしながら、高い声をあげる。
 白昼の台所の中、ほとんど着衣のままで、僕とミミコはつながった。
 そんなシチュエーションまでが、なぜか僕をますます興奮させてしまう。
「あッ、あッ、あッ、あッ、あッ、あッ……」
 僕の余裕の無い抽送に合わせて、ミミコが喘ぐ。
「き、きもちイイ……マスター、きもちイイ、ですウ……」
「僕も……すごくいいよ……」
 ミミコのそこは、まるで絡みついてくるみたいに僕のシャフトを柔らかく締め上げた。
 ぱぁん、ぱぁん、ぱぁん、ぱぁん……という、僕の腰がミミコのお尻を叩く音が、妙に小気味いい。
「ン……はぁン……んく……にはああああッ!」
 ミミコは、すでに両手で上体を支えきれなくなって、その柔らかな頬を床に押しつけながら、快感に悶えている。
 このミミコを、恐らく、何人もの男が、乱暴に貫いたのだ。何度も、何度も、何度も。
 ミミコはそのことをきちんとは憶えていないようだし、その陵辱の跡を残すパーツは、僕が交換してしまった。それでも……。
 僕は、どす黒い嫉妬の炎に突き動かされるように、腰の動きを速めていった。
「マ、マスター? んぐっ! ン! んんんんン! あうゥ! ンアアアアアッ!」
 喘ぐような、ミミコの悲鳴。悲鳴のような、ミミコの喘ぎ。
 そんなミミコを、床に這わせ、動物のように背後から犯す。
「くうぅっ!」
 僕は、声をあげて、ミミコの中に大量の精を放っていた。
「にああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 その感触に、ミミコがひときわ高い声をあげる。
 びくっ、びくっ……と僕のペニスの律動に合わせて、ミミコの体が痙攣した。
 そして、がっくりと弛緩し、力なく床に横たわる。
 そんなミミコを、僕は膝立ちのまま、半ば茫然と見下ろしていた。

