第四話
『最期の試練』
終章



 その後のことは、あまり話したくない。
 あたしは――あたしたちは、比留間刑天さんという人を、殺した。
 刑天さんは、人殺しだし、あたしたちのしたことは正当防衛だと思うけど――
 でも、仕方が無いなんて思えない。これでよかったなんて思いたくない。
 なのに、あたしは――結界の中に刑天さんを閉じ込めた。
 もう、ダイモンーンと化してしまった刑天さんには、結界から逃れる能力は失われていた。
 その代わり、恐ろしいまでの力を手に入れていた。
 刑天さんの繰り出す鉤爪は、あたしたちの障壁を一撃でぼろぼろにし、その体が銃弾を何発受けても平気で動いていた。
 だから、乾さんと譲木くんは、さらにさらに銃弾をその体に撃ち込み、あたしと紅葉さんは攻性障壁を刑天さんに放った。
 攻撃を受けるたびに、傷口から赤黒い体液を溢れさせ、それでもなお戦いをやめなかった刑天さんは、時間が経つにつれ、ますます悪魔じみた外見になっていった。
 それでも――刑天さんは、人間だった。
 だけど、相手が人間だからといって、戦うことをやめてしまうようなヤツには、DEMONと戦い続けることはできない。――刑天さんは、そういうことを、あたしたちに言いたかったのかもしれない。
 でも――少なくともあたしに限って言うなら、そういうことで戦ったわけじゃない。
 あたしは、とにかく、死にたくないから戦っていた。
 死にたくないっていう考え以外は頭の中からきれいに消えてた。無我夢中だった。
 それで良かったのかもしれないし、良くなかったのかもしれない。
 そもそも、こういう場面で“良い”なんてことは無いのかもしれない。
 ともかく、あたしたちは、部屋の中を飛び回る刑天さんに、銃弾と次元断層を放ち続けた。
 戦いというのは、数だ。
 一対一だったら、あっという間に、あたしは刑天さんの鉤爪によって体を切り刻まれていただろう。
 でも、障壁が危なくなったときには、誰かがあたしをかばってくれた。その間、あたしは障壁を張りなおすことができた。
 あたし自身も、誰かが態勢を立て直す間、刑天さんの攻撃を引き受けていた。
 長い、戦いだった。
 最後には、もう、体力も気力も尽きかけていた。
 けど、一人倒れれば、あたしたちはそこから一気に崩れてしまう。
 そう思って、歯を食いしばり、泣きそうになるのをこらえながら、ともかく、戦い続けた。
 そして――あたしが苦し紛れに放った攻性障壁が、刑天さんの体を跳ね飛ばし、部屋の壁に叩き付けたのだ。
 床に崩れ落ち、動かなくなった刑天さんに、乾さんが止めの銃弾を撃ったとき――あたしは、ほっとしていた。
 あとで、トイレでそのことを思い出して、あたしは胃の中のものを吐いた。



 翌朝、あたしは家に帰った。
 珍しく家には両親が揃っていた。そう言えば、もう週末になってたんだっけ。
 父さんと母さんは、あたしのことをすごく叱った。
 久しぶりに叱られて、すごく嬉しかった。
 家族のつながりを、感じることができた。
 でも――これは、いつもと違う“異常な状況”が招いた絆なんだと思っている。
 だから、今後もあたしは、自分の家庭に過度な期待は抱かない。
 そういうふうに、決めた。



 あたしは、いつもどおり薬を服んでから、何日かぶりの自分のベッドの中で、眠りに落ちた。




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