「ミミコ……」
「にあ……マス、ター……?」
 横抱きに抱えた僕の腕の中で、ミミコが目を開ける。
 僕は、少なからずホッとしていた。
「今日のマスターってば、すっごく激しかったですネ」
 悪戯っぽく笑いながら、ミミコが言う。
「ごめんね。今度は、優しくするから」
「エ? 今度って……」
 ミミコは目を見開きながら、体を離して、僕の股間をのぞき込む。
 僕のそこは、さっきあれだけ放出したにもかかわらず、すでに半立ちの状態だった。
「ごめん……なんだか、まだ収まらなくて」
 そう言う僕に、ミミコはにっこりと笑いかける。
「ミミコは、嬉しいでス。マスターと、何度もできテ」
 そう言いながら、あぐらをかいた僕の股間に、顔を寄せる。
 そして、僕の精液とミミコの愛液に濡れたそれを、ぱっくりと小さな口に咥えた。生温かい感触に、僕のペニスが簡単に臨戦態勢になる。
「ン……ふぅン……んぷ……んんン……」
 まるで、ミルクを舐めるネコそのままの姿勢で、ミミコが僕の欲棒を愛しげに口淫する。
 そんなミミコの小さな肩に、僕はそっと手を置いた。
「もういいから……僕の腰を、またいでみて」
「はイ……」
 言いながら、ミミコは立ち上がり、まるで水辺に入るみたいに、長いワンピースのスソを持ち上げた。
 そして、ゆっくりと腰を落としていくミミコの下半身を、僕は自らの股間へと誘導した。
「ンあ……」
 僕の亀頭があそこに触れたとき、膝で僕の腰をまたいだ姿勢のミミコが、声をあげる。
 そして、ミミコはワンピースから手を離した。僕とミミコの結合部分は、ミミコの青いワンピースに隠れてしまう。
 が、スカートの中で、僕のそれはミミコの中に、着実に侵入していった。
「あ、ンああ、ふにゃぁ……」
 ミミコが、白いのどを反らせながら、うっとりとした声をあげる。
 僕のペニスが、すっかりミミコの温かいアソコに飲み込まれた。
 いわゆる対面座位の格好で、お互いの体に腕を回す。
「ン……」
 僕は、ミミコの唇に唇を重ねた。
 そして、顔を離すと、ミミコはちょっと不思議そうな顔をしている。
「マスターって……おちんちんの味、好きなんですカ?」
「え?」
「だって、お口でしたあと、いっつもキスするから……あン♪」
 思わず笑ってしまった僕の動きが膣内に伝わったのか、ミミコが小さく身をよじる。
「別に、好きじゃないよ。でも、ミミコが一生懸命してくれるから……嬉しくて」
「そ、そうなんですカ……」
「うん」
「ミミコは……マスターのおちんちんの味、だいすきでス……」
 そんなことを言うミミコの唇に、再び唇を重ねる。
 そして、ミミコの腰を動かして、抽送に導いた。
「ン……んんン……んっン〜ん」
 口の中で、僕の舌に舌を絡めながら、ミミコは切なげな声をあげた。
 再び口を離すと、ミミコの顔はすっかり上気し、おっきな目はとろんと潤んでいる。
「マスター……」
 スカートの中で腰をますます大胆に動かしながら、濡れたような声でミミコが僕に呼びかける。
「ミミコ、マスターのこと、だいすき……」
「僕も、好きだよ、ミミコ」
 自然に、そんな言葉が出てくる。
「う、嬉しいでス、マスター」
 ぎゅうっ、とミミコが僕の首にしがみつく。
 僕もミミコを抱きしめ、そして、自分から腰を動かした。
「あッ! あウ! ン! あうううッ!」
 きゅううっ、と僕のシャフトを柔らかく締め上げるミミコの粘膜を感じる。
「き、きもちイイ……マスターのおちんちん……きもち、イイでス……にゃ、にゃううううゥっ!」
 ミミコの小さな体が、僕の腕の中でびくびくと痙攣を始める。
「あ、あひっ! ひにゃあああッ! ミミコ、ミミコいっちゃいそうでス〜ッ!」
「僕も……僕もイクよ、ミミコ……」
「ああッ! あッ! あッ! マスター、もう、もうダメーっ!」
 一層激しく、僕とミミコは互いの体を求め、快感を貪り合う。
「にゃはあああああああああああああああああああああああああーッ!」
 僕の輸精管を熱いスペルマがすごい勢いで駆けぬけたとき、ミミコはひときわ高く絶叫した。
 ミミコの幼げなアソコの中に叩き込むような勢いで、僕のペニスは何度も律動し、大量の精をほとばしらせる。
 僕ら二人は、まるで怯える子どものように、お互いの体をいつまでも抱きしめていた。

 僕は、ミミコとの関係に……そしてその体に、すっかり、溺れていた。



 仕事帰りの夜。
 僕は、あの裏路地に立ち尽くしている。
 ミミコを拾ったあの場所だ。
 ミミコのシステムの状態は、少しずつではあるが、明らかに悪くなっている。
 一週間に一度くらいの割合で、ミミコをさいなむ悪夢。その悪夢を見るたびに、ミミコの動作が不安定になっていくのが分かる。
 原因は、不明だ。
 ミミコは、いつも明るく笑いながら、けなげにふるまっている。でも、ミミコ自身、自らの状態に大きな不安を抱えているはずだ。
 涼香お嬢さんは、研究室の手伝いの方が忙しくなって、なかなかこちらに関わっていられない状態らしい。こちらも、できるだけ頼るまい、とは思っていたのだが、相談相手がいなくなったのは辛い。
 僕は、路地裏の奥の闇を見つめながら、無力感を噛み締めていた。
 と、そんな僕の背中に、誰かが勢いよくぶつかってきた。
「な、何するんですか!」
 いつもはあげないような大声を、ついあげてしまう。
「悪い悪い……って、お前、操かあ?」
 小柄な僕の肩くらいまでしかないその男が、素っ頓狂な声をあげる。
「師匠?」
 それは、僕の師匠、猪俣金司だった。エラの張った顔に、怪しげな丸レンズの黒眼鏡。半白の髪はぼさぼさで、いつものように薄汚れた白衣をまとっている。
「こりゃ奇遇だな」
「奇遇って……師匠、どうしてここに? 家に帰ってないんで、お嬢さん心配してましたよ」
「なんだ、涼香のやつ、帰ってたのか……って、ンなこと言ってる場合じゃない。かくまえ」
「かくまえって、どういうことです?」
「いいから!」
 言いながら、師匠は僕の脇をすりぬけ、路地の奥のダンボールの山の中に潜り込んだ。
 ミミコが、捨てられていた場所だ。
「おい」
 しばらくしてから、まだ茫然としてる僕に、誰かが声をかける。
 振り向くと、白いスーツに黒いシャツ、そして派手なネクタイという、ひどく典型的な格好の男が、路地の入口に立っていた。
 目つきが鋭いが、意外と優男な感じだ。二十代半ばだろうか? 口髭が、あんまり似合ってない。
「こっちに、妙な格好のオヤジが来なかったか?」
「いえ」
 僕は、精一杯ふしぎそうな顔で、首を振った。
「隠し事すると、ためにならねえぞ」
 マニュアル通りなのだろうか、あまり芸のないセリフを言いながら、男が僕に迫る。
「し……知りませんよ」
「そうか」
 自然に出た怯え声が功を奏したのか、それとも典型的な勤め人の格好の僕とあの師匠との間に共通点を見出せなかったのか、男はあっさりと引き下がった。
「ふーっ、危ないトコだった」
 しばらくして、まるでかくれんぼをしていた子どもみたいな声をあげながら、師匠が現われ出てきた。

「そりゃお前」
 喫茶店で、チョコレートパフェをぱくつきながら、師匠が話している。
 師匠が、相談したいという僕を連れてきたのが、この喫茶店だった。駅前の、わりと瀟洒な店である。どうも、ここのウェイトレスの制服が、師匠はお気に入りらしい。
 明らかにパフェとウェイトレスに気を取られていた様子の師匠だったが、僕の話が終わると、驚くほど的確な話をし始めたのだ。
「記憶の最適化機能周辺がポイントだろ。アジモフ曲線に従った動作がされてるかどうか、まずはそこのチェックだ」
「はい」
「サブ電子頭脳依存プログラムを、変則数値設定で並列処理してみたか?」
「一応は」
「なら、次はボトム・キャッシュの大掃除だ。市販のだとNETの666がお勧めだが、お前だったら717でもイケるだろ」
「た、多分」
「結局は非線形方程式の単純数値処理っていう矛盾を、基本システムのみで、できるだけラクにこなさなきゃならないわけだし、そのためにはテラ単位の処理速度なんてかえって邪魔になるだけだ。それと……」
 師匠が一方的にまくしたてる言葉を、僕は必死になってメモに書きとめた。
「……とは言え、今まで話したのも、結局は一般論だからなあ」
 だが最後に、師匠はあっさりとそう言ってのけたのだ。
「いっそ、俺の言ったことなんか全部忘れて、好きなようにやってみろや」
「そんなあ」
 僕は、つい大声を出してしまった。
「情けない顔するな。お前、意外と才能あるんだぜ」
 まるでとってつけたように、師匠はそんなことを言う。
「結局のところは、アンドロイドとの一対一の真剣勝負さ。人の意見なんて野次くらいに思っといた方がいい……んじゃ、ここの払いはよろしくな」
「って、ミミコのこと、診てくれないんですか?」
 ひょうひょうとした動きで立ち去ろうとする師匠に、僕は慌てて呼びかける。
「言ったろうが。一対一だ」
 喫茶店のドアを開きながら、にや、と師匠は僕に笑いかける。
「じゃあ、縁があったらまた会おうぜ」
 伝票を手に、茫然と立ち尽くす僕を残して、師匠は夜の街の中に消えていった。



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